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035 勇者と道化師の共同戦線 その1

<ハルマゲドンエイジで死亡しました>

<300秒後に陣営本拠地でリスポーンします>


 真っ白な空間で、しばし呆然とする。

 いつものようにすぐリスポーンできないのはハルマゲドンエイジがPVP専用エリアだからだろう。陣営本拠地がリスポーン場所なのに即時リスポーンでは、本拠地で戦えば実質死なない、という事になりかねない。


 この場所はその待機所なんだろうけど、ここには自分以外誰もいない。

 クルーアも、カルターンも、メドヴェーチ……グリ吉も。

 それが少し、肉体のないわたしでもほんの少し、寒いと感じた。


 以前掲示板で見た復讐のエルフさんの書き込みから、前作からの引継ぎペットがプレイヤーに倒されてロストしたら通知が来ることが分かっている。だからそれが来ていない以上、グリズリーのグリ吉も、グリフォンの彦左衛門も無事なんだろうとは思っていた。


 だけど、レイドボスになってるだなんて聞いてない!


 いや、これが予想できる人なんているだろうか? せめてクルーアを仲間にする時に戦闘でもあれば予想できたかもしれないけれど、クルーアは普通にテイムできた。町で商人ロールしてるのを普通というかはこの際置いておく。


 わたしが倒される前に見たグリ吉の称号には《レイドボス単独討伐者》というのがあった。

 このゲームはクルーアが商人ロールをしていたように、プレイヤーが見ていない場所でもNPCが好き勝手に動いている。グリ吉はわたしが知らない場所で本来いたレイドボスを倒し、その称号を奪い取ったと見て間違いない。


 プレイヤーがレイドボスを倒してもそんな事は起きない。それはインシュピータ戦で確認済みだ。

 つまりこれはNPCが、もっと言えばエネミーがレイドボスを倒した時に起きる例外的な事象だと思う。そうじゃないとペットが倒してもレイドボスになってしまうし。

 ゲームのボスというのは基本的にどんなゲームであってもテイムする事はできない。


 今居るのは真っ白な空間なのに、目の前が真っ暗になったように感じる。


 グリ吉と会えた事を喜びたいのに、わたしにはできなかった。





 リスポーンまでの待機時間が終了し、真っ白な空間からクローロンの本拠地へと転移する。


「うわ、たくさんいる」


 辺りを見回すまでもなく、山ほどのプレイヤーが狭いテントの中に押し込められていた。

 ここに居るってことはみんなクローロンの民所属なんだろう。プレイヤーネームの横に所属陣営も書いてあるし。


「落ち着きましたかマスター?」

「クルーア……うん、ちょっとだけ」


 わたしがリスポーンしたことで隣に現れたクルーアから、心配そうに話しかけられた。

 待機場所で考え事をしたからか、頭は少し冷えた気がする。ちょっと錯乱気味だったからあそこで倒されてよかったのかもしれない。


 そういえば、ペットの待機場所もあんな空間なんだろうか? もしそうなら、できるだけペットは収納したくないな。まだ収納スキル覚えてないけど。


「なんでこんなに人がいるんだろう。もしかしてみんなグリ吉に?」

「あの場には他にクローロンの民所属のプレイヤーは居ませんでしたけど」


 クルーアによれば、よほど特殊なボスじゃない限り同一個体が別の場所でPOPすることはありえないらしい。

 それはもうボスじゃなくて雑魚Mobだとのこと。そりゃそうか。


「さっきまで本拠地の真ん前でドンパチやってたんだよ」

「ブレイバー?」

「よ、昨日ぶり」

「ドンパチって、どこと戦っていたんですか?」

「クサントン盗賊団だな。大部隊で襲撃をかけてきたんでこっちも集まって迎撃してたわけだ」


 なんでもクローロン所属のプレイヤーはペットの育成好きが多く、経験値を稼ぐために個人行動している人が多いらしい。陣営の特色も動物や自然との共存というもので、他の陣営に比べて積極的に攻めるようなものではないので戦い好きなプレイヤーは他所へ行っている、というのもあるんだろうけど。


