天空の飯
僕がこの、羽田行きの便に乗ってからそろそろ2時間になるだろうか。
ふと横を見ると、隣の乗客は救命道具に息を吹き入れ過ぎて死んでいる。
酸欠に違いない。
CAの声が聞こえてきた。
そういえばホノルルを出発したのが大体16:00過ぎくらいだったから、そろそろディナーの時間だ。
大気圏に人が住んでいたら地上の飯は「臭い飯」、天空の飯は「シャバの飯」だろうか(笑)
((笑))
「Beef or Chicken?」
CAが聞いてきた。
「B i r d!」
「Oh……Chicken?」
「B i r d!!」
「?????????????????」
なんだこのCAは。テイクオフする際に聴覚を落としたか、耳にバードがストライクしたに違いない。
「B i r d!!B i r d!!」
「Chicken!?Chicken!?」
「B i r d!!!!!!!」
意味不明なCAとの会話にもうんざりしていたその時、誰かが僕の肩を叩いた。
「桜井氏、呼んだ?」
桜井とは僕の事だ。声の主は僕の旅に同行してくれているダチョウの、脱腸くんだった。
「いや、大丈夫。君の事じゃないんだ、ごめんね。」
バード、バードと呼ばれて自分が呼ばれたと勘違いしたのだろう。
彼には悪い事をした。後でお詫びをしなくっちゃあ。
「これはどういうこと!?」
急にCAが拳銃を突き付けてきた。
「おいおい、まさか。CA がハイジャックなんて笑えないぜ?」
「いいえ、違うわ。この銃口はあなたに向けている。あなた動物をみだりに外国へ持ち出してはいけないのを知らないの?これは立派な国際条約違反よ!」
「でも!」
「何よ。」
「鳥たちの楽園を、空を奪ったのは僕ら人間じゃないんですか?」
「わかってるわよ!!私だってこんな事したくない!誰よこんな条約決めたの!締結したの!」
「わたしです」
「あ、あなたは!」
「お前は!」
「「トーマス連邦秘宝館副館長補佐代理補佐!!」」
老人は怪しげな笑みを浮かべていた。
「私が、その条約を締結したのだァ!!」
とてつもない憤りを感じ、気付くと勝手に体が動いていた。
「ふざけるなあああああああ!!」
トーマスの顔面めがけ拳を振るったが、奴は身をかがめそれを避けた。
「甘いッ!」
トーマスは体勢をかがめると同時に、履いていたうわばきを脱いでいたのだ!
それを僕の顔面に鞭のように叩きつけた。
「グフゥアッ!」
「おいCA!私は確かに“Beef”と言ったはずだぞ?なぜ“Chicken”がいる?」
「Chicken!?牛肉のお食事をご用意したはずですが…あ……!!」
「まさか!」
僕は奴の真意に気付いてしまった。
「脱腸!逃げろォォォォウォウウォウイェイイェイォ――――――――――ッ!!」
しかし、遅かった。
脱腸は既に、奴の銃弾を胸に受けていた。。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!脱腸ォォォ―――――――――ッ!!」
僕はすかさず彼に駆け寄った。
「脱腸!しっかりしろ!おい!」
「……僕、もうダメみたいだ…………。」
「そんなこと言うな!まだ間に合うって!」
「空を飛べる鳥類に生まれて、君と天空の飯、通称:シャバの飯を食べたかったな…………。」
その瞬間、脱腸の首から力が抜けた。
「脱ッ腸!脱ッ腸!うわあああああああああああああああああああああああああ」
言いたいことも言えないこんな世の中じゃ POISON
(完)