011 巨大武器ってイイよね!
お待たせしました。
《邪法が5上昇しました》
うん、上がると思ってた。というかいい加減一々出てくるのがうざったいな、この上昇表示。
「ねえクルーア。上昇表示はタブわけしたけど、その上で新規取得スキルや10レベルごとに表示、みたいにできない?」
「お前のペットならたったいまお前に食われて死んだが」
「あ……て、てへ?」
「血まみれの顔でやっても怖いですよラクリマさん……」
おっと、ちゃんとぬぐっておかなきゃ。
これでも前作に比べたら大分マシな表現になったんだけどね。あっちでは普通に食らいついてたから、VRでやったら立派なカニバリズムだ。
もちろん人型以外にも使えるから爬虫類でも虫でも食らいつくことになる。
生理的に受け付けないという人も多いだろうし、制限コードにも引っかかるからさっきみたいな、比較的綺麗な演出になったんだろう。
だったら血は何故残したって話だけど、そこは譲れない一線だったんだと思う。
わかるよ、だってここの運営だもん。
「それサクリファイス系のスキルか? もうそこまでスキルあがってるんだな。前作だと邪法30くらいのじゃなかったか?」
「いや、引継ぎの固有スクロールがこれだった」
「ああ、なるほど。回復どんな感じ? 固定?」
「んー、割合固定みたい。最大HPの3割回復。それで対象に固定6000ダメージ、貫通付き」
「即死じゃないだけマシというべきか、ダメージだから即死無効が無効なのを嘆くべきか」
「固定6000ってすさまじいですね、チートですか」
「ゲームでチートっていうの普通に悪口だからね!? 違うから、自分のペットにしか使えないし」
説明文だと眷属ってあるけど、ペット以外に適応されることってあるんだろうか。
例えばゴブリンキングみたいな王種ならゴブリンに使える、とか?
PEVRになってからまだ見てないけどね、ゴブリン。
「ていうかどうするんだこの娘、PEVRになってからのペットの仕様とかわかんないぞ」
「このまま放置して神殿で復活っていうのは」
「ペットとかAIのことはわからないですけど、女の子を放置するのはひどいと思います」
だよねぇ、それはさすがのわたしもどうかと思う。
本当は適当に穴ほって埋めるのも考えてたんだけど、メシマジーナにどん引きされそうだから止めておこう。
仕方ないのでクルーアの死体をよっこいしょと背負う。
うっわ、軽い、羨ましい! っていまのわたし幽霊だから軽さでは勝ってるか。
「へぇ、死体背負えるんだな」
「なんか、やってみたらできたね。自由度高いなぁPEVR」
「大丈夫です? その状態でモンスター出てきたら危なそうですけど」
「こっから街まではすぐだし、大丈夫じゃねえか?」
はい、実際大丈夫でした。
そこからは特に何事もなく街へ到着。多分さっきのおサルさんたちはクエストボスみたいな立ち位置で、クエスト終了まではアレくらいしか通り道に出現しないようになってたんじゃないかな。
クエストを受けてないプレイヤーが一緒にいたらどうなるのか、とか疑問はあるけど、そこらへんは検証勢に丸投げしよう。わたしはエンジョイ勢なのでその辺はそこまで熱心じゃない。
冒険者ギルドで報告を済ませ、無事に依頼をクリア。
報酬の500Gと下級ポーションを貰う。ちなみにHPポーションだった。特にMPとかSTってついてない場合は全部HP回復用のポーションみたい。
《称号:冒険者を取得しました》
冒険者ってクラスじゃなくて称号扱いなのか。わたしのステータスが無職の冒険者という酷いことになっている。みんなもそうだと信じたい。
「なあ。これで臨時PTは解散だけど、これもなにかの縁って事でフレンド登録しないか?」
「「ナンパ?」」
「違うわ!? え、いや、そういう事になっちまうのか?」
まぁ、男一人に女二人だからね。
さすがにこの状況で†ブレイバー†を出会い厨扱いするのは可哀想を通り越して言いがかりだけど。
「冗談冗談、いいよそれくらい。わたしとしても真っ当なプレイヤーと知り合えて嬉しいし」
「あはは、わたしもです」
名前は大分アレだけどね。
「マジでその手の冗談はやめてくれな。こういうのって男の立場が一方的に悪くなるんだから」
「悪かったってば」
「そういえば、真っ当じゃないプレイヤーってどんな人がいるんですか?」
ああ、メシマジーナはネトゲ初心者なんだっけ?
