028 勇者よ、お前もか
企画へのたくさんのご参加、本当にありがとうございました。
昨日の時点で締め切りとさせていただきます。今回参加しそこねたーという方も、いずれまた何かやれたらと思うのでご安心ください。
あと前回にも追記したんですが、ラクリマのデザインらふを活動報告にあげましたのでよろしければ是非。
ただこれだけは言わせて欲しい、ラクリマのアバター、和ゴスのピエロって三話で書いてありますからね!?
<クローロンの民がストレンジフォレスト深部を制圧しました>
「お、なんか出た」
「先ほどの戦闘でクサントン陣営を追い払ったことでクローロン陣営がこの一帯を制圧できたみたいですね」
「……ねぇ、制圧に貢献したら貢献度入るんじゃ」
「マスター、まだ無所属ですので」
くっ、なんだかものすごく損した気分だ。
かといってあの状況で呑気に陣営所属させてもらってから戦闘、なんて出来なかったしなぁ。わたし戦闘系のスキル構成してないし、奇襲以外じゃ 役に立たん。
「ふむ、どうやらこの一帯は制圧できたようじゃな。立ち話もなんじゃ、我らの本拠地へ案内しよう」
頭を抱えるわたしの横で、巫女さんが小さな種のようなものを放り投げる。
ゆっくりと落ちていくそれは、そのままぬるっと地面に吸い込まれ、次の瞬間無数の蔦がそこから噴出した。
蔦は周囲の木々より少し低い位置で無数に増殖し、絡まりあい、横に長いドームのような形状を構築していく。
超巨大な迷彩柄のテントとか、ああいうのが近いかな。普通と違うのはテントの上から草木をかけているんじゃなくて、植物そのものがそれを形作っているところ。
「おお、すごい」
あ、花まで咲いた。おぉ、テントのポール代わりか木まで生えてる。
本拠地って言ってたけど、入り口が見当たらない。まさかこの蔦を掻き分けて入るのかな? それともわたしの勘違いで、実は蛇さんみたいな大型Mobだったとか? いやでも名前でないしなぁ。
「こっちじゃ、付いて参れ」
巫女さんは巨大な白蛇を仕舞うと、お供の3人と一緒に大きな木のひとつ、その洞へと入っていった。木にあいてる穴というか、そんなやつ。
なるほど、ここが入り口なのか。
木の洞を抜けた先は、大きな町でした。
そう、わたしの目の前には明らかに蔓のドームの外観 よりも大きな町が広がっていた。
床は土で、建物は木造。至る所に木々や草花が生えていて、それは建物の屋根や壁も例外じゃない。
木の上にある家もあり、ファンタジーなエルフの住処っぽい印象を受ける。
「巫女さまだー」
「ナートゥーラさまだー!」
「お帰りなさいませナートゥーラさま」
「うむうむ、皆息災のようで何よりじゃ」
町中からわらわらと人があつまり、巫女さんへと話しかけていく。
小さい子供も結構いるけど、みんななにかしらのMobを引き連れていることから魔物使いや召喚術師だと予想できる。
え、わたし? わたしはまだ無職だよ。解せぬ。
「驚いたかの?」
「うん、驚いた」
外から見たより大きい町もそうだけど、小さな種から生えた建物の中にあるのに、人が普通にいるのが驚きだ。
さらにその中に子供が大勢いるのも驚きだ。
ここ、集団対人戦メインのエイジですよ? しかも敵に攻められかねない特定陣営の本拠地ですよ?
