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虹色ライラック  作者: 蛍石光
第2章 出遅れる男
6/27

だから内緒にしとくよ。

少し季節が進みます。

五月。連休あり、春らしくなり。


暖かくなってきた北海道はようやく桜の時期になります。

 五月の連休が終わって何日か経った頃、ようやく北海道にも春がやってきた。


 そう言えば、本州では花粉症なるものがあるらしい。杉田が言うにはスギの花粉が原因なんだそうな。札幌には杉がないからなぁ。そんなものがなくても当然だ。そのかわりと言っちゃなんだが白樺がある。杉田にとっては白樺のほうが珍しいらしく、盛んにあの白い樹皮をめくって遊んでいた。まぁ、俺が『白樺の表皮は焚き付け代わりになる』なんて話をしたせいなんだが・・・。あんまりめくると剥げるんじゃないか?白樺が。


 それにしても、新学期というか新生活が始まって一か月。周りの人間関係にもいろいろな変化が見えてきた。入学当初は同じ小学校出身者同士でつるんでいることも多かったけど、気の合う仲間同士のグループに変わっていった。俺も最近では同じ小学校出身者たちといるよりも杉田と一緒にいるほうが多い。

 杉田は一言で言ってしまうと天才で変態だ。できることならヤツの頭をかち割ってどういう構造になっているのか見てみたいとさえ思う。入学してすぐに行われた実力試験でほぼすべての教科で満点をたたき出し、周囲の度肝を抜いた。俺もそれなりにできるほうだとは思っていたけど、アイツとは基本的に何かが違うようだ。これがあいつの天才的な部分。

 そして、変態な部分なんだけど、いや、これは変態じゃないんだろうか。アニメのガンダムに異常にのめりこんでいるということだ。アイツの話す言葉の所々に名台詞(?)のようなものがちりばめられている。俺はそこまで詳しくないからよくわからないのだけど、『坊やだからさ』なんて言葉を突然に放ってみたりする。シャアとかいうキャラのセリフらしいんだが、正直よくわからない。それに、ヤツの将来の夢はガンダムを作ることらしい。そのためには、日本の最高学府に進学するのだけでは物足りないようで、世界の最高学府に進みたいのだそうだ。マサチューセッツなんとかとか言ってたかな。

 う~~ん、壮大すぎて理解に苦しむところがあるけど、アイツなら何かやってくれそうな気がしている。とまぁ、こんなすごい奴なんだけど苦手なこともあるようで、周囲のみんなが驚くほどに運動神経が悪い。足もすごく遅いし、なんだか変な走り方をしている。膝か?なんか膝がうまく曲がらないようなことを言ってたな。けどちゃんと椅子にも座れるし、正座もできるんだから膝が本当に曲がらないなんてことはないんだろう。つまりは物理的に欠陥があるわけではなさそうだ。いや、人間だから生物的になのかな。それとも構造的に?よくはわからないけど、アイツにも苦手なことがあってよかった。そうじゃなかったら、イケメンで頭もよくて人間的にもいい奴で、非の打ちどころもないような奴と一緒にいられない。だって、自分がみじめに感じてしまうじゃないか。

 とにかく、そんなあいつが放課後に突然相談を持ち掛けてきた。これには俺も驚いた。だって、アイツは全部自分で何とかできそうな奴だったからさ。それもなんで俺に?っていう感じの内容なんだよなぁ。で、杉田の相談っていうのは、栗林さんに『札幌を案内してあげるから、一緒に出かけない?』って言われたんだそうだ。なんだよ。要はデートのお誘いじゃないですか。


「ソウデスカ。スキニシタラ、イインジャナイデスカネ。」


 俺の返事がこんな風に投げやりになってしまっても仕方ないだろう?ちなみに栗林さんはうちのクラスの女子だ。杉田とは席替えまでは席が隣だった。俺と接点はあまりないから、いろいろ聞かれても答えようがない。というか俺にもそんな経験はないんだよっ、コノヤロウッ。あ、栗林さんは学級会長選出の時に、『いいと思いま~す。』なんて言っていた子だ、確か。もう記憶も定かではないんだけどね。そうか、あの元気の良さそうな女子か。結構かわいい感じだし、イインジャナイデスカネ。エェ。


