その14
「ここは…」
意識を取り戻した龍の周囲には、華織、躍太郎、風馬、澪、華音の5人が集まっていた。
「龍…!」華織が龍の手をぎゅっと握る。
「おばあさま…」起き上がろうとする龍。
「無理…しないで」華織の頬を涙が伝う。
「ごめんなさい、おばあさま」
「まったく。華音より手がかかるな、おまえは」躍太郎が笑いながら龍の頭をなでた。
「グランパも…ごめんなさい。でも…」
「わかってるよ、龍」風馬が声を掛ける。「幸い、擦り傷と軽い脳震盪だけで済んだが、ちょっと間違えれば大変なことになってたんだぞ」
「柔道で受け身習ってるし」
「まったく。そんなとこ周ちゃんに似なくていいから」ため息交じりの風馬。
「んばしゃ…」華音が華織の手をそっと握る。
「華音…心配してくれてるの?」
華織は、華音を抱き上げると、龍のベッドの上に座らせた。
「大丈夫よ。龍はもう元気だから」
「うーたん…」
「ああ、そうだった。…悠斗くんに助けてもらったんだ、いろいろ」龍が言う。
「うーたん!」うれしそうな華音。
「おばあさま。僕のこと心配する前に悠斗くんに無理させすぎ。彼の思いに甘えすぎだよ」
淡々と言う龍に、躍太郎が割って入ろうとする。
「龍、それは…」
「彼、夢はたがえたって言ってた。その後の結果を僕は見たんだよね? 華音が元々、僕より強い力を秘めているのはわかってる。おばあさま以外の、強靭な力も感じた」
「うーたん!」
「なんでも、うーたんなんだな」笑う龍。「まあね…この華音と一緒になるんなら、それくらいは出来ないといけないのかもしれないけど」
「もちろん、華織だって、わかってるよ」躍太郎が言う。
「わかってないよ!」
大声を出す龍に、皆が息を飲む。
「おばあさまは、グランパが守ればいい。華音は風馬おじさんと澪ちゃんが守ればいいじゃないか! 人にやらせてたら、四辻のおじさまと同じじゃないか!」
沈黙が続く室内。
ドアをノックする音がした。それに答える躍太郎。
「どうぞ」
「失礼いたします」部屋に入ってくる進。「華織さま。ヘリのご用意ができました」
「ありがとう、進ちゃん。いま行くわ」
龍の顔色が変わる。
「おばあさま…どこへ?」
「自分がしたことには、責任を取らなければいけないわ」
華織は龍の頭を二度撫でると、背を向け、部屋を出ていった。
* * *
八角堂から少し離れた、大きな別荘の前の駐車場に、一台の車が停まった。
降り立つ一人の男性。
別荘の入り口から奏人が出て来る。
「一条先の宮さま、ようこそおいで下さいました。改めて、反対表明をしに?」
「…いえいえ、お美しい佇まいなので、ちょっと寄らせていただいただけですよ、四辻の先の宮様」
「それではこの庭園を楽しんでいって下さい」
「それから…お慰めの言葉をと思いまして」
「…え?」
「あなたも私も、もう力不足です。未来の御子たちに力を渡し封じ込めたというのは、そういうこと。引き際を見きわめましょう」
一条央司はにっこり笑うと、車へと戻った。
* * *




