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虹色ライラック  作者: 蛍石光
第2章 出遅れる男
7/27

うちの学校は美人が多いと思うな。

こんな感じのお出かけ。

誰もが経験ありませんか?


誰かのためのお出かけっていうのも悪くはないものです。


災い転じて何とやら、と言いますしね。

 で、例の週末。俺と杉田は待ち合わせ場所に一緒に向かっていた。

 俺は『一人で直接行けばいいんじゃないか?』って言ったんだけどどうしても一緒に来てほしいっていうからわざわざ遠回りして杉田と合流してから待ち合わせ場所に向かっている。待ち合わせ場所というのはなんと学校の正門。『きっと杉田くんはあんまり他の場所知らないだろうから、学校で待ち合わせが一番よくない?』と栗林さんが気を利かせてくれたのだ。

 ただ、俺の家と杉田の家は学校を挟んで反対側なんだよなぁ・・・


「竹中さぁ。今日は付き合ってくれてありがとな。」

「ん?いや、いいさ。俺も週末は暇だったし。」


 実際は母親と妹にいろいろとしつこく聞かれたんだけど、転校してきたばっかりの友達に札幌を案内したいということを伝えて納得してもらった。まぁ、嘘じゃないわけだしいいよな。


「それにしても、週末が暇なんて寂しい奴だな。竹中よ。」

「うるせぇよ。お前には言われたくないわ。が、事実だ。」


 そのうち彼女でもできれば楽しい週末が待ってるんだろうなぁ。


「それにしても、今日は誰が来るのかな?杉田は聞いてる?」


 昨日栗林さんと話した時も教えてくれなかったな。


「ん?栗林さんが連れてくるっていうもう一人のこと?」

「そうそう。誰連れてくるんだろな?」

「あぁ、誰だろうな。きっとお前が驚くような子だろうな。」

「なんだよ、それ。もしかして、杉田。誰が来るのか知ってるのか?まぁ、いいや。そんなことよりもさ。」


 栗林さんのことをどう思ってるのかが気になる。


「なんだよ?」

「杉田はさ、栗林さんのこと、どう思ってるんだ?」

「どうって聞かれてもなぁ。」

「まぁなぁ。入学してまだひと月ちょっとだもんな。何もわかんないよなぁ。」


 ようやく中学校生活に馴染み始めてきたころだ。なんとなく新しい友達もできてきたって感じで、クラスメートの名前と顔が大体一致したくらいだ。どんな奴なのかなんてわかるわけもないよな。


「けどさ。なんか可愛い女子だけは覚えられるなっ。」


 そのセリフで満面の笑みって。杉田よ・・・お前ってそういうやつだったのか?


「いや・・・気持ちはわかるけどさ。俺はそんなに覚えてないぞ?」

「は?なに?それってかわいい女子がいないってことか?」

「いや。そうは言ってないって。」

「だよなぁ。俺が思うに、やっぱ北海道ってさ、美人が多いのな。」


 そう言う話は聞いたことあるけど、北海道から出たことがない俺には比較対象がない。


「そうなのか?」

「うむ。そうなのだよ、竹中くん。うちの学校は美人が多いと思うな。」


 もう学校全体のチェックが終わってるのか?杉田ってやつは思っていたよりもずっと手の早い奴なのか?


「そ、そうか。まぁ、俺はそれどころじゃないひと月だったからなぁ。小学校の頃からの友達ですら離れていっちゃう始末だからな。」

「そのかわり、新しい友達が増えただろ?大体、あんな出来事くらいで離れていく奴なんて友達じゃないって。気にすんなよ。俺は、竹中と友達になれて嬉しいぞ?」


 コイツのこういうところが好きなんだよな。栗林さんの気持ちがわかるぜ。いや、もちろん好きと言ってもいろいろあるだろう。もちろん友達としてということだ。


「ありがとう、杉田。俺もお前に出会えてよかったよ。」


 そんな話をしながら歩いていると正門が見えてきた。正門の前には二人の人影が見える。一人は栗林さんだろう。もう一人は誰だろう?俺の知っている人ならいいんだけどな。


「あ、おそぉ~い。杉田くんたちっ。」


 俺たちを見つけた栗林さんが大きく手を振りながら声をかけてくる。というか遅いか?待ち合わせは10時じゃなかったか?それで今の時間は・・・・9時50分。むしろ早いよなぁ。


