033 わたしなりの戦い方
これを投稿後に活動報告へクルーアのラフをあげておきます。Twitterに投稿したのと同じものになりますが、よろしければご覧ください。
※ラクリマのステータスに一部計算ミスがありました。
修正しましたが本編は変わらないのでご安心ください。
「こっちは準備OKでーす! そっちは?」
「はーい、えっと、ちょっと待ってください」
いつのまにか盗賊のひとりがカメラを肩に背負っている。
え、ちょっとまって、配信ってそういう感じなの?
「もっとこう、カメラが宙に浮いてるとか、色々あるんじゃ」
「あれは配信機能のオプションですね」
「オプション?」
「はい。一口に配信と言っても、ゲームらしい画面を撮りたいプレイヤーさんから映画っぽい映像を撮りたいプレイヤーさんまで様々ですから」
なるほど。あれはTVのロケ風って感じだろうか? よく見れば他の盗賊も反射板やら大型のマイクやら色々と持っている。無駄なリアリティかもしれないけど、ゲームの描写で効率だけを突き詰めたら、極論数字だけを表示しとけって話になっちゃうもんね。
さて、準備する前に現時点でのわたしのステータスがこちら。
名前:ラクリマ
種族:ハーフリング
クラス:無職
HP:46/46
MP:49/49
ST:56/56
【装備】
頭:なし/マジカルクラウンハット(アバター)
胴:なし/マジカルクラウンローブ(アバター)
腰:なし/マジカルクラウンショーツ(アバター)
脚:なし/マジカルクラウンブーツ(アバター)
右手:満月輪
左手:なし
装飾:なし
【パッシブスキル】
筋力 34
持久力 45
精神力 20
落下耐性52
死体回収40
シャウト12
水泳 8
回避 29
投擲 29
挑発 3
調教 34
登攀 30
邪法 36
演技 5
曲芸 35
自然回復18
騎乗 5←NEW
召喚魔法 5←NEW
【アクティブスキル】
《サクリファイスハート 1》
《精密射撃 2》
《こいつ直接脳内に 1》
《ストライクシュート 1》
《ジャグリング 1》
《モツ抜き 1》
《フォーリンインヴァリィド 1》
《サモンスカウトバット 1》←NEW
《コールドリンク 1》←NEW
《コールミート 1》←NEW
【モーション】
《土下座》
称号:
《漂流者》《リアルゴースト》
うーん、弱い!!
他の人が学校や仕事に行ったり寝てる時間にも延々とプレイしてるから、持久力だけなら戦闘系プレイヤーとも渡り合えそうだけど、全体的に弱い。一番レベル高いのが落下耐性なあたりお察しである。これも全部インシュピータが悪いよインシュピータが!!
このスキル構成で戦うなら、今までやってきたような奇襲が一番だ。今回のように正面から戦うなんてありえない。
召喚魔法については、コウモリ召喚して食べてる最中に取得した。とはいえコウモリは雑魚・オブ・ザ・雑魚なので戦力としては論外。クルーアや未だに帰ってきていないカルターンも戦闘系の統率NPC相手じゃ肉盾にしかならないだろう。
「とりあえずコールドリンク、そしてコールミート」
わたしは両手にクリスタルアイを取り出して召喚魔法を発動する。透明な瓶に入った水とブロック肉を煮込んだようなものがそれぞれ召喚された。なお消費MPはどっちも5で必要な触媒の数は1。リーズナブルだ。
このゲームでは隠しパラメーターとして空腹度や渇き度が用意されているので、定期的に食べたり飲んだりしておかないと、戦闘中にいきなり餓えを感じて動けなくなったりする。
今まではコウモリを食べて誤魔化してきたけれど、ここらでしっかり食べておきたい。
ちなみにコールドリンクとコールミートで召喚される水と肉はどこから来たのか、そもそも何の肉なのか分からないことから通称謎水と謎肉と呼ばれている。
さて、PE時代では当然味なんてわからなかったこの謎の物体たちだけど、PEVRではどんな味になっているのやら。
いただきます。
もぐ、もぐもぐ、もぐ? ごくごくごく。
……うん、水は普通に水だった。硬水っぽくて日本人の味覚にはちょっと合わない気がするけど。カルシウムが多そう。肉は、なんだろうねこれ。とろっとろに煮込んだ豚の角煮みたいな感じ。ただし味はない。
繰り返す。ただし味はない!
