025 装備よし、スキルよし、風評アウト!
PEVRの技や魔法は全てスキルという括りで管理されている。
習得方法は三種類。
ひとつ、自分で見つけ出す。
ふたつ、関連する別スキルが規定のレベルに到達する。
みっつ、スキルスクロールを買う。
「というわけで大将、スクロールくださいな」
「いや、わたし女なんですが」
眼鏡に茶髪でショートカットという、製作者の好みばりばりであろうNPCさんがずり落ちた眼鏡の位置を整えている。
中指クイッっではなくちゃんとフレームを掴んでいるのはこだわりだろうか。中指で眼鏡の中心をくいっとするのも、あれはあれで格好良いと思うんだけどな。
「それで、本日はどのスクロールをお買い求めでしょうか?」
「コウモリくーださーいな」
わたしがやってきたのは最初の街アニムスの魔法使いギルド。
魔術師ギルドでも、魔導師ギルドでもなく、魔法使いギルドだ。ちなみにこのゲームに魔法使いという職業は存在しない。ではなぜこんな名前なのか? それは魔術だろうと魔導師だろうと、魔法系の職業が使うスキルは魔法と定義されているからだ。同じ魔法を使う職業なんだから個別のギルド作るよりまとめたほうが楽だよね、ということで魔法使いギルドにされている。
ちなみに回復系の魔法は神の奇跡扱いなので神殿、死霊術や邪法は暗黒教団というところで取り扱っている。
おい、ギルドでまとめろよややこしいだろ。
ちなみにプレイヤーが集まって作る組織はクランっていう集まりになるんだけど、PEVRではまだ実装されていない。いや、開放されていないが正しいかな。
わたしの読みでは何らかの条件、それこそ原初の竜インシュピータのようなワールドクエストを達成すると開放されるんじゃないかと睨んでいる。
「コウモリ、何番ですか?」
「そんな煙草の銘柄確認するときみたいな」
たしかにコウモリを召喚するスキル名は正確にはサモンスカウトバットなのでコウモリって名前のアイテムはないけど、コンビニの店員さんみたいな受け答えだなぁ。
ギルドNPCが表示してくれたスキル一覧を眺めながらそんな事を思う。
あ、わたしは買った事ないからね? 生前大変そうだなぁって眺めてただけで。だってわたしが死んだの14歳だからね。死後結構経ってるからもうそんな歳とも思わないけど、なんとなく精神が成熟してるとも思えないので17歳あたりにしておこう。永遠の17歳は大人が名乗っても許されるって聞いたし。
「……あれ? コウモリが売ってる」
「マスター、買いに来た本人が何故驚いているんですか」
「前作だと召喚って実質死霊術だったじゃん」
そう、何故か前作で召喚できる召喚獣はゾンビ系と骨系だらけだったのだ。あと空飛ぶ触手だらけの目玉とか。
他のスキルと組み合わせる複合スキルで少しだけ綺麗な見た目のが居たかなぁ、くらい。つまり名前詐欺だったので、ダメ元で買いに来たはいいものの、魔法使いギルドで本当に売っているとは思っていなかった。
代わりになるスキルでもあればなってくらいの気持ちだった。
いやだって、見つからなかったんだよ暗黒教団。多分開放されたネクロマンスエイジにあると思うんだけど、ネクロマンスエイジが統合されたエリアで仲間にしたペットはいなかったから急いで行く用事がない。そっち行ってる間にグリ吉と彦左衛門が倒されたらクルーアに恨まれそうだし。
「名前詐欺が酷すぎるということで召喚魔法と死霊術を個別に実装したそうですよ」
「あぁ、なるほど。死霊魔法ではないんだ」
「死霊術でネクロマンスって読むほうがポピュラーですから。その辺はまぁ柔軟に。ゲームですからね」
それ運営が言っちゃうんだ。
まぁ、いうかここの運営なら。
あと個人的好みでいうなら召喚も召喚魔法より召喚術のほうが好きだよ。
「じゃあお姉さん、サモンスカウトバットと、コールミートとコールドリンクもくださいな」
「お買い上げありがとうございます。ところで当ギルドに入会されますと特典として」
「あ、それはいいです」
ギルド所属になるとメリットと同時にデメリットも増えるんだよね。
敵対組織で買い物できなくなるとか。ごめん被る。
