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クラウン・フォビア~幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO~  作者: 稲葉めと
一章 幽霊少女の死んでからはじめるVRMMO
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013 ラスボスだってPOPする、それがPEVRクオリティ!

 突如目の前に現れた原初の竜を呆然と眺める。

 あ、いや、まだだ、まだ名前をちゃんと確認していない! ほら、前作のラスボスそっくりの雑魚モンスターとかある種のお約束だし、そういうやつかもしれない!

 そう信じて原初の竜(仮)の頭上を見た。


《レイドボス:原初の竜(諦めろ)》


「諦めろって何さあああああぁぁあああぁぁぁあ!?」

「レイドボスに一人で遭遇したら強い弱いっていう問題じゃないですからね」

「そりゃそうだけどもさあ!?」


 少なくとも前作の表記は弱い、普通、強い、激強の四段階だった。

 いや、改めて考えると激強も色々プレイヤーを舐めた表記だけど、諦めろに比べたたらマシだ。せめて諦観とかかっこよくしろ。二文字に収める努力を放棄するな。


「グルオオォオオォオッ!」

「ひゃっ!?」

「わっ」


 咆哮と共に踏み込まれた一歩、その下敷きにならないよう慌てて逃げる。

 原初の竜はとてもシンプルでわかりやすい見た目をしている。

 誰もがイメージするドラゴン、その二足歩行タイプ。いってみれば特撮の怪獣のような立ち方のやつだ。

 硬質な鎧を思わせる鱗の重なりがとてもかっこいい。


 そして、でかい。

 とにかくでかい。

 その体長、凡そ20m。


 いやね、怪獣映画の怪獣やロボットものに出てくる巨大メカに比べたら小さめであるんだよ。

 けど、VRで実際に目の前に20mを超えるドラゴンがいるとそんな事は微塵も思わない。ちなみに某光の巨人はこの倍のサイズらしい。でっかいね!


 原初の竜が長い尻尾を振り回す。

 さっきは体長20mって言ったけど、体長に尻尾は含まれない。尻尾の長さが体長と同じくらいはあるから、全長は40mくらいだろうか。

 

「ちょ、これはひどい!」


 当たり前の話をさせてほしい。

 前作、つまりVRなんてものがなかった時代の普通のネットゲームだった頃のパラダイムエイジでは、戦闘はよくあるクリックゲーだった。敵を選ぶ、通常攻撃、もしくはアクティブスキルを選択する、ダメージが発生する。この流れだ。敵がどんなに大きかろうと、移動する敵に触れただけでダメージを食らったりはしなかった。

 当たり前だ、パラダイムエイジはアクションゲームではない、RPGなのだから。


 しかし今作、PEVRはVRを存分に生かしているため、アクション要素が強い。

 基本は前作とそう変わらないように見えるし、歩いている敵にぶつかったってダメージはない。しかし突撃している敵に触れたら、それが敵のアクティブスキルではなく、通常移動だったとしてもダメージが発生する。


 当たり前だ。走っている車にぶつかったら痛いのと同じことだ。


 つまり何を言いたいのかと言うと。

 原初の竜が軽率に尻尾を振り回すたびに、射程20mの範囲攻撃(物理)となって襲い掛かってくる!


 それを避ける、かわす、回避する、ていうか逃げる!

 わーお周囲の木々がなぎ倒されている。オブジェクト破壊を当然のようにするエネミーもエネミーだけど、それを再現している物理エンジンにも賞賛の声を送りたい。


《回避が以前通知より10上昇しました》


 そりゃこれだけ避けていたら回避スキルだって上昇する。

 ちなみに通知設定を弄っているのでいまの一瞬で10上昇したわけじゃなく、前回の通知から10上昇したので通知が出たことになる。


 多少スキルレベルを上げているとはいえ、ほぼ初期キャラでこれだけ回避できるとはさすがVR。

 とはいえこれは回避できすぎている。はて、何かスキルを持っていただろうか。


《曲芸が以前通知より10上昇しました》


 丁度いいタイミングでスキルレベルの上昇通知が来る。

 なるほど、曲芸スキルか。尻尾の範囲が余りに広いのでそれを飛び越えて避けたりもしていたのだけど、そんな無茶が出来たのはこのスキルのおかげかもしれない。


「よっし、これなら逃げ切れる!」

「ま、ますた~」

「え、クルーア足おっそ!? ていうか死にかけてる!?」


 常と違う情けない声に振り返れば、クルーアのHPがレッドゾーンに突入している。何故だ。

 いや、何故だも何もない。わたしが攻撃を避けているのはプレイヤースキルとゲームのスキルの相乗効果。それがない、純粋なNPCペットであるクルーアがあんな範囲攻撃を避けられるはずがなかった。


