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虹色ライラック  作者: 蛍石光
第2章 出遅れる男
8/27

今日は楽しかったよ。

とある海外ドラマでの女性の話。


「夕焼けって一緒に見る相手によって見え方が変わらない?」


まったくその通りだと想います。

 俺たち四人は、時計台に続いて赤レンガを見て、そして大通公園にやってきた。

 大通公園は札幌市民の憩いの場。東西に約1.5キロの長さがある大きめの公園だ。公園内には噴水があり、夏場はそこで水遊びをする子供たちは涼を求めてやってくる人たちで賑わいを見せる。夏期限定ではあるが、名物の焼きトウモロコシ、かき氷を販売する屋台もあり、こちらも人が集まる場となっている。ただ、残念ながら今は五月、かき氷の販売は行われていない。北海道の五月は意外に寒いのだ。

 そして、この大通公園の目玉となる建物といえば、公園のもっとも東側に立つテレビ塔だ。このテレビ塔を見た内地の人たちの第一印象は『東京タワーそっくりじゃない?』だろう。現に杉田もそんなことを言ってたし。俺自身は東京タワーを見たことがないけど、写真で見る限り確かに似ていると思う。

 それもそのはず、テレビ塔と東京タワーは同じ建築家によって設計されたらしい。そりゃ似てくるのも当然だ。しかし、決定的に東京タワーと異なる点がある。それは、大きなデジタル時計が設置されていること。コレのおかげで、札幌市民は自分の腕時計を見ることなしに時間を知ることができるのだ。また、夜になるとライトアップもされてデートスポットになっている。あ、これは東京タワーと同じか。


「大通近辺の名所ってこんなとこかな?」


 時間ももうすぐ夕方。そろそろ帰宅を考えてもいい時間だ。


「そうね。大体こんなところだと思うけど。」


 玉置さんも俺と同じ意見みたいだ。


「まだよ。まだ、狸小路が残ってるじゃないっ。」

「なんとっ。そんなところが?たぬき?」


 ノリノリだなぁ杉田と栗林さんは。今日のデート(?)で二人の関係はかなり良い感じになったように見える。そもそも、ほとんど二人で話していたし、俺と玉置さんが来る必要なんてなかったと感じるくらいだ。そのおかげで俺は玉置さんと二人で話す時間が長かった。まぁ、それはそれで楽しかったんだけどな。


