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第一話 宣言

※ 2017/09/15 前書きの内容削除。本文の変更ありません。

 大学の夏休みもそろそろ終わりに近付いてきたある日、それは突然の宣言から始まった。


「……ボク、ダイエットしようと思うんだ」


 ――はぁあ?


 ガラステーブルをはさんで向こう側に座っているコイツが、いきなりそんなことをのたまいやがった。


 たった今、昼食でカップ焼きそばの大盛に、マヨネーズをたっぷりかけて、それを完食したその口で。


 この昼食だけで、いったいどれくらいのカロリーがあったのやら。

 その食べっぷりの一部始終を見ていたオレが、「何言ってるんだコイツ?」と考えてしまったとしても、きっと十人中八人くらいは同感してくれるんじゃないか?


「あ、その顔は信じていないね? ボクは本気だよ?」

「いや、そういうわけじゃないんだが」


 コイツはこういうことがたまにある。

 ドカ食いをした直後にダイエットを言い出すんだ。


 ……いや、違うか。逆かな。

 きっと、ダイエットを言い出す直前にドカ食いをするんだな。

 食べ納めするようなものなのか?


 だから、信じていないわけじゃない。

 ただ、呆れているだけなんだよ。ちょっとだけね。


 それに……


 オレは視線をコイツの方に向けてみた。

 そしてあらためて眺めてみる。

 コイツの頬や顎の辺りとか、ウエストの辺りとか。


 ……ダイエットの必要、あるのかね、ホントに。


 コイツは別に太っているってわけじゃないと思うんだ。

 むしろ、少し痩せているくらいじゃないのか?

 なのに、なんでダイエットしようなんて思うんだか。


 ホント、女っていうのはよく分からん。


 そう。目の前にいるコイツは女だ。

 ちょっと言葉遣いが男っぽいかもしれないが、紛れもなく女だ。

 いわゆるボクっ娘ってやつだな。


 そして、まあ、なんつーか、オレの彼女だ。うん。


 オレ達二人の馴れ初め?

 いやいや、そういう話はまた今度ってことで、勘弁してくれ。


 ゴホン! 話を元に戻そう。


 コイツは別に太ってなんかいない。

 むしろ痩せ気味じゃないか。

 そういう話だったな。


 コイツの体重については、実は良く知らない。

 だが例えばだが、オレが片腕でコイツのウエストに手を回し抱き寄せると、ちゃんとオレの片腕はコイツのウエストを一周できてしまう。


 な? 十分だと思わないか?

 どこにダイエットの必要があるというんだ?


 もちろんコイツにはコイツの言い分ってのがあるんだと思う。


 どうやらコイツ、高校時代は少し雑誌のモデルをしていたこともあるらしい。

 オレは女子高生が読むようなファッション雑誌なんか見ないから知らなかったけど、大学の同級生の中には実際にコイツのことを知っているやつもいた。

 なので以前、ちょっと興味が沸いたので、載っている雑誌を見てみたいって言ったこともあるんだけど、もう古い雑誌なんで持ってないんだと。


 ホントかね?

 恥ずかしいからオレに見せたくない、とか?

 いや、コイツはそういうのを恥ずかしいと言うようなタイプじゃないと思うから、ホントに残していないのかもしれんな。


 それはともかく、そういうヤツにとっては、ほんのわずかなウエイトオーバーも看過できない事なのかもしれん。


 ちなみに、そういうヤツに向かって、絶対に言ってはいけない言葉がある。

 知ってるか?


 それは、「オレとしては、もう少し肉付きがあったほうが……」ってよくあるあのセリフだ。

 オレは以前、コイツに向かってそのセリフを口にしてしまって、見事に三日間口を利いて貰えなくなったことがある。


 マジで怒られるから止めとけよ?

 例え本人のためを思ってとか、本気でそう思っていたとしてもだ。

 これは、経験者からのささやかなアドバイスだからな?


