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王都オーレリア 二 名前

少年は不思議な感覚に襲われていた。

それもそのはず。自分は無能力者だから、忌み嫌われていた。

そんな自分が、今、王都オーレリアの城、しかも、王の間にいるのだから。

(なぜ俺がこんな目に…)


数時間前


「私の従者〈マーキュリー〉になって!」

フードを被った少女、アリシアはそう言った。

アリシアはこの、王都オーレリアの第三王女である。

「しかし、なぜ俺なんかを従者に?」

従者。それは主人に絶対服従を誓った者。

契りを交わした者達にはそれぞれにマークが付く。絶対服従の証であり、主人である証。

しかし、この従者には、もう一つ仕組みがあり、主人の能力を、もしくは従者の能力を、共有することが出来る。つまり…

「俺と契りを結んでも、何も得られないぞ?」

そう、少年は無能力者。契りをかわしても何も得られない。しかし…

「私が欲しいのは能力なんてまがいものの力ではありません。私が欲しいのは、本当の力。あなたのような、無能力者でありながら、能力者と渡り合える力が私には欲しいのです」

「…」

おそらく、さっきの戦いを見ての感想だろう。

「でもな…」

少年は続ける。

「俺は見ての通り、無能力者で、この国生まれでは無い。この髪色を見たらわかるだろ?」

少年は、自分の髪の毛に指を指す。

少年の髪色は、とても美しいとは程遠い、銀色である。たしかに、この国の者は、大体金髪か、茶髪である。

無能力者でありながら、異国の者。さすがに一国の王女がそんな者を…

「そんなの関係ありません!!」

しかし、アリシアは、大きな声で言いました。

「従者にそんなの関係ありません。あなたの言葉で言えば、そんなの誰が考えたんでしょうね」

その言い方は前回、少年が言った言い方に似ていた。

少年は一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべ…

「…わかったよ。なればいいんだろ?」

めんどくさそうに髪をかきながら言った。

アリシアは、喜びながら、

「ありがとうございま…」

「本当の目的を言え」

アリシアは感謝の気持ちを伝えようとしましたが、その言葉を少年が遮った。

「え?」

アリシアは困惑している。

「あまりにもおかしいだろ?いくら無能力者が良いって言っても一国の王女が俺みたいな異国人を従者にするはずがねえ」

少年の言葉に、アリシアはただ黙っていること以外できない。少年は続ける。

「やっぱりな。なんかほかの目的があるんだろう?」

「…」

「だんまりか…そのまま黙ってちゃ、何も…」

「主従の契り〈エクスマーキュリー〉」

少年が言い終える前に、アリシアはとある術を発動させていた。

「おい?!」

「理由など関係ありません。私はあなたの力が必要なんです」

「だから、その理由を…」

そうこう言っているうちに、少年の右腕に、アリシアの左腕にそれぞれ、紋章が浮かんだ。

ひし形のような、いびつな形をしている。

「私たちらしい紋章が出てきましたね」

「は?」

「私達の今の関係って、すごいいびつですからね」

「めんどくせえ…」

そんなやりとりをしているうちに、術が完了したのか、術式が消えた。

「しかし、なぜ成立したんだ?」

「何がですか?」

「主従の契りだよ」

主従の契りは本来、お互いが同意のもと発動するもの。今回少年は同意していないはず。

「同意しましたよ?」

「いやしてないはずだ」

「しましたよ。なればいいんだろって言いましたよね?」

「!!!」

アリシアはいたずらに微笑みながらそう言った。少年も何かを思い出したよかのようにそこから何も言えないでいた。

「まさか…あのタイミングで発動していたのか?」

「ふふっ」

こうして新たな主従関係を結んだ者達が誕生した。

そこには少年の声だけが響いた。


そこからさらに数時間後


「もう諦めましたか?」

「諦めるも何も、もうこの状態だと俺じゃ何も出来ねえよ…」

従者の契りを解除出来るのは主人のみ。つまり、アリシアでないと解除できないのだ。

「しかし、なぜ主従の契りのことを知っているのですか?」

アリシアは少年に疑問を投げかけた。

「主従の契りは、その性質上強力なため、上位貴族、それもごく一部の者しか知らないはず」

アリシアは続けて疑問を投げた。

主従の契りは、強力な能力なため一部の人間にしかその発動条件、本質は知られていない。

王族であるアリシアは知っていて当然だが…

「あなたは王族でも、貴族でもなく、無能力者です。なぜ、主従の契りの解除条件が主人にしか解除できないというのを知っているのですか?」

アリシアの疑問に対して、少年は何も答えない。

「もしかして、あなた…」

「今はそんなのどうでもよくないか?」

アリシアが言い終える前に、少年が遮った。

「今は、とりあえずあんたの従者だ。それでいいだろ?!」

少年が怒鳴りつけるように言い放った。

「それ以上でも、それ以下でもない!今はそれでいいだろ?!」

「…」

アリシアは圧倒されたように何も言えないでいた。

「俺の過去に何があろうと、あんたには関係な…」

「アリシアです」

「は?」

「私はあんたではありません。アリシアです。私はあなたと違ってちゃんと名前があるんです。名前で呼んでください」

アリシアは負けじと、声を出す。

「無能力者のくせに、名前あるなんてな…」

「あら…ならつけてあげましょうか?名前」

「は?いらねえよ」

アリシアはいたずらの笑みを浮かべ、少年は焦ったように早口でそう答える。

「遠慮なさらず。そうですね…」

「いやだからいらねえって…」

「名前がなかったら色々不便ですし…」

「従者でも、あんたでも好きなように呼べば良いだろう!!」

「そんなのダメです」

「なんでだよ?!」

「名前のない従者なんて前代未聞ですから!」

「そんなこと言ったら、無能力者の従者だって十分前代未聞だろ?!」

そんな夫婦喧嘩をしているような光景が半刻ほど続いた。

「「はぁ…はぁ…」」

お互い、 息切れしてしまい、痴話喧嘩終了。

少年が息を整え…

「わかったよ…」

「え?」

「名前…つけるの勝手にしろ」

少年が頭をかきながらそう答えた。

「わかりました。と言っても、もう決めてあるんですよ」

アリシアは笑顔で、そう答える。

「あなたの名前は、エクスです!」

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