「俺たち、遅いのか?」


 杉田も同じことを考えてたみたいだ。


「いんや、待ち合わせ時間10分前だ。遅くはない、はずだ。」

「だよなぁ。でもっ。」

「あぁ、そうだよな。」


 俺たちは顔を見合わせて軽く頷き、小走りで正門まで走っていった。


「遅いっ、おそい、おーそーい。」


 栗林さんがひたすら遅いと連呼してるけど、俺たちが遅いんじゃなくて君らが早いんだと思いますよ。


「ごめんごめん。もうちょっと早く来ればよかったよね。」


 イケメンだぞ、杉田のヤツっ。俺にはあんな神対応できないぞ?


「実花ちゃん、二人は遅くないって。私たちがちょっと早かったんだよ。」


 そう言うのは件のもう一人の女子。意外だった。あまりにも意外で驚いた。まさか彼女が来るなんて思わ

なかったから本当に驚いた。だって玉置さんだぞ?


「えぇ?そっかなぁ。早くないと思うけど。だって、今・・・九時五三分だね・・・てへっ」


 腕時計を見て、時間を確認して、事実を知る。うん、大事だよ、真実を知るということは。


「ね?だからまだ早いよって言ったじゃない。」

「だってぇ。遅れたらダメっしょ。」

「遅れないよ。学校まで近いんだから。」


 う~~ん、玉置さんは冷静だなぁ。なんだかすべてお見通しって感じがする。ホントに同級生なんだろうか。


「まぁまぁ、いいじゃない。早く合流で来たんだから。その分ゆっくり遊べるってことでさ。な?竹中?」


 イケメン杉田め。そこで俺に振ってくるか。


「そ、そうだよなぁ。俺もそう思うよ。」

「だよね?早いほうがいいに決まってるもんねっ。」


 栗林さんはいつもハイテンションだなぁ。今日は特に、気合が入っているのかな?


「それにしても、玉置さんが来るなんて思ってなかったよ。」


 俺は素直に彼女に告げた。


「え?どうして?私がくるって実花ちゃんから聞いてなかったの?」

「聞いてないよ。」

「そうなの?杉田くんには伝えたって言ってたけど。」


 にゃろう。俺には内緒ってやつか。


「そうなの?それは知らなかったけど、玉置さんが来ると思ってなかったから驚いたよ。でも・・・」

「でも?」

「いや、今日みたいなのは初めてだからさ。玉置さんでよかったなぁって。」

「今日みたいなのって?」

「あれ?いや、ほら。なんか女子同士の話とかで聞いてるんじゃないの?」


 もしかして、玉置さんにも内緒な話だったりしてたのか?杉田のことって。


「あ、そういうことね。竹中くんはやっぱり実花ちゃんから聞いてたんだね。それならやりやすいよ。」


 良かった。やっぱり、こういうことは女子のほうが男子よりも一枚も二枚も上手だからなぁ。玉置さんにある程度任せたらいいのかもしれないな。


 そう言えば、二人の私服姿を見るのは初めてだ。栗林さんは、少し明るいカラーの薄手のコートを羽織っていてスカートは膝下くらい。コートのボタンは外されていて白いブラウスが見えている。思っていたよりも大人びた格好をしているのが驚きだ。

 玉置さんはというと、ジーンズに紺色のパーカーを羽織った普段着って感じだ。二人の服の違いがそのままテンションを現しているんのかもしれない。それともこれが二人の普段着なのだろうか。

 杉田は、薄手のジャケットに綿のパンツ。ちょっとキマッてるよなぁ。

 俺はといえば、いつも通りのジーンズに黒のパーカー・・・今気が付いたけど・・・これって・・・玉置さんの服装とかぶっちまったよな・・・。


「ねぇねぇ。早く行こうよぉ。」


 ちゃっかり杉田の隣をキープしてる栗林さんは、もう待てないとでも言いたい表情で訴えている。俺たちが居なかったら杉田の腕に絡みついていそうな距離だ。これはさすがというべきだろうか。


「そうだね。ここで話しててもしょうがないよなぁ。」


 そう言って玉置さんのほうを見る。彼女もちょっと呆れたような表情をしている。まぁ、杉田もまんざらでもないようなことを言ってたわけだし。もしかして、何もしなくてもいいんじゃないのか?今日は楽な仕事(?)になりそうだなぁ。