NPCとはいえ子供と殺しあえというのかここの運営は、性格が悪すぎる。
と思ったら、おや、子供の上にはキャラクター名だけしか出ていない。横の動物型Mobには強さも出てるんだけどな。ネズミ(よわい)とか、コウモリ(よわい)とか。
「ああ、こやつらは非戦闘民じゃよ。側付きの動物たちなら戦えるが、戦闘に巻き込まれるようなことはないから安心せよ」
「マスター、彼らにはHPなどが設定されていないようです。お付のMobが本体ですね。AIそのものは独立しているみたいですけど」
つまり戦えない、戦わないけど人格はちゃんとあるのか。一部のTRPGにあるエキストラシステムみたいなものかな。
なんにせよ子供を虐殺するようなひどいシステムではないらしい。疑って悪かったよ運営。
「こちらにわらわの家がある、そこで陣営所属の手続きをしよう」
「いますぐには無理なの?」
「うむ。各陣営の拠点でなければ無理じゃ」
「プレイヤーが簡単に所属を切り替えられると、負けそうになったとたん裏切る人が出てきますから」
「あー」
巫女さんとクルーアの説明に納得する、してしまう。
どんなゲームでもそうだけど、利益追求というか、ロールプレイなんて知ったことかと簡単に味方を裏切ったり、NPCを殺したりするプレイヤーはいるものだ。味方NPCを倒すと武器防具をドロップするゲームとかもあったしね。その後そのキャラは二度と出てこなくなるんだけど。
簡単に手続きができてしまったら、陣営に所属して統率NPCに接近。いきなり裏切って攻撃、とか出来てしまうわけで。
所属したい陣営の統率NPCの許可があるならいいじゃん、と思ったけど、それ大規模戦闘中に、両陣営の統率NPCが見える範囲にいたら裏切り寝返りし放題になっちゃうよね。
「ここじゃ、入るといい」
「あ、はい。……大きなテントだ」
「テントですね」
他の人の住居は普通の、というのもおかしいが家だった。精々植物が生えているくらいで。
対して巫女さんの家はサーカスでも開催しそうな巨大テントだった。さすがに東京ドーム何個分とかいう広さはなさそうだけど、巫女さんの蛇が入るくらいのサイズがある。
あ、さっきの白蛇さんが中に居る。
「あれ、ゆうた」
「ゆうた言うなし」
驚いたことに、中にはゆうたこと†ブレイバー†がいた。白蛇さんの頭を撫でて戯れている。
まさかこんなところで会うとは。ガチ勢、というかプロゲーマーだと言っていたし、人数が多く、有利に立ち回れる陣営に行くと思ってた。
「……そうか、捕虜に」
「なんでだよ!?」
「や、ぶれいばーなら行くとしても帝国か王国かなぁって思ってね」
「ブレイバーの発音が気になるが、まぁいいか。いや、俺もそうしようかと思ったんだけど、今はオフだからな。このゲームでまで効率重視しなくてもいいかと思ってさ」
まぁ、PEVRに賞金が出る大会とかないもんね。少なくとも今のところは。
プロゲーマーだからといって仕事としてのゲーム以外しちゃいけない、なんてことはないんだろう。オフというのはつまり、そういうことだ。
「でもなんでクローロンに」
たしかブレイバーはペットを連れていないし、探している様子も無かった。つまり前作では調教スキルを上げていなかったことになる。
だったら召喚かと思ったけど、どうみても近接戦闘系だよね。インシュピータ戦でも剣を振り回してたし。
アバターに防御力はないけれど、前作組のアバターは前作で実際に装備していたものから効果をとっぱらったものだ。つまり、前作ではその見た目相応のプレイスタイルだったはず。
PEVRでは戦い方を変えるつもりなんだろうか? あ、いや待てよ。
「そうか、こんなところにもロリコンがいたのね……」
「それはどこぞの掲示板のやつだろうが、俺は違うからな!?」
「……違う!? そうか、ばば専。見た目ではなく精神」
「尚更違うからなあ!?」
「おぬしら、ちとわらわに失礼すぎやせんか?」
おっと、巫女さんを放置してしまっていた。心なしかお供たちの顔も若干険しく、はなってないね。
陣営のトップを放置していたというのに、ちょっと心が大らか過ぎないだろうか。わたしとしては助かるけども。
ついでだし、名前くらい覚えておこうかな。
《クローロンの戦士(弱い)》
《クローロンの戦士(弱い)》
《クローロンの戦士(弱い)》
お、おう。全員名無しの上に弱い。本当に召喚獣、あるいは調教ペットのおまけみたいな存在だった。能力があるだけさっきの子供たちよりマシだけど。……むしろ死ぬ可能性があるだけ酷い?
「んでブレイバーはなんでここに?」
「いやほら、なんつーか、国につくよりも追い詰められてる少数民族についたほうが勇者っぽくね?」
「なんだ、ただの馬鹿か」
「マスター、言っていいことと悪いことがあります」
「そうだそうだ、言ってやれホムのお嬢さん」
「真実は時に人を傷つけます!」
その言葉が一番傷つけてると思う。
「あれ、結局馬鹿って言われてないか!? プレイヤーをdisるってどんなペットだよ!」
「落ち着きなよブレイバー、この娘、クルーアもPE運営製だよ?」
「……そう考えたら別におかしくないか。怒鳴って悪かった」
「運営への信頼が伺えるやりとりですね」
そりゃもう信頼してるよ。過去の運営は色々やらかしてくれたからね。
年末に橋で初日の出をみるというから集まったら、強制転移で落下死させられたのは序の口。
PCブレイカー事件にブラッディバレンタイン事件、会社ごと夜逃げした運営までいた。
ことゲームにおいて運営が法人であるかどうかはまったく参考にならないのだ。
よくあそこから立て直せたな。いまの運営は元プレイヤーということだから、全然違う人たちなんだろうけど、VRになる前も結構長いこと続いてたわけで。
クルーアたちに積まれているAIもそんなPEの系譜である。プレイヤーをdisるくらい普通にするだろう。むしろしてこないと張り合いが無い。
「あ、そのことなんですが、前作組と新規組とではラインが違いまして」
「「ライン?」」
「新規組にはこれ以上の暴言は禁止、というセーフティラインがあるのですが、前作組は放送禁止用語じゃなければ使っていいと」
「「なんで!?」」
「耐性があるからだいじょうぶい、と書いてありますね」
だいじょうぶいじゃないぞ運営。
誰だよそんなメモ残したのは、今度ログアウトしたとき枕元に立ってやる。
「しかし本当によいのか?」
「ん?」
わちゃわちゃしていたわたしたちに、巫女さんが割り込んできた。
ちなみに巫女さん、ロリ担当だけあって小さい。わたしと同じくらい、つまり130cm前後じゃなかろうか?