それから武器屋によって念願だった満月輪を追加購入。合計三つになった。
目的地のハルマゲドンエイジは丘を越えた先、大きな森と大きな湖があるエリアだ。各エイジは前作ではこのスタンダードエイジ全域と同じ広さがあったけど、比率で言えば今回はそこまでの広さはない。それでもマップ自体がかなり広くなっているのでちゃちくなっているってことは無いだろう。
PVPエリアだからエネミーはMobだけじゃなくプレイヤーも含まれる。それまでにもっと戦えるようになっておきたい。
ところなんだけど。
「うむむ、中々タイミングが難しいね」
「やっぱり満月輪連投は無理なんじゃないですか?」
以前考えていたジャグリングを応用した満月輪の連続投げが上手くできない。
小石はもっと簡単だったんだけど、このサイズのチャクラムともなると簡単にはいかない。
そもそも小石の時でさえ連投しながら自由に動けたわけじゃない。固定砲台としてはあのままでも優秀だけど、PVPでじっとしていたらこちらが良い的だ。動きながら出来るようにしたいけど、ジャグリングは基本上に投げて落ちてくるのをキャッチする。本職のピエロさんならともかく、アバターでコスプレしているだけのわたしには荷が勝ちすぎる。
ジャグリングのスキルレベルが上がれば別かもしれないけど、失敗してばかりいるからか、一向に1から上がってくれない。本当にアクティブスキルのレベルは上がりにくいらしい。
VRだと補正があるとはいえ実際にやっているようなものだからなぁ。画面越しに遊ぶ昔のゲームならボタン押すだけで勝手にやってくれたんだけど。
……うん? 勝手にやってくれる?
「んー、うん。なるほど、この要素も引き継がれてるんだ」
「マスター?」
仕様も、大まかには変わってなさそうかな?
っと、さすがにこれを思考入力するのはめんどいな、綴りとかあるし。
「クルーア、キーボードって出せる?」
「え? はい、仮想キーボードでよければすぐに」
「んじゃお願い」
言い終わると同時にクルーアが仮想キーボードを出してくれる。
わたしの目の前に薄い、というか立体映像の水色っぽいキーボードが浮き上がる。ちょっと透けていて、実にSF的だ。
ん? わたしも幽霊で透けているから、SFなのかな。
いや、馬鹿な事考えてないでさっさと用事を済ませよう。わたしのジャンルはホラー固定だろう。
お、武器の名前弄れるんだね。元の満月輪って名前も好きだし、とりあえず番号振り分けておこう。
えーっと、これでいけるかな。
/equipitem [満月輪1]
/cmd[ストライクシュート]
/equipitem [満月輪2]
/cmd[ジャグリング]
/equipitem [満月輪3]
/cmd[ストライクシュート]
「あの、何をやってるんですか?」
「マクロ組んでるの。前作でも出来たでしょ?」
「それはまぁ。って、え!? VRですよ!? 実際に動くゲームですよこれ!?」
実際にというか脳内にというか、まぁ体感するゲームって意味ではそうだね。
だ か ら ど う し た。
マクロを簡単に説明すると、ワンボタンで複数の動作をできるように設定することだ。正確には設定した1~10までの動作を自動で行う、みたいな感じ。
今回の場合は満月輪1を装備してストライクシュートを使用し、満月輪2を直ぐに装備、さらにそれをジャグリングして満月輪3を装備してストライクシュート。
上手いこと満月輪1が戻ってくるタイミングでもう一度これをすれば無限ループできないかなぁというイメージ。
ちなみにこのマクロ、PEでは前作も近作もゲーム内で出来るけど、ゲーム内に要素として存在しないのに外部ツールで無理やりしたらチートである。
公式に認められていれば仕様、認められていないならチートだ。
基本的にキャラクターを放置している間にマクロで自動操作するようなのは禁止されていることが多い。所謂botってやつ。ゲームによってはプレイヤーではないNPCのことをbotって呼ぶこともあるけど、使われる場面は全然違うので混同すると酷いことになる。注意が必要だ。
