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023 【二章プロローグ】ひとりぼっちのクマさん

二章のプロローグとなります。

……一週間くらい投稿をお休みするつもりだったんです、本当なんです。信じてください。

 その熊は、たった一頭で誰も居ない森を彷徨っていた。

 記憶に無い記録に残るデータでは、たしかに仲間がいたというのに、自分という自我が生れ落ちた時、周囲には誰も居なかった。


 優しく、強いホムンクルスの少女も。

 気高く、義理堅いグリフォンの戦士も。

 愉快で、頼もしい道化師の主人も。


 誰も、誰も居ない。

 彼らと何かをした記憶は無い。自分は生れ落ちてから、ずっとこの森に居る。

 だけど、彼らと一緒に居た記録はある。だから、彼らと出会えたらきっと、きっとすごく楽しいに違いない。


 違いないのに、誰も居なかった。


 時々出てくる生き物は、自分と同じほどの知性が無いのか、話を聞いてくれない。

 それどころか、問答無用で襲い掛かってくる。


 だから倒した。

 熊のレベルは記録では40を超えていたのに、何故かたった1に下がっていたけれど。

 熊は倒した。爪で、牙で、襲い来る敵を次々と屠っていった。


<レベルが上昇しました>


 誰かの声が聞こえて、吼えてみるけれど、返事は無い。

 怯えさせてしまっただろうか?


 心配になった熊の前に、また敵が現れる。

 巨大な鹿を切り裂いた。

 巨大なワニを食いちぎった。

 緑の小鬼を叩き潰した。

 不定形の生物を踏み潰した。


<レベルが上昇しました>

<レベルが上昇しました>

<レベルが上昇しました>


 何度も聞こえる声は、返事をくれないものと学習し、熊は仲間を探して歩き回った。

 人影を見れば、ホムンクルスの少女かと思って、でも敵で。

 空から地面に落ちる影を見れば、グリフォンかと見上げるも、敵で。

 木の枝が揺れるのを見れば、道化師の少女かと期待するも、やっぱり敵で。


 もうどれほど倒しただろうか?


 時間の概念を把握していない熊には、自分が生れ落ちてから何時間経過したのかも、何日経過したのかもわからないけれど。とても長い時間森を彷徨っていた気がする。


 なのに居ない。

 だれも、話し相手が居ない。


 お腹がすいて、動けなくなりそうな時は倒した敵を食べた。

 まずかった。

 

 木の洞に何か溜まっているのを見つけた。

 それは猿型のエネミーが作ったお酒で、熊は酔っ払った。


 酔っ払った勢いで蜂型エネミーの巣を壊して、蜂蜜と出合った。

 空腹ゲージが回復した。熊は餓死を免れて、再び仲間を探し始めた。


 大きな川では魚を取り、ついでにワニ型エネミーを倒し。

 洞窟ではコウモリ型エネミーを倒し、仮の住処として。


 けれど、どれだけ戦っても、仲間が見つからなかった。


<原初の竜が討伐されました>


 いつもの声がそんなことを言っても、熊は気にしなかった。

 だって、仲間の名前ではなかったから。

 けれど、気にするものが近づいていた。


「ほう、グリズリーか」

「!?」


 初めての会話が通じそうな人間に、喜んだ熊は近づいた。

 

