序章
明けましておめでとうございます。
前章から大分間が空いてしまいましたが、そろそろ続きを進めようかと思います。
ちなみに、今回はのっけから暗いです。
ラブどころかコメもどっかに置いてきたような話になりそうで大変恐縮ですが、いい加減ほったらかしにしていた話を書きたいと思いましたので……。
よろしければ、お付き合い頂けますれば幸いです。
このまま、死んでしまいたかった。
それが一番いいことだと、少年は既に知っていた。
そしてそれがその実、無責任で卑怯な逃げだということも、やはり知っていた。
でも、死ぬのは怖かった。
だってこんなにも痛くて辛くて苦しいから。
だから、死にたくないと願ってしまった。
手を伸ばしてしまった。
願いは、叶った。
助けは当然のように訪れ、命は助かった。
力強い手が確かにこの体を引き上げ、助けてくれた。
助かったからこそ、思ってしまった。
あぁ、やはりあのまま、死んでしまいたかった、と。
◇
その部屋にいたのは、二人だけであった。
一人は、四十歳を幾らか過ぎた偉丈夫。革張りの椅子に深く腰かけたもう一人は、豊かな白髭を蓄えた老爺である。
常日頃から汚物にたかる蝿のようについてまわる連中は、今はいない。
「どうやら、交渉は決裂のようですな」
「そのようじゃの。やはり、他に手はないようじゃ」
古い煉瓦造りの暖炉で燃える暖かな火を互いに眺めながら、二人が静かに頷き合う。何度話し合っても、二人の間に訪れる結論は変わりそうになかった。そろそろ、仮初めの平和に別れを告げる用意がいるようだ。
「お主には、少しばかり辛いことになろうの」
「なんの。切り捨てるものを選べるだけ幸いでしょう」
思慮深い老爺の声に比べて、男の声は乾いていた。かつて切り捨てるものを選べなかった青年だった瞳に、赤々とした炎がくっきりと映り込む。その火は、果たしていつの炎なのか。
老爺は、少しだけ脅すような色を滲ませて声を低くする。
「言っておくが、わしは手加減はできんぞい」
「お構い無く。こちらも、やるからには徹底的にやるので」
二人分の声が、冷たい壁に吸い込まれて静かに消える。後にはパチパチと薪のはぜる音が続き、それきり二人の間には沈黙が横たわった。
そうして、焼けて小さくなった薪がごろんと転がって灰が舞うまで、二人はそこにいた。
これが最後の対面になるかもしれないと、重々承知していた。