「いや、なんでそんなに適当に答えるさ?」

「だってさ。俺にどうしてほしいのよ。断りたいの?」


 杉田がどう思っているのかが大事だよな。


「いや、そう言うことじゃないんだけどさ。こういうのって初めてだからなぁ。」

「俺にもないぞ。そんな経験は。」


 こう見えても、いや、なにがどう見えているのかわからないが、別にイケメンでもない俺は、彼女いない歴=年齢だ。まぁ、小学校の時に彼女がいるとか考えられないけどな。


「どうするよ?」


 こんなに困っている杉田を見るのは初めてだ。ちょっと面白い。


「さぁ。俺に聞かれてもなぁ。嫌なら行かなきゃいいじゃん。」


 一体俺に何を期待しているんだろう。


「いや、嫌じゃないんだよ。俺もさ、結構いい子だなぁなんて思ってからさ。」


 なんと手の早い。ん、手は出してないか。


「なら、別にいいんじゃない?行って来いよ。」


 それはもう、どうしたいのかは決まっているってことじゃないのかよ。


「でさ、頼みがあるんだけどさ。一緒に来てくんないかな?」

「なんで?」


 どうしてそういう考えになるんだ。


「だってさ、一人じゃなんか不安なんさ。」


 不安って・・・


「まぁ、行ってもいいけどさ。そう言うのは俺に言うより先に栗林さんに言えよ。」


 俺の許可を取るよりも栗林さんがなんていうかの方が大事じゃないのか?


「あぁ、実は、もうオッケーをもらってるんだ。」


 杉田が右手で軽く頭を掻きながら言う。なんて用意周到な奴なんだ。


「わかったわかった。さすが杉田だなぁ。じゃ、三人で行くのか?」


 三人だったら途中から俺が退屈になるよなぁ。


「なんか、もう一人の女子にも声をかけるって言ってたぞ?」


 なんと?それは一体誰なんだろう。


「へぇ。誰だろうな?っていうか、いつ行くの?」

「さぁ?俺は知らないけどさ。来週末でどうって話になってるよ。」


 それにしても、もうほとんど計画が出来上がっているんじゃないかよ。俺には事後報告というかなんというか。


「もう、かなり決まってるみたいじゃない。俺が断るとか思わなかったのかよ?」


 笑いながら杉田に問いかける。


「竹中なら断らないだろうなって思ってた。」

「なんで?」


 そんなに確信が持てるのはなんでだよ?


「なんとなくだけどさ。お前なら大丈夫じゃないかなって思ってた。」

「よくわからないけど、まぁいいや。確かに断らなかったしなぁ。」


 杉田に考えていることを読まれているみたいで、ちょっと癪だったが仕方ない。


「じゃ、栗林さんに伝えてくるわ。」

「あいよ。」


 思いがけずに来週末の予定が決まってしまったが、いったいどこに何をしに行くんだろう?そのあたりもわかると嬉しいんだけど、近いうちにわかるはず。焦らずに待とうか。それにしても、もう一人来る女子っていうのが気になるよなぁ。



 何日か経った放課後。帰ろうとして廊下に出ようとしたときに栗林さんに声をかけられた。


「ねぇねぇ、竹中くん。ちょっと。」

「ん?栗林さん?なんか用?」


 栗林さんと話をしたことがないわけじゃないが、そんなに親しい間柄じゃない。何の用かな?


「あ、あのさ。ちょっとお願いしたいことがあって・・・」


 もしかして、あの話かな?


「いいよ。ここで話す?それとも・・・」

「うん、ちょっとだけ人のいないとこがいいかな。」


 あんまり聞かれたくない話ってことかな。


「わかった。じゃ、先に屋上行ってるからあとで来てくれる?」

「ありがとう。すぐいくね。屋上で待ってて。」

「ハイハ~イ。」


 そう返事だけして屋上に向かう。五月になったと言っても夕方はそう暖かくはない。太陽が出ていなければまだまだ涼しいのがこの時期の北海道の天気だ。俺はフェンスにもたれかかりながらリラックスついでにタバコを一服・・・なんてことは当然なく、なんとなく予想の付く相談の内容を考えていた。おそらくは今度のお出かけの話なんだろうな。そして、杉田とのことを相談したいんだろう。杉田は転校してきたばかりだけど、友達がいないわけじゃない。前にも言ったように、アイツはいい奴だから何人も友人がいるみたいだ。けど、すごく親しそうにしている奴はいないみたいだ。天才すぎるも大変だよなぁ。

