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クラウン・フォビア~幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO~  作者: 稲葉めと
一章 幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO
7/37

007 PvPでは勝利よりも好きな技を使うことに拘るタイプ

ジャンル別週間1位もいただきました、ありがとうございます!


続々と「あのゲームが元ネタですね!」とのお声をいただきますが、僕の好きなゲームを全部詰め込む予定です。「俺の予想していたゲームと違う」状態も出てくると思いますが、この作品は特定のゲームの二次創作ではないのでしゃーねーなと思っていただければ(そういう感想が来たのではなく保険です)。

「さて、映像も途切れたことだしクルーアのステータスを確認しておこうか」

「それでいいんですかマスター」

「あまり自分の力でどうこうできない事を気にしても、胃によくないからねー」


 今のわたしに内臓があるとは思えないけど、それはそれ。

 人間は脳で考えている動物なのに、なんでわたしは自我が保てているのかとか。明らかにVRデバイスも燃えているのになぜゲームができるのかとか。気になることは色々あるし、いずれ向き合わないといけないかもしれない。


 でもわたしは学者でもなければ。プログラマーでもない。ソフトはもちろんハード側の仕組みなんてさっぱりだ。

 空気の成分なんて知らなくても人はそれを吸って生きている。なら、どうしてゲームを続けていられるかを考えるより、そのゲームをどうやって遊ぶかを考えるほうが有意義だろう。


 というわけでクルーアのステータスを確認しよう。


名前:クルーア Lv1

種族:ホムンクルス

クラス:ペット


HP:20/20

MP:20/20


アクティブスキル:

《アタック》

《ガード》

《アンサイクロペディア》


称号:

《人造生命体》《サポーター》《ラクリマの眷属》


「よっわ」

「ひどいです」

「あぁ、いや、ごめんごめん。レベル1のホムじゃこんなものだよね」


 ペットはMobと同じくレベル制とはいえ、レベル1では始めたばかりのプレイヤーと大差ない。

 というかわたしだってHPとMPは大差ないし。

 

 このゲームのHPやMPを上げるには一度消費して、それを回復するという工程が必要になる。

 ダメージを受けて治す。MPを消費し、回復させる。

 つまり回避に全力を注いでプレイすると、HPが初期値から変わらない。まさに当たらなければどうということはないけど、当たったら終わるキャラの出来上がりだ。


「クルーアはプレイヤーじゃないからパッシブスキルがないのは当然として、アクティブスキルのアタックはプレイヤーの通常攻撃かな。ガードとアンサイクロペディアっていうのは?」

「ガードは自分を守るだけで、所謂カバーリング的なものではないです。アンサイクロペディアはサポートAI用のスキルで、こうしてプレイヤーへ対する解説を行うスキルだと思っていただければ」


 なるほど、用はヘルプ欄カンニングスキルみたいなものか。

 称号をみると《サポーター》とあるから、これに付属しているスキルなのかもしれない。

 そしてちゃっかり存在する《ラクリマの眷属》という称号。……ホムはリポップできるペットだけど、うっかり誤食しないように気をつけよう。


「あ……そういえばアクティブスキルを覚えるのってどうしたらいいの?」

「基本的な方法はふたつ。ひとつはスキルスクロールを使用することです。ただしそのスキルの前提条件を満たしていなければ覚えられず、習得後に前提条件を下回ると使用不可になります」

「それでスキルが消えたりとかは?」

「ありません。もうひとつは前提条件を満たした状態で、そのスキルに対応した動作を繰り返すことです。例えば《アタック》を覚えるとしたらMobに対して近接攻撃をする、というのが対応した動作となります」


 なるほど。

 パッシブスキルが上がってもわたしがアクティブスキルを覚えていないのは、その対応した動作というのをやっていないからか。

 VR以前のゲームは用意された行動しかとれないから、レベルを上げたら自動的に覚えるか、イベントをこなしたら技が増えるようなのが多かった。

 

