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030 †ブレイバー†はお兄ちゃん

いつもより短めですが、大事な回なので分けました。

 賃貸ではなく買いきりの、そこそこお高いマンションの、そこそこ高い階の一室の、3LDK。

 それが†ブレイバー†の住居だった。


 そこで彼はいつも孤独にゲームへとログインし、孤独にログアウトして。


「ん?」

「お兄ちゃんおはよう、ごはん出来てるよー」

「あぁ、あんがとな智恵」


 訂正しよう。少なくとも、ログアウトした直後は孤独ではないらしい。


「今日はデミグラスハンバーグです!」

「おお、すげぇ、旨そう」


 ブレイバーはいつも食事を妹の智恵ちゃん(11)に世話されているらしく、何の躊躇いもなく熱々のハンバーグを口に運ぶ。

 それでいいのかプロゲーマー(26)。


「お兄ちゃんまた掲示板で弄られてたよ?」

「またんなもん見てからに。あれは弄りじゃなくて荒らしっていうんだよ」

「えー? 勇太がまた勇者ロールで優勝してたー、は弄りだよー」

「いや、優しく見積もっても煽りだろ。書き込んで無いだろうな」

「ないよ。約束通り16歳まではROMります!」


 そんな智恵ちゃんに「よーし偉いぞー」なんて言いながら頭を撫でくりまわすブレイバー。

 智恵ちゃんも「やめてよー」と言いつつ満更でもなさそうだ。

 女の子は好きでもない男に、なんなら恋人や同性であっても髪を触られるのを嫌うので、兄妹仲は良好らしい。


「つーか勇太呼びはほんとになんとかならんかねぇ」

「あのプレイヤーネームじゃ仕方ないって言ってたのお兄ちゃんだよ?」

「そうなんだけど、下手な罵倒より対応に困る」

「諦めなよ、雄太お兄ちゃん」


 なんとブレイバーの本名は雄太であった。勇太ではない。

 そんなわけでブレイバーは勇太呼びを事のほか嫌っている。罵倒だからではない、本名と同じ発音だからだ。


 しかしプレイヤーネームを決めているのはスポンサーでもなければ彼のアンチでもなく、本人なのだから自業自得である。†ブレイバー†なんてプレイヤーネームで勇太というあだ名が付かなければそれこそ嘘だろう。


 高峰雄太(たかみね ゆうた)高峰智恵(たかみね ちえ)。それがふたりの名前であり、世界でたったふたりの兄妹である証だ。


 雄太が十九歳、智恵が四歳の時にふたりの両親が他界した。


 たまには夫婦水入らずの旅行でもということで、結婚記念日に年の離れた妹をすでに独り暮らしで大学に通っていた兄へ預けて行き、旅行の帰り道で乗っていたバスが崖へ転落したらしい。


 しばらくの間は落ちこむなんて言葉では表せないほどに沈んでいた雄太だが、身を寄せられる親戚も居なかったため、妹を飢えさせないためにバイトを始めた。


 そんな雄太へと、状況を理解してか、出来ずにか、智恵ちゃんが聞いたそうだ。


「おにいちゃん、もうあそばないの?」

「んー、あぁ、まぁ、その内な」


 ゲームは好きだった、けれど金にはならない。毎日のように続けていたゲームを、雄太はもう何ヵ月も触っていなかったらしい。


「でも、おにいちゃんがゆうしゃなんでしょ?」


 そう問う智恵ちゃんの目は、あるCMに釘付けだった。

  スマッシュブレイバーズという、あらゆるファンタジーゲームの勇者と魔王が戦いを繰り広げるアクションゲーム。人気シリーズであるその作品では初となるVR化と、賞金付きの大会の告知だった。


 妹を少しでも元気づけられたらと思って参加した大会で雄太は、いや、ブレイバーは優勝した。

 ゲームの名を冠した、本人にとってはいつも通りのプレイヤーネームには何様だお前との批判もあったが、それも勝ち抜くごとに下火となり、最後にはほとんど消えていた。


 残ったのは妹の笑顔と、一年かけて普通に働いても稼げるかどうかといった高額の賞金。


 以来ブレイバーは戦い続けている。

 苦手意識のあったゲームジャンルにも手を伸ばし、いつの間にかスポンサーも付きながら。


 それが智恵ちゃんから見た、ブレイバーというプレイヤーのリアルらしい。


「お兄ちゃん最近楽しそうだね」

「こないだの大会で稼げたからなぁ」

「うーん? 別のゲームにお熱だからじゃなくて?」


 それにブレイバーの表情が変わる。

 のほほんとしたものから、宿題をサボっている事を親に指摘された子供のような表情へと。


「いや違うんですよ智恵さん、ちゃんとやってるんですよ?」

「何が?」

「や、もうすぐあるBLVRの大会に向けた練習はちゃんとやってるんですよ、ほんとに。さっきプレイしてたのもそっちだし」


 BLVRとはバトルラインというFPSのVR版らしい。間違ってもボーイがラブしてどうのなゲームではない。ついでに智恵ちゃんは腐っていない。


「あはは、そんな事で怒ってるわけじゃないよ。ただ嬉しいなーって」

「う、嬉しい?」

「最近お兄ちゃん、ゲームのお話する時は眉間にシワ寄せてたから。梅干しみたいに」


 ブレイバーは普段の言動がどうであれプロゲーマーだ。かつて遊び人と同列に扱われていたそれは、今となっては一流スポーツ選手並に、というのは言いすぎか。一流の、さらに一部のスポーツ選手は何億と稼ぐからね、米ドルで。