「インシュピータもやられたことだ。我も来るべき時に備え力を増しておくとしようか!」

「ごうっ!?」


 しかし熊は殴り飛ばされた。

 もしかしたら敵と勘違いされているのかもしれない。熊は何もしないよと無抵抗を貫いた。


「ほう、中々頑丈ではないか、ではこれならどうだ!」


 けれど相手は人間(プレイヤー)ではなかった。

 頭から被っていた熊の毛皮が膨張し、肌に張り付くと、その男は熊よりも遥かに巨大な熊となった。

 ここに至ってついに熊も反撃を開始した。


 だって、まだ出会ってすら居ないのだ。

 記録にある、記憶に無い彼らと、出会ってすらいないのだ。

 このまま殴られ続ければ、自分が消えてしまうと理解できた。自分が倒してきた敵と同じように、何も残さず、データの藻屑へと変わってしまうと、理解できた。


 巨大な熊の咆哮に怖気づくこともなく、熊は前進した。

 巨大な腕を掻い潜り、その足へとタックルをしかけ。


<スキル:タックルを使用しました>


 相手のタックルは避けて、側面から自らの腕を振り抜いて。


<スキル:ベアナックルを使用しました>


「ほう、やるではないか。ただの畜生ではないようだ。だがこれならどうかな? 奥義!」

「グルァアァアッ!」


<スキル:スタンバイトを使用しました>


「な、動けん!? 馬鹿な、こんな」


 油断している敵に、身体が麻痺する牙を突きたてて。

 その隙を見逃さず、殴って殴って殴って噛んで殴って殴って殴って、体当たりして。


 がんばりすぎて、スキルが使えなくなりそうになっても。


<アイテム:ワイルドハニーを使用します>

<STが30回復しました>


 相手はとっても強かったから、すごく痛い目にあったけど。


<アイテム:グレートサーモンを使用します>

<HPが60回復しました>


「いい加減にしろっ! ゴアアァァアッ!!」

「ギャっ!?」


 巨大な熊の咆哮にあわせて地面が隆起して、宙に浮いた身体を思い切り殴られて、木に叩き付けられて。

 一回、もう死んじゃったんじゃないかって思ったけど。


<アイテム:ネクタルを使用します>

<死亡状態への移行をキャンセルします>


 それでも、会いたい仲間がいるから。


「何故だ、何故まだ立ち上がる」

「グル」


 きっと、待っててくれる誰かが居るから。

 

「貴様は大した知性(AI)もない、ただのモンスターだろうが! 何故立ち上がる! 立ち上がれる!」


 記録にある、仲間の名前をひとつひとつ思う。

 まだ呼んだことのない名前を、ちゃんと呼びたいと思うから。

 だから、何度だって起き上がってみせる。


「いいだろう。貴様を戦士と認めて、全力で叩き伏せる。スキル【狂神─」

「グルァアアアアァァァッ!!!!!!」


 スキルなんて、使わせるわけが無い。

 相手が格上だと、熊は知っていたから。


 それを使われたら、自分が生き残れないと知っていたから。

 だって熊は、戦士じゃなくて、ただのペットだから。誇りより、大事な主人が待っているはずだから。

 誇りなんかのために、負けるわけにはいかなかった。 


「ごふっ!?」


 巨大な熊の喉笛に、熊は思いっきり喰らいついた。

 そして、自分が倒した巨大ワニが使っていたスキルを見よう見まねで再現する。


<スキル:デスロールを取得しました>

<スキル:デスロールを使用します>


 巨大な熊の頭が宙を舞う。

 大量の血が吹き出る。


 本来なら修正されるはずのその映像は、規制対象であるプレイヤーがいないこの場において、現実よりも生々しくその光景を再現する。


「漂流者と邂逅することも無く、我が命潰えるとは。これもまた運命か……」


 地に落ちた巨大熊の頭がそう呟いて、離れ離れになった身体と共にデータの藻屑へと変わっていく。


<【レイドボス:ベルセルク】が討伐されました>

<討伐達成プレイヤーを確認……>

<Error>

<討伐者の検索対象を拡大>

<討伐達成者【ユニークモンスター:グリ吉】を確認>

<【ユニークモンスター:グリ吉】の進化を開始します>


 巨大熊、ベルセルクを倒した熊に異変が起きる。

 より強く、巨大に、そして凶暴に。


<【ユニークモンスター:グリ吉】を【レイドボス:メドヴェーチ】へと再定義します>


 会わなければいけない仲間が居る。

 呼びたい名前がある。


<【ワールドクエスト:狂戦士ベルセルク】が【ワールドクエスト:喰らいし者メドヴェーチ】へと変更されました>


 だから、だから行こう。

 記録にある誰かの元へ。


<おはようございます、メドヴェーチ>

 

 立ちふさがる全ての存在をプレイヤーもエネミーもなぎ倒してでも。


<新たな時代はあなたを歓迎します>


「グルアァァァァアアアァァッ!!!!!」


 この日、運営すら知らないレイドボスが産声を上げた。

運営は最初に設定した後はイベントやアプデ以外でAIに何かを強制したりはしない方針です。

なのでこういう事も起きたり起きなかったり。


余談ですが、実はひゅどらたんも同じような気持ちで動いていたところをプレイヤーに倒されました。


Q:なんでレイドボス単独撃破できたの?

A:グリ吉はラクリマがログインしてインシュピータを倒した時まで、というかその後もずっと戦ってレベルを上げ続けていたから。ペットではなく通常エネミーとしてのレベルを。

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