006 せっかくだからPTを組みたい
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小説内のアルファベット、大文字にするか小文字にするか、あるいは統一せず使い分けるか、悩みまくり中。
「え、なんでここにいるの!? マップにポップするんじゃ」
「?」
あ、だめだ、会話にならない。ペットのAIは普通のNPCほど賢くはないのかな。
いやでも、彼女をじっと見つめると頭上に【クルーア】という名前が表示されるし、着ている装備もわたしがつけさせていたものと瓜二つだ。これは間違いなくわたしが連れていたペットのホムだ。
「あー、と、クルーアだよね? よ、良かったらまた一緒に来てくれないかな、なんて」
なんだろう、この、ナンパでもしているような気持ちは。
わたしは同性のナンパ経験なんてない。じゃあ異性ならあるのかというと、それもないんだけど。VRになってよりかわいらしくなったクルーアにこういう台詞を言うのは、ちょっと恥ずかしい。
「(こくり)」
《ホムンクルス:クルーアのテイムに成功しました》
《サポートAIに設定しますか? YES/NO》
どうやら無事テイムに成功したらしい。
安心したところで追加のメッセージに目を向ける。
サポートAIとはなんぞやと見てみれば、どうやらヘルプ機能をテイムしたペットなどに担当してもらえるらしい。
そうすると通常のNPC並に高度な会話が可能になるとのこと。
通常のNPCというと、さっきお話した番兵さんとかだろうか。あの人も凄かったけど、もしチュートリアルにいたカーバンクルのエイダと同じレベルならすごいことだ。あれはほぼ人間と変わらなかった。
煽りレベルまで一緒になられたら困るけど、さすがにそんなことはしないと運営を信じよう。
……過去の所業が脳裏を過ぎったけど、信じてるからね、運営!
というわけでYESをぽちっとな。
《ホムンクルス:クルーアがサポートAIに設定されました》
《過去ログを参照し人格を形成します》
《プレイヤー同行時間計測中……》
《戦闘回数・パターン計測中……》
《死亡回数計測中……》
《計測完了・人格の形成を終了します》
いくつか不穏な単語も聞こえたけど、大丈夫だろうか。
前作ではペットに対して無茶なレベリングもしていたからそこそこ死んでたりするんだけど、ゲームなら普通の範囲、のはず。
肉盾には主にグリズリーを使ってたし。そうなるとグリズリーをテイムしたときひどい事になりそうだけど、それは彼と出会ったときにでも考えよう。
「ア、ウ、アー、あーうーあ。……マスター?」
「えーと、わたしのこと、わかる? でいいのかな」
如何せんAIとの会話、それも先ほどのメッセージを見る限り生まれたばかりのAIとの会話なんて初めてだ。
よく知ったペット、けれど初めての会話。なんだかとてもむずむずする。
「はい、はじめまして。そしてお久しぶりです、マスター」
「うん、はじめまして。そして久しぶり、クルーア。ところで聞いてもいいかな」
「なんですか?」
「なんでこんなところにいるの? わたしペットはリポップしない状態でマップにポップするって聞いて、すごーく焦ったんだけど」
そんなわたしの問いにクルーアは小首をかしげ、きょとんとした顔を隠しもせずに答えた。
「えっと、レアガチャの限定ペットが通常マップにポップするはずないですよね?」
「……たしかに!」
グリズリーやグリフォンならばともかく、ガチャ専用ペットがその辺の平原や山なんかに居るわけがない。
じゃあどこにいるんだと聞かれたら困るんだけど、幸いその答えは目の前にあった。つまり、町中である。現実でもガチャがあるのは普通は町中だもんね。山奥にぽつんとあるガチャとか、それはそれで興味を惹かれるけども。
「今作ではクラウドファウンディングが収益のメインとなっているのでガチャは廃止されました。ですからわたしは町中にポップしていました」
「それはそれで、よく今まで他のプレイヤーにテイムされなかったね」
「サポートAIになる以前も多少の知性はありましたので、商人のフリをしていればNPCに混ざれるかな、と」
「賢い!」
うちのこ賢かった! うれしい!