 プレイヤーの数はクサントンの方が多かったけれど、こちらはペットも多いのでなんとか追い返したらしい。

 わたしが本拠地に行ったとき人が少なかったのは、こっちに襲撃をかけていたからか。その間に本拠地をレイドボスが襲撃してるんだから、今頃大慌てだろうなぁ。南無い。


「それでそっちは、噂のレイドボスにやられたか?」

「見てたの?」

「んにゃ、あの通知はハルマゲドンエイジ全域に来たからな。それとお前らの会話から察しただけ」 

「勇者が盗み聞きですか?」

「そこは謝るけど、本当に聞かれたくない話ならパーティチャットにしとけよ? ペットはパーティ枠だからそれでいけるだろ」


 咎めるクルーアに、呆れたように応える†ブレイバー†。

 たしかにその通りだし、グリ吉の話はあまり他人に聞かれたくもない。

 かと言ってこの問題はわたしたちだけで抱えるには重過ぎる。単純にどうしていいかわからないし、クルーアのアンサイクロペディアはプレイヤーが知る権利を持っている事しか調べられないみたいだから、鑑定結果以上のボス情報は得られないだろう。


「ブレイバー、ちょっと話があるんだけど、臨時パーティ組まない?」

「お? あー、いいけど、ちょっと待て」


 そういうと†ブレイバー†はテントの一角に集まっていたプレイヤーたちへ向かうと、なにやら言葉を交わして戻ってきた。


「おっけーだぞ、申請くれ」

「あー、ごめん。もしかしてもう組んでた?」

「気にしないでいいぞ、クサントン迎撃中に臨時で組んだパーティだし、この後の予定も特に無かったからな。個人チャットは事故ると面倒だし」


 それでもちょっと申し訳ない気がするけど、本人がこう言うなら気にしないでおこう。

 早速システムウィンドウを開くと、視界内のプレイヤー一覧から†ブレイバー†を選択してパーティ申請を送る。

 即座に申請が受諾され、わたしをリーダーとしたパーティが結成された。

 現時点でのパーティ一覧はこうなっている。


【パーティリスト】

・☆ラクリマ

・ クルーア(ラクリマ)

・ カルターン(ラクリマ)

・ †ブレイバー†


 ☆がパーティリーダーで、()(カッコ)内はそのペットの所有者だ。


「お、ペット増えたのか? カルターンって、あのカルターンだよな」

「どのカルターンだか知らないけど、たぶんそのカルターン。っていうか、カルターンどこ行った?」

「一定サイズ以上のペットは建物内に入れないので、外にリスポーンしているようです」


 ぼっちでテント外に待機してるのか。ごめんカルターン。

 ちなみにこの建物、ダンジョンとか戦闘が起きる場所は例外らしい。つまりハルマゲドンエイジのリスポーン地点は戦闘領域外で、待ち伏せとかはできないってことになる。


 そしてクルーアのリスポーンを自然に捉えてたけど、ハルマゲドンエイジだとペットも自動でリスポーンするんだね。確認してみたけど、経験値は減っていない。これがハルマゲドンエイジの特徴なのか、クローロンの民所属の恩恵なのかは後で調べるとしよう。


「それで、わざわざパーティ組んでからの内密な話って、何事だ?」


 早速会話の範囲をパーティに切り替えたらしい†ブレイバー†にあわせて、わたしも切り替える。ペットに関してはマスターの範囲と連動しているみたい。


「レイドボスをテイムする方法って、何か思いつく?」

「……いや、無理じゃね?」

「だよねぇ」


 プロゲーマーとして色々なゲームに手を出していそうな†ブレイバー†でも思いつかないらしい。

 いや、プロって事はそれでお金を稼いでいるわけだし、案外ひとつふたつのゲームに絞ってやりこんでるのかも知れないけど。


「今回のレイドボス、そんなに好みだったのか?」

「というか、わたしのなんだよあの子。前作の引継ぎペット」

「……マジ? 途中で言い直されてたから、大分特殊な通知だなぁとは思ったけど」

「鑑定結果に《ラクリマの眷属》と表示されていたので間違いないと思われます。アレは、メドヴェーチはわたしと同様、マスターのペットだったグリズリーのグリ吉です」


 腕組みをして、横を見て、上を見てから「あーそりゃ人に聞かせられないわ」と零す†ブレイバー†。

 人の嫉妬というのはすごいものだ。現時点でわたしのペットではないと言っても、元ペットがレイドボスというゲームにおいて重要な立ち位置に居るということが知られれば、一部のプレイヤーたちからどんな反応をされるか分かったものじゃない。