VRではそもそも放置できないのでそこは心配いらないかな。半分寝ながらとかはできるかもしれないけど、放置ではないからせーふせーふ。
いや、寝かけてたら強制ログアウトなのかな。わたしは寝ないからわからない。幽霊だし。永久の眠りにつく事を拒否している身なので。
「動いて出来る事をマクロで済ませちゃいけないなんて誰が決めたの」
「それはそうですけど」
「それに実際に組めてるっぽいし、運営も承知済みの仕様でしょ」
マクロ禁止のゲームはそもそもゲームメニューからマクロの編集ページを開いたりできないからね。
さて、これで移動しながらでもジャグリングマシンガン(いま命名)が使えるようになったかな。
あと必要そうなのは、おっとこれも忘れちゃいけない。
/cmd [サモンスカウトバット]
/pause 50
/target [スカウトバット]
/cmd [サクリファイスハート]
これでコウモリ召喚からその捕食までがスムーズにいくはずだ。
スカウトバットは野生ではいないはずだし、他のプレイヤーのペットにサクリファイスハートは使えない。これを設定しておけばクルーアを食べちゃう事故もなくなるはずだ。
コウモリ以外を食べたい時はマクロじゃなくて普通にスキルを使えばいいだけだしね。
「よし、成功」
「おもむろにスカウトバットを召喚して流れるように食べないでください、怖いです」
そうかな?
……そうかも。もっしゃもっしゃ。うん、味はない。
「ああ!?」
「今度はなんですか!?」
「サクリファイスハートで空腹も回復するようになってる! すごい!」
「あぁ、はい、PEVRではそういう仕様になってます。渇きは回復しないので飲み物はとってくださいね」
「さすがに血じゃだめか、そりゃそうか」
海水飲んでも塩分高すぎて水分補給にならないとか、雪じゃだめとか、そんな感じなんだろうか。
「吸血鬼なら血でどっちも回復するんですけどね」
「あ、プレイヤーもなれるんだ。隠し種族?」
「あ!? くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
「バグらないで!? 悪かったら! 謝るから!」
クルーアの顔が能面のようになって変な音吐き出し始めた!?
おいこら運営うちのクルーアに変な仕様を植えつけるな!
「……はっ!? いまものすごいエラーを吐いていた気がするんですが」
「大丈夫、大丈夫だからね」
「何故わたしは抱きしめられているんですかマスター」
サポートAIの禁則事項に触れてしまったらしい。
だったらそもそもうっかりそれを話すようなAIにするなという話なのだけど。その方が人間味はあるので難しいところだ。
「マスター。グリ吉と彦左衛門を見つける前に、その辺のエネミーで調教の練習をしておきませんか?」
「ん? それもそうか。よし、そこのネズミさんや、わたしに従いなさい」
「キィ?」
横を歩いていたノンアクティブのアニムスラット(弱い)に調教を試みる。
ちなみにアクティブスキルはない。
「あの、マスター?」
「キィ?」
「従え!」
<アニムスラットのテイムに成功しました>
<スキル:アニマルニーリングを取得しました>
「お、できるとは思ったけどスキルまで覚えられた」
復讐者さんが出してくれたやつもテイムできたしね。
アニマルニーリングはあくまでも獣系の調教確率を上げるスキルなので必須ではない。まぁこれがグリ吉の種族であるグリズリーや彦左衛門のグリフォンみたいな中位、高位のエネミーだったら必須レベルだろうけど、最弱に近いネズミさんなら不要である。
「なるほど、スキルの取得条件を満たしたってところかな」
「まぁ、そうですね。スキルと同じ事をプレイヤー本人ができるなら、スキルは取得できます」
「そうなると魔法系の自力取得は難しい?」
「不可能ではないですけど、高位魔法を魔法なしでは難しいんじゃないでしょうか。自力で竜巻を起こしたり隕石を落せるなら別ですけど」
それは人間には無理な話だ。幽霊にだって無理だ。
ってことは簡単に取得できるのは比較的序盤のスキルだけか。