「ふぅ、じゃ、最後に狸小路歩いて地下鉄で帰ろうか。」

「そうしよぉ~」


 栗林さんが元気に俺の提案に答える。


「ねぇねぇ。」

「ん?どうかした?玉置さん。」

「あの二人さ、いい感じだよね。なんだか、私たち、ちょっとお邪魔みたいじゃない?」


 確かに。そう言われてみればそんな感じもする。


「そうかもね。どうする?」

「どうしよっか?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべて俺と彼らを見比べる。


「じゃ、消えちゃいますか?さりげなく。」


 深い考えがあったわけじゃない。ただ、二人だけにしたら何かが起こりそうな気がした。だからも、俺もニヤッとした表情を玉置さんに向ける。


「そうだね。そうしよっか。」

「でも、何も言わないでいなくなったら心配するかも。」

「さすが竹中くん。じゃ、一計を案じてみて?」


 そうか。どうしようかなぁ。う~ん、何かいい考えはないかなぁ。突然いなくなったと思わせなければいいんだよな。今回は栗林さんから協力を頼まれたわけだし・・・


「あ、そうだ。あのさ。」

「いい考え、閃いた?」


 玉置さんは相変わらずの笑顔で俺のほうを見ている。


「いい考えかはわからないけど、杉田に伝えるよりは栗林さんに伝えるほうがいいと思うんだ。だから、俺が杉田とトイレに行くからその時に栗林さんに伝えてくれない?」


 我ながらなんて単純な考えなんだか。こんなのでいい考えといえるんだろうか。


「うん、わかった。いいよ。そうしよっ。」


 こんな単純な計画にも関わらず玉置さんも楽しそうだ。


「じゃ、ちょっと杉田に声かけてくるわ。」

「うん。待ってるね。」

「うん、じゃ、よろしくね。さて・・・おぅい、杉田ぁ。」


 杉田に声をかけて、ジェスチャーで『ちょっとこっちに来いよ。』っていうサインを送る。それにこたえるように杉田も手を挙げる。


「ん、どした?」


 まんまと杉田がやってきた。


「ちょっとツレションと行きませんか。俺、限界近いかも。」

「うおっ、マジか。それはマズいな。実は俺もそんな感じなのだよ。」


 ホントかどうかわからないがここまでは成功だ。


「じゃ、行こうぜ。」

「あぁ、じゃ、ちょっと栗林さんたちにも声かけないとな。」

「そうだな。」


 ちゃんと栗林さんのことを考えているんだな。さすがだよ。


「あ、俺と竹中、ちょっとタイム。トイレタイムくださいな。」

「は~い、いってらぁ~。」


 栗林さんからの間延びした返事が返ってくる。よし、それじゃ『そっちは任せたよ』と軽く玉置さんに目配せをすると、彼女からもわかったよというサインが返ってくる。それを確認して俺と杉田はトイレに向かって歩いていった。


「なぁ、杉田。」

「ん?」

「いい感じだなぁ。おたくたち。」

「あぁ、思ってた以上に楽しい。俺、彼女に惚れたわ。」


 随分あっさりと認めやがって。しかも俺は栗林さんの気持ちを聞いちゃってるから二人の関係がどうなるかわかるんだよ。チクショウ。これは本当に先越されちまったぞ?でも、まぁ、良かったんだよな。杉田は俺にとっての親友と呼ぶべき存在だから、あいつの喜ばしいことは俺の喜ばしい事なんだ。心ではそう思っていても、素直に口に出すのは・・・やっぱり癪だな。


「あーあーそーですか。そいつは良かったですねぇ。」

「なんだよ。お前だっていい感じに玉置さんと仲良くやってんじゃん。」

「へ?俺?」


 我ながら、なんとへんてこりんな声を出したんだろうと思う。今までそんなことを考えてもいなかったから驚いた。いや、どちらかというと俺と玉置さんの関係のことは考えないようにしていたのかもしれない。


