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その16


 夕方、戻った華織は、弥生と一緒にいた。


「どうかこの神箒に、その力をお納めくださいませ、西園寺の“命”…いえ、華織さま」

「今の私がそんなことをしたら、この怒りも一緒に青龍さまの中に沈めてしまってよ」

「それが青龍さまの望みです」

「一連の歪みと淀みを引き受けてくださると」

「はい」

「先々それらが別の怒りを引き起こします」笑いだす華織。

「60年後の真大祭で、紗由ちゃんと翔太が力を合わせ、何とかするでしょう」

「翔太くんが苦しむことになるかもしれなくてよ?」


 弥生は天井を見上げた。

「…青の龍王の話はご存じでいらっしゃいますよね」

「ええ、もちろん」

「願いを一つだけ叶えてくれる権利を、義父の跳治は“命魂”と呼んでおりました。彼はそれを先送りにしたため、主人が2つ持っております」

「承知しています」

「その2つと、鈴音のぶん、合計3つを翔太へ先送りさせます。それでも足りないのなら、翔太たちの子供の分も含めましょう」

「弥生さん…」


「あなたさまは、おひとりで背負い過ぎです。四辻の先の宮は、そこに付け込もうとなさった」

「龍が阻止してしまったわ」笑う華織。

「それが神の出された答えです」

「…あなたには、60年後の災いが見えていらっしゃるの?」

「いいえ。見えたのは、幸せそうに微笑みあう翔太と紗由ちゃんの姿だけです」

「そう…」

 華織は、カップに残っていた紅茶を飲み干すと、立ち上がった。

「この神箒に、今の私のすべてを込めましょう。あなたは、その証人となってください」


  *  *  *


 翌日、奏人は車で八角堂の近くまで来ていた。

 龍の容体については、力でサーチすればわかるのだが、それだけでは済まない何かを感じたからだ。

 翼や奏子のことも気にかかっていた。自分の思惑も伝わっているだろう。


 自分の建物でありながら、なぜかそれ以上は足を踏み入れられずにいた奏人の前を、一台の車が通りすぎた。

 八角堂の門の前に止まったその車からは降りてきたのは、袴姿の華織だった。

“華織さん…?”

 そして八角堂のドアが開き、華織に向かって歩いてきたのは、他でもない翼と奏子だった。そして二人も袴姿だ。

 二人は華織に招きに従い、車に乗り込み、車はすぐに発射した。

「翼! 奏子!」


 奏人は茫然と車が去った方向を見つめた。


  *  *  *

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