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クラウン・フォビア~幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO~  作者: 稲葉めと
一章 幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO
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004 VRだからできること

 そしてわたしは最初の村へ……向かわない。

 かつてのペットたちを探しに様々なマップへ……も行かない。まだね。


 わたしが真っ先に目指したのは浜辺から見える高い崖だ。

 上まで一気にかけ上がると、海ではなく浜辺方面へ向けてダイブ。


 あ、だめ、これVRでやるとすごい怖い!?


「ひゃああぁぁぁあぁっ!?」


《落下耐性が3上昇しました》


 あー、あーあーあーめっちゃ怖かった。

 スタート地点の浜辺で幽霊としてリスポーンしたわたしは、崖下へいって死体を回収する。

  ちなみにこのゲーム、幽霊でも飛べたりはしない。解せぬ。


《死体回収が4上がりました》


 突然崖からダイブかましたわたしに驚いた人もいるだろうけど、別にわたしは気が触れてしまったわけでも、飛び降りるのが好きなわけでもない。ではなにをしてるのかと言えば、スキル上げだ。


 このゲームには落下耐性というものがあり、これが高ければいまわたしが即死した崖であろうと平気で飛び降りれるようになる。


 わたしのペットたちがこの広い世界のどこにいるか知らないけど、探し出すためには快適な移動力が必須だろう。


 まずは落下耐性、そして走り続けるための持久力を上げる。

 走るとSTが消費され、STは持久力と連動しているからだ。


 崖を飛び越え、または飛び降り、ついでに強いMobと遭遇しても逃げ続けるだけのSTがあれば、まぁなんとかなるんじゃないかなぁ。

 もしやられてしまっても、死体回収が上がっていれば捜索再開までの時間が縮まるしね。


 というわけで、わたしはこれらを20レベルまで上げる。本当は30くらいまで上げたいところだけど、スキルレベルは高くなるほど上げにくくなるし、時間をかけすぎるとその間にペットのみんなが狩られたり、テイムされる可能性がある。

 おのれ運営。


「さて、 逝きますか」

 

 うわ、やっぱり高い。

 いち、にの、きゃああああぁぁぁぁああぁぁっ!

 ………………

 …………

 ……





 そんなことを一時間ほど繰り返したわたしのステータスがこちら。


名前:ラクリマ

種族:ハーフリング

クラス:無職


HP:31/31

MP:30/30

ST:35/35


パッシブスキル:

筋力  23

持久力 20

落下耐性20

死体回収25

シャウト5

水泳  8


称号:

《漂流者》

異世界から流れ着いた存在であることを現す。


 うん、素晴らしい。え、何故水泳が上がってるかって?

 ……勢い余って海の方に落ちたからだよ。言わせんな恥ずかしい。


 一時間でここまで上げられれば十分だと思う。

 称号は特に効果はなさそうで、プレイヤーの立ち位置を示してるだけみたい。

 たぶん適当なNPCに聞けば説明してくれるんだろうけど、わたしはひたすら崖からジャンプしていたのでまだ第一村人に出会ってすら居ない。


 ただスキル上げの途中で粗末な服のプレイヤー、 アバター着用のプレイヤー、 叫びながら駆け出すアバター着用のプレイヤーたちならちらほら見かけた。

 順番にPEVRからの新規勢、前作プレイヤー、前作でペット持ちだったプレイヤーだろう。


 ペット持ち以外にはあの情報が知らされていないのか、駆け出すプレイヤーたちは新規はおろか前作ペットなし勢にまで奇異の目で見られていた。


 わたし? わたしも見られてたよ。

 ひたすら崖から飛び降りるプレイヤーがいたら、そりゃ見るよね。ただわたしの場合主に見ていたのは新規勢で、前作勢はすぐにスキル上げだと当たりをつけて去っていった。


 さあ準備は万端! 早速みんなを探しに行こう!


 先ずは最初の町がある場所へ向かおう。

 他のプレイヤーたちがST切れで時々立ち止まっているのを尻目に、どんどん先へ進んでいく。


 まず浜辺から森へ向けて歩く。

 森の手前に簡単な集落があるんだけど、広めの盆地に天幕がいくつかあるだけなので、町ではないんだよね。大したものは売っていないはずなので無視。

 仮に重要アイテムが売っていたとしても、ペットたちより大事なものなどない。

 森に入って直ぐのところに長い渓谷があり、この反対側に町が見える。まずはあそこを目指したい。

 ただこの渓谷を越えるためには渓谷にそって森を移動、梯子までいく必要がある。

 幸いこの森の浅いところにはプレイヤーを優先的に攻撃してくるMob、所謂アクティブはいないのだけど、奥へいくにつれてアクティブが増える上、梯子までが結構遠い。だからさっきの集落を拠点にして攻略する必要があるんだけど。


「いち、にの、さん!」


 気にせず渓谷へ向けてダイブ!