味がまったくない豚の角煮ってこんな酷い感じなんだね。
すごいね、味付けって大事だったんだね。前作のPE時代では生産系プレイヤー、こと料理系のプレイヤーがこの魔法を目の敵にしてたんだけど、いまならその理由もちょっとは分かる気がする。
でもお腹は膨れたよ。コスパだけなら最高だ。
《召喚魔法が10まで上昇しました》
《以降10上昇ごとに通知します》
おや、いきなり5も上がった。あれだけコウモリを召喚しても上がらなかったことから察するに、召喚魔法は色々召喚しないと上がらない仕様なのかもしれない。
「ピエールさん、こっちはペットと一緒でもいいんだよね?」
「呼び捨てでいいぜ、さんだなんて背中が痒くならぁ。ペットも嬢ちゃんの力の一部だ、好きにしな」
「では遠慮なく参加させていただきます」
「よし、配信の準備おーけーでーす!」
どこからともなく取り出した巨大なポールアックスを構えるピエール。
相対するは満月輪を構えるわたしと、手に入れたばかりのシュヴァイツァーサーベルを構えるクルーア。
「さてそれでは皆さんお待ちかね! 今日の舞台はPEVRのここハルマゲドンエイジ!」
「意外と人情味溢れるクサントン盗賊団の親分ことピエールと!」
「小さい子が見たらやばい版のOPで暴れていた話題沸騰中のピエロさんによるガチバトルをお送りいたします!」
「だからそのOPってどんなの!?」
「それではPEファイトォオオオオ! レディイイイイィッ!」
ゴオオオオオオオオォンッ! と、これまた撮影用アイテムなのか、それとも事前に用意していたものなのか、巨大な銅鑼が叩かれたのを合図にわたしたちの戦いが始まった。
相手は盗賊の親分なんて立場に居る統率NPC。バリっばりの戦闘系に決まっている。
名前だってほら、《クサントン盗賊団親分:ピエール(超強い)》って表示されてるしね! 様子見なんて甘いことは言っていられない。最初からマクロ全開の投擲で近づけさせず一方的に仕留めるしかない!
「ストライクシュート!」
「甘いっ!」
「嘘ぉ!?」
わたしのストライクシュートによって打ち出された満月輪。スキル補正によってものすごい速度に達しているそれをピエールは片手で受け止めると、そのままこちらへと投げ返してくる。
慌ててマクロをキャンセルしてキャッチするも、ほぼ同速で満月輪に追随してきたピエールの接近を許してしまった。
「強打撃!」
「痛っ!?」
大振りで隙だらけのスキル。けど気が動転していたわたしは避けられなかった。
一撃でHPの半分以上持っていかれたんですけど!?
いくら統率NPCだからって何でここまで……いやいや何でも何もわたし防具なにもつけてないじゃん! このど派手な和ゴスピエロ服はアバター、見かけだけ、防御力無し!!
むしろその状態で一撃耐えたことを賞賛してほしい。
やっぱり近接はダメだ、今からでも距離をとって投擲メインで。
「逃がさねえよピエロの嬢ちゃん」
「だから速いって!?」
その図体で速いのはずるくないかなぁ!?
このゲームはステータスに表示されているパラメータ以外にも隠し要素が結構ある。空腹度もそうだし、ハーフリングなら小柄な見た目から想像できるように小回りが利きやすい。他の種族と明白に移動速度が違う、というほど分かりやすいものじゃないけれど、たしかにその差はある。
その上でわたしは曲芸スキルを上げているというのに、この大柄な盗賊の親分はついて来る。どころか純粋な速度では上回ってさえいる。
「マスター!」
「クルーア!?」
再びわたしを切り裂こうとしたポールアックスによる一撃を、シュヴァイツァーサーベルで防ぐクルーア。
たったのレベル2で、あんなにか細い剣で防げるような攻撃には見えなかったけれど、ペットの初期スキル、ガードを上手く使っているらしい。
どうやらジャストガードのような仕様があるらしく、うまくタイミングを合わせればダメージを大幅に軽減できるみたいだ。
「ほう、雑魚かと思ったが、うちのボンクラどもよりはやるみたいだな」
「生憎マスターの特別製なんですよ、レベルが低いからって舐めないでください!」
