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その19


 八角堂では、紗由を中心に円を描くように子供たちが位置していた。

「出席を取ります」名簿を見ながら、紗由がコホンと咳をする。「まーくん」

「はい!」

「まこちゃん」

「はい!」

「華音ちゃん」

「うーたん!」


「ねえ、いつまで続くの、これ」恭介がつまらなそうに充につぶやく

「うーん」


「恭介くん」

「は、はい!」

「充くん」

「ラジャー」

「奏子ちゃん」

「はい」

「まりりん」

「はい」


「あとは…赤ちゃんたちと、にいさまたちですね」紗由は再び名簿に目をやる。

「僕と翼と大地はいるから」龍が言う。

「にいさま。これは儀式です」

「ごめんなさい、紗由ちゃん。龍くんのぶんも、奏子がおへんじしますから!」

「…わかりました。おてすうをおかけします、奏子ちゃん」

「いいえ。龍くんのためですから!」


 ばつが悪そうに紗由を見る龍。

「では、赤ちゃんたちです。咲耶ちゃん、星也くん、凛くん、大斗くん…みんないますね」

“出席取ってない!”みんなが心の中で突っ込む。


「それで紗由。どうするわけ?」

「みんなの力とお願いを、このほうきに込めてください」

 紗由はテーブルに乗っていた箱を開け、ニッコリ笑った。


  *  *  *


 華織は、神箒の箱をテーブルの上に置くと、言った。

「一条の先の宮さま、四辻の先の宮さま。どうか、あなた様方の思いを、ここに込めてくださいませ」

「ですが、私にはもう…」戸惑う奏人。

「今のお力の問題ではございません。孫たちの幸せを願う気持ちをここへお乗せください」

「孫を愛しむ気持ちに“命”どうこうは関係ありませんな」

「一条の先の宮さまは、ただの“じいじ”として、華音の幸せを願う人間として、華音に力をくださいました。それでよろしいかと存じます」


 奏人のほうに向きなおる華織。

「四辻の先の宮さまは、その大望のため、お力を九条の若姫と、久我の若宮に差し上げた」

「私は“じいじ”失格だ」無表情に言う奏人。

「それなら私も“ばあば”失格ですわ」

「華織さまは、退位の前にお力をどなたに?」一条央司が尋ねる。

「命宮に」

「風馬くんではなく?」驚く奏人。

「あの子の力を今強めれば、さらなる諍いの元になりますわ」

「なるほど」央司がうなづく。「進くんに渡せば、やがて紗由ちゃんと悠斗くん、大斗くんに渡る。その先にいるのは、翔太くんであったり、華音であったり…」


「風馬には、力は与えませんでしたが、今まで抑えて封じていた部分を解きました」

「あれで抑えていたと…」央司が苦笑する。

「そして、残りの力はこの神箒を通じて翔太くんへ」微笑む華織。

「龍くんや紗由ちゃんではなく?」奏人が尋ねる。

「この神箒を60年守るのは翔太くんですから」


 央司が笑い出した。

「華織さん。私は今始めて、力を他者に渡したことを後悔しましたよ。あなたの見る未来を私も見たかったものです」

「まあ。そんなことをおっしゃりながら、へそくりは出し惜しみなさるんですのね」

「いやいや、そんな」

「羽龍がその家にある限り、そこに歴代“命”の力は半分程度は温存されますわ」

「羽龍か…もう何年も会っていないが…」奏人が遠くを見つめる。


「私、伊勢で最後にわがままを言いましたの」

「それはどのような?」

「羽龍たちと、羽童たちが自分の住まいから外出し、自由に会合できるよう、提言して参りました」

「ほお。それはまた…」

「“命”たちは接触禁止の戒めを各所で破ってきました。もはやその戒めは、あってなきがごときもの。そのお目付け役に彼らは適任かと」


「“宿”の四神たちが文句を言いそうですな。自分たちも外に出たいと」

「羽童の中に入って、うっかり外に出ればよいのでは?」

 奏人の言葉に笑う華織。

「変装して動き回るのはお得意でしたわね」

「手厳しいな、華織さんは」

「…ご指摘の通り、それも可能です」


「時は満ちました」

 テーブルの上の神箒の箱を開ける華織。

「これは…!」声をそろえる奏人と央司。

「ここに、子供たちが思いを込めましたの。バラバラで拙い破片ではありますが、皆、真摯に青龍さまに思いを届けようとしております」

「ここに四辻の先の宮と私が思いを込め、来週行われる“赤子流怒”の大祭に用いるということですか」

「いいえ。この神箒はいったん封印します」

「どういうことですか」奏人が華織を見つめる。


「この神箒を開くのは60年後になります」

「60年後の…真大祭に起きる何かに備えるということですか」

「はい。開くのは、翔太くんや紗由ですらないかもしれません」

「今回の大祭の神箒は?」

「今までのものを使います。そこには今宵、孵化される新たな青龍さまが鎮座まします」

「つまり、清流旅館は双龍でお守りすると」

「はい。そして若龍さまを、周囲の宿の四神、鳳凰さま、白虎さま、玄武さまがお守りするのです」


 央司と奏人はしばらく黙り込んでいたが、どちらともなく立ち上がり、神箒の上に手を添えた。

「60年後の未来に」

 華織も手を添える。

「子供たちの未来に」


  *  *  *


 紗由は神箒の箱を何度もなでながら、華織に尋ねた。

「おばあさま、この子は探偵事務所であずかりましょうか?」

「そうねえ…それもいいかもしれないわね」

「みんなで、だいじにだいじにしますから」


 華織は、紗由の頭を愛おしそうになでると、その手を窓にかざした。

“子供たちの未来に”


 コンコンとドアがノックされ、進が現れた。

「ベイビーサーチャーズの撮影準備が整いました。お二人とも八角堂までおいで下さい」

「はーい」

「ありがとう。今行くわ」


 華織は紗由と手をつなぎ、ドアへと向かう。

 そして、軽く振り向くと、神箒に小さく一礼した。


玖ノ巻 終 続いて 青龍之巻 その1へ


  *  *  *


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