**************************


「さっきの映画、面白かったねぇ。ねぇ?あんな風に体が小さくなったら何する?」


 栗林さんのテンションはどこまでも上がっていきそうな感じだ。

 ここは全国チェーンのファーストフード店。中学生が行けるような昼ご飯なんてたかが知れている。ハンバーガーにポテト。お決まりのジャンクフードをつまみながらさっき見た映画のあの場面のあれはこうするべきだとか、この場面はすごかったなんて言いながら盛り上がる。うん。とても普通だ。そのはずだ。座っている場所の違和感さえなければ。おかげでいまいち話に集中できない。大体映画館での席も違和感があった。なんでこんな座り方になるんだよ。



 時間はちょっとだけ戻って映画館に入った時。

 普通に考えたらグループで映画を見に行ったら一列に並んでみるもんじゃないか?それがいくら混んでいて四つ並びの席が空いていないからって二人ずつで座ろうなんて。栗林さんの提案は驚きだった。もしかして男女別々?なんて考えたのもつかの間。


「私は杉田くんとこっちに座るね。竹中くんは玉置さんとあっちね。」


 などと確定情報として伝えてきやがった。


「なんて言ってるけど・・・どうしよっか・・・」


 俺はどんな表情で玉置さんに言ってるんだろう。きっと戸惑った表情だろうなぁ。


「実花ちゃんって、思ってた以上に積極的なのね・・・」


 さすがの玉置さんもちょっと驚いているみたいだ。


「積極的というか、何というか。杉田もあれじゃ何も言えないよなぁ。」


 アイツは神対応ができるイケメンだから何かしてくれるかと思ったけど、さすがに座席に空きがなければ対応のしようがないよなぁ。日曜の昼で封切り間もないハリウッド映画。立ち見にならなかっただけよかったと思うべきなんだろうなぁ。指定席があるわけじゃないし。


「そうね・・・じゃ、あっちで一緒にみよっか。」


 そう言って空いてる席を指さす。


「そうだね。」


 冷静に対応しようとしてたけど、内心はやっぱりドキドキしてる。学校で一緒にいるのとは違う。やっぱり外で一緒にいるというのは普段と違う気持ちになる。四人でいるときは全然平気だったけど、まさか二人で並んで映画を見ることになるなんて思ってなかった。



 そして、至る現在。ファーストフード店の店内だ。さっきも言ったように席の座り方がおかしい。どうして俺の正面に杉田がいるんだよ。で、その隣は栗林さん。つまり、俺の横には玉置さんがいるというわけだ。委員会の時に隣にいつもいる彼女が、いつもと同じ彼女に見えない。俺がどうかしてるのか?


「この後はどうする予定なの?」


 そう切り出したのは玉置さん。確かにどうするんだろう?前に栗林さんが言ってたプランだと街を案内するって言ってたけど。


「それは俺も知りたいなぁ。」


 杉田が言うのはもっともだ。だって、本来ならこっちが本命なんだから。あくまで、建前なんだけどな。


「んん、そうねぇ。どうしよう?」


 栗林さんはもしかして、もう満足なのかな?あまり今後のことを考えてるように見えない。


「せっかく街まで出てきたんだから、時計台と赤レンガは押さえておきたいよね。」


 玉置さんがいい感じに助け舟を出す。


「そうだね、時計台はいいかも。それに北大の構内も結構いい感じだよ。」


 実は札幌時計台は思いっきり街の中にある。どうも北海道というと広大な自然とか平野とかのイメージがあるみたいで、時計台もそういった所にあると思っている人が多いみたいだ。だから、街の中で時計台を見るとがっかりする人が多いらしい。だからガッカリ名所なんて言われているくらいだ。札幌市民だとあまりにも当たり前のことで街なかにある時計台のことなんてすっかり失念しているもんだ。けど、名所案内ならいいかもしれない。きっと、羊ケ丘にあるあの像のイメージが強いせいだろう。地平線を右手で指さしているBoys, be ambitious!って言っているあの像のせいだ。