「ならそのマスターごとぶっ倒れな! 貫通攻撃!」
ピエールのポールアックスが地面に叩きつけられたかと思うと、土を巻き起こしながら衝撃波が発生しクルーアとその背後に居るわたしへと直進してくる。
「避けて!」
「はい!」
わたしの命令に従ってクルーアがそれを回避する。当然わたしも。
あんなあからさまなガード不能技、相手になんてしてられない。
「はっはあ、やるじゃねえか、んじゃこいつはどうだ!」
「行かせません、貴方の相手はわたしです!」
わたしに迫るピエールへとクルーアがアタックを仕掛ける。
とはいえクルーアはまだ刃物を扱うためのスキルを覚えていないので、ガードに比べるとその攻撃はお粗末だ。
「いいねぇ、来いよホムの嬢ちゃん!」
「わたしの名前はクルーアです!」
ガードで凌いでいるクルーアを助けるように投擲していくけれど、クルーアがまだ無事なのはピエールが遊んでいるからだろう。たぶん敵を倒すことではなく、戦うことそのものが好きなタイプと見た。
「そろそろあっちの嬢ちゃんの相手もしたいところだな。足留め!」
「あ、しまっ!?」
ピエールがポールアックスの石突を地面へ叩き付けると、今度は衝撃波ではなく、地面が盛り上がりクルーアの足を拘束する。
しかしクルーアへの追撃はせず、ピエールはわたしへ一気に駆け寄ってきた。満月輪にストライクシュートを乗せて投げつけるも今度は弾かれてしまう。
「この加速、スキルか何か使ってるでしょ!」
「ご明察、ダッシュってスキルだ」
「そのまんま過ぎない!?」
「俺に言われても、なぁ!」
長柄の武器故に、一定の距離を保って繰り出される一撃を、辛うじて避け続ける。
身体を横にそらし、時には刃を飛び越えて、不意打ちの突きを全力のバックステップで避けたのに、ダッシュでさらに追撃された時は死ぬかと思った。いや、いくつか胸が大きかったら直撃してたのがあったな。ありがとうハーフリング。
今は辛うじてポールアックスの一撃を捌いているけれど、このままでは遠からず直撃するだろう。それは仕方ない。ネタ構成のプレイヤーが、がっつり戦闘系のプレイヤーを相手取るために作られた統率NPC、言わば人型ボスみたいなやつに勝てるわけがないのだから。
しかし、しかしだ、この戦いは配信されている。
ここで何もせず、一方的に弄られて負ける姿を晒すだなんて許せるだろうか? ガチ勢にはガチ勢の意地があるように、ネタ勢にだって相応の意地、いや、違う、楽しみ方ってものがある。
勝つとか、負けるとかはそこまで重要じゃない。
だけど、見せ場のひとつもなくこの戦いが終わるのは、どうにも我慢ならない!
「そろそろ足留めの効果が切れる頃合か。ここらで終いだな。連続攻撃!」
「だから名前まんますぎだっての!!」
そして名前の通り、先ほどまでとは明らかに速度も、繋がり方も違う攻撃が繰り出される。
それをただひたすらに、その場その場で考えうる限りの回避行動で避ける、避ける、避ける。
そうして親分の連続攻撃、その最後の一振りを背面飛びでまた避ける。曲芸スキルがあるのでこれくらいはお茶の子さいさいだ。本当はこんな隙の大きい避け方はしたくないけれど、そうしないと避けられないよう、しっかりと誘導されてしまっていた。
「おらぁっ! 強打撃!!」
だから、無慈悲にも追撃のポールアックスがわたしへと迫る。
胴体を真横から捕らえた直撃コース。先ほどよりも明らかに腰の乗った、本命の一撃。
着地直後のわたしでは、いくらこれがゲームだと言っても、いや、ゲームだからこそ発生する硬直でそれを避けることはできない。
「まだ、まだぁっ!」
「「「「な!?」」」」
「さすがマスター、完璧です」
普通に回避するのは不可能だと判断したわたしは、一瞬で両膝を地面へつけると、そのまま両手を前にだし、額を地面に触れるほど下げた。ひざまずき、平伏するこの姿を、世間ではこう呼ぶ。
《ラクリマはピエールに土下座した》
持っててよかった土下座モーション!
これは特定の動作を完璧に行えるだけで、ステータス補正などは一切無い文字通りのモーションだ。
だがしかし、完璧に行えるのだ。どんな状態であろうとも!