だめだ、このままだと親馬鹿になってしまう。
気になることはまだいくつかあるから、その辺をちゃんと聞いておこう。
「さっきからAIとかレアガチャとか言ってるけど、この世界の住民ってみんなそういう、なんていうか、ゲーム用語を把握してるの?」
「いえ、それを把握しているのはサポート用AIとチュートリアル用AIだけです。わたしもさっき知りました。びっくりです」
「そ、そう。そりゃまぁ、びっくりだよね」
「まさかマスターとお会いするのが10年ぶりだなんて……」
「そっち!? もっと驚くところあるよね!?」
この世界がゲームであるとか!
プレイヤーからしたら当たり前のことでも、中の人達からしたらとんでもないことのはずでは?
「マスターとまた会えた事に比べたら、そんなの些細なことですよ」
「くう、なにこの娘可愛い。あー、もう他のペットは放置してひたすらクルーアを愛でたい」
「え、え、待ってくださいマスター、ちゃんとグリ吉と彦左衛門も見つけてあげてください」
クルーアがすごい動揺してる、可愛い。
ちなみにグリ吉がグリズリーで、彦左衛門がグリフォンの名前。
我ながら良いネーミングセンスだと思う!
「わかったわかった、その内ね。そういえばクルーアのレベルってどうなってる? 引継ぎ?」
「その内って。あ、レベルですね。ペットのレベルは基本的に初期値です。テイムした際30レベルのMobなら30、わたしのように課金アイテムだった場合は1ですね」
ってことはもしクルーアがマップをうろついてたりしたら、その辺のプレイヤーにあっさり狩られたりテイムされていたわけか。
「GJクルーア!」
「あ、ありがとうございます!」
「ただそうなると、いまのわたしたちだけでグリズリーやグリフォンをテイムしに行くのは難しいなぁ」
グリズリーの初期値は30レベル、グリフォンなんて60だ。いまのわたしたちでは元仲間たちを見つける前に、野生のMobに殺されてしまう。このゲーム、幽霊のままでも移動できるけど、その状態だとHPもMPも半減、防御力は0になるので幽霊なら自由に探せるというわけでもない。
え、Mobは普通に幽霊見つけて殺しに来ますがなにか?
「となるとPTを組みたいけど、生憎とまだ知り合いが居ないんだよなぁ」
「以前のフレンドさんたちとは交流されていないんですか?」
「わたしは長いことPEから離れてたからねぇ。PEVRになってフレンドリストも一新されてるし」
さすがにそこは引き継がれていなかった。
前作プレイヤーかつ引継ぎをしたプレイヤーでも、心機一転はじめたいという人だっているだろうから、そこは当然なんだけど。
「でしたら外部ツールから連絡を取ってみてはいかがでしょう? 当時から連絡先を変えていなければまだお話できるかもしれませんよ?」
「ゲーム内のチャットじゃなくてそっちを進めてくるとは、これが最新AI、恐ろしい娘!」
「恐縮です」
たしかにわたしだって外部ツールで連絡をとっていた相手はいる。
それというのも、このゲームが流行っていた頃はゲーム内でボイスチャット機能を実装していないゲームがほとんどだったからだ。ダンジョンボスやレイド戦で連携をとるにはそれだと不便で、外部のツールで通話しながらプレイというのはよくある光景だった。
PEVRではこうして話せるから不要だけど、昔のフレンドたちと連絡をとるには使えるかな。
ちょっと古いツールだからほかのツールに移行してしまった人も多いだろうけど、使ってないけどアンインストールはしてない、という人もいるだろうし。
「あ、ごめん、たぶん無理」
「……マスター、もしかしてぼっ」
「ぼっちじゃないから! いや、たしかに最近は仕事しかしてなかったけど!」
仕事の内容をちゃんと思い出せないくらい、家では寝ていた記憶しかないくらい激務でここ10年くらいまともに遊んだ記憶すらないけど!
……ぼっちじゃない、ぼっちじゃないよね?
