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告白

「私、百合ゆりのことが好き……冗談じゃなくて、真面目まじめに」


 放課後の教室、空いた窓からは元気な声がまだ響いている。時々吹く風に白いカーテンが揺れると夕日が少しだけ教室を照らす。さっきまでいたクラスメイトはもういなくて、今ここにいるのは私と彼女だけ。

 告白なんてするつもりはなかった。私と彼女の性別は同じ、女の子同士。受け入れてもらえるなんて思えないし、彼女の友達というポジションにも満足していた。


 魔が差したんだと思う。教室の中で何をするでもなく、ボーっと座っていた彼女に、夕日が当たってとても綺麗きれいに見えた。だから、つい本音がれてしまった。

 言ってしまった言葉は戻せなくて、二人しかいない静かな教室では、聞こえなかったなんてことも期待できない。

 血の気が引く感覚がする。もしかしたら顔も少し青くなっているかもしれない。

 でも、今の私にできるのは、ただじっと彼女の瞳を見つめることだけ……。


「私も、まいのこと好きだよ」

 

 どれだけ彼女を見つめていただろう? 数分にも思えれば、一瞬いっしゅんのような気もする。私と見つめ合っていた彼女は、不意ふいに少し微笑ほほえんで、そういった。

 頭の中が真っ白になる。ほほ紅潮こうちょうして熱くなり、うれしさと恥ずかしさと……とにかくいろいろなものが混ざり合って大合唱をしている。

 私はつい、彼女の手を両手でにぎりしめて……大はしゃぎしようとしたところで、冷静れいせいになる。

 彼女は、何時もと変わっていなかった。少し楽しそうにして、次の言葉ことばを待っている。

 悪ふざけだと思ったのだろうか? 少なくとも、告白されたとは思ってなさそうだ。

 ここで私が「冗談だよー」といえば、「わかってるよー」と返されて、二人で笑って、はいお終い。またいつものように元通り、私は彼女の友達として一緒に居られる。

 この告白は、つい魔が差したもので、本当は言うつもりなんてなくて……だから冗談にしてしまえばいい。それで全部元通り。


「本当に? 百合は私のことが好き? 私は本気だよ。悪ふざけや冗談じゃなくて、ライクじゃなくてラブのほう……私は本当に百合のことが好き。真面目に告白してるんだよ」


 彼女の手を握っている両手に力が入る。

 少し強い口調で彼女にそう言っている私がいた。なんで私はこんなことを言っているのだろう? これではもう後戻りできない。

 この気持ちを冗談にしたくなかった? 彼女が告白を本気にしなかったのが悲しかった? それは彼女の友達というポジションを失ってまでするようなこと? 冷静な私と感情的な私が入り交ざって、ぐちゃぐちゃだ。


「うん、わかってるよ」

 

 それでも、彼女は変わらなかった。

 私の告白を、彼女はわかっていると微笑みながら言う。でも、そこに恥ずかしさや戸惑とまどいはないように見える。

彼女は、なんであんなに冷静何だろう? ここまで言っても、いまだに冗談だと思っているのだろうか?

 そういえば、彼女は時々告白めいた冗談をよく言っていた。


 朝、教室に入ってあいさつした後、「舞はいつも可愛いなぁ、私の彼女にならない?」とか、お昼にお弁当の交換こうかんをした後「うん、おいしい。舞、私と一緒いっしょらさない?」とかだ。

 もちろん、周りに沢山たくさんのクラスメイトがいたし、私だけに言っているわけでもない。みんなにも……みんなといっても私となかのいいグループの5人だけだけど、同じようなことを言っている。

 ちなみに、お弁当を作っているのは私ではなく、お母さんだ。

 一度、みんなで百合に「もし私たちが彼女になってあげてもいいと言ったら、誰を選ぶの?」と聞いたら「もちろん全員だよ!! 私の夢はハーレムを作ること!! 逆ハーじゃなくてハーレムだよ、男はいりません」なんて言っていた。


いつもふざけているから、この告白も本気にしてない? こんなにも私は真剣なのに?