「なぁ、ひとつ聞くが、お前はそのボス、メドヴェーチをそのままゲットしたいのか? それとも、グリ吉っていう前作のペットを取り戻したいのか?」

「え? そりゃわたしがほしいのはグリ吉だけど、同じじゃないの?」

「いや、ちょっと違うというか、このゲームにおいては大分違う。そうだな、見せたいものがあるからちょっと来い」





 テント前でカルターンを回収し、やってきたのは森の中。

 別にどこという場所でもない、拠点から少し離れただけの通常マップだ。近くに他の陣営の拠点があるわけでもないし、水辺もないから河童軍団が強襲してくることもない。


「それで見せたいものって? スキル? アイテム?」

「ああ、このスキルだ。サモン・ソキウス・インシュピータ!」

「はい!?」

  

 †ブレイバー†のスキルにあわせて、光の線が一本、また一本と引かれて巨大な魔法陣が展開される。

 完成した魔法陣からは光が立ち上り、その周囲に沿うようにして魔法文字が渦巻く。

 光の中、黒いシルエットが浮かびあがり、翼のようなものを大きく広げた次の瞬間、光が弾け、一体のドラゴンが姿を現した。


 レイドボス・インシュピータ。その小型版。


 以前戦ったインシュピータと比べると、かなり小さい。

 けれど元々が何十mという巨体を誇ったインシュピータだ。小さいとはいえ全長は3mほどもあり、翼を広げれば視覚的な大きさはかなりのもの。8mもあるカルターンと比べても見劣りしない。

 というか、カルターンでかいな。この子収納スキル手に入れないと街中に連れて行けないのでは?

 全長の半分は尻尾だし、直立してるわけじゃないから正面から見ると3mくらいなんだけど、どっちにしろ街中じゃ邪魔だろう。


「こ、これ、インシュピータ? サモンってことは調教じゃなくて召喚スキル?」

「ご名答。インシュピータ戦のMVPに送られるスクロールで覚えられる」

「え、わたし持ってないんだけど」


 インシュピータ戦ではかなり活躍したはずだし、ラストアタックを決めたのもわたしだったはずだ。


「ラクリマが活躍したのって、主に事前準備と数回のフォーリンインヴァリィド、あとはラストアタックくらいだろ? インシュピータへのダメージの3割は俺だったんだよ」

「解せぬ!」

「いや解せよ」


 わかるけど、わかるけれども! ふんぬぅー!


「召喚後のレベルは召喚のスキルレベルと(イコール)で持続時間はスキルレベル×10秒、クールタイムは一律1800秒。詳しくはパーティチャットに貼るわ」


 テキパキと右手を中空に躍らせて、チャット欄に貼られたスキルの説明がこちら。


【サモン・ソキウス・インシュピータ】

・前提条件 召喚 レイドボスインシュピータとの戦闘に勝利する

・消費MP60

・CT1800秒

・原初の竜・インシュピータの化身を召喚する。

 資格無きものには呼び出すことができない。

 スキルレベルに応じてソキウス・インシュピータのレベルと召喚持続時間が変動する。


「たしかにすごいけど」


 それで呼び出されるのはその場限りの使い捨てのAIで、本物のレイドボス、グリ吉じゃない。

 そりゃ、たしかにわたしとグリ吉が初めて会ったのはついさっきだ。前作には人並みに思考するAIなんて実装されていなかったから、グリ吉を仮にテイムできたとしても、かつて使っていたペットと同じ外見の、初対面のAIというだけでしかない。


 でも、鑑定でみた解説には、望郷の念をって書いてあったんだ。

 勘違いかもしれない。

 たかがゲームに、感情移入しすぎてるかもしれない。

 でも、わたしの考えが、ううん、期待が正しいなら。


 あいつはわたしたちの、まだ会ったことさえなかったわたしたちのところへ帰りたいって思ってる。


 クルーアは言っていた。『このゲームがサービス終了したら私も消えちゃいますよ。私、NPCですから!』って。あの時決めたんだ。わたしは、その時が来るまでみんなと一緒に遊ぶんだって。

 だから、召喚で呼び出す使い捨ての召喚獣なんかいらない。わたしは、あのメドヴェーチを。グリ吉を取り戻したいんだ。


「ふっふっふ、早とちりすんなよ?」

「え?」

「話はまだ終わってないってことだ。俺が本当に気になってるのは、このスキルを使用すると装備のアクセ欄(アクセサリー欄)にも一瞬クールタイムが発生してるところだ」

「アクセに、クールタイム?」


 そんなことはスキルの説明には書いていなかった。

 マスクデータ、つまり隠し要素だろうか?


