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027 ロリBBAは正義です、異論は認める

追記:10,000pt達成しました、ありがとうございます!

活動報告にラクリマの作者イラスト(らふですが)を置いてみましたので、Twitterのほうは見てないよという方で気になる方は是非ごらんください。

 背後からハチャメチャな音が聞こえる。

 戦闘音のはずだけど、爆音だとか怒声だとか、そんなチャチなSEじゃない。


 何のスキルを使っているのか、基本的な魔法系から「ぬちょ」だの「ねちゃ」だの瑞々しい音まで色々と聞こえてくる。うん、水辺だからね。

 振り返りたく無いからその正体不明は不明のまま、カルターンに乗って出来る限り遠ざかる。


「嫌~な音がするけど、復讐者さんのひゅどらたんでもいるのかな」

「マスターも触手生やしますよね?」

「わたしのは落下防止だからノーカン!」

「インシュピータを拘束してましたよね!?」


 あれは演出中に演出終了を妨害しただけだ。

 着地しないと演出が終わらないなら、落下防止すれば終わらないかなと思って。


 だから別に触手で拘束したわけじゃない。

 違うから。違うんだよ。信じて。


「これからどうしますか?」

「河童は基本的に水泳スキルを上げてる人たちだから水中、水辺では素早いけど、地上でカルターンに追いつけるほどじゃないはず」


 仮に追いつける人がいたとしても、集団から離れて追ってきたりはしないだろう。

 集団戦がメインのハルマゲドンエイジで孤立なんてしたら、サクっと狩られて終了だ。


 つまり、いまのわたしたちがとっても危険な状態なんだけど。


「まずはクローロンの民と合流して、無所属から陣営所属に変更したい。場所って分かる?」

「それが、クローロンの民は移動型の民族なので現在地は不明です。基本的に森の中にいるはずですが」

「ありゃ、まじかぁ」


 となるとこのまま森を彷徨うしかない。水辺だとまたぞろ河童がやってきかねないので、川幅が狭くなったところでカルターンに跳躍してもらい川を飛び越えると、森の奥深くへと潜っていく。

 幸いな事に、戦う気のない無所属プレイヤーを追っかける余裕は両陣営ともなかったようで、戦闘音の聞こえないところで落ち着くことが出来た。


 ていうかさ、アレ明らかに、前作組だったよね。

 そもそもの話としてハルマゲドンエイジが開放されたのはわたしたちがインシュピータを倒した直後だ。

 討伐後に一緒に参加したプレイヤーたちと会話をしたり、掲示板に情報を書き込んだりと色々やってはいたけれど、まだ24時間も経っていない。


 にも関わらず、すでにあれだけの統率がとれた集団が存在しているのがおかしい。

 全員NPCであるなら、Mobであり、プレイヤーの敵として設定されたエネミーだというならわかるけど、アレはほとんどプレイヤーだった。


「これは、もしかしたら出し抜かれたかな」

「出し抜かれた、ですか?」

「ギェ?」

「うん。たぶんだけど、クエストはほどほどに、仲間を増やしたり戦闘スキルだけ上げてたプレイヤーがいたんだよ。それもたくさん」

「何故そんなことを」


 何故って、それはもうPVPが大好きな連中だからだろう。

 集団PVPは前作の大きな看板だった。前作がリリースされたのはまだ集団戦が珍しい時期だったし、日本人のMMORPGプレイヤーにはPVPがそこまで人気じゃなかったりする。そういうのが好きな人はFPSとか格ゲーに行っちゃうからね。


 その分思いっきり集団で戦えるMMORPGは珍しかったし、MMORPGでPVPメインにしているプレイヤーというのは結構ガチめのプレイヤーが多かった。

 そういう人たちがPEVRでも集団PVPが解禁されると予想して、事前に準備していたんだろう。


 そして、あの全体アナウンスでハルマゲドンエイジの開放を知り、大挙して雪崩れ込んだ。


「そういう事だと思う」

「はぁ、知識としては知ってましたが、色々なプレイヤーがいるんですね」

「ますますエリュトロン帝国とキュアノエイデス王国には行きたく無いなぁ。あの二つは前作にもあった陣営だし、軍隊系っていうのは」

「事前に仲間を募るような、それこそ集団戦に重きを置くプレイヤーが集まりやすいですね」


 わたしはゲームの攻略を目指すといっても、基本はソロというか、好きな事をしていくスタイルを崩すつもりはない。

 仲良くなった人とPTを組むくらいなら喜んでするけど、強かったり知名度があるだけのプレイヤーの指示を聞くのはちょっともにょる。


 もちろん集団戦においてそういうポジションの人が重要かつ貴重だと知ってはいるけれど、ハルマゲドンエイジの開放と同時に集団スタートダッシュ決めるような連中とはハッキリ言って馬が合わないだろう。