 けど昔ながらの知識が役に立たないとも思えない。NPCに聞き込みをしたらスキルの前提条件や対応動作を教えてもらえるとか、そういうのはありそうだし、一度町に戻ってみるかな。


「あの、マスター。こうした情報は浜辺付近の集落で教わるはずなのですが、もしかして」

「うん、無視して渓谷突っ切ってきた」

「前作プレイヤーさんらしいと言えばらしいのでしょうか。新規のプレイヤーさんにはチュートリアルで説明されているはずですし、大丈夫ですかね」


 それは大丈夫とは言わないのでは?

 運営からの前作組は大体わかるでしょ? 新要素? 気合で覚えろよ、という悪意を感じる。そもそもプレイヤーにあわせてチュートリアルを変更するほうが面倒なはずだよね。


 こうなると本格的に町中で情報収集をしたほうがよさそうだけど、その前にチュートリアルで貰ったスキル覚えておこう。


 ステータスを開く要領でインベントリを開き、……そういえば《初心者セット》なんてものも貰ってたっけ、あとで中身を確認しておこう。

 とりあえず《サクリファイスハートのスクロール》を選び、使用しますかに対してYESを選択。


 わたしの眼前に浮かび上がったスクロールがひとりでに開く。

 うわぁ、デフォルメされた心臓を食べてる名状しがたい生き物が描かれてる。かわいい絵柄だけどキモい。


《スキル:サクリファイスハートを習得しました》

《邪法が5上がりました》


 ……前提条件にレベルがないと思ったら、スキル習得と同時に上がっちゃったよ邪法。

 あまり上げすぎないほうがいい気もする。ゲームによってはこういう禍々しいやつがフラグになって、NPCに嫌われたり、後々発狂とかしそうだし。


 幽霊のわたしが発狂したら完全にただの悪霊では? 


「って、どうしたのクルーア、そんなに離れたりして」

「……た、食べないでください」

「いやいやいや、食べないよ」


 ペットの目の前で眷属を食べて回復するスキルを覚えるマスター。たしかにAIとはいえ知性をもったペットから見たら怖いかもしれない。

 人間に置き換えて、『かわいいねぇ、食べちゃいたいくらいだ』とか言いながら包丁を研ぐ親を想像してみる。

 あ、だめだ、めっちゃ怖い。


「それより一度町へ帰ろうか」

「うわあぁあああぁあっ!?」


 なにもそんな野太い声で悲鳴をあげなくても。ってそんなわけないか。

 これはクルーアの声じゃない。明らかに男の人だし、さて何事か。


 危険を避けていたらゲームは楽しめない。少なくともわたしは積極的に首をつっこんでいく方針だ。

 FPSみたいに音の方向から居場所がわかるのは新鮮でいい。MMOだとあんまりないし。


「うーん、ゴーレム?」

「それとプレイヤーさんでしょうか」


 この付近にあんなMobが出た覚えはない。無論このPEVRと前作であるPEとは別物なので仕様が変わっただけかもしれないけれど。

 だからといってこんな序盤にあんなものはでないでしょう。


 そう、一般的な石造りのゴーレムならともかく、あんなメカメカしいやつ。


『ハハハハハ! 逃げろ逃げろー!』

「なんでファンタジーに巨大ロボが出てくるんだよおおおおおっ!」


 足の足りない蜘蛛のような下半身に人型の上半身が乗った巨大ロボ。ゲームによっては四脚型と言われたりするアレが明らかに新規なプレイヤーを追い回していた。

 巨大ロボの全長は3mとそれほど大きくはないし、あれは巨大ロボではなくこのゲームにおけるゴーレムなんだけどね。

 鍛冶スキルとか、他にも色々上げると最終的に作れるようになるやつだ。


 そしてあのゴレーム、表記的にはアイテムという事になるんだけど、仕様はわたしのクルーアと同じペット枠。

 つまりアレは前作ペット組が自慢のペットを回収し、新人相手にイキっているという事になる。


「うわぁ、せっかくプレイしてくれてるご新規さん相手にみっともない事するなぁ」

「手助けしますかマスター」

「どうしようかなぁ。別に決闘モードってわけでもなさそうだし、ハルマゲドンエイジでもないし」


 このゲームの基本的なPvPは二種類。

 一方が戦いたいと申請し、受諾した場合に可能な決闘。もうひとつは常時PvP可能エリア、終末戦争が巻き起こっている時代でいくつもの陣営にわかれて戦うハルマゲドンエイジだ。