「北大はちょっと遠いんじゃない?」


 玉置さんにやんわりと拒否される。


「そうかな?いや、そっか。そうだね。ちょっと遠いかも。」


クラーク博士つながりでいい感じだと思ったんだけどなぁ。


「え?北大ってそんなに遠いの?」


 今度は栗林さんだ。


「う~ん、札幌駅から歩いて20分くらいかな。」

「となると、ここからだとどのくらい?」


 杉田からの質問は至極まっとうなものだ。


「そうだなぁ・・・。」

「「一時間くらい」」


 玉置さんと声が揃ってしまった。まぁ、遠いよな。


「一時間は遠いね。」


 栗林さんの言う通り。北大は遠すぎですね。ごめんなさい。


「でもさ、なんで北大なの?」


 そうか。杉田は知らないのか。北大と時計台の関係を。でも、それは当然か。俺だって北海道史は簡単には知っているけど群馬県史は知らないもんなぁ。


「北大はさ。昔は札幌農学校って言われてたんだよ。開拓使時代にね。まぁ今から一〇〇年くらい前かな。でさ、その時の名残が時計台なわけよ。時計台と言ってもロンドンのビッグベンみたいに石造りじゃなくて木造なんだ。だから・・・まぁ、見ればわかるさ、きっと。時計台のところにも似たような説明があると思うけどね。」


「へぇ~。竹中くんって詳しいんだね。そういうの。」


 栗林さんがしきりに感心している。


「詳しいってほどでもないけど・・・小学校で習ったから覚えてただけだよ。」

「えっ、あたし、全然覚えてないけど。」

「いや、まぁ、それは俺がこういうことに興味があったからで・・・」

「いやいや、すごいと思うぞ、竹中。もっといろいろ教えてくれよ。」

「そうね。私も聞きたい。」


 杉田はともかく、玉置さんまで。


「で、赤レンガってのは何?」

「あ、あたし知ってるよ。えっとね。ほら、小学校の時に写生会で絵を描いたところだよ。」


 自慢気に説明する栗林さんだけど、それって説明になっているの?


「実花ちゃん・・・残念だけどそれじゃ、赤レンガの説明になってないと思う。」


 玉置さんが冷静に突っ込みを入れる。


「えぇ~。だって赤レンガって言ったらあれでしょ?あのレンガでできた建物で、なんか古いっぽいヤツ。」

「う~ん、有名な建物ってことは分かったけど?」


 そうだよなぁ。この説明じゃ赤レンガが古い建物だってことしかわからないよなぁ。


「じゃ、竹中くん、お願いね。」


 玉置さんに説明を丸投げされる。俺は観光案内人ですか?


「う~ん、俺もそんなに詳しいわけじゃないけど・・・」

「いや、頼むよ、竹中。」

「なんだよ、竹中先生って。やめてくれよ。」

「ううん、あたしも聞きたいなぁ。竹中先生っ。」


 栗林さんまで乗ってこないでくれよ。


「あの、そうだなぁ。う~ん。じゃ、俺の知ってる範囲でだけど。」

「おう。よろしく。」

「それじゃ・・・。えっと、赤レンガっていうのは昔の道庁のことだよ。レンガ造りの西洋建築物でこの建物も今から100年くらい前に作られたんだよ。今では道立文書館だったかな。で、左右対称のバロック式とかいう建築様式だったはず。まぁ、こんな話を聞くより見たほうが早いと思うけどね。ほら、百聞は一見に如かずって言うじゃない?時計台も赤レンガも見てみたほうが早いんじゃないかな?」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・」


 やばい。なんだこの沈黙は?なんか変なこと言ったか?俺。


「竹中。お前、すごいな。」


 杉田が驚いたような表情でこちらを見ている。


「いや、そんなことないって。」


「ううん、すごいと思うよ。」


 いやいや、そんなに食いつくとこじゃないと思うんだけど?


「まぁ、俺の話なんか置いといてさ、実際に見に行こうよ。ね?」

「いや、すごいと思うぞ?おかげで早く実際に見たくなったよ。ということで、さっそく案内してくれる?近いほうからさ。」

「おっけ~。近いほうからいこっかぁ。」


 元気よく声を上げた栗林さんだったのだが・・・


「・・・で、近いのはどっち?」


 今日一日で栗林さんの人柄が本当によくわかった気がする。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


なんだか楽しそうな四人でのデート(?)になっているみたいです。

杉田と栗林さんはなんとなくうまく行きそうな気配も漂ってきていますね。

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