 やっぱり予定通りクローロンの民かポイニークーン暗黒神殿に行こう。

 クローロンは動物と共存しているという特性上ハルマゲドンエイジのMobへと攻撃しにくい、というかしたらまずい。

 だから戦い大好きなプレイヤーには息苦しいだろう。


 ポイニークーンはアレだ。身内こそ最大の敵って感じだから何も気にしなくていい。

 同じ陣営を倒すと貢献度増えるとか、誰か見かけたらとりあえず倒せって陣営だもの。


 わたしが決意を新たにしていたところで、前方から声が聞こえる。

 攻撃系スキルのSEらしきものも響いてくるので、きっと戦いだろう。問題はどこの陣営によるものなのか。


「あれは?」

「……クローロンのNPCとクサントン陣営のプレイヤーですね。交戦中みたいです」

「それは、ラッキーと言っていいのか微妙な状況だね」


 盗賊団なんて選択するプレイヤーはガチガチの戦闘系だろう。偏見で語るならPK好きが多そうだ。対するクローロン側は狙っていた陣営だけど、遠目にはプレイヤーが見当たらない。NPCばっかりだ。


 わたしが加勢するのは構わないけれど、わたしは戦闘系スキルを然程上げていないから、対人戦では大した戦力にならない。

 このまま正面から戦うわけにもいかないので、ひとまず森の木の影に隠れて様子を見る。


「逃がすな! ここで巫女を倒せば貢献度がっつりだぞ!」


 まず目に入ったのはクサントン盗賊団陣営。

 5人ほどのプレイヤーと、NPCらしき盗賊が5人。さらにウルフ系らしきエネミーも5体。

 想像だけど、プレイヤーひとりにつき盗賊とウルフが指揮下に入るのかもしれない。



「お逃げください巫女様、ここは我らが食い止めます!」

「戯け、彼奴らめ、盗賊風情と侮っておったが中々にやりおる。お主らでは召喚する暇も稼げまい。阿呆なことを申してないで共に逃げるぞ!」


 

 クローロンの民はというと、アレが例の巫女さんかな。それとお供のNPCらしいのがいるけど、3人だけだ。

 クルーアに確認してみたところ、陣営をまとめている主要NPCを統率NPCといい、随分高度なAIを積んでいるらしい。統率NPCひとりにつきひとつ、独立した情報処理サーバーを用意して処理に当てているとのこと。豪華だなぁ。


 見た感じお供のNPCもそこそこ優秀なAIを積んでいそうだ。我が身を楯に巫女さんを逃がそうとするところがかっこいいし、巫女さんのほうも敵対プレイヤーの実力を認めつつ、それでもお供を捨て駒にしないのは評価できる。


 しかも見た目が白髪褐色ロリっ娘だ。衣装は巫女は巫女でも日本神道のではなくシャーマン系かな。ひらひらとした布が多いけど、肌の露出もそこそこにある。

 エキゾチックな魅力というのはこういう事を言うんだろう。なお胸部装甲は事前の情報どおり薄い、というか無い。なんだかシンパシーが沸いて来る。


「うん、決めた。クルーアはここで様子見してて。カルターンも置いていくから、ひとまずはクルーアの護衛をお願い」

「ギシャーッ」

「しっ、声が大きい」

「ギシャー」


 よしよし、いい子だ。

 若干落ち込み気味のカルターンを撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める。

 実際のトカゲは頭抑えると怒る子が多いけど、そこはネトゲのMobだからということで。


「マスター、ご武運を。でも、どうするんですか?」

「んふふ、ちょっとかく乱してくるよ」


 クルーアたちから少し離れると、敵の情報を確認する。

 さすがにプレイヤーはわからなかったけど、盗賊とウルフの名前はわかった。


《クサントン盗賊団員(普通)》

《クサントンウルフ(普通)》


 強いじゃないなら大丈夫かな。

 身を潜めていた草の茂みから投擲する。満月輪じゃなく、その辺の石ころだ。ストライクシュートも使わない。


 どっちもサイズやエフェクトで目立つからね。


「ギャウッ!?」

「なんだ!?」

「敵の増援か!?」


 クサントンウルフに命中!

