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031 貢献度が足りない? よろしい、ならば戦争だ

追記:クラフォビのレビューを戴きました! 活動報告で紹介させていただいたのでよろしければ是非。

……紹介いただいてレビューの紹介(謎)?

 ユースレスカンパニーの外壁をすり抜けて、開発室にちらばるゲームの内容に関わるものを見ないように気をつけつつ、いつものVRデバイスのある部屋へ。

 ……なんか観察してる人がいなくなってると思ったら、わたしが勝手に借りてるVRデバイスの周りだけ監視カメラがメッチャ増えてるんですけど、完全に外部からのハッキングじゃなくて内部犯だと思われてますねこれは。


 なんかもう、運営もわたしが使うのを観察するの楽しんでそうだし、細かいことは気にせずにPEVRへのログインを果たす


「あ、お帰りなさいマスター」

「ん、ただいまー」


 すでに死んでいて、親がいまどこでどうなっているかもわからなくて、自分のお墓の場所さえ知らないわたしにとって、PEVRが唯一の居場所だ。だからクルーアからのおかえりという一言が少し嬉しい。

 彼女はゲームに組み込まれたAIだけど、わたしにとってはもう家族みたいなものだった。


 さて、メンテ中なにをしていたかと言えば、まずは掲示板でクルーアの育成相談。それを終えてからは暇すぎたので色々とネットを見て回っていたところ、非常に怪しい掲示板を見つけた。名前は伏せてあるけれど、特定プレイヤーへの文句を書き込むアンチスレ。まぁ、それだけなら正直よくある掲示板だ。目立つというのはそれだけの妬み嫉みも買うものから。

 ただ途中から雲行きが怪しくなり、あとは外部のほうで、となればまぁ探すよね、その外部掲示板。


 実のところ、その外部掲示板はあっさり見つかったし、パスワードも簡単に解けた。

 いや、ハッキングとかしたわけじゃなくて、適当に打ったうちのひとつがヒットしたんだよ。だって『くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」』だったから。最近の子はあれか、スマホに慣れてるからキーボードのネタなら通じないとでも思ったのか? ふふふ、残念でした、わたしは最近の子じゃ……子じゃ……。


 わたしラクリマ、永遠の17歳。享年とか死後何年とかは知りません。


 心配になってその特定のプレイヤーこと†ブレイバー†の様子を見に行ったんだけど特に何事もなく妹ちゃんと仲良くやっているようで安心した。


 リアル住所の特定はそんなに大変じゃなかった。というかむしろ楽勝だった。VR端末からログアウトする時に、†ブレイバー†の端末を指定したらあいつの端末からログアウトできた、というか。どういう仕組みかはよくわからないけど、できたものはできたのだ。ちなみにPEVRのフレンドリストにいない人の端末は選べなかった。そのうちメシマジーナのとこも遊びに行こうかな。


 別にそういう機能がPEVRにあるわけじゃない。指定というのも感覚的なもので、目で見て、指で選んでやったわけじゃないからね。

 こういうのマナー違反だってわかってるけど、他の人に言いふらすわけじゃなし、別にいいよね。というかこちとら透明状態で壁をすり抜け、好き放題できる幽霊である。プライバシー? なにそれ美味しいの?


 文句あるなら幽霊用の法律もってこんかーいってな物だ。


 ただし、わたしにだって最後のラインはあります!

 お風呂とトイレ、着替えは覗かない!(キリッ

 というか別に見たく無い。


「なにドヤ顔してるんですかマスター」

「かっこよかった?」

「いえ、う……可愛かったですよ」

「うざいって言おうとしたな!?」

「騒がしいのうお主ら」


 わたしたちは現在、メンテが明けて速攻でログインし、クローロンの民の統率NPC、ナートゥーラに会いに来ていた。

 掲示板で色々相談に乗ってもらったことだし、クルーアを育成するためにもここの施設の説明が欲しい。


「ふむ、育成施設じゃが、大まかに三つに分かれておる」


 まずプレイヤーがペットに付きっ切りで使用する施設。

 トレーニング器具やスパーリング用のMobが用意されていて、通常のレベル上げに近い形で鍛えられる施設だ。


 次にペットを預けて育成してもらう施設。

 教官というか、調教師というか、そんな感じのNPCが複数いて、預けておくと時間の経過に応じて経験値を得られる。ただし育つのはレベルと、預けたペットが習得済みのスキルの中で預けたNPCが対応しているスキルのみ。スキルの新規取得はできない。


 最後が新規スキル取得用の施設。

 ただしこれで取得できるのはすでに周知されているスキルだけで、隠しスキルの類いは覚えられない。例外として主であるプレイヤーが取得している隠しスキルは取得可能らしい。