さらにしゃがむ時の勢いを一切失わせず水面蹴りへ移行! 大技を打つためにしっかり腰を据えていたピエールは避けることもできず足を払われ、一瞬だけ宙に浮く。もちろんここから追撃を仕掛けるようなスキルなんて持っていないし、生前はそこらにいる一般JCだったわたしに格闘技経験などないのでプレイヤースキルで補えるはずもない。
だけどわたしはひとりじゃない。
「クルーア!」
「はいっ!!」
ピエールの言葉通り足留めが解除されたクルーアがこちらへと駆け出していた。
左足を曲げ、両手を地面へとつき、胴体を空中で前方へと回転させながら後ろ足で相手を打ち据える。
通常では隙が大きすぎて、現実では本当の猛者でもないと扱えない蹴り技。
胴廻し回転蹴り。
空手経験者に怒られるのを覚悟で分かりやすく言えば、空中で横に回転しながら繰り出すかかと落としみたいな技だ。
当てる部位はかかとでは無くすねの外側などの側面だけど。
華奢な少女が訓練も無しにできるはずのないその技を、しかしこの世界がゲームであるが故に、彼女がキックのスキルを持っているが故に、空中に浮かび隙を晒すピエールの側頭部へと炸裂する。
「ぐおっ」
もちろん空手の技そのままに、なんて出来てはいない。クルーアのペットとしてのレベルはまだ2でしかなく、キックのスキルレベルもたったの5でしかない。
しかしそのど派手な技によってピエールの落下速度は加速する。それを何もせず見ているだけのわたしじゃない。たしかに追撃をするようなスキルも、技術も持ち合わせていないけど、武器を装備して待つくらい、わたしにだってできるのだから。
ピエールの落下地点では、左右の手に満月輪をひとつずつ装備したわたしが待っていた。
「ガアァァァアアアッ!?」
ここに土下座⇒水面蹴り⇒胴廻し回転蹴り⇒満月輪×2への落下という即席コンボが完成した。
《クルーアのレベルが3に上昇しました》
《クルーアのレベルが4に上昇しました》
《クルーアのレベルが5に上昇しました》
《クルーアのキックが15まで上昇しました》
《以降10上昇ごとに通知します》
「舐めるなぁっ!!」
盛大にダメージエフェクトを撒き散らしたピエールは、しかし即座に起き上がりポールアックスを振りかぶる。ボスキャラにネタキャラのコンボが当たっても大したダメージじゃないのは分かっていたことだ。
でも、この至近距離はポールアックスの距離じゃない。
わたしのチャクラムを舐めるなよ、満月輪の名は伊達じゃない。
この巨大な刃は、投げなくたって使えるんだから。
「叩き斬る!」
そしてわたしの、渾身の通常攻撃は、たしかにポールアックスよりも先に届いた。
ダメージは0だった。
《刀剣スキルが10上昇しました》
わたしはここで、はじめて刀剣スキルを取得した。刃物で戦うためのパッシブスキルだ。
投擲せず切りかかった攻撃に対して補正が掛かるのは、投擲ではなくこちらになる。名前の通りに。
先ほどまで刀剣スキルもなく、クルーアのキックと落下ダメージによるダメージ補正もなしでは、ハルマゲドンエイジ5大陣営のひとつ、クサントン盗賊団の親分を傷つけられるはずがなかった。
これがまともに戦ってこなかったツケってやつかな。
「ははは、まぁ、そうだよね」
「残念だったな嬢ちゃん、技術は大したもんだが、地力不足だ」
ポールアックスがわたしに向かって振るわれる。
その時だった。
ピコーン。
と、間の抜けた音がしたのは。
<ハルマゲドンエイジでプレイ中の皆様へメンテ明けのお知らせです>
<ハルマゲドンエイジにて毎週末に発生するワールドクエストが確定しました>
<クエスト名【ワールドクエスト:狂戦士ベルセルク】>
<以降フィールド上にベルセルクがランダムで>
<………………>
<【ワールドクエスト:狂戦士ベルセルク】が【ワールドクエスト:喰らいし者メドヴェーチ】へと変更されました>
<以降フィールド上にメドヴェーチがランダムでポップします>
<一定ダメージで撃退でき、所属陣営への貢献度が上昇します。討伐できるのは週末のワールドクエストのみですのでご注意ください>
<詳しくは所属陣営の統率NPCからお聞きください>
<それでは、引き続きパラダイムエイジVRをお楽しみください>
その通知が終わった直後。
「グルアァァァァアアアァァッ!!!!!」
森の木々をなぎ払い、無残な姿へと変えながら。
巨大な熊が姿を現した。
誤字報告機能が追加されましたね、活動報告でも書きましたが本当にありがたいです。
職場で通知をみてこっそりワンタッチしたら直せるのですよ、神機能(仕事しろ)。
ページの一番下(本気で一番下)にございますので、よろしければ是非ご活用お願い致します。




