王都 オーレリア 一 出会い
首都〜オーレリア〜
正式名所、王都オーレリア国
この世界の中心であり、象徴。
とても活気があり、みなの笑い声が行き交う。
しかし、それも表の顔。みなが幸せなわけがない。
みなが幸せなら、、無能力者も幸せである筈だ。現実はそんなことはない。無能力者たちは、能力者に歯向かえない。歯向かう力がない。
虐げられ、暴力を振られ、それでも必死に生きている。
どの世界もそうだが、人みなが幸せにはなれない。この世界もそうだ。
しかし、こんな理不尽な世界でも立ち向かう者もいる。
オーレリアとある裏路地にて
「やめてください!」
人気のない裏路地でその声は響いた。女の子の、それもまだ年端もいかない少女の声が。
「ぐへへ。こんな人気のないところで叫んでも誰も来ねえよ」
「諦めな、嬢ちゃん」
その少女の何倍もあるであろう大男が少女の腕を掴んで下品な笑みを浮かばせていた。その後ろには、その大男の仲間であろう細身の男が呆れたような表情をしている。
どの世界にもある誘拐の様子だ。
「やめっ!痛いっ!!」
「大人しくしてれば、痛くしねえよ」
「そんなフードなんて外して、顔を見せてくれ」
細身の男が近づき、少女が被っているフードを取ろうと、手を伸ばした。
「っ!?やめ…」
少女が止める間もなく、そのフードが取られた。
「おいまじかよ…こいつ、無能力者だぜ!!」
「ちっ、豚かよ…」
少女の瞳の片方が青紫色であった。つまり、無能力者である。
「豚でもいいや、ちゃっちゃと売っちまお…」
細身の男が苦虫を噛んだような顔をした。
それもそのはず、人身売買の場合、無能力者は大した価値がないからである。
「そうしやしょうか…」
大男も残念そうに少女を持ち上げ、連れていこうとする。
「そんなに価値がないなら、置いていけばいいじゃん」
どこからかその声が聞こえた。その声の主は大男でも、細身の男でもない。
「誰だ?!」
細身の男が声をあげ、周囲を見渡す。しかし、さきほどの声の主はどこにもいない。
「ここだよ。ここ」
その声は上から聞こえた。
その少年は、建物の間にあるロープの上にいた。
光の反射でその容姿は詳しく分からないが、おそらく少女と同じ歳だろう。
「よっと」
少年が飛んで男達の前に降りた。
そこで初めて、少年の容姿がわかった。
細身な容姿、目立つ銀髪。目が片方見えないぐらいの長髪。その目は…
「無能力者か…」
そう、目の色が青紫色だったのだ。
「うん、そうだよ。おじさん達がよく豚と蔑んでる無能力者だよ」
少年は屈託のない笑みを浮かべ、そう言った。
その言葉が引き金になったのだろう、大男が大声をあげた。
「ふざけるなよガキが!無能力者が、俺たち能力者に勝てるわけねえのによ!!」
大男が少女を下ろすと、
「強化〈ブースト〉!!!」と独特な構えと同時に声をあげた。
次の瞬間、大男の肉体は先ほどの1.5倍にもなった。
「へえ、強化か」と少年は余裕のある表情を浮かべる。
「っ!!!調子に乗るなよガキがあああああ!!!!」
次の瞬間、大男は、その巨体では考えられないほどの速さで襲いかかってきた。
「逃げてー!!!」と少女は叫ぶが、そんな声なんて届くはずもなく…
大男が少年に向けてその大きな拳を振りかざした。
少年は逃げることなく…
ドゴオオオオオオオオン
大男が襲ったところはまるで、隕石が落ちたような穴が出来た。
そして、その周りには血のような赤い液体が飛び散っていた。そう、あの少年の血だ。
「無能力者が…能力者に歯向かうからこうなるんだよ」
細身の男がそう捨てセリフをはいた。
「おい、もう行くぞ」
細身の男は、大男にそう言った。
しかし、大男は一歩も動かない。
「おい、どうした?早く…」細いの男がそう言った瞬間、大男は倒れた。
そして…
「ふう…痛かった…」
先ほどの少年がその場に立っていた。
しかし、顔は右半分なく、心臓のところから下がない。
普通この状態で生きている人間はいない。しかし、彼は無能力者。能力がない分、その生命力は底知れない。
少年の傷が少しずつ治っている。これも無能力者の脅威的な生命力のおかげである。
「しかし、なぜあいつが…?!いくら死なねえからって、強化されたあいつを…」
と細身の男が驚愕していた。
それもそのはず。無能力者が能力者を、しかも能力を使った状態で能力者を一撃で倒したのだから。
「一体何が…?」
その信じられない光景に、誰もが驚愕した。
「で、おにいさん。俺と…やる?」
そんな中、少年だけが、屈託のない笑みを浮かべ細身の男に問いかけた。
「っ…!!」
細身の男は明らかに警戒していた。まるで、見たことのない怪物を見ているかのような…。
「調子に乗るなよ!!束縛〈バインド〉!!!」
細身の男の右手から発光する紐状のものが少年に襲いかかる。
またもや少年は何も抵抗せず、縛られてしまった。
「魔獣〈ワービースト〉をも縛り上げる紐だ。無能力者が解けれる訳がねえ!!」
細身の男は得意げに縛りあげる。
「くっ…」