 作品タイトルにも時代(エイジ)と入っていることから察する人もいるだろうけど、このゲーム若干SF要素があり、いくつかの過去。あるいは未来へ跳ぶことができる。ハルマゲドンエイジはずっと未来の話で、あそこで暴れてるゴーレムは遥か古代のオーバーテクロノジーという設定になっている。


「それなんですが、今作では町中以外全てPvP可能エリアとなってます」

「え?」

「町の周辺なら番兵さんが助けに来てくれますし、巡回騎士などもいるんですが、一定以上離れたら出てきません」

「つまり?」

「あのままだとPKされるかと」


 PK。プレイヤーキル、或いはプレイヤーキラーの略称。プレイヤーが他のプレイヤーを倒すこと、或いはそれを専門としているプレイヤーのこと。基本的に同意がない状態での行為を指す。


 それによって起こるプレイヤー間の不和が問題視され、日本のゲームではPvPは出来てもPKはできないものが多い。

 場合によってはリアルアタック、現実で相手のプレイヤーへ報復をする事件などが起きるからだ。

 そんな要素がPEVRでは解禁されているらしい。


「ちょっと待って聞いてない」

「新人さんにはチュートリアルで、そうでなくても最初の集落や町中で聞けるお話なんですが」


 ショートカットしたツケここに極まれり!

 さすがに浜辺や最初の森はPK禁止エリアらしく、可能となっているのはこの丘陵地帯以降らしい。

 そりゃあお試しとばかりにPKするプレイヤーも出てくるわ。


「それで、助けますか?」

「いや、いじる」

「え゛」





 巨大な四脚ゴーレムが粗末な衣服に身を包んだプレイヤーを追い回す。

 ゴーレムの主人は見える範囲におらず、けれど声が聞こえるということは中に乗り込んでいるのだろう。

 騎乗スキルの《ライディング》だと思う。グリフォンならその背に跨り、ゴーレムなら乗り込める。


『はははは、追い詰めたぜ!』

「ちくしょう、いきなりそんなの持ってるなんてチートじゃねえか!」

『そうでもないさ。こいつさっき回収したばっかりでな、レベルも1しかないんだ』

「な、なら俺にも勝ち目が」

『だからお前を踏み潰すくらいしかできない、安心したか?』

「安心できるかああああっ!」


 レベルが低かろうとそこはVRゲーム。3mのゴーレムに踏み潰される恐怖はダメージなんて関係なくプレイヤーに襲い掛かる。

 ゴーレムが足のひとつを持ち上げ、新人さんを踏み潰そうとしたその瞬間、新人さんの背後に巨大なウィンドウが表示された。


 このゲームのウィンドウは可視・不可視を個人・PT・全体の三つで切り替えができる。大きさもある程度は自由で、ゴーレムのように巨大なペットへ騎乗している人や大勢でも見やすいように、横3m、縦2mくらいなら余裕だ。

 突然全体可視モードで表示されたウィンドウを見て、思わず振り上げた足をその場で止めるゴーレム。攻撃をキャンセルするでもなく中断できるあたり、このゲームの凄さが伺えるけど、いまそれを気にする人はいなかった。