 そんなことを考えていたら栗林さんがやってきた。


「いやぁ、なんだかごめんね。」

「別に、あやまるようなことされてないよ。」


 軽く笑いながらそう答える。彼女の名前は『栗林実花くりばやしみか』さん。あんまり詳しくは知らないけど、元気な感じの女の子だ。身長は150センチくらいだろうか。あんまり大きいとは言えないけど、俺とそう身長差があるわけじゃない。髪はちょっとだけ長め。肩下10センチくらいだろうか。いつもどこかで髪を縛っている。校則だから仕方ないけど、髪を下ろしたら結構イイ感じなのかも知れない。超絶に美人というわけではないけど、整った顔立ちだとは思う。ただ何といっても栗林さんの良いところはその性格だろうな。誰とでもすぐに打ち解けられる明るい性格に人を安心させる笑顔。これだけでも才能だと思わざるを得ない。俺にはない才能だ。


「あ、そうかも?いやいや、違うよ。わざわざ屋上まで来てもらったんだから、『ごめんね』じゃなくて『ありがとう』だよね。」


 もしかして律義な性格なのかな?


「まぁまぁ。大したことじゃないからそんな気にしなくていいよ。それより、お願いって?」


 本題が気になるんだよね。見当はついてるけど。


「う・・・ん。あ、あのね。その・・・」


 今までとは打って変わって歯切れが悪くなる。うつむき加減で両手の指を弄んでるあたりから見ても、切り出しにくい内容なんだろうな。ここは俺から切り出しておくのが得策かな?


「杉田のことだろ?」

「‼」


 栗林さんが、顔を真っ赤にしてこっちを見る。


「その顔だと図星だね。」

「うん。そう。なんかね。そうなのよ。」


 何を言いたいのかわからないけど、なんとなくわかる気がするから不思議だ。


「いつから杉田のこと気になってたん?」


 ちょっと意地悪な質問をしてみる。


「それは、あの事件の時かな。」


 あの事件っていうのはやっぱり・・・


「それって、アレ?」

「そう、アレ。」


 アレの最中に何があったんだ?そっちのほうが気になるぞ?


「はぁ、全然話が見えないんだけどさ。どういうことなんだろ?」

「だよねぇ~。私も全然説明になってないや、あはは。」

「うん、さすがにちょっと。わからないわ。」


 これで理解できたら俺はエスパーだっての。


「あの時ね。杉田くんも竹中くんと一緒に立ち上がろうとしてたの。それこそ、竹中くんを助けに入ろうとしてたの。」


 思い出してみると、あの時に俺のほうを見ていた男子がいた。確かにあれは杉田だったな。


「そっか。アイツ。一言もそんなこと言ってなかったのに。」

「うん、私が『やめなよ』って言って止めちゃったんだ。」


 なるほどねぇ。でも、それって当然のことのような気がするけどなぁ。


「そんなことがあったんだ?」

「うん、ごめんね。竹中くんが一人になっちゃったのは私のせい。杉田くんを止めたから。」

「いや、かえって良かったと思うよ。あれを二人でやっていたら俺と杉田の中学生活は終わってたかも。」


 アイツが何もしないで俺の弁護に回ってくれたおかげで、今の俺があるわけだから。結果としてソレが正解だったわけだ。


「うん、杉田くんもそう言ってた。竹中くんと杉田くんってちょっと似てるとこあるよね。」

「そう?俺はあいつみたいに頭良くないし、それにイイ奴でもないぞ。」


 似てるのか?俺たちが?考えたこともなかったなぁ。


「杉田くんもそんな感じのこと言ってたよ。俺はすぐに立ち上がれなかったけど、アイツは違う。勇気があってすごい奴だって。あいつはきっとイイ奴だって。」


 杉田がそんなこと言ってたのか。知らなかったな。


「そっか。知らなかったよ。」

「あ、今のは言うなって言われてたんだ。ごめん、忘れてくれる?」

「いやいや、無理だって。けど、聞かなかったことにしとくよ。」


 笑いながら返事を返す。イイ奴かぁ。そう言われて悪い気がするわけがない。


「うん、でね?なんか、竹中くんってちょっと怖いねって言ったら、杉田くんに怒られたの。あれはみんなを守るためにアイツはやったんだって。なんかそういうの言われてはじめてわかったんだけど、それがわかっちゃう杉田くんってカッコイイなって。」