「そうだよ。お前もなんかいい感じじゃんか。何といっても服装までペアルックみたいだしな。」


 そうだった。そう言えばそんな感じだった。思い出すとちょっと恥ずかしくなってくる。


「そんな感じに見えるのか、やっぱり。」

「あぁ、見えるな。」


 ニヤニヤしながら杉田が続ける。そんな表情をされても戸惑うだけだぞ。


「お前は玉置さんのことどう思ってんの?」

「どうって言われてもなぁ。可愛い子だなってくらいかな。」


 こんなかわいい子と一緒に居られて楽しくないわけがないだろう。


「ウソだろう?絶対惚れてるんだと思った。」

「は?なんでだよ。今までそんなことは考えたこともなかったぞ?」


 たぶん、これはホント。楽しいけど好きとかそういう気持ちはよくわからない。


「いやいや、二人が一緒に帰ってんの俺は知ってるぞ?付き合ってるんじゃないかって噂があることも知らんの?」

「マジか。全然知らなかった。誰がそんなこと言ってるんだ?というかなんで一緒に帰ってんの知ってるんだよ。」

「まぁ、壁に耳あり障子にメアリーと言いますからな。」

「それを言うなら『障子に目あり」だ。それに帰り道には壁も障子もないって。」


 なんて鉄板なボケをかましてくるんだ。


「わかってるって。このボケは基本だろう?それに、どんなに隠しても秘密は漏れるもんだって話だよ。」


 別に俺は隠しているつもりもない。帰りの時間が遅いことが多いからあまり人がいないだけで。とは言っても、誰もいないわけじゃないから、見られていたって不思議はない。


「いや、一緒に帰ったことはあるけど、付き合ったりはしてないぞ。」

「ふ~~ん、そうなんだな。意外にのんびりしてるんだな。お前は。」


 あきれた奴だなとでも言いたそうな顔でこちらを見てくる。


「のんびりっていうか、別に・・・」


 そうだよ。のんびりって言われても困る。そもそも、一緒にいるだけで好きとか、付き合ってるとか。そういうのはなんだか違うと思うんだよな。


「ま、そのあたりは人それぞれだよな。っと、そろそろ戻らんと。」

「あぁ・・・そうだね。」


 それにしても、俺と玉置さんがそういう目線で見られてるなんて考えたこともなかったな。


 さっきの杉田の話のせいで玉置さんをまっすぐに見られない。今まで彼女のことをどう思ってるかなんて、深く考えたこともなかったのに。今は隣にいる玉置さんの行動一つ一つが気になってしまって仕方ない。それに今まで気が付いてなかったけど、なんだかいい匂いもする気がする。


「・・・ねぇ。竹中くん。」

「ん?な、なに?」


 マズい。変に意識したらいつも通りに話せない。


「そろそろじゃない?」


 そうだった。今は杉田たちを二人きりにする作戦を行っているところだった。すっかり忘れていた。


「そ、そだね。じゃ。」

「うん。こっちこっち。」


 そういうのと同時に玉置さんは俺の手を取って路地のほうに歩きだす。ちょっと待って、女の子の手ってこんなに小さくて柔らかいの?


「ちょ、待って。どこ行くの?」

「いいから、こっち。」


 玉置さんは俺の手を取ったまま小走りで進んでいく。どこに向かってるんだろう?帰りの地下鉄に向かっているわけではない。向かっている方向から大通公園のほうに戻っている?


「ここ、ここに来たかったんだ。」


 そう言って連れて来られたのはついさっきまでいたテレビ塔の下。


「ここ?来たかったって?さっきも来たじゃない。」

「うん。そうなんだけど。展望台まで行かなかったじゃない?」

「あぁ、行かなかったね。さっきは二階のお土産コーナーみたいなとこだけだったから。」

「そう。だから、展望台に行きたいなぁって思って。ダメ?」


 そんな覗き込むような感じで聞かれたらダメだなんて言えないよ。


「いや、ダメじゃないさ。俺も行ったことなかったし。行ってみよっか。」


 俺はつないだままになっていた手に目をやる。玉置さんもそれに気が付いたのかスッと手を放してしまった。


「あ、ごめん。手、つないだままだった。」

「い、いや。大丈夫。」


 何が大丈夫なんだよ。全然大丈夫じゃないだろ。


「それじゃ、いこっか。」

「うん。」


 まさか、展望フロアに玉置さんと来ることになるなんて、つい10分前まで考えてもいなかった。



 展望フロアは大通公園を一望できる地上90メートルくらいの高さにある。札幌にはここまで高い建物もほとんどないから、天気さえ良ければかなり遠くまで見渡せるはずだ。そして、今は西の空に夕焼けが見えてきて新緑が映える山々とのとても綺麗なコントラストが広がっている。


「うわぁ。綺麗だね。」


 そう言って窓辺に走り出す玉置さん。


「ほんとだね。すごく綺麗だね。」


 日曜日だったにもかかわらず、人がそう多くない展望フロア。夕日が眩しく差し込んでくる。


「夕焼けも綺麗。」

「ほんとに。ほら、夕焼けと昼間が同時に見れるよ。反対側から見たらまだまだ青空だよ。」


 彼女が駆け寄った窓とは反対側を指さして言う。


「ほんとだぁ。昼と夜の狭間の時間ってことだね。」

「そうだね。いいタイミングだったかも。」


 昼間も綺麗な景色が広がっているんだろうけど、こういった時間に見る景色もいいかもしれない。何といっても限定された時間でしか見れないんだから。


「うん。そうだね。あ、見て?下の車があんなにちっちゃい。」


 そう言ってはしゃぐ彼女はいつもよりも少し子供っぽく見えた。


「ほんとだ。ずいぶん高いんだなぁ、ここ。」

「うん。」


 何を話したら良いんだろう。杉田のせいでなんだか変な気持ちだ。俺って玉置さんのことをどういう気持ちで見ていたんだろう?


