表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラウン・フォビア~幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO~  作者: 稲葉めと
一章 幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO
8/37

008 お化けじゃないよ、幽霊だけど

 いやぁ、見事に死んだなぁ。

 超SF的なゴーレムにぷちっとされたわたしはアニムスの街にリポップしていた。

 死体を回収しに行ってもいいけど、いたずらした犯人としてはそういうのはなんか恥ずかしい。

 ということでリポップ地点として設定されている神殿で神官さんに復活させてもらうことにする。


「おお漂流者よ! 異なる時代より来たりし勇者たちよ! それなのに死んでしまうとは情けない! 無様無様!」

「うわ、殺したい」


 おかしいな、神官って前作ではこんなむかつくNPCではなかったはずなのに。

 まぁそれでも復活はさせてくれるようなのでお願いしておく。

 前作では死体を回収せずに復活させてもらうこともできたけど、そうするとパッシブスキルのレベルが下がってしまうというデメリットもあった。スキルレベルが高くなってくると上げなおすのも大変だったから、可能な限り回収するのが基本だ。今作ではその辺りどうなっているんだろうか。


「じゃあ、復活お願いします」

「おお! 自らの(むくろ)を回収することさえ出来ぬとは、なんと弱々しい存在か!」

「うっさいわ! 早くして」


 殴りたいのを我慢して、とっとと復活させてもらう。

 いくらうざくてもこの世界の神に仕える神官だ。殴ってしまったらNPCからの好感度がだだ下がりするだろう。好感度のシステムがあるかどうかは定かじゃないけど、これだけ優秀なAIを積んでおいてありませんっていう方が違和感がある。

 神官がむにゃむにゃと長ったらしい詠唱を終えると、わたしの身体が幽霊から実体へと切り替わる。


「へぇ、今作は死体が出てくるわけじゃないんだ。手間が省けるね」

「運営内でVR空間とはいえ神殿が死体置き場になるのはどうかっていう会議があったらしいですよ」


 前作で復活させてもらうと神官の足元に死体がワープしてくる仕様だった。

 それをVRでやると……うん、たしかに酷い光景になる。荘厳な神殿に感動しながらはいってきたら、中には死体回収をしているプレイヤーの山とか、本当に酷い。


「なるほど。っとクルーアも来たのね」

「はい、ただいま帰りました。マスターが死んでるとペットは何にもない空間でひとりぼっちなので寂しいんですよ?」

「ごめんって、今後は気をつけるね」

 

 パッシブスキルはどれだけ下がったかなぁ。

 ん、あんまり高いパッシブスキルがなかったこともあって、全体的に1~2下がったかどうかか。

 低すぎるやつは下がってないのもある。たぶん見えない部分では下がってるんだろうけど、この程度なら誤差かな。

 

 ん? んん? あっれえ!?


「アイテムが全部なくなってる!?」

「アバターは着てますよ?」

「そうだけどそうじゃなくて!」


 装備は消えていないもの、初心者セットやらアニムスバイソンの肉やらがなくなっていた。ついでに拾った小石も見事にすっからかんだ。


「ちょっと神官さんどういうこと?」

「ははは、何を仰る。復活したのですよ、以前の肉体の所持品を持ち越せるはずがないでしょう」

「装備は着てるのに?」

「素っ裸がよろしかったですか?」

「んなわけないでしょう!?」


 く、まさかこんな罠が。

 まぁ、たしかに死体が来るのではなく、幽霊が実体化するような演出だったからこれで正しいんだろうけど。

 装備はまぁ、本人の一部みたいな扱いなんだろうね。リアルのわたしも幽霊だけど、素っ裸じゃなかったし。


「はぁ……。仕方ない、やることもあるし素直に諦めよう」

「やることですか?」

「そ、運営に不具合報告しなきゃ」

「よろしければわたしのほうでやりましょうか? サポートAIにはそのための機能も用意されていますから。GMコールですと順番待ちが長いかもしれませんし」


 ほう、それは便利だ。サポートの文字に嘘偽りはないんだね。

 

「ちなみに何をご報告されるんですか?」

「WEBカメラとウィンドウ表示機能を悪用した精神的ブラクラもどき」

「……それ、さっきやってたやつですよね?」

「だから報告するんだよ。あれやった本人が言うのもなんだけど、やれちゃ駄目なヤツだよ」


 あの映像のわたし、というか死体は完全に炭だったからまだしも、もっとえぐい映像を流すことだってできる。

 しかもそれをPTを組んでも居ないプレイヤーに強制的に見せることができた。

 完全にあかん、仕様の変更をするべきだ。


 わたしは仕様を利用するのは大歓迎だし、修正対応されないなら悪用だってするけれど、このゲームは全年齢対象だ。小さな子供がプレイする可能性がある以上、ゲーム外のグロかったりきわどかったりするものは持ち込めないように対応してもらうべきだろう。

 