 何度も浜辺の崖から飛び降りたことで落下への恐怖は大分薄れた。

 さすがに渓谷の底へ一気に降りたら死んでしまうので、そこそこの段差を見つけて落ちていく。

 足がしびれる感じがするけど、落下耐性は上げているのでこれくらいじゃ死んだりしない。ダメージは受けるけど。


 一番下へ降りたところで反対側の崖の隠し通路を……。


「あれ、ない」


 前作ならここにあったはずの町への直通通路がなくなっている。

 町から渓谷へ狩りに来る時便利だったんだけど、困ったな。


 って痛っ! 誰かに叩かれた!?

 うわ、HP削れてるじゃん。


「ちょっとなに、ってうわぁあ!?」


 振り向けばそこにいたのは巨大な闘牛。

 じっと見つめるとその頭上に名前が表示される。


【アニムスパイソン(強い)】


 アニムスパイソン。前作どおりならそこそこレベルの高いMobだ。このゲーム、プレイヤーはスキル制だけど敵はレベル制みたいなんだよね。だってそうしないと戦う目安がわかりにくいから。


 けれど実際にそのレベルを知ることができるのは鑑定スキルをあげている人だけで、多くのプレイヤーは自分よりどれくらい強いか、弱いかしかわからない。

 結果として名前の横に(強い)(弱い)のような表示される。

 ちょっと間抜けだけど、わかりやすさというのは大事だ。


 戦闘スキルを上げていない今のわたしからすると、大抵のMobは強いって表示されるからそれはいいのだけど、アニムスパイソンは移動速度が遅かったはずだ、逃げてしまおう。


「ブモオオオオオオオッ!」

「ひゃあ!?」


 なんて思っていたら、ひづめで地面を二度ほどガツガツ叩いてから、アニムスパイソンが突進してきた、早い!?

 前作のアニムスパイソンも突進のスキルを使ってきたけど、それは名前だけでモーションは頭を前に突き出す頭突きのようなものだった。けれどVRでは本当に突進してくるらしい。

 もちろん避ける。あんなもの直撃したら死んでしまう! リアルでも、いまのHP的にも!


 《回避が5上昇しました》


「およ?」


 戦闘がはじめてだったこともあり、回避が上がってくれた。

 それはうれしいけれど、突進が本当の突進となっている以上、こいつから逃げるのは不可能に近い。


 ただ気になることがもうひとつできた。それはさっきまで回避が0だったということで、それでも攻撃を避けられたという事実。このゲームはプレイヤーがプレイヤーキャラクターを自分の肉体のように、あるいはそれ以上の能力で動かすことができる。

 それは最早、自分自身であるかのように。いや、このゲームにおいての自分自身なんだ。


 だからあんな怖い闘牛がつっこんできたら避けるに決まっているし、現実と同じように運がよければ、タイミング合ったからといった理由で避けることもできる。


 そう、スキルに対応したことをすればスキルレベルが上がるということは、スキルレベルが低いことでも、試すことはできるということだ。

 思い出してみれば崖から落ちるときだって自分で体勢を整えたり、脚をまげてクッションにしたりできた。


「なら……これでいいかな」


 わたしは地面に転がっているなんの変哲もない石っころを拾う。

 

《小石を入手しました》


【小石】

重量:0

道端に落ちていた小石。



「そして、こう!」


 全力で小石をアニムスパイソンへと投げつける。

 はっきりいって投球フォームもなにもあったものじゃなく、小石はぽすっとぶつかってから地面に転がった。


《投擲が5上昇しました》

《挑発が3上昇しました》


「ブモオオオ! ブモオオオオ!!」

「挑発!? なんで挑発あがったの!?」


 いやまってそんなつもりじゃなかったんだよお牛さん! こっちこないでっとおおお危ない! なんとか直撃は避けられた。

 腕にかすったせいで少しHPがもっていかれたけど。


「こなくそ!」

「ブモッ!?」


 今度はさっきより大き目の石を投げつける。すると自然に手が動き、さっきより大分マシなフォームで投げることが出来た。

 アニムスパイソンのHPも削れてくれたのか、少し痛そうにしている。


《投擲が3上昇しました》


 まだ2回目なのに投擲の上昇量が減っている。戦闘系のスキルは上がり方が渋いみたいだ。

 けれどそれだけで倒したりはできず、アニムスパイソンは再び突進モーションへ入る。

 地面をガシっとたたき、二回目のたたきが入る前に。


 わたしは再び小石を投擲した。


《投擲が2上昇しました》


「ブモ?」

「ふふ、いつからターン制ゲームだと錯覚していた?」

「ブモオオオ!?」


 何度か繰り返すと突進は無理だと諦めたのか、普通に歩いて向かってくるアニムスパイソン。後ろに下がるわたし。突進モーションに入るアニムスパイソン。投擲するわたし。モーションが解除され、やっぱり歩くアニムスパイソン。


 哀れ、そのままHPを削りきられたアニムスパイソンは死体となってしまった。

 多分これ、修正いれたほうがいいと思うよ運営さん。


「勝ったどー!」


 なにはともあれ初勝利だ。ドロップ品をいただこう。

 さすがに解体処理までは再現していないようで、死体にふれたらドロップ品リストが表示された。


・アニムスパイソンの肉×3


 ……1種類しかない。

 この体格ならもっと色々取れてもいいだろうに、何かのスキルが必要なのか、元々設定されていないだけなのか。

 まぁ前作にはドロップ品がないMobもいたからなぁ。VRだから違和感を感じるっていうだけなのかもしれない。


 さて、VRだから違和感を感じることもあれば、さっきのスキルなし回避や投擲のように、VRだからこそできるようになったこともある。

 なら、隠し通路が消えたことで諦めていたこの崖を上ることだってできるんじゃないだろうか?