「なんか、実花ちゃんたちに悪いことしちゃったかも。だって、すごく綺麗だもんね。二人も見たかったかなぁ。」


 玉置さんは窓に張り付いて景色を眺めたまま言った。


『俺は二人で見られて嬉しいけどな。』


 そう言いそうになった自分に驚いた。そっか、そう思っていたのか。


「・・・ねぇ。今日はありがとね。実花ちゃん、喜んでたよ。」


 クルッと振り返り窓に背をもたれかけながら玉置さんは言った。


「そうなの?それは良かったよ。けど、俺は大したことしてないよ。あの二人は最初からいい感じだったしさ。きっと俺たちが居なくてもうまくいってたんじゃないかな?」

「さぁ。どうなんだろうね。」


 そう言ってちょっと俯く。


「どうって。なんで?」


 何かマズいことでもあったのかな。


「実花ちゃんね。帰りに告白するって。」

「あ。えっと、そうなの?」


 驚いた。まさかそこまでの話になってるとは思わなかった。そんな話いつしたんだろう。やっぱりさっきの二人っきりになった時なのかな。


「そうするんだって。さっき言ってた。」

「そっかぁ。すごいなぁ、栗林さんは。」

「そうだね。でも、杉田くんはどう思ってるのかな。杉田くんも優しい人だし、もしかして今日一日実花ち

ゃんに合わせてたんじゃないかなって思って。」

「あー、それは大丈夫だわ。」

「え?大丈夫ってどういうこと?」


 しまった。言ってよかったのか?余計なこと言っちゃったか?けど、玉置さんなら大丈夫だろうな、うん。


「杉田も惚れたって言ってた。」


 目を丸くして驚き、そして、ちょっと頬が赤くなる玉置さん。どうして赤くなってるんだろう。


「・・・そっかぁ。じゃ、両想いなんだね。」


 大きく息を吸ってゆっくり吐く。どうしたのか意味深な間があったぞ。もしかして、玉置さんも杉田のことを好きなのか?


「もしかして、玉置さんも杉田のことが?」

「え?いやいや、それはないよ。本当に。」


 右手を顔の前で振り、笑いながら答えるその姿を見てちょっとだけホッとした。


「月曜日に問い詰めなきゃいけないね。あいつら二人。『あの後に二人で何やってたんだぁ』ってね。」

「あはは、そだね。・・・でも。」

「でも?」

「それって、私たちも一緒だよ?」


 ちょっとだけ首をかしげながら笑顔で言う玉置さん。夕日の赤さが彼女をより一層可愛いらしく見せる。


「あ、そっか。」


 そう言われたらその通りだ。


「竹中くんって、案外抜けてるとこあるんだね。なんだか、かわいい。」

「いや、可愛いって言われてもなんだか変な感じなんだけど?」


 こんなに長い間、玉置さんと一緒にいた日はない。そりゃ委員会とかで一緒の時はあるけど、それとはやっぱり違う。目の前に玉置さんがいる。俺と玉置さんは手を伸ばせば届くくらいしか離れていない。そんなことを改めて考えると少しだけドキドキしてくる。けど、なんだろう。よくわからないな。なんで玉置さんはここに来たがったんだろう。


「あ、そうだよね。ごめんね。」

「いや、いいよ。ただ、言われたことなかったから不思議な気持ちになっただけ。」


 聞いてみようか。なんでここに来たのか。でも。それを聞いてどうするんだろう。


「あの二人、付き合っちゃうのかなぁ?」


 窓から離れて俺のところに歩いてきながら聞いてくる。


「そうだなぁ。杉田には断る理由がないように思う。」

「そうだよねぇ。」

「そうだよ。」


 俺やっぱり、玉置さんのことが好きなのかも。いつからかなんてわからないけど。


「私ね。」

「ん?」

「今日は楽しかったよ。」


 俺の横で小さな声で呟いた。


「うん、俺もだよ。」

ここまで読んでくださってありがとうございます。


ようやく、竹中と玉置さんの関係も進展しそうな気配が出てきました。

それにしても、玉置さんのちょっと背伸びしたような仕草。

同級生の男の子にはすごく可愛らしく見えるでしょうね。

竹中も自分の感情に気がついたみたいだし。


これからどうなっていくのでしょうかね。

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