「そうだ。まだ実証は済ませてないが、恐らくこのスキルはアクセを参照して呼び出されるヤツが変わる」

「!? ってことは、もしかして」

「ああ。あの物騒なエルフが前に書き込んでただろ。引継ぎペットを倒すと遺品をドロップする。あいつはそれを邪法スキルと組み合わせて引継ぎペットを蘇らせたと言っていた。アイテムの種別は聞いてないが、恐らく」

「アクセサリー。つまりわたしがメドヴェーチを倒しさえすれば」


 希望が見えてきた。

 テイムできなくとも、倒せばいいなら手段はある。幸いこのゲームはパーティを組めるのだから、ひとりでやる必要はない。

 クローロン陣営のプレイヤーとパーティを組んで挑むのは十分現実的なはず。


「いや、それじゃ足りないと思う。遺品は恐らくレイド報酬ではなく通常のドロップだ。手に入れるためにはメドヴェーチへのラストアタックを成功させる必要がある」


 そうか、撃破報酬はレイドバトルに参加した全員に送られたけど、もし遺品が撃破報酬ならこれで増殖できてしまう。

 そもそも召喚スキルのスクロールを取得するためには、MVPになる必要がある。そして、戦闘が得意じゃないわたしがそれ手にできるチャンスは、このスキルの情報が広まっておらず、かつハルマゲドンエイジに人がまだ集まっていない今しかない。


 情報が広まり、ハルマゲドンエイジ(PVP専用広域エリア)にガチ勢が集まった後にわたしが手に入れられるとは思えない。


「MVPはパーティじゃなくて個人に送られるからな。一応運営に問い合わせたんだが、この召喚スキルは先着一名ってわけじゃないらしい。いずれ持ってるプレイヤーは増えるだろうが、そうなると価値が下がるどころか俺も私もと競争が激しくなるのは目に見えてる」

「やりましょうマスター。錯乱しているあの馬鹿を、全力でぶっ飛ばしてやりましょう」

「いつになく過激だねクルーア」

「眷属の称号を持っているにも関わらず、マスターを攻撃し、あまつさえHPを全損させるような馬鹿に手加減は無用です」


 ガッツポーズをとりつつ、いつもは静かな尻尾がぶんぶんと荒ぶって居る。

 そうだ、考えてみたら、わたしあいつに負けたんだった。それも、クサントン盗賊団の首領、ピエールとの戦いに乱入されて。


 なんか、段々ムカムカしてきた。


「どうする? レイドボスをそのまま手に入れるのは不可能だが、魂だけなら性悪な運営どもから奪い返せるかもしれない」

「よし、倒そう! インシュピータみたいにあの首落としてくれる!」

「その意気です、マスター!」

「乗りかかった船だし、俺も手伝ってやろうか?」

「それは助かるけど、なんで助けてくれるの? ロリコン? ハーフリングフェチ?」


 わたしがMVPを取る以上、†ブレイバー†はメドヴェーチの召喚スキルが手に入らなくなる。少なくとも、今回のレイドバトルでは。

 彼は戦闘系のプレイヤーで、インシュピータ戦でMVPを取った実績がある以上、メドヴェーチでも取れる可能性が高い。わたしに協力をすれば得をしないどころか、損をすることになる。


「アホか、ロリコンは別のヤツだろうが」


 掲示板の某残念プレイヤーを思い出す。

 実際のところあの人はロリコンよりも追跡者(ストーカー)とかのほうが似合っていると思う。主にスキル構成的な意味で。


「なんでって、そりゃ俺の名前を見れば分かるだろ?」


 彼の名前は†ブレイバー†。

 かっこつけた、厨二全開の、一見地雷プレイヤーにしか思えない、ひどい名前。


 それを理解して尚、その名を誇るプロゲーマーは少年のような笑顔で教えてくれた。


「こういうもんだろ? 勇者ロールってさ」


 恥ずかしい奴だなぁって思った。

 そして、最高にイイ奴だ。

†ブレイバー†格好いいんダガー(激うまギャグ


ちなみに召喚シーンは魔獣召喚みたいな感じ(伝わる人には伝わる

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