真っ当じゃないプレイヤー、かぁ。
出会い厨は論外としても、悪質なプレイヤーキラーとかモンスタープレイヤーキルとか、露天詐欺とか、思いつくことはたくさんある。
あとは、性質の悪い姫プレイ、とか? ちなみに性質の悪くない姫プレイというのはあくまでも身内だけでそういう事をする場合で、悪いのは関係ない人にまで姫扱いを強要するようなのだ。本人は知らん振りして、周りの信者が勝手にやりましたとかいうのは本当に性質が悪い。
注意したいのは身内だけでわいわいしてる人たちは話してみると気さくなグループだったり、そもそも姫だと思われてた人がガチの攻略勢だったりすることも多いので、一概に悪質とは言いたくない。遊び方は人それぞれだ。
他人に迷惑をかけているわけでもないのに「ああいう遊び方してるやつは悪質だ!」って言い切るようなプレイヤーがいたら、それこそ悪質なプレイヤーだろう。
「あ、そういや掲示板に本物の幽霊がでたー、みたいな書き込みがあったな」
「死亡時の霊体じゃないんですか?」
「違うらしい。一応本人らしきプレイヤーも書き込みしてたみたいたけど、性質の悪いいたずらも悪質なプレイヤーに入ると思うぞ」
「あ、ごめん、それわたし」
「おい」
「えぇ……」
「本当に悪かったと思う、今では反省している」
冗談めかして言ったけど、運営には報告してあるからあのいたずらはもう出来ないと思う。
少なくとも外部の映像を取り込むのは制限が掛かるだろう。最初からかけとけって話でもあるんだけど。
ここの運営が単純に機能をなくすなんてしないだろうから、何かしらの代替スキルが来そうではあるけど。
なんやかんやあったけど、フレンド登録も無事に終えたところで解散となった。
メシマジーナは学校の課題があるらしく、†ブレイバー†は他のゲームの大会に備えて練習らしい。
「え、大会あるのに別ゲーに浮気してたの?」
「大会のほうは常日頃からプレイしてるゲームだし、新作ゲームが出た日にプレイしたくなるのはゲーマーの性だろ?」
なんて言われたら頷くしかなかったよ。
さて、二人と別れてやってきたのは神殿だ。
ペットを蘇生させるには専用のアイテムと調教のスキルが必要、なんだけど残念ながら調教のスキルも低ければ蘇生スキルも取得していない。
ただそれが必須なのは死んでしまった現地での蘇生時で、ペットの経験値が減少してもいいなら神殿で復活させてもらうことができる。
高レベルになってくると経験値を取り戻すのが大変だけど、残念ながらクルーアはまだレベル1なので気にする必要はない。
この辺はプレイヤーのパッシブスキルと大体同じ感じだと思ってもらえば大丈夫かな。
しかし気にする必要がある事はなくとも、気に障ることはある。
「おやおやおやぁあ? ご自分のペットすら生き返らせることができないとは! 軟弱な漂流者ですねえ!?」
「だから来たくなかったんだよなあああ!? いや、今回は自業自得なんだけどさ、本当になんでこんなにムカつく性格になってるの神官のAI!」
「仕方有りませんからぁ? 生き返らせてあげましょう!!」
「はいはい、お願いしますよっと」
「殺されました」
復活したクルーアは、開口一番そう呟いた。
わたしに背負われた状態のまま、首に腕を回したまま。
こう、ぎりぎりとわたしの首を締め上げつつ。
「ぐふ。はい、えぇ、まぁ、その。スキルのテストも兼ねて」
命の危険を感じたのでクルーアを降ろし、正面から向き合う。
「テストならその辺のモンスターをテイムして試しても良かったですよね」
「調教スキルあげたりテイムスキル覚えるのがめんど」
「良 か っ た で す よ ね」
「申し訳有りませんでした」
《モーション:土下座を習得しました》
【モーション:土下座】
完璧な土下座を披露する。
うわ、スキルですらないただのモーションゲットした。
自分で好き勝手に動けるVRゲームでいるのこれ?