 どっちの陣営も驚いているようだけど、それを観察すらせず即座に移動。木を蹴って登り枝の上へ。

 そこからさらに小石を投擲し、隣の木の枝へと空中ブランコのように飛び移ると、また小石を投擲。今度も同じクサントンウルフに命中だ。


「あそこで何か動いた!」

「エアスラッシャー!」


 残念ながら、そこにはもう居ないんだよね。

 少し離れた木へ飛んでいく風の魔法らしきスキルを尻目に、遠くの草むらへ小石を投げて揺らし、注意を引いた後はその場でじっと待つ。


「こっちか!?」


 そしてペットのメニューを開きカルターンへとプレイヤーへ攻撃するよう指示を飛ばす。

 この辺りはゲームだから離れていても細かく、それも声を出さずに指示を出せるのが素晴らしいね。


「どぅあ!?」

「カルターン!? くそ、クローロン側の手駒か!」


 プレイヤーの一人をカルターンが噛み噛みし、注意が完全にそれたところで木の上からダメージを与え続けていたクサントンウルフの側へと飛び降りる。


「やっほー」

「ガウッ!?」

「ビーストニーリング」


<クサントンウルフへビーストニーリングを使用しました>

<クサントンウルフのテイムに失敗しました>


「ありゃ?」

「ガオオオッ!!」

「うわっと!?」


 さすがにエネミーといえど陣営所属Mob、そう上手くはいかないか。

 このままテイムに成功して、サクリファイスハートで仕留められそうなら周りのウルフを全部それで倒そうと思ってたんだけど。


「誰だ!?」

「ピエロ? プレイヤーか!」

「や、どーもどーも」


 こちらに気がついたプレイヤーと盗賊団員、ついでに他のウルフたちも襲い掛かってくる。

 それをかわす、かわす、避ける。

 ウルフの牙を、爪を。プレイヤーの剣を、槍を、魔法を。


「ちぃっ、素早い!」

「あんな豪華な防具がこんな序盤でゲットできるはずがない、俺たちと同じ前作プレイヤーだ!」

「VRは多少のスキル差なら腕前でカバーできるのを忘れるな、各上だと思って全員で仕留めるぞ!」

「あはは♪ 油断してくれてもいいんだよ?」

「「「死ねぇっ!」」」


 普通なら、いくらゲームとわかっていても眼前に刃物を突き出されたら怖いだろう。大の男だって、ムキムキマッチョメンだって目を瞑るかもしれない。

 しかしわたしは幽霊である。すでに死んでいる。今更そんなもの怖くもなんとも無いんだよね!


 なんて格好つけたところでわたしはガチゲーマーでもプロゲーマーでもない。ゲーム要素としてのスキルも、プレイヤーの腕前的な意味でのスキルも並だから、時々直撃もするけれど、紙装甲のわたしでも一発くらいなら耐えられる。


 それがたった一発だとしても、耐えられるならどうという事はない!


