2_初めての戦闘
私は、カルドボルグ大陸のプレイヤーの始まりの街、リンシアに着いた。そうすると、死んでもいいから今すぐに戦闘をしてみたい、という気持ちを何とかして抑え、一先ず宿を取った。
「外で戦うのもいいけど、まずは装備の確認しなきゃね」
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私の手持ちにあったものは、初期金額である1000Gと布と皮で作られた初期防具、そして一振りの脇差であった。
「……道具屋に行くか。ポーション欲しいし」
戦闘の準備の一環として、今の状況で1番必要なポーションを求めるべく道具屋へ向かい、そこで所持金いっぱいまでポーションを買った。
「そんなに買って何処へ行くんだい?近場の平原ならそんなに多くなんて要らないはずだよ?」
買わせてもらった道具屋の店主に言われると私は、
「そこまで遠くは行きませんけど、少しだけ森の方へ行ってみようと思ってます」
と、ほんの少しだけ嘘を混ぜて返した。すると店主に、
「あの森に行くのかい。あそこは危険だよ。その防具じゃとても太刀打ちできるか怪しいけど、まぁ、死なないように頑張ってね」
と、少し心配そうな声で言われた。
私は店を出て、街の外へと繋がる道へと向かう。
すると、目の前には涙目になりながら突っ走っていく男が1人。
彼は自分の身体が既に安全圏内であるこの街にあるのに、走りを止めなかった。
私の目の前を通り過ぎていく間に微かに聞こえたその声は、かすれ声ながらもはっきりと恐怖の色を出していた。
(ああはなりたくない、ああはなりたくない)
知らず知らずのうちに、私は心の中で呟いていた。
リンシアの街の北の門へ辿り着くと、当然と言えば当然なのだが、そこには門を守る衛兵がいた。
そしてその衛兵に、
「これからどちらの方へ行かれますか?」
と聞かれたので、私は、
「とりあえず目の前に見えるあの平原を真っ直ぐに進もうと思っています」
と正直に答えた。すると衛兵は、
「さっきに走り去っていったあの男のようにはならないで下さいね。あれはこちらとしても非常に困るんだ」
と私に訝しげな目でこちらを見て注意をした。
なぜその目をしたのかが気になり、私は、
「……何かあったんですか?」
と聞いた。衛兵はあの男の事情を私に話してくれた。
どうやらあの男はこのゲームが始まってからずっと森に行ってはモンスターに追いかけられながら帰ってくると言うことをしているらしい。そのおかげで多くの衛兵や街の人々、更には他の異邦人……プレイヤーの多くからも煙たがられているらしい。
「……だからですか、さっき私を変な人の目で見ていたのは」
さっきの目が腑に落ちた私は衛兵に問いかけた。
「ああ、そうだよ。念の為一応教えて貰いたい、貴女の名前は?」
「ヨミよ。それじゃ行くね」
そう言って私はそそくさと門をあとにする。
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夕暮れと共に私にとっての初めての戦闘が始まった。
それは突然の出来事であった。
「はあっ、はあっ……」
先程から夕日によって黒く見えるこの猪に追い回されていた。
走りながらも思考を巡らせる。
この状況を打開するにはどこかで1度止まり、突進してくる猪にまずは一撃をお見舞いする。
そんなようなことを思いつくが、猪は付かず離れずの距離で追いかけてきて止まらない。私は咄嗟の判断で前を向き、突進してくる猪の上を飛び越えようとしたが、失敗して転んでしまった。そうすると猪は獲物の私が止まったのを確認して再び私に向かって突撃してきた。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!」
私は痛みを感じながらもすぐに立ち上がって猪の胴体へ一撃を与えた。
胴体に一撃を食らったのが原因かは知らないが、動けなくなった猪を私は心臓と思われる位置に向けて一突きし、猪は絶命した。
「ふーっ、ふーっ……」
あまり実感は湧かないものの、これが私の初めての戦闘での勝利だった。
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さっきの戦闘の少しあと、私は少しだけ行ってみようと思っていたあの森の中に入った。
日も暮れ、ただでさえ視界の悪いこの森の中は夜になっても変わらず、むしろより悪くなっていた。ここのモンスターはあの草原より強いか、と言えばまだ会敵すらしていない為よく分からないが、恐らく強いと思われた。
その上、今の装備の状態では太刀打ちできるか怪しいとも思っていた。
「ふうっ、ふうっ……」
先程から目前の黒い狼に対してまるで心を見透かされているかのごとく太刀筋を読まれ、一撃も当たらないことに私は焦りを隠せなかった。
(焦らない、焦らない、焦っちゃダメ。焦ったら失敗する。いくらさっきのを回復させたからって、1度咬まれたら逃げられなくなる、逃げないけどね。
とにかく、焦らない)
私は意識を集中させ、まずは確実に一撃をあの黒狼に当てることだけを考え、わざと黒狼に対して隙を作った。そして黒狼は、
「ガルルゥゥゥ!!」
と吠え!私に向かって飛びかかってきた。その瞬間に私は右手に持っていた脇差を左手に持ち替え、飛びかかってきて無防備な狼の首に対して一撃を浴びせた。狼はそのまま動かなくなり、エフェクトと共に消えていった。
「…………危ない。斬り損ねてたら死んでたかもね、なんて。疲れたし帰りますか」
私はそのままこの危険な森を抜けて1度戻った。
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「どうでした?あの森は」
宿に戻ろうとする際、ヨミは夕方に会ったあの衛兵に話しかけられた。
「ダメ、今の状態じゃ」
ヨミは素直な感想を言った。そうすると衛兵は、
「死んでないだけ、逃げてないだけいいと思いますよ。今日私が見た中では初期装備のままで逃げることなく帰ってきたのは貴女1人でしたから」
と言った。私は少しだけ安心した。
「……そうですか。それではまたちょっとしたら」
「深夜の森は危険ですよ?」
「もっと見てみたいの、あの森を」
「……そうですか」
衛兵はやんわりと止めたものの、彼女は聞かずにそのまま宿へと戻っていった。
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宿に戻ったヨミは今まで全く見ていなかったスキルの欄を確認した。
この世界は職業がないので、当然職業固有スキルもない。よってスキルポイントの限界まではほぼ全てのスキルが修得できるようになっていた。
「ふーん、こうなってるのね」
彼女のスキル欄は初期武器として選んだ刀剣だけがアンロックされており、それは先程の2回の戦闘で得た経験値によりLv.2になっていた。
「まぁ、まずはレベル上げ、かな。今日は疲れたし、もう落ちようかな…………いや、ちょっとだけ休憩してからまたあの森に行こう」
そうしてヨミは少しの休憩を取り、ログアウトすることなく深夜の森へ向かっていった。
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