 ゴーレムと、踏まれそうになっていた新人さんが気にしているのはウィンドウに表示された映像だ。

 火の手が上がり、家屋が燃えおち、真っ黒な人型のナニカが倒れている。


『なんだ、動画?』

「これもそのロボットのスキルなのか?」

『いや、俺も知らん。つーことはあんたが出したわけじゃないのか』


 狩る側、狩られる側だったプレイヤーたちも思わず聞きあう。

 別に本気で殺し合いをしていたわけじゃないのだから、ゲームで気になることは聞いてしまいがちだった。

 ロールプレイが成っていない。PKをやるならもっと問答無用でぶっ殺すぜ! くらいやってほしい。それかプライドの高い暗殺者とか。ついでに美少女だったり渋いおじ様だったら萌えるし燃える。


 そう、このゲームはVRMMORPGだ。RP(ロールプレイ)の重要性というのを教えてあげようじゃないか。


『これ、もしかして実際の火事の映像か?』

「え?」


 今だ!


「どうして」

『「え?」』

「どう、して」


 精一杯ソレっぽい声を出しながら、わたしはウィンドウの反対側から右手を突き出した。

 そして掴む。追われていた新人プレイヤーさんの足を。


「ひっ」

「ど う し て」


 このウィンドウはあくまでも見えるように表示されているだけで実体はない。ゲームの中で実態ってなんだと聞かれたら、それは当たり判定の有無だと答えよう。要するに触れようとしたらすり抜ける。

 ステータスとかアイテムをいじるなら別だけど、いまはさっき録画しておいた映像を再生しているだけなので関係ない。


 それでは現在の状況を改めてご説明しよう。

 PKと新人さんの前に突如現れた巨大な火災動画。

 その中で横たわる黒いナニカ。

 丁度その黒いナニカの部分からぬっと現れた腕に足を掴まれた新人さん。


 そしてウィンドウから顔もだし、とあるスキルを意識しながらわたしは叫んだ。


「ど う し て 助 け て く れ な い の、ど う し て え え え ぇ ぇ ! ?」

『「ぎゃああぁぁあぁぁ!?」』


《シャウトが3上昇しました》

《スキルの取得条件を満たしました》

《アクティブスキル:《こいつ直接脳内に(テレパシー)》を取得しました》


 え、パッシブスキル名と同じシャウトとかじゃないんだ。いや、考えてみたら同じ名前じゃ紛らわしいな。

 まぁいいや、アクティブスキル取れたし。

 試しに使ってみよう。


「(いたいよぉ、くるしいよぉ、あついよぉ)」

「なんだこれ、頭に直接」

『うおっ!? ゴーレム越しなのに生声がああぁぁ!?』


 あ、これそういうスキルか。VRならではだね、楽しい。


《演技が5上昇しました》


 演技とかあるの!?


 これは悪ノリせざるをえない。いや、スキル上げ、スキル上げだからね。

 ついでにウィンドウの中にこの新人さんを引きずり込んであげよう。いや、普通に通過するだけなんだけど、上手くすればPKからも逃げられるしね?


 気分は強盗から被害者を助ける心優しい貞子さんだ。古井戸の映像じゃないのが悔やまれる。


「(いたいよ、いたいよ、たすけて、くるしい、あつい、くるしい)」

「いやああぁぁぁ助けてえええぇぇぇっ」

『ちょ、勘弁しろよホラーは苦手なんだよ! こんなところに居られるか、俺は逃げるぞ!』


 錯乱して泣き叫ぶ新人さんを放置して、ゴーレムが全速力で走り出した。

 わたしの居る方向へ向かって。


「「あっ」」

「マスター!?」


 そして踏み潰されるわたしと新人さん。

 わたしは死んだ。


 教訓。いたずらはほどほどに。

ラクリマ「ねぇ、もしかして緑色の危ない粒子もどこかにあったり」

クルーア「その情報へアクセスするには管理者権限が必要です」


ちなみにあのゴーレム、レベル1なのでステータスだけならクルーアよりちょっと頑丈なくらいです。ただし高低差ダメージで踏みつけの威力はでかいという。

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