 告白が通じていないという思いに、少し腹が立っていたのだと思う。頭の中が一杯一杯いっぱいいっぱいで、混乱してたのもあるんだと思う。だから、ついあんなことを言ってしまった。


「私のこと好きなら……キス、してほしい」

「キス? いいよ」

「あっ……軽いのじゃなくて……ディープなの」

「ディープなのね。わかった」


 彼女なら、悪ふざけの延長えんちょうで、軽いキスくらいするかもしれない。だから「ディープなの」なんて咄嗟とっさに言ってしまったけど、彼女はあっさりOKした。

 私はまだキスをしたことがない。ファーストキスがいきなりディープというのはどうなんだろう? いや、女の子同士という時点で普通ではないんだけどね。

 

 彼女は椅子から立って、私を優しく抱きしめた。

 彼女の顔がだんだん近づいてくる。

 私が目をつぶると、すぐにくちびると唇がれ合う。


「ん、ん、ん」

 

 彼女のしたが、口の中に侵入しんにゅうしてきて、歯を、舌を、私を蹂躙じゅうりんする。

 二人だけの教室に、私かられた声が響いている。恥ずかしいのに、どうしてもおさえられない。

 どれだけキスし続けているだろう。もう、私には時間の感覚がない。

 ただただ気持ちが良くて、いつの間にか私からも彼女をもとめてしまっている。

 教室には、いつの間にか彼女の声も響いていた。

 そのことに、うれしいと思う私がいる。

 

 教室に響かせる、永遠えいえんとも思える声が、不意ふい途切とぎれる。

 どちらからはなしたのかわからない。もしかしたら、同時に離したのかもしてない。

 私と彼女を口から伸びてつながっている糸が、名残惜なごりおしそうにしている私をあらわしているかのようだった。


「ちゅっ」


 私たちを繋いでいた糸を全部、からめとるように彼女がもう一度、やさしくキスをする。

 『私と彼女がキスをしていた』その事実じじつが、急に現実味をびて私をおそってくる。恥ずかしさで顔がさらに真っ赤になるのがわかる。私は両手で頬をおさえてうつむいてしまう。

 あんなに声を出してしまい、はしたないと思われていないだろうか? いや、彼女も声を出していたのだからおたがいさま? でも、その声を出させていたのは私なわけで……。


 私の頭の中は大混乱だ。

 キスした、うれしい、もっとしたい、恥ずかしい、気持ちよかった、様々な感情が私の中をけめぐる。

 

「舞」


  彼女の声がして、私は伏せていた顔を上げる。

  そこには、少し紅潮した顔の百合が私をいとおしそうに見つめていた。


「百合、百合、百合、うれしい、スキ、大好き、もう離さない」


  私は彼女に強く抱き着く。

  私は大きく息をして、彼女のにおいが全身にいきわたるように何度も吸い込む。

  彼女で全身がたされるような気がして、とてもうれしい。

  彼女にも私を感じてほしくて、抱き着く力がさらに強くなる。

  しばらく強く抱きしめて……不意に力を抜く、そしてまた強く抱きしめる。

  私の匂いを彼女にこすり付けるように何度も何度もり返す。

  顔がニヘラとゆるんでだらしない。これではまるで変態だ。

 それでもやめようとは思わない。ずっとこうしていたい……。


 キーンコーン、カーンコーン


 急に響いた音に、私の体がビクっとなる。

 どうやら下校時間のようだ。


 私はそっと彼女から体を離し……自分の痴態ちたいに真っ青になる。

 ない。

 いくらうれしくてもこれはない。完全に変態で、変質者の所業しょぎょうだ。

 もし私が同じことをされれば、百年の恋も冷めただろう……あれ? 百合にならされても大丈夫な気がする……むしろウエルカム? ……だめだ、思考しこうが腐っている。

 

 私が恐る恐る彼女を見ると……帰り支度をしていた。

 ちょっとまて、え? なんで帰り支度してるの? 私、かなりのことをやらかしたと思うんだけど……。

 

「ゆ……百合?」

「舞、下校時間だし、一緒に帰ろ」

「え、あ……うん」


 私も百合につられて帰り支度をする……。

 ってそうじゃない。そうじゃないでしょ!! なんで? なんで平然としてるの!?

 いや、あんな醜態しゅうたいさらして、嫌われてなかったのはいい。いいんだけどさ、でもなんか納得いかない。


「舞」


 帰り支度を終えた彼女が、私に向かって手をさし出していた。

 私も帰り支度を終え、彼女の手を取ると、恋人繋こいびとつなぎをしてくれた。


 あ、もう細かいことはどうでもいいや。

 私は、彼女の腕に抱き着き、思考を放棄ほうきしたのでした。



















 ガラッ


「そのまま帰るつもり?」


 私たちが教室を出たところに、もう一人の友達がいました。


 百合成分が不足して衝動的に描いた。

 続きの構想はあるけど、いつ書くかはわからない。

 百合成分がまた不足したら衝動的に描くと思う。

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