 それでも昨今のプロゲーマーは一流ならば大企業の中間管理職並には稼げるようになった。


 しかしそれも勝ち続け、スポンサーが付き続ければの話だ。妹の生活を守らねばならないお兄ちゃんが真剣になるのも無理はなかった。

 なら普通に働けばと思うかもしれないが、智恵ちゃんが将来どんな仕事をしたいと思うか分からない。進学のための学費などで苦労させたくないお兄ちゃんとしては、プロゲーマーとしての稼ぎが大事なのだ。

 

 学費というのは、自分で稼ぐとなるとべらぼうに高い。


 そんなブレイバーが最近、賞金の出ないゲームを新しく始めた。

 VRゲームは安全のためプレイヤーの活動を外部からモニターで確認することができるのだが、智恵ちゃんが見たブレイバーは、それはもう楽しそうにそのゲームをプレイしていた。智恵ちゃんの、幼少期の記憶におぼろげながらも残る、プロゲーマーになる以前のように。


 それが嬉しかった。


「仲良しも増えたみたいでわたしは嬉しいよ」

「母さんみたいなこと言い出したな」

「お世話してますから」

「否定はしない」


 ブレイバーの料理は人並らしいが、ゲームの合間にお手軽料理が基本らしい。

 そして廃人ゲーマーのご多分に漏れず引きこもり気味だ。そんな彼が適当に美味しく量のある料理なんて作ろうものなら肥満一直線。

  高峰家の健康は智恵ちゃんによって守られていた。


「でもさすがに家に直接来るのはどうかと思います」

「……なに? 誰か来たのか?」

「うん。ブレイバーの友達だって人が」

「どんな奴だった。名前は? 家に上げてないよな?」


 ブレイバーは人気のあるゲーマーだ。それもスポンサーがつくほどの実力派。しかしその分アンチもいるし、大会で負かした相手からは恨みも買っている。


 その自称お友達が安全な相手とは限らなかった。


「玄関のモニター越しだったから大丈夫」

「そうか。言っておくが、俺はゲーム内で住所なんて教えないし、リアルの友達はいないからな」

「お兄ちゃん……」


 ブレイバーはボッチだった。

 プロゲーマーとしてのチームメイトはいるらしいが、仕事仲間を友達と呼ぶかは怪しい所だ。


「わたしより年上の女の子だったよ、綺麗な長い黒髪の。白いセーラー服の」

「ますますありえん。俺に女の子の知り合いなんていない。智恵や、ゲーム内のフレンドなら別だけど」


 ブレイバーは年齢イコールな人らしい。ここは笑うところではない。智恵ちゃんのために必死に頑張ってきた結果だ。

 境遇が境遇なのでシスコンと呼ぶのも可哀想だろう。


 仮にそれが事実だったとしても。


「他に特徴は? もっかい聞くけど名乗ってたか?」

「うーん。結構お話したけど、名前は教えてくれなかった。あ、でも特徴といえば」


 智恵ちゃんは深呼吸をしてからハッキリと 告げた。


「胸はぺったんこだった!」

「ぶふぉっ!?」


 ブレイバーが飲んでいた味噌汁を吹き出した。

 智恵ちゃんは何故かガッツポーズをしている。


 何故かは分からない。分からないが、機会があったら一度智恵ちゃんを小突こう。PEVRにログインしてくれないかな。

 無理か、全体感型VRはゲームに限らず身体への影響を考慮して12歳になるまでは法律で禁止されてるって智恵ちゃんが言ってたし。病気の治療目的など例外はあるそうだけど、智恵ちゃんは至って健康そうだ。


 ブレイバーのゲーム中は余程暇だったのか、玄関のモニター越しにやたら楽しそうに兄自慢をしてくれた智恵ちゃんの笑顔を振り返りながら、わたしはユースレスカンパニーへと戻るのだった。


 壁をすり抜ける直前、智恵ちゃんがわたしに向かって手を振った気がした。

はい、ということで実はラクリマ視点でした。

途中で気がついていた方もいると思います。どうやってここへ着たかはいずれちゃんと書きますのでお待ちください。


ちなみにスマッシュブレイバーズでの†ブレイバー†の持ちキャラは魔法が使えない王子さまです。

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