 もし言うなら、たっぷりとオブラートに包んで、マイルドにしてからだ。

 例えばこんなふうに。


「オレの見た目ではその必要性は感じられないんだけど、なんでダイエットしようと思うんだ?」


 言った後、コイツの目を見る。じぃぃぃっと見る。

 内心ちょっとドキドキしていることは秘密だ。


 ……よし! 大丈夫だな。コイツの目が険しくはならない。


 これくらいならばセーフみたいだ。


「……この夏の間、お互いバイトとかが忙しくて、予定がかみ合わなくてさ、二人で何処にも遊びに行けなかったじゃない?」

「ああ、そうだな」


 オレは二十四時間営業のサービスステーション、一般的にはガソリンスタンドと言った方が通じやすいかもしれないが、そこでほぼ毎日シフトに入っているからな。ちなみに今夜もだ。もう少ししたらバイトに向かわないといけない。


 そしてコイツは塾の講師や家庭教師で、やはりこの夏休みはほぼ毎日バイトに励んでいた。どうやら今日はたまたまお休みらしい。なので、コイツのウチでこうやって二人で昼食を一緒に食べていたわけだ。


 彼女のウチで、二人で食事で、カップ焼きそば?

 そう思うヤツもいるかもしれないが、そこはツッコミ禁止な。

 二人とも結構好きなんだよ、カップ焼きそばが!


「だけど、来週の水曜日はボク、特に予定無いんだよね。確か、君もバイトが休みだって言ってたじゃない? だからさ、その日一緒にプールに行かない?」

「プール?」

「うん。ここからバスで二十分くらいのところに室内プールがあるんだよ。この夏にオープンしたばっかのやつが。以前、ちょっと話したことがあるんだけど、覚えてないかな?」


 ああ、そう言えば新聞の広告にそんなのが入っていた気がする。


 そうだ。思い出した。

 ちょっと料金はお高めのやつだ。

 だけど、その分空いててゆったりできるかもね、とコイツと話したことがある。

 アレの事か。


「で、昨日ボク、新しい水着を買ったんだよね。可愛いやつをさ」


 ――なん、だと!


「ふふん。見たくない?」


 ――見たい!


 などと、オレはがっついて即答したりせんぞ?

 例え本心ではそう思っていたとしても、だ。


「そうだな。まあ、いいんじゃないか。オレもその日はバイト休みで、他に特に予定も無いんだし」

「……相変わらず素直じゃないなあ。まあいいや。というわけで、ボクはその日に向けてダイエットをするわけさ。彼氏に水着姿を披露するために努力する。健気で可愛い彼女だと思わないかい?」


 それを自分で言うか?

 そもそもそういう理由なら、ダイエットだってホントは隠れてするもんじゃないのか?


 まあ、そういうところがコイツらしいとも思うが。


「というわけで、今からマヨ断ちします!」

「…………はぁあああああああ!?」


 オレは思わず声を張り上げちまった。

 

 今、なんて言った!

 マヨ断ち?

 それって、一時的とはいえ、マヨネーズをやめるってことか?

 コイツが?


 自他共に認める生粋のマヨラーたるコイツが?


 マヨネーズ無くして人類に進化無しなんて暴言を吐いたこともあるコイツが?


 いや、ちょっと待て。

 落ち着け、オレ。


 考えてみればマヨネーズは高カロリーな食品だ。

 ダイエットをするならば、それを一時的にでもやめることは、当たり前と言えば当たり前なんだ。


 なんらおかしなことではない。

 うん。そうだ。そうだよ。


 ……普通の人ならな。


 だがコイツは、ことマヨネーズに関してはまったくもって普通じゃない。

 彼氏であるオレが、自信を持って断言してやる。


 だって、皿に残るマヨネーズが勿体無いからと、サラダにマヨネーズをかけず、サラダを口にした後にマヨネーズを直接吸うようなレベルのマヨラーだぞ?


 今までだってダイエットを言い出したことはあるが、マヨ断ちなんて言い出したのは、オレが知る限り初めてだ。


 それどころか以前ダイエットすると言い出したとき、オレが「これを機会にマヨネーズを控えてみたら?」なんて口にしたら、見事に一週間口を利いてくれなかったこともあったよな?


 そんなコイツがこんなことを言い出すなんて、太陽が西から昇ってもありえないと思っていたよ。


 まだ残暑厳しいさなかだというのに、明日は雪が降るんじゃないだろうな?


「今回、ボクはそれだけ本気だってことだよ。彼氏のため・・・・・にさ。嬉しい?」


 ……コ、コイツ!


 ちっくしょう! 可愛いじゃねぇか!


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