 ほほう。そう言うことなのねぇ。


「あれ?でも、それなら俺もかっこ良いってことにならない?」


 ちょっと言ってみたかっただけなんだけど。


「え?う~~ん、まぁ、そうかもしれないけど。どうかなぁ。」

「はいはい。俺はイケメンじゃないですから?別にいいんですけどね。」

「いやいや、そんなことないよ?竹中くんもかっこよかったよ。でも、先に杉田くんのことを好きになっちゃったんだよね。」

「いいんじゃない?きっとアイツのほうがいい奴だし。」

「なんか、拗ねてる?」

「いや。全然。本当に。」


 自分も驚くほどに嫉妬なんて気持ちがなかった。きっと、俺も本気で杉田を良い奴だと思ってるからだと思う。


「そう?ならいいんだけどね。・・・で、それでね?」

「あぁ、わかってるよ。今度の時にうまくやってくれって言うんでしょ?」

「うん。何をして欲しいってことじゃないんだけど。」


 まぁ、杉田自身も栗林さんのことをまんざらでもないと思ってるみたいだから大丈夫だろうなぁ。


「いいよ。わかった。それに心配しなくても大丈夫だと思うけどなぁ。」

「そうなの?」


 栗林さんの表情がパァッと明るくなるのがわかる。本当に表情が豊かな子だ。


「ん?さぁ?わからんけどね。」


 ちょっとだけニヤッとして恍けて見せる。


「えぇ、なにそれ。ちょっと、どういうこと?」

「まぁ、そう言うことはちゃんと本人と話しなよ。」

「それもそうかも。うん。そうだね、そうするよ。」


 一人で何回も頷く姿はちょっと面白い。


「あ、俺も聞きたいことあったんだけど。」

「ん?なに?」

「もう一人女子連れて行くって言ってたけど、誰なのさ?あと、どこに行くの?」


 誰なのか気になるし、どこ行くのかもすごく気になる。


「えっとね、映画をみんなで見て、その後に街の案内をしようと思ってるの。で、誰が来るのかは~~、内緒。当日のお楽しみ。」

「はぁ?なんでだよ。教えてくれてもいいんじゃない?」


 どうして内緒にされるのかさっぱりわからない。


「まぁまぁ。誰が来るのかわからないほうが楽しみ増えるでしょ?」

「楽しみっていうか、不安だって。」


 下手したら俺はずっともう一人の女子と話してなきゃいけないんだろ?栗林さんと杉田を二人にしなきゃいけないんだから。


「大丈夫だって。私を信じなさいって。」

「信じろったって・・・」


 何を信じたらいいんだよ。


「大丈夫。きっと竹中くんが驚くような子を連れてくからね。」


 かえって心配になってきたのはなぜだろう。けど、栗林さんもそんな悪い子じゃないだろうし、大丈夫なんだろうけど・・・。ここまで内緒にされると気になって仕方ない。


「どうしても、教えてはくれないの?」

「ふふ~ん。気になるのねぇ?」

「そりゃ、気になるさ。」

「だよねぇ~。だから内緒にしとくよ。」


 その笑っている姿は、きっと見る人が見たら背中に小さい黒い羽が生えている小悪魔に見えたに違いない。


「はぁ~。わかったよ。当日のお楽しみにしとくよ。じゃ、細かいこと決まったら教えてよ。待ち合わせの場所とか時間とか。」

「うん、そうするね。・・・じゃぁ、ほんとにお願いね。」

「うん、わかった。できる限りのことはするようにするよ。」

「ありがと、よろしくね。・・・それじゃ、また明日ね。」

「うん、じゃ、また明日ね。」


 栗林さんはそう言って小走りで去っていった。杉田め、羨ましいぞ、チクショウッ。それにしても、栗林さんと話したのは初めてだったのに、あんなに話せるとは思わなかったなぁ。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


主人公・竹中よりも杉田の方が楽しそうな展開になってますね。


それにしても、杉田の天才っぷりってどのくらいのレベルなんでしょう?

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