「ちなみに利用には貢献度が必要じゃ」

「マジか」

「マジじゃな」


 わたし、現時点で貢献度0なんだよね。

 ほら、陣営に所属する前に戦闘してたからさ。あのクサントンの人たちまた来てくれないかな。


「貢献度稼ぎかぁ、面倒だなぁ」

「ちなみに貢献度は専用装備やアバター、アイテムとも交換できるぞ」

「それは魅力的」


 人型ペットはプレイヤーと同じ装備やアバターがつけられるから、バリエーションが豊富なんだよね。わたしのようなタイプのプレイヤーはそういったコレクション要素が大好きなのだ。

 ただ、これって他の陣営にも固有のアバターとかありそうだよね。ちょっと気になるなぁ。


「おおそうじゃ、お主は騎乗スキルをもっておったな。これを持っていくが良い」

「わ、ありがとう!」


《騎獣の鞍を手に入れました》


【騎獣の鞍】

種別:ペット用アクセサリー

材質:皮

必要筋力:0

防御力:5

備考:

『騎乗スキルの対象となる一部ペット専用のアクセサリー

 騎乗時の安定性が上昇する』


 そういって手渡されたのは馬などの背につける鞍だった。

 騎乗用のペットに装備させるアクセサリーらしいから、カルターンにでもあげよう。


「それで、クルーアは結局どうしたいの?」

「いえ、それをペットに聞いてどうするんですか」

「まぁまぁ、いいからいいから」


 普通のゲームならいざ知らず、AI搭載のゲームならその意向を確認するのはおかしい話じゃない。いまほどのAIがない時代にだって、NPCの意向に沿った行動をとると好感度や能力が上がりやすいゲームは結構あった。


「強いて言うなら、全部気にはなりましたけど」

「え、メガネつけてホクロ増やして首輪と手錠と鎖で拘束して巫女メイド服着て牧場娘やりつつ巨大ウェポンでガンガタしたいの? さすがにそれはちょっとどうかと」

「誰もそこまで言ってないですよね!?」

「ごめん、マシンガンとキャタピラも搭載したいんだっけ。あ、ガトリングだっけ?」

「違います!」

「あたっ」


 頭を叩かれた。

 幸いダメージはないけれど、プレイヤーをどつくペットとは新しい。


「あ! そうか、ハリセン!」

「何言ってるんですかマスター」

「ハリセンなら貢献度10ptで交換できるぞ?」


 巫女さんがハリセンを貢献度pt交換カタログと書かれた本から実体化させる。

 見事なハリセンだった。持ち手のあたりは赤い布テープかなにかで固定され、掴みやすくなっている。


「何やってるんですかナートゥーラさん!?」

「わかった、稼いでくる!」

「マスター!?」


 最強武器とか無双系スキルには大して興味が無いが、見た目に変化のあるアイテムには非常に心惹かれる。ほしい、ネタ装備めっちゃほしい。

 とはいえ、だ。さすがにソロでは厳しいし、残念ながら†ブレイバー†はまだログインして来ていない。一応他のプレイヤーさんもちらほら見えるけれど、交流がある人はいないし、野良PTは積極的に組もうとは思っていないので放置。


 いや、野良が嫌いってわけじゃないけど、クエストで強制とかじゃないなら面倒ってだけ。


 巫女さんの家から外へ出て、待たせていたカルターンを呼ぶ。


「ギシャ」

「はい、新しい装備だよー」

「ギシャー!」


《カルターンに騎獣の鞍を装備しました》

《カルターンの忠誠値が10上昇しました》


 カルターンの背中に鞍が装備される。ちゃんと膝当や足を乗せる(あぶみ)もついており、頭には頭絡やはみも完備。そこから手綱も垂れている。鞍という名前だけど、一般に想像する乗馬用の装備一式だと考えてもらえばわかりやすいだろうか。

 ただ鞍そのものは少し大きめで、二人乗りにも対応しているようだ。今後もクルーアと一緒に乗りたかったから地味にありがたい。


 追いついてきたクルーアとカルターンを連れて拠点を抜け、森の中へ。

 もしかしたら待ち伏せとかいるかな、と思ったけど、そういうのは居なかった。

 敵対陣営のマナーがいいのか、たまたまなのか分からない。


 安全を確認したところでカルターンへ騎乗。クルーアも引っ張りあげて二人乗りで森を進む。

 うん、騎獣の鞍の効果か、今までよりかなり安定している。ほとんど揺れないし、手綱のおかげ方向の指示も出しやすい。


 わたしの戦闘スタイルは曲芸による三次元戦闘なので、それができなくなる騎乗って本当はしないほうがいいのかもしれないけど、結構楽しい。大型動物に乗るのは男のロマンだよ。女だけど。


 ちなみにステータスで確認したカルターンの忠誠値は現在40ほど。0からスタートだった事を考えたらこの短期間で大分上がったけど、100には程遠い。早く100にして名前をつけて、死亡時消滅(デッドロスト)の危険を無くしたいところだ。


