その8
黒マントの男は、瞑想状態に入った。
今いる空間を瞬時に飛びぬけ、レゴブロックで遊んでいる華音のいる部屋へ降り立つと、ゆっくりと近づいた。
華音もまた、夢の中にいて、現実から離れている。
「お嬢ちゃん、おじさんと一緒に、楽しいところへ行こうか」
振り向いた華音は、じろりと男を見たが、ぷいと顔を背け、目の前のレゴに再び取り組んだ。
「嫌われちゃったのかな…?」
「いいえ。無視しているんです」
「…君は…!」
「高橋悠斗! 華織ちゃまと華音を守る仮面ライダーだ!!」
変身ポーズを取った悠斗が、男に飛びかかりキックする。
「うっ」キックをみぞおちに食らった男がよろける。
「失せろ!」
「う…」口を押える男。
「これ以上、何かするようなら…」悠斗の姿が華織に変わる「許さないわ」
男はふらつきながらマントを翻し、姿を消した。
* * *
「悠斗くんは、西園寺の“命”の依り代だったか…それを直接突破するのは、さすがに無理があったな…」
黒マントの男は目を開けると、ゆっくりと顔の汗を拭いた。そのタオルを受け取る、もう一人の男。
「では、どうなさるおつもりですか」
「依り代は双ツ君にしよう。姫君のほうで」
「ですが…」
「清流旅館で布石は打ってある。こういう時のためにな」
黒マントの男は、ペットボトルの水をゴクゴクと飲み干すと、立ち上がり、マントを取った。
* * *
奏子に手を引っ張られ、翼のところへ戻った龍だったが、華織からの電話で席を外した。
つまらなそうな奏子に、翼が尋ねる。
「ねえ、奏子。何で咲耶ちゃんに石を渡したの?」
「うーん…よくわからない」
「わからないのに渡したの? 四辻の石は大切なものだよ?」
「わからないけど、わたしなさいって、いわれたとおもう」
「誰に?…って、おじいちゃまだよね」
自分の言葉に思わず笑いそうになる翼。
「うん…でもね…」
「でも何?」
「わたしなさいっていわれた石はわたさなかった」
「何で?」
「とりかえっこしたほうがいいって思ったから」
「何と何を取り換えたの?」翼が奏子の手をやさしく握る。
「咲耶ちゃんにあげる石と、まこちゃんにあげる石」
「その二つは逆だったの?」
「逆?」
「最初に咲耶ちゃんに渡せと言われた石は、咲耶ちゃんに合ってなかったの?」
「うん。ぜんぜんちがう。言いなりになる石。咲耶ちゃんはおひめさまだもの、そんなのにあわないでしょう?」ニッコリ笑う奏子。
「そうだね」クスリと笑う翼。
「それで…もう一つの石は、まこちゃんにあげるの?」
「うん」石をバッグから取り出す奏子。「この子は、まこちゃんが持っていたら、シシャモ仮面のぶきになるとおもうの」
「…充くんが使うってこと?」
「充くんは、まこちゃんをまもらないと。だって、およめさんだもの」
嬉しそうな奏子の頭を、翼はやさしく撫でた。
「そうだね。お嫁さんは守らなくちゃいけない」
「おにいちゃまは、まりりんをまもるの?」
「ああ」
翼は力強くうなづいた。
* * *




