第6話 橙色の研究 A Study in Orange
コナン・ドイル 「緋色の研究」より
「はい、これ。」
ボクが放課後に日直の仕事をしていると、樫谷が1冊のノートを渡してきた。
「何それ?」
「忘れたのか?挟間のために書いたのに?」
「あ、推理小説。ノートに書いてきたの?」
そう、これはボクが樫谷に頼んでいた小説だったのだ。
「なんか文句ある?」
「いや、ないです。すみません。」
題名は『橙の悲劇』だった。
「橙の悲劇?」
「そ。『Yの悲劇』を参考にしてるんだ。」
「あ、エラリー・クイーンの。」
「正確に言ったら、エラリー・クィーンの2人がバーナビー・ロスって名前で書いた ね。」
「バーナビー・ロスってどっかで聞いたことがある。」
「そりゃ多分、『バーナビー・ロス殺人事件』って言葉が『ローマ帽子の謎』に出てくるからじゃないのか?」
「あぁ、そういうこと。」
ボクがそう言って合点していると、樫谷が不意に
「挟間って、推理部だよな?」
と聞いてきた。その推理部での、夏休み中の推理小説を1人1小説ずつ書いて来るという課題をやっていなかったのだ。
「そうだけど?」
「じゃぁ、なんでこのこと知らないの?」
「ボクは作家じゃなく、小説に興味があるから。」
「あ、なるほど。」
「あぁ、そうだこれ、ーー」ボクは樫谷から渡されたノートを示して尋ねた。「今読んでいい?」
「どうぞ、僕はもう行くし。」
「え、どっか行くの?」
「まぁ。もう1人渡さなきゃいけないから。」
「あ、クォウ。」
クォウ は、ボクや樫谷と同じクラスの中妓 高のニックネームだ。
クォウもボクと同じ推理部で、課題をやり忘れた組の1人だ。というか、ボクとクォウの2人しか、課題を忘れたやつはいない。
「もしかしてだけど、1日で2つも小説を書き上げたのか?」
「そうだよ。ほんと疲れたわ。」
「宿題とか、大丈夫なのか?」
「ちゃんとやってるよ。だって、2週間分ぐらいの予習ストックが溜まっているから。」
「嘘だろ。」
「マジだよ。そういう挟間こそ、大丈夫なのか?」
「宿題なら、なんとか。」
「違うよ、鳴海からの告白だよ。」
数日前にボクは、同じクラスの後藤 鳴海というやつから、告白を受けていたのだ。
「まだ返事返してないけど…」
「えぇぇぇぇ。なんで〜。鳴海、結構男子から人気あるのに。」
「いや、だってーー」
ボクの言葉を遮り、樫谷はボクの耳元でこう囁いた。
「せっかく、
2人の名前を使ったのに
残念だなぁ。」と。