少年を縛りつけている紐が明らかに強くなっている。
そして…
ぶしゃあああああああああ
限界まで縛り上げられてしまい少年は木っ端微塵になってしまった。
「くっくっくっ、どうだ!!所詮は無能力者!!豚なんだよ!!!」
明らかにそれは、人ではなくただの肉の塊であった。
「まあそれでも復活するんだろうな。豚が!」
その言葉通り、その肉塊は少しずつ再生し始めた。
「ちっ!」
細身の男は明らかに苛立っていた。
「こんなやつ、相手するだけムダだ」
細身の男は少女の手を引く。しかし、
「待ってよ、おにいさん…」と細身の男の足元から声が聞こえた。
細身の男が驚愕し、足元を見るとそこには、少年の顔と、右手がそこにあった。
顔と右手だけがあった。
「はああああああ!!?」
細身の男の顔から明らかに血の気が引いていた。
「おにいさん、無能力者が能力者に勝てないって、誰が決めたの?」
「そ、そんなの…一般常識じゃねえかよ!?」
「ふーん…じゃあさ…その常識…覆してあげるよ!」
その瞬間、少年は自分の骨を1本折り、その骨を、細身の男の横腹目掛けて刺した。
「いぎぃぃ!!」
細身の男がそのままその場に倒れこんだ。
「ふぅー…再生完了…」
少年は、まるで何事もなかったかのように復活していた。
「一体…何が…?」
細身の男は横腹を抑えながら、少年に問いかけた。
「簡単だよ?僕の骨をおにいさんの横腹に刺した。それだけ」
「そんな…ならあいつは…?」
細身の男は、倒れている大男の方を見た。
「あああ、あっちのおじさん?おじさんには麻酔玉を潰されるのと同時にぶつけただけ。魔物でも簡単に効く麻酔だから、ちょっとの間目が覚めないかな?」
「くっ…お前…一体何者だ…?」
「通りすがりの無能力者さ」
「ありがとうございます!」
少女は少年に頭を下げ、謝罪している。もちろん、フードは被っているし、あの路地裏離れている。
「気にしないで。人助けをしただけだから」
「人…」
少女はその言葉に少し引っかかる。
「あなたもそうですが、私も無能力者です。人ではありません」
この少女が言っている意味、それはこの世界の常識であり、みなが知っていること。
しかし、少年は…
「そんなの、誰が決めたんだろうな…」
「え?」
「だから、そんなくだらないこと、誰が決めたんだろうな」
一瞬意味がわからなかった。いや、誰もが疑問に思っておきながら、誰にもわからなかったこと。
それをこの少年は単純に疑問に思い、解こうとしている。
誰もが一度は感じたその事を、しかし、誰にもわからなかった、その疑問を…
「あなたは強いですね…」少女は小さい声でそう言った。
「強かねえよ…俺は…」
少年はそう答える。しかし、その顔はどこか寂しそうな感じがした。
「本当に…あなたは一体…」
「俺に名はない。親もいない。それが無能力者〈俺たち〉だろ?」
そう、無能力者たちに親はいない。正確にはいるのだが、生まれてすぐ孤児院に入れるか、捨てられるのかのどちらかだ。
「俺は、親に捨てられたんだよ。暗い暗い森の奥でな」
無能力者は死なない。いくら魔物に襲われても。
だから、この少年は生き残ってこれたのだろうか。
「あんたもそうだろ…?」
少年は少女は睨んだ。
少年は少女が少し、気に食わなかったようだ。
明らかに整った服装。綺麗な肌。色々な無能力者を見てきたが、これほどの綺麗な奴は見た事がなかったからだ。
迫害の対象である無能力者に、これだけ綺麗なのは何故なんだ。その疑問が少年の中に浮かんだ。
少女はずっと黙っていたが、意を決したように口を開いた。
「私は間違いなく…無能力者です。しかし、親にも見捨てられず、名前もあります」
「は?そんなわけないだろ?そんな愚かな親が…」
「この国の王です」
少年が言い終える前に少女が口を挟んだ。
「私の父は、この国の王、ウィリアム・フォン・オーレリアです」
「は?」
少年には、この少女の言っている意味がわからなかった。
「そして私の名前は、この国、王都オーレリア国第三王女、アリシア・フィン・オーレリアです」
そうフードかぶった少女、アリシアは言った。
「え?だってお前…無能力者って…は?」
少年は明らかに狼狽えている。
「だって、この国の王は積極的に無能力者の迫害をしてるじゃねえか!?」
そう、この国の王、ウィリアム・フォン・オーレリアは積極的に迫害をしている。
そんな王の娘が無能力者なのだから、少年からしたら頭の中で混乱するのも当然である。
「でも、事実なんです。私はこの国の王女でありながら、無能力者なんです」
「じゃあなんで、あの王さんは無能力者を迫害してんだよ?自分の娘も無能力者なのに」
それは当然の疑問である。普通を自分の娘を守るために制度を変えるはずである。しかし、現に無能力者は迫害を受けている。これは、紛れもない信実である。
「それは、私にもわかりません。お父様が何を考え、なぜこのままにしているのかは…なので…」
アリシアは少年に近づき…
「私はあなたの力が必要なんです!私の…従者〈キューショナー〉になってください!」