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クラウン・フォビア~幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO~  作者: 稲葉めと
一章 幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO
15/37

015 ユースレスカンパニーの一幕

今回は三人称になります。

 ─都内某所─


 数多くのPCデスクが並ぶ部屋で、スーツを着た人、らふなTシャツを着こなした人、なぜかパシャマの人からジャージの人まで、様々な人たちがキーボードを叩いている。


 タッチパネルからフリック入力までキーボードの代替品はたくさんあるが、ショートカット入力の利便性など色々な事情から仕事でPCを使う人たちの間では未だにキーボードが主流となっている。


「リーダー、こないだの案件、対処終わりましたー」

「案件? どれだ?」

「ゲーム外動画の悪用です。やった本人から自己申告で出来ないようにしてほしいっていう」

「あぁ、説教泥棒みたいなアレか。プレイヤー名はラクリマだったっけ?」

「ですです」


 説教泥棒というのは人の家に泥棒に入りこみ、ここの防犯が甘いなど指摘しまくった挙句、盗るものはしっかり盗っていくという泥棒だ。

 ゲームの機能を悪用しておいて、これ悪用できましたよと報告してきたことから、ラクリマにはPEVR運営チームでそんなあだ名がつけられていた。


「他はどうだ? 前作組と今作からのプレイヤーでいざこざが起きてたりはしないか?」

「結構おきてますよ。特にアバターなんかの引継ぎ要素がずるいって」

「やっぱりかぁ。つってもそこはどうしても実装したかったからなぁ」

「ですよねー、なんてったってわたしたち」

「「元プレイヤーだもんな」」


 PEVRの運営は、実は前作とほぼ別人である。

 それというのも前作の運営会社が事業売却してから倒産してしまったからなのだが、これは驚くことではない。

 そもそもPE時代から何度も運営会社が変わっていたのだから、新作で運営が変わっていてもだからどうしたという話だ。


 ではなぜここまで前作プレイヤーに「相変わらず斜め上の運営だなぁ」と思われているのか。

 それはこの運営チームが前作のプレイヤーたちであり、VR戦国時代においてPEを復活させようと会社を立ち上げたものたちだから。


 会社の名前をユースレスカンパニー。

 無駄という名を冠したその会社は、ゲーム内にこれいらんだろという要素をつぎ込むことを目的に作られた。

 同じ効果で、見た目が違うだけの武器、防具。

 見た目は派手だが、通常攻撃と大差ない威力のアクティブスキル。

 NPCからの印象がかわるが、ゲーム的な有利不利は発生しないパッシブスキル。


 ぶっちゃけゲームを進める上ではまったく意味のない、そんな要素。けれど、それこそがこのPEVRの醍醐味である。

 元プレイヤーの彼らは、前作の要素を引き継げるなら引き継げたほうが楽しいと知っていた。

 けれど、それで有利不利が発生してはつまらない、という事も知っていた。

 だからこそ、無駄な要素として追加したのだ。


「でも予想よりは少ないですね。やっぱり新規組だけはまともにチュートリアルやったおかげですかね」

「掲示板じゃ色々言われてるみたいだが、あれって前作組が新規にマウントとれないようにやったことだからな」

「といっても基本は前作と一緒ですからね。ゲーム慣れしている前作組ならそこまで問題にはならないでしょう」


 文句を言うプレイヤーもいるだろうが、なら引継ぎ要素を諦めて新規ではじめるかと聞かれたら断るプレイヤーが大半だろう。


「リーダー、チャットで1d6振ったら2d6振れてるっていう報告が来てます」

「はあ? 誰だよそこのデバッグやったの」

「リーダーです」

「……すまん、手間をかけるが修正しといてくれ」

「ういっす」


 自分のミスはちゃんと謝る。リーダーは大人だった。


「そういえば隠し種族の開放条件、満たしたプレイヤーがいますよ?」

「お、まじか。どれでだれ?」

「えっと、開放された種族はウルフです。プレイヤー名はアレックス。説教泥棒に泣かされた新規さんって言えばわかります?」

「おお、意外な種族に意外なプレイヤーだな」


 プレイヤーには伏せられているが、隠し種族というのは山ほど居る。

 何せ運営チームが最低でも一人10種類は考えてくるというお題を出され、その全てを実装したからだ。

 とても似ているが、ひとつだけ要素が違うといった種族も中にはいる。

 

