その12
黒塗りの車の後部座席に並んでいる四辻奏人と龍。運転席には四辻の命宮、星合がいる。
「僕に何かしたら、翼と奏子ちゃんもただではすまない。それだけは承知しておいてください」
「私が君に何かするとでも?」
「少なくとも、この会話の後、僕の記憶を封じようとするのでは?」
奏人が楽しそうに笑い出す。
「君は誰より華織さんに似ている」
「本題に入りましょう、四辻の先の宮。あなたの最終目的は、あなたが今いる“言挙”、“直霊”、元“禊”と統合した“命”。これらすべてを統合し、そのトップに西園寺華織を立たせることですよね?」
「なぜそう思うんだい?」
「おばあさまの大切な人間たちに近づき、不安を煽っているからです。ああ見えて、おばあさまは優しい人なんです。自分が出ていって何とかするしかなくなります。その“何とか”を見たい…いえ、見せつけたいのでしょう?」
「君は本当に賢いね」
「なぜご自分でトップに立たないのですか?」
「まつりごとに関わった人間には、いろいろな埃が付いてくる。それを払う労力が無駄だ」
「まあ、だから、政治に関わりつつ“命”の任に着くのは禁じられているのですよね」
「ああ」
「その禁を自ら破っておいて、他の人間に面倒を押し付けるのはひどくないですか?」
「出来る人間が出来ることをやればいいと思っただけだが」
「おばあさまの力を、いろんな人に見せつけて、恐怖政治のように従わせるつもりなんですか?」
「人聞きが悪いなあ。私はそこまで悪人かい?」
「じいじの親友が悪い人だなんてありえません。でも、今のおじさまは、昔のおじさまかどうか、僕にはわからない」
「その推理が正しいとして、君はこれからどうするんだい?」
「…家族に悲しい思いをさせてまで、するようなことですか?」龍の口調が強くなる。「あなたはただの理想論者の卑怯者だ!」
「星合、車を出せ」
言われた星合は車を出すと、低い声で言った。
「…龍くん、少々口が過ぎますよ」
星合からのサーチを思いきりはねのける龍。
「僕の記憶をあなたが封じるとでも?」
「うわあ!」
龍にはじかれた反動でハンドルが右に逸れ、星合は急ブレーキを踏んだ。
* * *
蒼井桜を眠らせた後、華織と躍太郎は、お茶を飲んじゃないでいた。
「桜さんだけじゃなく、雅さんまで操られるだなんて…いったい何人に対して力を使うつもりなのかしら」
「宿での修行、伊勢での精査、神命医の調整。それらなしで数年経っても、ここまで力が持つとは、やはりものすごいポテンシャルだ」
「面倒はいやだわ」
立ち上がり、窓を大きく開ける華織。
深く息を吸ったところで、ぴたりと動きが止まる。
「どうした?」
華織の傍らに立ち、彼女が窓に置いた手を握る躍太郎。
「…これは…!」
「龍が危ないわ」
華織は小走りに部屋を出ていき、躍太郎も後に続いた。
* * *