 本来ならここでクルーアを収納したいけど、生憎わたしはまだその手の、ペットをアイテム化してインベントリに収納するためのスキルを手に入れていない。

 見捨てるか、戦うか、悩んだのは一瞬。

 満月輪を構えると、ストライクシュートを乗せて原初の竜へ投擲する。


 ガキィンと硬質な音がして、あっけなく弾かれる満月輪。


「クルーア逃げて! 回復アイテムもスキルもないから、とりあえず遠くへ!」

「そんな、マスターはどうするんですか」

「わたしが先に死ぬ分にはクルーアは安全でしょう!」


 プレイヤーが死んだ場合、ペットはプレイヤーが復活するまで一時的にゲームのマップから隔離される。

 だからわたしが先に死んだ場合、クルーアが死ぬことはない。


「とりあえず誰か連れてきて、ひとりでレイドボスに挑んでみるとか、そういうのはプロゲーマーとかネット配信者さんの領分だからわたしには無理!」

「わ、わかりました! ご武運を!」


 満月輪を投擲したことで原初の竜のヘイトがわたしに集中したのか、逃げるクルーアを追う様子はない。

 わかってる、これは自己満足だ。

 けど、わたしにはわたしのルールがある。


 一度やって、ひどいと思ったことは二度としない。

 わたしは結構軽い人間だから、他の人が嫌がることだって、やってしまうことがある。でも、だからこそ、一度やって、やりすぎたと思ったら、ひどい事したなと思ったら、それはもう、やらない。


 クルーアを一度スキルの実験台として殺して、クルーアにいじけられて、ひどい事しちゃったなって思ったから。

 だから、ペットを、いや、高度なAIを有しているNPCを無駄に犠牲にするのは、もうやらない。

 ゲーム的にどうしようもない時はあるだろうけど、いまはそのどうしようもない時じゃない。


 これはゲームシステムとか、そういうのとは関係ない、わたし個人の生き様みたいなものだ

 もう死んでるけどね。


「ほら、こっちだよドラゴンさん!」

「…………」

「あれ、鳴き声が止んだ?」


 さっきまでは鬱陶しいくらい叫びまくっていた原初の竜が、いまは口を閉じて黙って、いや、息を吸い込んで?


 ま ず い !


 意味があるかわからないけど、なぎ倒された木々の陰へ飛び込む。

 直後、轟音。そして感じる熱。

 もちろんそれはゲーム的に再現された熱であり、制限された熱だ。これがリアルなら、わたしの血管は沸騰し、即死しているに違いない。


 わたしに向けて原初の竜から放たれたのはドラゴンの代名詞、ブレスだった。

 原初の竜のアクティブスキル、プリミティブブレス。見た目はシンプルな極大火炎放射、けれど威力も極大。

 周囲の木々は燃え盛り、わたしが隠れていた倒木はほぼ炭化している。直撃を回避したはずのわたしもHPが削れているし、これはそう長くはもたないか。


 ただこれでわかったこともある。

 やっぱりというべきか、この原初の竜は前作に比べて弱体化している、という事だ。

 エンドコンテンツの一つとして実装されたボスである原初の竜は、当然育ちきった戦闘系キャラクターが戦うことを前提に作られている。そんなボスの攻撃を掠りでもしようものなら、回避はともかく、防御系スキルをひとっつも上げていない上にHPも初期状態なわたしが耐え切れるはずがない。


 逃げ出したクルーアの姿は、もう見えない。

 今頃は誰か他のプレイヤーを見つけるか、街までたどり着いているだろうか?