「説教泥棒に驚かされたあと、びびりすぎて両手で地面をはいずりながら逃げ回ってたみたいです。ほら、ギャグマンガみたいに」

「ウルフの開放条件って、四足歩行で一定距離を一定以上の速度で移動することだったよな」

「ですです。種族変更のメリットは基本HPの上昇と、肉体を使用したスキルの取得経験値増加、移動速度の上昇。デメリットは手を使用した全スキルの使用不可」

「ひでえ」


 笑っている場合ではない。

 それはつまり、武器スキルのほぼ全てが使えないという事である。歯を使ったスキルは威力が上昇したりもするのだが、そんなスキルはごく一部である。


「でもまぁ、さすがになりませんかね」

「シャウトとか調教を組み合わせるとウルフの群れをペットにできるんだけどな。初見で気がつくヤツもいないだろうし、前作組ならネタでなったかもしれんが」

「あ、いまウルフに種族変更したみたいですね」

「まじかよ」


 新規であろうとネタ満載と噂のPEVRを始めたプレイヤーだ、舐めてはいけない。

 そもそも前作組と違い新規はVR世代に生まれた若者が多い。新しいことに挑戦するハードルが低いのだ。

 もっとも、腕の使えないウルフに種族変更するのは、新しいことへ挑戦するのとはハードルの種類が違うはずだが。


「あ、リーダーリーダー、面白いっていえばペットを狩られたプレイヤーでやべーのがいますよ」

「なんだ、荒らしにでも落ちたか?」

「いえ、狩ったプレイヤーをPKして遺品をドロップ。その後隠しスキルの口寄せを取得してます」

「嘘だろ、口寄せの取得条件って死亡したNPCの遺品を手に持ちながら名前を一定時間呼び続けるだぞ」

「ログみます?」


 運営リーダーが目にしたログ。というか動画。

 そこには「ひゅどらたん、ひゅどらたん。かわいいよひゅどらたん」と言いながら、遺品アイテム片手に彷徨うプレイヤーの姿があった。ちなみに種族はエルフ。

 その後口寄せによってファントムローバーを召喚することに成功。触手の塊に抱きつくエルフというR指定一歩手前の光景が展開される。


「見なかったことにしてもいいか?」

「ダメですよ、現実を見てくださいリーダー。ちなみにこのプレイヤー、リアルも女性みたいです」

「成人は?」

「前作組ですし、してますね」

「じゃあセーフってことで」


 アウトである。

 運営チームは一人残らず斜め上の思考と嗜好を兼ね備えているので誰も言わないが。


「ワールドクエストの進行具合はどんなもんだ」

「最初のやつが最終段階に入りました。ちょっと前に原初の竜と遭遇したプレイヤーがいますね。回線落ちさせられたみたいですけど」

「ほう? ちょっと見せてみ。ほほう、マシュマロゴレム経由か」


 彼らがワールドクエストと呼ぶクエスト、そのひとつめの最終段階は原初の竜とプレイヤーが遭遇することで開始される。

 原初の竜がPOPする条件はダンジョンの最奥にたどり着く、隠しNPCと会話をするなどいくつか用意されていた。マシュマロゴレムの助けを呼ぶもその条件のひとつだが、実は呼び出されるエネミーはランダム。原初の竜が初POPするまではその中に含まれているけれど、一発で引き当てたラクリマの運は良いのか悪いのか。


「ってこいつ例の説教泥棒じゃないか」

「ああ、この人がそうなんですね。掲示板だと幽霊さんとかリアルゴーストとか呼ばれてるみたいですよ」

「なんだそれ」

「説教泥棒ってあだ名のキッカケになった悪用っていうかいたずらがあるじゃないですか。あれがホラー映画の悪霊みたいだったから、らしいですよ」


 それなら悪霊さんではないのか、とリーダーは思ったが、ネットでのあだ名に意味を求めてはいけない。


「動画って結局再生できないようにしたんですっけ?」

「いんや、悔しいが同じパーティか許可設定のプレイヤーなら見られるようにしてある」

「何を悔しがってるんですか」

「説教泥棒が提案してきたのとほとんど一緒なんだよ」


 プレイヤーからの意見というのは基本的に役に立たない。

 なぜなら運営目線ではないからだ。だからプレイヤーから貰った意見というのは運営側で再考し、ゲーム的に使えるよう整えてから採用する。だというのに今回はほぼそのまま採用となっている。