 前作では出来なかったけど、見た感じ掴む場所も、足場も十分にありそうだ。


「物は試し、かな」


 よっと。ほっ、せい。お、いけそう?


《登攀が3上昇しました》


 おお、登攀スキルなんてあるのか! さっきまで一覧には乗ってなかったし、隠しスキルになるのかな?

 これくらいならすでに見つけてる人も多そうだけど、新しい要素というのはいつだって胸が躍る。


 楽しくなってきたわたしは調子の乗ってよいさほいさと上がっていき。


《登攀が2上昇しました》

《登攀が2上昇しました》

《落下耐性が1上昇しました》


 はい、めっちゃ高いところから落ちました。

 それにしても登攀は上がり方が渋いね。落下耐性が1しか上がらなかったのはそこそこ上がってきたからだと思うけど。隠しスキルは上がりにくいのかもしれない。


 奮闘することしばらく、やっとのことで一番上まで上がることができた。

 隠し通路が無くなっていたのは驚いたけど、これでも普通に森を攻略するよりは早く着いたから結果オーライだ。


「ようこそアニムスの町へ。観光かな?」

「え? あ、はい、そんな感じです」

「そうか、ここは良い町だ。楽しんでいってくれ」


 町の入り口で番兵さんに話しかけられてしまった。

 この人もNPCなのか。受け答えが人間と遜色ない、すごいなぁ。


 町中へ入るとその情報量に圧倒される。

 もちろん森も、渓谷もすごかった。けど町というのは多くの人が行きかい、物が売り買いされる場所だ。

 風が運ぶ様々な匂い、人々のざわめき、熱気、そういったものを感じ取れるこの世界は、たかがゲームと言ってはいけないと思う。というか、わたしこれでも幽霊のはずなんだけど、うっかり死んでいることを忘れてしまいそうだ。


 ひとまずリスポーン地点を浜辺からこの町へ変更するために教会を目指す。このあたりは古きよきRPGと同じ感じだ。

 その途中、いくつかの露天でプレイヤーたちが買い物をしているのが見えた。VRだとぱっと見でなにしてるかわかるのが面白いなぁ。旧式のゲームだとみんなウィンドウをぽちぽちしてるから、プレイヤーが立ってるだけだとチャットしてるのか、買い物してるのか、放置してるのかわからなかったからね。


 とはいえ、序盤から欲しいものも特にないし、やはりみんなを探すのが優先だ。

 中にはすでにペットを回収できた人がいるようで、こんな序盤では手に入らないであろう小型のワイヴァーンを連れている人もいた。


 ちなみにわたしが最終的に持っていたペットは3種類。

 はじめてテイムしたグリズリー。

 ちょっとがんばってテイムしたグリフォン。

 課金ガチャにお小遣いをつぎ込んで手に入れたホムンクルスだ。


 このゲームのホムンクルスは少し特殊で、エイダたちカーバンクルと人間の中間のような姿をしてる。

 人間の耳の位置に狼のような耳が生え、猿のような尻尾が生えてるんだけど、それというのもカーバンクルが人間の力を取り込む実験のために生み出した種族だから。それをカーバンクルたちが失敗作として廃棄したものをプレイヤーが回収したという設定だ。

 この世界のカーバンクルたちは可愛い見た目して結構邪悪なんだよね……。


 ホムンクルス、通称ホムにはプレイヤーと同じ装備をつけることが出来る。ペットたちはプレイヤーと違いMobと同じレベル制だから、スキルをあげてクラス専用の装備をつける! なんてことはできないんだけど、せっかくだからとおしゃれさせてるプレイヤーが多かった。

 うちの子はクルーアていう名前なんだけど、髪の色が綺麗な水色だったからそれに合わせて青い軍服ワンピースの装備をつけさせていた。たしかモルフォチョウとかいう現実にいる綺麗な青い蝶をモチーフにした装備だったはずだ。


 そうそう、丁度あそこでお店開いてるNPCとかうちの子とよく似て……似て……。


「居たああああああぁぁぁあぁぁ!?」

「!?」


 わたしの声に反応してこちらを見たNPCの顔をみて確信する。

 最初の町に普通に居たああぁぁあぁぁぁ!?


《シャウトが4上昇しました》


 あ、はい。

序盤のうちは何するたびに技能があがるのに、広範になるにつれて何時間もかけてやっと1あがるとか、あるある。

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