 ゲーム内の仕様で受ける精神的ダメージは、運営とプレイヤー本人が責任を負うべきだけどね。

 あと大人、お前らは自己責任だ。


「さすがに18禁要素は表示できないように画像認証で弾かれるはずですが」

「小瓶いっぱいに詰め込んだ虫とか、そういう抜け道もあるからね、報告お願い。あ、実際に使った火事の映像も添付してほしいかな。よろしくね」

「かしこまりました」


 んー、一応掲示板のほうにも書き込んでおこうかな。

 どこにするべきか。雑談、不具合報告、こっちは……打倒エイダスレとかあるのか、後で覗いておこう。

 お、幽霊掲示板とかあるんだ。何々、PEVRの世界を幽霊状態で彷徨うのが好きな人たちのスレです。幽霊状態の仕様確認もしていきます。目指せ幽霊状態でボス撃破。

 中々無茶な事書いてあるな、楽しそうだけど。わたしは別に幽霊状態でプレイしてるわけじゃないけど、リアル幽霊なわたしとしてはここに書き込みたい欲がある。


 そうだ、さっきのは悪用だったけど、上手いこと使えばお化け屋敷みたいなこともできるだろうし、テレパシーとか幽霊向けのスキルだからその情報も書き込んであげよう。というかこれ、読みはともかく、スキル表記が”こいつ直接脳内に”なのはネタだよなぁ。


 へぇ、ペットが倒されると誰にやられたのか通知が来るんだ。ならクルーア以外のみんなはまだ無事なのか、ちょっと安心した。


「お、雑談スレに変なのが湧いてると思ったら、これさっきの新人くんじゃないか? っていやいや、お化けが出たって、人をお化け扱いしないでほしい。お化けじゃないよ、幽霊だよっと」

「報告が完了しました。それとマスター、声に出てますよ?」

「あ、ほんと? 恥ずかしいな。教えてくれてありがとう。ほら、わたしって幽霊だからさ、普段から思考入力で話してるようなものだから切り替えが難しいんだよね」

「そう言われましても、マスターの他に人外のプレイヤーを観測していないのでわかりかねます」


 そりゃそうだ、そんなほいほい幽霊のプレイヤーが居ても困るだろう。

 幽霊だからお金払えないし。

 ……プレイ料金どうしようか。たしかゲーム購入すると三ヶ月は無料プレイできたはずだけど、それ以降は振込方法がない。というか死んだ後の銀行口座ってどうなるんだろう。お母さんとかお父さんに聞いておけばよかったなぁ。


「うーん。連絡手段がない」

「フレンドリストは空っぽですからね」

「そうじゃなくて、リアルのほうね」


 考えてみたら両親っていまどこに暮らしてるんだろうか。というかわたしって実家住まいだったっけ、一人暮らしだったっけ。

 死んでからそんなに時間が経っていないはずなのに記憶が怪しくなってきている、怖いな。

 わからないものは仕方ないし、いまはゲームを楽しもう。


 他のペットたちを回収するためにもスキル上げと取得、そして頼れる仲間も確保したい。


「PTってどこで組めるかな。広場で募集とかしてる?」

「そうですね、そちらでも問題なく。あとは冒険者ギルドで依頼を受け、それを一緒に攻略する臨時PTなどもありますね」

「冒険者ギルドなんて前あったっけ?」

「流行に乗った、というと言葉が悪いですが、わかりやすいという理由でPEVRから追加されました。最近の若いプレイヤーさんは広場でPTを募集する、という昔ながらの方法に慣れていない事も多いですから」

「わたしが年増みたいな言い方はやめてぇ!?」


 若いから! ほらみてこの美少女っぷりを! ゲームのアバターだけど!

 いやリアルのわたしだってつい最近まで学生服に身を包んでいたわけで!


「マスター、最近というには些か」

「あーあーあー聞こえなーい! さ、冒険者ギルドへ行きましょうかねえ!」

「やれやれです」


 



 という事でやってきました冒険者ギルド!


「って神殿のお隣じゃん!」

「復活地点が近いほうがいいですからね。ほら、漂流者ってよく死にますし」


 ごもっとも。


「しかし広場ではなく冒険者ギルドにしたんですね」

「んー、なんとなく広場で募集してる人って、昔からゲームしてるガチ勢が多いだろうなって思って。わたしのプレイ方針的にもっとゆるい人たちと一緒のほうがいいと思うんだよね」


 森、渓谷と順番に突破してきた人たちならそこそこ戦えるはずだけど、わたしは戦闘系スキルは投擲しか上がっていない。

 その上アクティブスキルも覚えていないから完全に足手まといだ。

 野良PTというのはいつだってお手軽さと面倒くさいトラブルがつき物だけど、冒険者ギルドの臨時PTなら面倒を排してお手軽さだけとれないかな、と思ってみたり。


 あとは単純に冒険者ギルドという存在に憧れもあった。その手のラノベは大好きだったしね。

 ということでファンタジーの例に漏れず美人の職員さんがいる受付へやってきた。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 目の前に昔ながらの選択肢がメニューとして表示される。