 ゲーム運営のプロとしては悔しいことこの上ない。


 なおラクリマがやったいたずらだが、それを見た運営チームの一人がスキルで再現できるようにした。

 そう、こっそり新スキルが実装されている。

 プレイヤーの言うとおりにするのは悔しいが、プレイヤーを見て新要素を実装するのは大好きな運営チームだった。


「あの野郎はいまログインしてるのか?」

「さすがにあの野郎呼ばわりはまずいですって。いたずらはともかく、こっちからしたら善意のデバッカーみたいなものじゃないですか」

「分かってるよ、それで?」

「今ですか? えっと、回線落ちさせられた後は……え?」

「どうした?」

「ログインしてる、んですが。おかしいですね。バグ? 位置ズレ? ログイン地点がここになってます」

「は? ここ? ここって、ここ?」


 VRゲームのプレイヤーはログイン地点を運営に把握されている。

 それというのもゲームをしっぱなしで事故が起きたりしたとき、運営から警察や病院などに連絡する必要があるからだ。

 プレイ中に周囲が見えないVRゲームは問題が起きた時の世間からのバッシングが酷い。ゲームをする以上自己責任なのだが、そんな事を気にしてくれる世間さまではない。


 なので運営がプレイヤーのログイン地点が把握できない、把握しているが、その位置がズレているというのはまずいのだが。


「このビルって他の会社入ってたっけ?」

「入ってないですよ。元プレイヤーの石油王がビルごとわたしたちにくれたんじゃないですか」


 ネットでよくある石油王ネタが現実に実装されたユースレスカンパニー。

 サーバールームに至っては地下深く、核シェルター並みの強度がある場所に設置されている。

 メンテナンス用に巨大エレベータも完備。


「大変ですリーダー!」

「今度はなんだ」

「GMログイン用のテスト端末が勝手に起動しています!」

「はあ!? アレってゲームには繋がってるけど基本的にローカル接続だし脳波スキャンデバイスだぞ、ハッキングとか無理だろ!」


 仮にハッキングが成功していた場合、ゲームサーバーを踏み台にした上で脳波をデバイスに飛ばしたという流れになる。ハッキングまではともかく、脳波を完全に遠距離のデバイスに飛ばすのは難しい。

 そもそも踏み台にされているゲームは脳波を受信はしても出力はできないからだ。


「ってことは誰か勝手に使ってるのか。ラクリマってプレイヤーうちのスタッフなのか?」

「リーダアアアアア!!!! テストデバイス誰もつけてないのに勝手に起動してますううううう!!」

「はあああああぁっ!?」


 テストデバイスが設置されているのは開発ルームの隣だ。

 エアコン完備の素敵な部屋で、ヘッドギア型ではなく全身スキャンタイプの高級大型品がいくつも鎮座している。

 慌てて部屋へ入ったリーダーの目の前で、その一つが勝手に稼動していた。

 中には誰も、いない。


「どうしますリーダー。回線か、いっそ電源引っこ抜きますか?」

「サーバーのほうはハッキングされてる形跡あるか?」

「それは大丈夫です。ラクリマも普通にプレイしているだけみたいで、このデバイスが勝手に使われてる以外はbotやチートも見当たりません」


 サーバーを踏み台にしないとハッキングできないはずのデバイスが勝手に起動しているのに、サーバーがハッキングされている形跡はない。ゲーム的には大丈夫でも、常識的に大丈夫ではないのだが、運営チームにそこを気にする人間は居なかった。


 だってゲームの運営には問題ないし。


「じゃあ、ひとまず観察で」

「リーダー!?」

「「「「了解!」」」」


 普通なら、電源くらい引っこ抜く。

 普通なら、アカウントを凍結するくらい、する。


 何故なら運営は他の多くのプレイヤーが普通にゲームをプレイする、という権利を守るものだからだ。

 そうじゃないとプレイヤーもお金払ってくれなくなるし。

 だがしかし、ここはユースレスカンパニー。脳みそが斜め上に飛んでいる前作プレイヤーの巣窟だ。


 ゲームをハッキングされているわけじゃないなら、面白いから眺めてみたい。

 そう、だって面白そうだから! チートするわけでもないのにわざわざ危険を冒して運営のデバイスを使うとか、わけわかんないから!


「リアルゴースト、ね。案外見えないだけで本当にそこにいるのかもしれませんよ」

「馬鹿いうな、幽霊からは金がとれんだろ。でもまぁ、説教泥棒よりは現状に相応しいからそれ採用で」


 こうしてラクリマは運営チームからもリアルゴースト扱いされはじめるのだが、彼女はそれを知らない。

 何故ならゲーム中だから。

 運営の目の前で、GM用テストデバイスに横たわりながら。


 しかし誰にもそれは見えない。

 何故なら彼女は幽霊だから。


 リアルゴーストというのは、案外的を射た名前なのかもしれない。

「ちなみに本音は?」

「だって、ハッキングされましたとか報告したら減給されそうじゃん」

「リーダー……」


 ちなみにダイスロールのバグ報告ですが、読者さんから感想でご指摘いただいたものです。

 読者と一緒につくりあげる小説、それがクラウン・フォビア(自分のミスから目を逸らす、作者はリーダーと違って子供であった)


 話はかわりますが、ラクリマはデバイスを踏み台にサーバー接続しているので、今更電源ひっこぬこうがデバイスぶっ壊そうが無駄です。直接霊体が鯖接続されたので。プレイ中に焼けたはずのデバイスでゲームを続けられた理由がこちら。ただし一度ログアウトしたら踏み台がないとログインできません。

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