 少なくとも、原初の竜の射程範囲からは離脱しているはずだ。守るべきペットが安全圏にいるのなら、わたしがここで戦い続ける必要もない。

 が、戦ってはいけない理由もない。

 これはゲームで、原初の竜はボスだ。プレイヤーがボスへ挑むのに、理由はいらない。


 幸いさっきドロップしたマシュマロは食べてしまったから、最悪神殿で復活しても失うアイテムも特にない。

 装備は消えないからね。これでもし消えるようなら、買ったばっかりの満月輪がもったいなくて逃げ出しただろうけど。

 

 尻尾の回避も慣れたもので、曲芸も駆使して横薙ぎの尻尾を飛び越える。

 そうだ、本来戦闘で使いそうもない曲芸が行かせるなら、あのスキルも使えるんじゃ?

 避けた直後の尻尾にそのまま飛び乗ると、原初の竜の背中へと駆ける。そして背中のごつごつとした突起をぐわっしと握り、登る(・・)



 おお、本当にできたよ!

 わたしが目をつけたのは登攀のスキル。渓谷を登る際手に入れたアレだった。

 曲芸で尻尾を飛び越えられるなら、登攀で背中を登れたっていい。たぶんこれ、スキルがなくても出来そうだけど、スキルがあるだけプラス補正が掛かってると思うんだよね。原初の竜は暴れまわっているのに、あんまり揺れを感じず登ることができる。


《登攀が前回通知より10上昇しました》


 レイドボス登山で君も登攀スキルを上げよう!

 流行るかな? 無理か。いや、このゲームのプレイヤーたちなら或いは。

 しかしこの位置はいいね。尻尾も、爪も、ブレスだって届かない。羽はあるけれど、背中の内側になんて届かないもんね。


 そんな調子でひょいひょい背中を登っていると、不意に揺れが消える。

 あんまり感じないではなく、完全に感じない。


 そして背中がゆっくりと傾いていく。

 原初の竜はまるで四足歩行の獣のように両手を地面につける。二対四枚の翼を大きく広げ、長い首をゆっくりと、そして大きく回しながら咆哮した。


「グルオオオォォオォッッ!!」


 懐かしいな、前作における原初の竜の登場演出だ。

 この登場演出がめちゃくちゃデータ量が多くて回線に負荷が掛かりまくり、多くのプレイヤーが回線切断という憂き目にあった。当時より遥かに高いクオリティ、そしてデータ量にも関わらず落ちる気配は一切ない。さすがVRゲーム専用デバイスと回線だ。

 

 咆哮に伴って景色が微妙に歪む。原初の竜が世界へ直接影響を与えているという演出の一つで、特にダメージはない。

 そして最後にひと際大きく咆哮し、演出が終わる。


「グオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!!!」


 その瞬間、わたしの視界が暗転した。




【disconnected】



 


 目の前には美麗なVRを上回る情報量の、ぼろぼろの部屋。

 つまり、現実、リアル。

 ああ、そうか、また落ちたのか。やっぱり負荷が高いんだなぁ、あの演出……。


 いや、そんな馬鹿な! 昔ならいざ知らず、VRの超重量級データをやりとりする昨今、どんな低速回線だってゲームで落ちるなんてありえない! 

 い、いや、いまはそんなことよりさっさとログインしなおして……って、VRデバイスどう見ても全損してるうううう!?


 そりゃそうだよね、燃えてたもんね!

 それによく見たら結構びしょびしょっていうか、部屋も機材も水で濡れている。これ消防車とか来たパターンかな?

 わたしの死体も残ってるし、残って。

 

 え?


 あれ?


 誰これ?

 

 全身炭化して水に濡れてぐちょぐちょなのは横に置いといたとしても、明らかに体格が女性の、もっと言うなら少女のものじゃない。

 わたしの、わたしがわたしの死体だと思っていたソレは、よく見たら似ても似つかない男性の死体だった。


 いや、働いてたんだから少女じゃなくて女性の身体のはずだけど、え? いやわたしが死んだのって少女って言える年齢だったよね? だってわたしが死んだのって、14歳の時だもん。


 あ、れ?

 なんか、思い出してきたかも。わたしが死んだの、最近じゃないや。

火災周りは設定とは別にツッコミがあると思うんですが、大目にみていただけると嬉しいな、なんて(ちらちら

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