「あ、雑談とかは無理なんだ。残念」

「いえいえ、皆さんとお話するのも業務内ですよ?」

「わ、びっくりした!?」


 受付さんから話しかけられてしまった。

 じゃあこのメニューはなんだろう。


「この世界に馴染んでいない方、一般に漂流者と呼ばれる方々は話すのが得意ではない方もいますので、わかりやすくメニューを用意しているんです。こちらの一覧にないご用件も承れます」


 たしかに、いきなり好きに話してみてと言われたって困るって人も多いか。

 TRPGでよくある光景だよね。ああいうのは選択肢を用意しておいて、ここから選んでもいいし、好きに話してもいいですよっていうのが初心者さんには優しいと思う。


 ちなみにTRPGというのはテーブルトークロールプレイングゲームというアナログゲームのジャンルで、世界中のファンタジーゲームの起源となったD&Dもこれだ。わたしの種族であるハーフリングという名前もD&Dが初登場。

 ……本当はホビットって名前だったけど、某財団に怒られてこの名前になったのは秘密だ。個人的にはハーフリングって名前の方が可愛くて好きだよ。カタカナ表記だと綺麗だなとも思う。


 話がそれたけど、高度なAIがそれこそ生きているかのように存在するVRゲームは、TRPGのように会話に困るプレイヤーも多いと思う。道に迷っていて、地図を見ても、GPSを見ても場所がわからない、という場面で通行人に話しかける勇気を持つ人は案外少ない。


 そんな人たちに、情報収集のためにNPCへ話しかけて回れとか鬼ではないだろうか?

 メニューがあるならそれも緩和されるだろうし、わたしはとても良いと思う。


「ちなみにこのメニューっていうのはゲーム的な?」

「ゲーム? いえ、魔道具ですが」


 別に受付さんはこの世界をゲームだと認識しているわけじゃないらしい。

 魔道具って便利な設定だよね。


「あ、マスター、お話中すみません。そのメニューですがオプション設定から表示と非表示を切り替えられます。世界観に没入したい場合はお試しください」

「へぇ、行き届いてるね。わたしはこのままでいいや。ないと見逃しがでるかもしれないし」


 あったらあったでここにない情報を聞きそびれるかもしれないけど、それは聞かないほうが悪い。

 だって聞けば答えてくれるんだし。


「それじゃあ、とりあえず依頼の一覧が見たいかな」

「かしこまりました。ギルドカードをご提示ください」

「カード? 持ってない。どこでもらえますか?」

「冒険者ギルドにご登録いただければこの場で差し上げます。冒険者ギルドで依頼をお受けになるには登録が必須となっておりますので、このままご登録させていただいてもよろしいですか?」

「お願いします」


《冒険者ギルドに登録しました》


 なんか派遣会社みたいだなって思ったけど、冒険者ってそういう存在だったね。

 ギルドが持ってきた依頼を冒険者に割り振ってやらせる。

 このゲームでも似たようなものらしい。


 ちなみに登録はお願いしますの一言で済んだ。別に面倒な入力は必要ない。

 さすがゲーム、履歴書を書かなくていいとは素晴らしい。


「それではこちらの依頼をお受けいただきます」

「え? 選べないんですか?」

「こちらは冒険者を始めた漂流者のみなさんに受けていただくもので、依頼主は冒険者ギルドとなっております。漂流者の方がこの世界に対して持っている知識を確認するためのもの、と思ってください。失敗になることはありませんし、きちんと報酬も出ますのでお受けいただければと」


 ははぁ、なるほど。

 これわたしのように最初の集落を無視したプレイヤーへの救済策も兼ねてるのかもしれない。

 となると他の、冒険者ギルド以外のギルドでも似たような依頼があるのかも。


「じゃあ受けます」

「ありがとうございます。それでは今回のみ臨時のPTへ自動で割り振らせていただきます」

「自動なんだ」

「……依頼をお受けになる人数が多すぎまして」


 サービス始まったばっかりだもんねPEVR。

 冒険者ギルドに登録した数千人、下手したら数万人がこれ受けるわけだし、そりゃ自動でわりふりたくもなる。

 

《『【クエスト】この世界について』を受諾しました》

《同じクエストを受諾したプレイヤーで臨時PTが結成されます》

《メシマジーナがPTに加入しました》

《†ブレイバー†がPTに加入しました》


 あっ(察し。

あっ(察し。

って言われてもネトゲやらないから察せないよ! という皆さんは次回ちゃんと説明があります! あります!


完全に異世界のようなVRゲームも当然憧れますしやりたいんですけど、やりすぎると引きこもりゲーマーには辛い世界になりますよね。

初対面の異性や強面のおっちゃんとも正面から話せとか、無理ゲーでは?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくし悪役令嬢になりましたわ……いや、男なんだけど!
https://ncode.syosetu.com/n9082em/


短編


俺の彼女が何週してもBADENDに直行する
https://ncode.syosetu.com/n4707ey/


小説家になろう 勝手にランキング

 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