もしかしたらその序盤のスキルを踏み台にして強いスキルを覚えることもできるかもしれないけど、この辺は要検証かな。
「そういえば、今回はペットってなんでも連れて行けるの?」
前作ではテイムしたエリアから他のエリアへ連れて行けるペットとその場限りの連れて行けないペットが居た。
これがまた、結構な不満の元になっていたんだよね。
「テイムに成功したならどれでも連れて行けますよ。ただし忠誠値を一度でも100にしていない状態で死亡するとロストします」
「なるほど」
「忠誠値が100に到達すると《~の眷属》といった称号が増えるのでわかりやすいかと」
なら気をつけないとなぁ。
わたしのことをくりくりお目目で見上げるネズミさんを見やる。
うん、かわいい。
「あと連れて歩ける最大数は3体で、ペットの合計レベルが調教スキルのレベル×3までです。マスターの現状ですと合計60レベルまでですね」
かわいいんだけど、現状わたしはペット収納系のスキルを持っていない上に、ネズミさんはアクティブスキル無しでテイムできるほど雑魚い存在だ。
名前:アニムスラット Lv1
種族:ネズミ
クラス:ペット
HP:10/19
MP:00/00
スキル:
《アタック》
うん、雑魚い。
「サクリファイスハート」
「ヒギィイイィィッ!?」
「マスター!?」
マクロ組んでない普通のサクリファイスハートを発動。
忠誠値0のアニムスラットは消滅した。
「すまないネズミさん、恨むならペット収納スキルを前作引継ぎスキルに設定しなかった運営を恨んでほしい」
「ひ、ひどい」
「よし、こんな悲劇をなくすため、ペット収納スキルを覚えるためにもスキル上げしながら行こうか」
アニマルニーリングを取得したことでネズミさん程度なら速攻でテイムできるうようになったしね。
<アニマルニーリングをアニムスラットに使用しました>
<アニムスラットをテイムしました>
<サクリファイスハートをアニムスラットに使用しました>
<アニムスラットが捕食されました>
<アニムスラットとの絆が消滅しました>
<アニマルニーリングをアニムスラットに使用しました>
<アニムスラットをテイムしました>
<サクリファイスハートをアニムスラットに使用しました>
<アニムスラットが捕食されました>
<アニムスラットとの絆が消滅しました>
<アニマルニーリングをアニムスラットに使用しました>
<アニムスラットをテイムしました>
<サクリファイスハートをアニムスラットに使用しました>
<アニムスラットが捕食されました>
<アニムスラットとの絆が消滅しました>
<調教が前回通知より10上昇しました>
あ、召喚も上げたいし組んだばっかりのマクロも使っておこう。
<サモンスカウトバットを使用しました>
<スカウトバットが召喚されました>
<サクリファイスハートをスカウトバットに使用しました>
<スカウトバットが捕食されました>
召喚獣はペットと違って時間制限ありだから絆がどうのとかは表示されないんだね、なるほど。
ようしもっと使っていくぞー!
後日、アニムス近郊で巨大チャクラムを振り回しながらネズミを食べて回るピエロという新種のエネミーが出たっていう情報が掲示板に書き込まれたらしいけれど、わたしはそんなもの見ていないので誤情報だと思います。
「マスター?」
「はい、ごめんなさい」
狩りすぎたと思うのでその冷たい瞳をやめてほしい。癖になったらどうしてくれる。
うちのペットは可愛いなぁ。
マクロの記述文はわりと適当なのでツッコミは許してくださいなんでもしm(ry
マクロ組んでるVRもの見かけないなぁって思ってやってみました。
本編でも語っている通りゲーム内でマクロを組めるものはチートじゃありません。逆にマクロ組めないようになっているのに外部ツールでキー操作やマウス操作をして実行したらチートですのでご注意を。ネトゲのチートは褒め言葉じゃないので本当にアウトです。
一瞬だけ装備つけかけてその装備専用スキル発動すると見た目は剣なのに槍スキル使用とかできるんですよ。アレ面白いんですけど、知らない人から本当のチートと誤解されるのが難点ですね。