 そういう意味ではこうして連れ歩くのは危険だけど、忠誠度は一緒に行動した時間や、与えた餌、その他諸々の要素で上下するので、100未満で放置すると下がる。


「実際のところ、マスターはわたしに何をしてほしいんですか?」


 わたしの後ろに並んで乗っているクルーアから、さっきの相談の続きを振られた。

 本当はクルーアを前にして、わたしが抱えるように乗りたかったんだけど、身長差で前が見えなくなるので諦めた。


 クルーアが大きいのではない、わたしが小さいのだ。だってハーフリングだもん。


「え? さっき言ったの全部やればいいじゃん」

「マスター……」

「いや、冗談とか悪ふざけじゃなくてさ。せっかくPEVRでスキル上限が撤廃されたのに、わざわざ絞る必要なくない?」

「でもそれでは、中途半端になってしまいますし」

「ダメなの?」


 わたしは所謂ガチ勢じゃない。そもそも前作でもやりたい事をやるためにスキルをとっていたので、効率は悪いし、ネタスキルもいっぱいあったし、戦闘系ビルドのプレイヤーからしたら舐めてるのかこいつ、というプレイヤーだった。


 でもわたしは、楽しむためにこのゲームをプレイしていたし、いまもしている。

 幽霊なら、未練があるなら、それを果たすために動くべきだろう。だからわたしは、たとえ攻略に不利でも、中途半端でも、やりたい事は全部やる。面倒なことは、まぁその都度考える。


「でも、マスターは攻略したいんですよね? それで大丈夫なんですか?」

「あのねクルーア。何度も言わないから、これだけは覚えておいて? 楽しまないでクリアしたら、それは遊戯じゃなくて作業になっちゃうんだよ。わたしは、この世界(ゲーム)で遊びたい、それだけなの」


 ガチ勢や、攻略勢が遊んでいないなんて言うつもりはない。

 彼らにとって、効率を極めたり、最強の装備、スキルを集め無双するのが楽しいからだ。だから彼らにわたしのようなプレイスタイルを強制したら、それこそ遊びじゃなく、作業になってしまうだろう。


 結局、プレイスタイルは人それぞれなのだから、やりたいようにやるのが一番だ。

 わたしはクルーアにも、自分のプレイスタイルを貫いて欲しい。やりたい事をやってほしい。プレイヤーからペットに、NPCに好きにしろなんていうのは、我が侭なのかもしれないけどね。


「そうですか。わかりました」

「ならよかった」

「でも、優先順位は決めないといけませんよね。どれからにしましょうか」

「そうだねぇ。まず人体改造系は後回しだよね」

「メカニカルエイジはまだ行ったことが無いですからね。いつか行けたらカルターンにジェットエンジンでも装備させましょうか」

「ギシャ!?!?」


 猛獣使いとかサーカス系は仲間が増えてからの方がいいだろう。

 生産系、これは先を見据えてじわじわ育ててもいいかもしれない。

 ただ、現在いるのはハルマゲドンエイジ。多人数PVP専用マップだ。わたしが戦闘力に乏しい分、直接戦闘スキルを育ててもらったほうがいいかもしれない。


「戦闘系であったのは、巨大武器、鞭、銃撃系でしたね」

「他にも包丁とかネタ系があった気はするけど、大雑把にはそうだね」


 掲示板の内容は一応スクショしてあるけど、相談したのであって決めてもらったわけじゃないから、あまり固執してもいけない。これはあくまでわたしたちのプレイだから、下手に固執して、失敗した時にあいつらのせいだ、なんて最低の事は言いたく無いしね。


「巨大武器、鞭、銃……魔法もありますし、難しいですね。プレイヤーさんはいつもこんなに悩んで決めているんですか?」

「んにゃ、わりと適当だと思う」

「ええ?」

「だってみんな、好きなものって大体ゲームする前から決まってるからさ。クルーアはまだ、好きなものが何か探してる最中なんだよ」

「なるほど」


 そもそもゲーム開始と同時に生成されたAIだっていう話だから、まだまだ子供だもんね。赤ちゃんとまで言う気はないけど、いきなりすぱっと決めろというのも酷な話だ。


「あとよくあるのは、最初に手に入れた武器を極めるっていう人かな」

「ああ、そういう決め方もあるんですね。という事は購入ではなく、エネミーからのドロップでしょうか?」

「そうそう。というわけでクルーア、さっそくドロップ狙って行こうか」

「そうですね、どのエネミーにしますか?」

「プレイヤー」

「え?」


 えってクルーアさん、ここはハルマゲドンエイジですよ。PvP専用エリアですよ。下手なエネミーなんかより、プレイヤーの方が良い武器もってそうじゃないですか。

 それにほら、結局メンテ前の戦闘ではプレイヤーが巫女さんの蛇に丸呑みにされたから、ドロップ確認できなかったから。


「盗賊ってさ、お宝しこたま溜め込んでそうだよね!」


 人狩り行こうぜ!!

やりたい事やる全部やる系プレイヤーとはわたしのことだ。

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