「それで、あの後どうなったんですか?」
「あぁ、二人とはフレンド登録して解散になったよ。タイミングがあえばまた遊ぼうねって感じで」
「ついにマスターにもフレンドが(ほろり」
「いや、ほろりしてるところ悪いけど、わたしにだってフレンドくらい居たからね?」
生前の、それも前作をプレイしていたころの話だけどさ。
さて、上手いこと話が流れたのでこのまま次の目的を果たそう。
幽霊であるわたしには課題もなければ大会もない。ついでに食事もなければ排泄もないからゲームやりたい放題だ。
VRゲームに集中しぎて健康が疎かになる? 残念、既に死亡済みです。
そんなわたしがいまほしいのはメイン武器。現状は小石を拾って投げつけているだけだからなぁ。
このゲーム、なんでもできるから戦わなくても十分に楽しめるとはいえ、せっかくなら戦いだって楽しみたい。
わたしは結果的にネタキャラになってしまうだけで、ネタ装備やネタスキル以外使わないなんて縛りを設けてるわけじゃないのだから。
そういうのは縛りプレイゲーマーさんたちにお任せします。
神殿から離れてやってきたのは武器屋さん。こんな名前だけど防具もちゃんと置いてある。
店売り品しかないので特殊効果がついているようなすごい武器はないけれど、キワモノ武器も含めて基本は一通りそろっているのがいいところだ。
今回探すのは投擲武器。小石から投げナイフやクナイ、手裏剣、果ては爆弾と色々ある投擲武器だけど、その中の一つがわたしの目を惹いた。
円月輪、戦輪、チャクラム、呼び方は様々あれど、共通しているのは円形の周囲に刃を備えた投擲武器という点。
リアルで使いこなせなんて言われたら、怪我が怖くてお断りだけど、幸いここは怪我を気にする必要のないゲーム内だ。
せっかくだからリアルじゃどうあがいても使えそうにない武器を選びたい。
いや普通の剣だってリアルじゃ一部の競技者しか使えないだろうし、いまのわたしは幽霊なので怪我もなにもないんだけど、そういう事じゃないのは伝わるはず。
「というわけでこれを選ぼうと思うの」
「本気ですか。チャレンジャーですね、マスター」
【満月輪】
種別:チャクラム
材質:鉄
必要筋力:15(30)
攻撃力:D+(D-)
わたしが選んだのは直系1mを超える巨大チャクラム。
これでも一応チャクラムなので片手で扱える。ただし両手の時に比べてステータス補正が下がるらしい。()内の数値が片手で装備した場合のものだね。
それでも巨大チャクラムを両手に持つというのは心が躍る。
「そしてわたしはこれを3つ買う!!」
「なんのために!?」
今日のクルーアはとてもノリがいい。
うん、こういう相手がいると楽しいね。ゲームのソロプレイって延々とスキルボタンを押していくだけみたいになるからなぁ。
もちろんそれがいいっていうプレイヤーもいるだろうけど、そういう相手にはサポートAI黙って着いていくだけだろう。
「まずこれを両手にひとつずつ装備します」
「はい」
《エラー:装備の必要筋力を満たしていません》
満月輪を両手で装備するなら必要筋力は15。しかし片手で装備する場合の必要筋力は30。
対してわたしの筋力は23。
「…………」
「あの、マスター?」
そしておもむろに腕立て伏せを始めるわたし。
「む、筋力が上がらない。表示を小数点以下に設定、しても表示されないって事は純粋に負荷が足りてない。うん、クルーア、乗って」
「は、はい?」
「わたしの背中に乗って、というか座って」
「え、え? わ、わかりました」
戸惑いつつも素直に正座してくれるクルーア。そういうところ好きだよ、うん。
そして腕立て伏せを続けるわたし。
「あの、すごく見られているんですが」
「もうちょっと我慢して」
「いくらわたしがAIでも、恥ずかしいものは恥ずかしいんですが」
「スキルレベル30まではそこそこ上がりやすいはずだし、多分あと20分くらい続けたら必要筋力満たすから」
「あと20分もこのままなんですか!?」
~10分後~
わたしの周りには腕立て伏せをするプレイヤーが増えていた。
中にはわたしのようにペットを背中に乗せている人や、アイテム化していたらしい大岩などを背負っている人も居るし、腹筋やスクワットをしている人も居た。
逆立ちをしながら腕立て伏せをしている人もいるけど、どこの格闘家だろうか?
最初は武器屋の横で腕立て伏せなんてしてるものだから怪訝そうに見られていたのだけど、わたし同様欲しい武器の必要筋力に満たなかった何人かのプレイヤーがわたしの意図に気がついた。そして真似を始めた。こちらとしては真似されたからといって困ることはなにもないので放置。するとどんどん真似するプレイヤーが増えていく。
結果、武器屋周辺は筋トレエリアと化していた。
「このゲーム、なにかおかしくないですか」
とはクルーアのぼやきである。
ついにサポートAIにすら訝しまれたPEVRの未来に乾杯!
本文に毎回ステータスを乗せると文字数が増えまくるので、重要時以外は時々こちらに乗せる方針で!
名前:ラクリマ
種族:ハーフリング
クラス:──
HP:20/20
MP:30/30
ST:40/40
パッシブスキル:
筋力 23
持久力 20
落下耐性21
死体回収25
シャウト12
水泳 8
回避 5
投擲 20
挑発 3
登攀 4
邪法 10
演技 5
曲芸 5
アクティブスキル:
【こいつ直接脳内に】【ストライクシュート】【精密射撃】【ジャグリング】
モーション:
【土下座】
称号:
《漂流者》《冒険者》