「サモン・スカウトバット!」


 捕食回復用に組んだ一連のマクロを実行し、コウモリを召喚、終了と同じタイミングでサクリファイスハートを実行する。

 コスパのいいこのスキルは、HPの上限値が低いわたしならほんの少しの手間で全快にしてくれる。


「だからって、いつまでも逃げきれるわけじゃないんだよね」


 いくらなんでも多勢に無勢が過ぎる。

 クサントン陣営15名(NPC含む)VS無所属3名(うち1名は潜伏中)ではどうあがいたって勝てっこない。

 わたしとカルターンはついに、大きな木を背にするまで追い詰められた。むしろカルターンはよく耐えてたな、すごいぞ。


「トドメだ!」

「いやーそれはどうかな。みんな大事な事を忘れてない?」

「は? 何のことだ?」

「みんな、そもそも何と戦ってたんだっけ?」


 はっとしたプレイヤーもいるようだけど、もう遅い。

 突然の奇襲に驚き、それも相手がアバター着用の前作組だと気がついたことによる過剰な警戒。それで彼らはすっかり忘れてしまっていた。

 わたしを包囲して追い詰めた彼らの背後に、元々追い詰めていたクローロンの民がいるという事を。


「うむ。さすがのわらわも捨て置かれたようで少々寂しかったぞ?」

「しまっ!?」

「かかれ勇士たちよ、彼奴らをなぎ倒せ」


 クローロンの民は森の動物達と生きる民族だ。

 それはつまり、個人としては弱くとも、同胞たるMobさえ居れば、敵対陣営にとってそれは強力なエネミーとなる。

 わたしが稼いだ時間によって呼び出された動物たちが、クサントン盗賊団の背後から襲い掛かった。


 お供たちが呼び出したのは大きな鹿や猪、それに猛禽類らしき鳥などで、中々迫力があった。

 けれど、その中でも目を惹くのは巨大な蛇だ。

 神秘的な白い鱗に、赤い瞳。一般にアルビノと呼ばれるそれは自然界では弱者の証のはずだけど、大型トラックのタイヤを横から見たのと同じほどに太く、そしてどこまでも長い身体はその事をまったく感じさせない。


 緩やかに巻かれたとぐろの中心に居るのは、特徴的な民族衣装を身にまとう白髪褐色の幼女、に見えるロリBBA。目を凝らすことでその頭上に表示されるのは《クローロンの巫女:ナートゥーラ(互角)》。


 え、互角!? わたしと互角の統率NPCって弱すぎない!?

 と思って背後の蛇を見れば《アエテルヌム=サーペント(超強い)》と表示されいてた。あ、やっぱり付属Mobの方が強い系だ。むしろあの娘が付属品だ。


「でけええええ!?」

「ははは、統率NPCと戦うのは初めてだけど、規格外すぎるだろうこれは」

「どうする? 逃げるか?」

「馬鹿言え、強敵から一々逃げるならクサントンになんか所属するかよ」

「へ、わかるぜその気持ち」

「「「これでもくらえやああああああああ!!」」」


 おお、果敢にも突撃していった。


「「「ぎゃああああああああっ!?」」」


 そして一人残らず丸呑みにされた。

 うわぁ、VRで蛇に丸呑みって、えっぐい事するなぁ。あれって死体回収できないよね、強制スキルダウンかな。えげつない。


 ……あ、死体残ってないからドロップアイテム漁れないや。残念。


 クサントン付属の盗賊やウルフはプレイヤーが丸呑みにされても奮闘していたけど、お供の出した動物たちに蹴散らされていた。あっちはあっちで中々やるね。


「そこなハーフリングの娘よ」

「え? あ、はい!」


 ぼけーっと眺めていたら巫女さんに話しかけられた。

 ナートゥーラって長いし呼びにくいよね。


「助太刀には感謝しよう。じゃがおぬし、見たところまだどの陣営にも所属していないようじゃが」

「丁度貴女達を探してるところでしたから」

「ほう、それはつまり」

「漂流者ラクリマとその眷属クルーア。クローロンの民へ助力するべくやって参りました」


 名乗りを上げるわたしの横へ、木の影に隠れていたクルーアがやってくる。それに合わせてカルターンもギシャーっと鳴いた。

 はいはい、君のことも忘れてないから安心しなさい、新入りさん。だからわたしの頭をガジガジ噛むのはやめるんだ。


「くくく、それは頼もしい」


 ほら、笑われたじゃないか。


「わらわはクローロンの巫女、名をナートゥーラという。歓迎しようぞ、新たな同胞よ」


 そう告げるナートゥーラの笑顔は、なるほど、たしかにハルマゲドンの原因になるくらい可愛らしいものだった。

 グラフィック担当さん、GJ(ぐっじょぶ)

前回の感想数、54件、だと(ゴゴゴゴ

たくさんのご感想、ならびに企画へのご参加本当にありがとうございました。

実は数人くらいしか集まらなかったらどうしようかなって思っていたんですが、そんな心配は無用でした。すごいな、54って。


掲示板回は次の次予定なので、明日2018/11/14日の23:59まで受け付けようと思っています。

もし逃してしまったという方も、掲示板回が好評なようでしたらまた次の章とかでなにかしら企画するかもしれませんのでお気軽にご覧ください!

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