「いやほんと、ぼっちとかは関係なく」
「はい、昔のご友人と連絡をとるのですから、現状ぼっちかどうかは関係有りませんね」
「おのれ、まだ言うか」
「いたいれふまふたー」
減らず口のクルーアのほっぺをひっぱったり抑えたりしてみる。
変顔変顔うーりうーり。
……ほっぺたやわらかいなこの娘。おのれAI、現実でこのもち肌を維持するのがどれだけ大変か分かっているのか。
「さすがにここじゃ説明しにくいから、ちょっと外出ようか?」
「これが噂に聞く『おい、ちょっと表でろよ、キレちまったぜ』というヤツですか」
違います!
というわけでやってきたのは町の外。
さっきわたしが必死こいて登ってきた渓谷とは反対側の、おだやかな丘陵地帯だ。
ノンアクティブのMobが多く、無害そうな羊や牛がまったりと歩いている。アニムスパイソンみたいなやつはいない。ちょっと先へ進んだら出てくるが、少なくとも街の付近にはいない。
「とりあえず、これ見てほしいんだけど」
VRゲームをプレイ中現実の身体はどうなっているだろうか?
正解はひねりもなにもなく、寝ているような状態だ。
視界を覆うゴーグルをつけるだけ旧来のVRゲームでも、少なくとも現実が見えない状態になっている。
短時間ならともかく、何時間も続けてプレイするゲーマーにとってこれは少しよろしくない、真面目に危険があっても気がつけないのではと話題になったことがある。
それへの回答はいくつかあるが、そのひとつが現実にカメラを設置し、ゲーム内と連動させて見られるようにしておく、というものだった。
フレンドたちと連絡を取るには旧型のツールが必要だが、旧型ということはキーボードやフリック入力、つまり手作業だ。最新型のような思考入力なんて出来やしない。つまり幽霊のわたしには使えない。
クルーアにそれを、わたしが死んでいることを理解してもらうには死体を見てもらうのが一番だろうという事で、わたしは人目がないことを確認しつつ、カメラの映像を表示した。
……今更だけど、カメラの表示範囲をPT内にしておけばここまで来なくてもよかったかもしれない。ペットはPT扱いなんだよね。
そこで映し出された光景は、クルーアにとって、いや、わたしにとっても衝撃的なものだった。
まさか部屋が燃えているとは。
「いやぁ、燃えてるねぇ」
「燃えてますね……ってそんな事言ってる場合ですかマスター!? し、死んじゃいますよ、プレイヤーさんってあっちが本体なんですよね!? あれが壊れたらロストしちゃうんでしゅよね!?」
「あはは、噛んでるよ。可愛いなぁ」
ロストってまた、AIらしい表現だなぁ。プレイヤーはいくらでもリポップできるけど、肉体が死んだらロストする。なるほど、たしかにその通りだ。
ていうかログインする直前に感じた焦げ臭さは焼肉じゃなかったのか。
人が死んでるのに盛り上がってんじゃねえとか思ってごめんなさい。
「言ってる場合でしゅか!?」
「大丈夫大丈夫、わたしもう死んでるから。アレ最初っから死体なんだよ」
「はえ?」
見事に炎に包まれている、恐らくわたしであったろう死体をウィンドウ越しに見つめる。
火葬代が浮いたなぁ、なんて思いながら。
それから少しして、冷静になったクルーアと共に体育座りでその光景を眺める。
どんどん広がる炎を前に、わたしは思わず呟いた。
「なんか、ゲーム始める前よりひどいことになってるなぁ」
「凄惨ですねぇ」
そうして一人のプレイヤーと一人のペットは、カメラが燃えて、映像が遮断されるその時までウィンドウを眺めていた。
改めて『本当にわたし死んじゃったんだなぁ』と思いながら。
FaceRigとかでも自分の顔を確認しながらアバターのモーションを確認できるんですよね。
あれはWEBカメラを利用しているのでVRとはちょっと違うんですが。ちなみに最新版では配信中は自動でカメラの映像がでないように切り替わります。事故防止で追加された機能になりますね。
この作品内のカメラ機能はその発展型だと思ってください。現状の技術でも普通にできます。
ちなみに作品内のキャラクター名は作者と基本的には関係ありませんので、ゲームで見かけても絡まないようにお願いしますね。キャラ名は被りつけ放題でIDが不可っていうのも多いですし。