種族はなんなんだろう。
「先の戦いを見た限りでは、おぬし邪法も使っておったじゃろう。であれば、我々クローロンよりもポイニークーンに付いたほうが得なのではないか? 言っておくが、裏切りは許さぬぞ?」
陣営の変更ってそもそもできるのかな。さっきの話から想像すると、他の陣営の拠点までたどり着かないといけないみたいだし、敵対陣営に所属してそこまでいく実力があるのなら、素直に攻め落とせばいいのでは。
「陣営の変更は統率NPCを説得して本拠地で手続きを行うか課金アイテムです」
「え、課金アイテムありなの? いくら?」
「アイテム名は金色の菓子。価格は10万です」
「賄賂じゃん!? 袖の下じゃん!?」
「つーか高けぇな!? 課金アイテムはネタ要素か」
一応用意したけどゲーム内でちゃんとがんばれよってことか。
ありがたいね、課金とかできないからね。だって稼ぎが無いもん。
秋雨雫、享年14歳。現在無職の幽霊。
無料期間過ぎたらどうやって月額払おう。
……ええいその時はその時だ、先ずは目先のゲームに集中しよう!
「まぁ、心配しなくても裏切ったりしないよ。陣営の変更なんて面倒くさいし、それに」
「ああ、裏切りなんて勇者にあるまじき行為だしな。せっかくスキル上限の合計限界値が撤廃されたんだから、ペット持ってみるのも面白いだろう。それに」
「それに、なんじゃ?」
「「白髪褐色ロリBBA最高!!」」
「く、くはははは! あ、阿呆かおぬしら。くくく」
阿呆で結構、好きなキャラにつくのはオタクの性だ。
しかしロリBBAって言っても怒らないとは、さすがカリスマ系。ロリじゃないもん、とかBBAじゃないわい、とか言わないんだね。
「うん? 事実を否定しても仕方なかろう。その程度受け入れるだけで周囲のやる気が上がるのであれば安いものよ」
とのこと。
うん、かっこいいぞ巫女さん。いや、ナートゥーラさん。わたしこの陣営裏切れないわ。
「ではこの書類にサインをしてもらおう」
そういってわたしたちの前に表示されたウィンドウは、ハルマゲドンエイジの利用規約並びにクローロンの民の施設説明だった。
「本当に書類じゃん! って長っ!?」
「諦めろ、俺も読んだ。脳波測定されてるから読み飛ばすとサインできないぞ」
運営ええぇぇぇぇええ! 姑息な手をおおおぉぉ!!
結局そのながーい規約を全部読みました、はい。面倒くさかったです。
ただクローロンの民の拠点にはペット育成用の施設がたくさんあることがわかったので、それは助かりました。
いい加減、クルーアのことも育ててあげないとな。
カルターンもせっかくならこのまま育ててあげたいけど、忠誠値を100にしないと名前も付けられないらしい。その前に死ぬとそのままロストしちゃうからしばし待て。
「よし、それじゃあちょっと鍛えに行こうか」
「はい!」
「ギシャー!」
「それはいいけどお前ら、今日はこの後定期メンテだぞ?」
「「「え!?」」」
感想で運営についてちょっと頂いたのですが、現実のネトゲ運営がやらかした数々の軌跡を知っている身ですと、ここの運営は大分マシなほうなのですよ。
とはいえネトゲを過去も現在もやっていない読者さんも多いと思ったので少しだけ紹介を。
前日まで運営されてたゲームの運営が突然夜逃げして、会社のあった場所が入居募集中になっていた事件とか、アプデでプレイヤーのHDDを破壊した事件とか、非武装で集まったプレイヤーをGM主動で虐殺した事件とか。
僕らの住む世界でもあったんですよ。懐かしいなぁ(白目




