Dear, 夕人くん
最終章です。
もう何も言うことはありません。
フラットな気持ちで・・・それだけです。
Dear, 夕人くん 9/17/1990
手紙でごめんなさい。もしかしたら、こんな方法はずるいのかもしれないけど。
でも、もうこの方法しか思いつかないの。
だから、許してください。
最後まで、読んでもらえるなら嬉しいです。
どうかなぁ?読んでくれるのかな?
きっと、竹中くんなら読んでくれると思って、書いていきます。
でも、やっぱり、私のことが許せないなら・・・
ここで読むのをやめて、この手紙は捨ててください。お願いします。
大丈夫?
読んでくれる?
ありがとう。読むって決心してくれて。本当にありがとうございます。
きっと竹中くんは怒ってるよね?
私が、あなたに何も言わないで転校しちゃったから。
そのことは、本当にごめんなさい。
わたし、本当は七月には転校しなきゃいけないってこと知ってたの。
だから、ずっと、あなたには隠してました。ごめんなさい。
このことを知ってたのは、友ちゃんと杉田くんだけ。
でも、二人のことは責めないでください。私が内緒にしてって頼んだの。
私は、転校する。
ずるいけど、みんなと今まで通りに仲良く、楽しくしたかったの。
だから、本当に最後の最後まで、あなたにも伝えられませんでした。
本当にごめんなさい。
許されるなんて思ってないけど、本当にごめんなさい。
だって、そんなの、私のわがままだよね?
それもわかってる。私って、わがままなの。ずるい子なの。幻滅したでしょ?
オリエンテーリングの時に話したこと、覚えてる?
私は、あなたのことをすごいって思った。
誰かのために行動できるあなたを。
見返りを考えずに行動できるあなたを。
あなたは、私のことも同じようにすごいって言ってくれた。
カッコいいって言ってくれた。
優しいとも言ってくれた。
でも、私はそんな人間じゃないの。
わがままで、ずるくて、周りからの評価をいつも気にしてる。そんな子なの。
だから、私はいい子じゃないの。ごめんね?
こんな私を、好きになってくれてありがとう。
私がもっといい子だったら、きっと、あなたにこんな思いをさせることはなかったの。
本当に、ごめんなさい。
ここまでは、私の懺悔です。
ありがとう。読んでくれて。こんな読むのが苦痛な文章なのに。
ここからは、私の本当の気持ち。
わたし、東山明菜は竹中夕人くんが大好きです。ずっと大好きでした。
給食の時のあの時、あなたのことが好きになりました。
それから、あなたと話せた毎日は本当に楽しかったです。
だから、今までのことは私の中でとっても素晴らしい思い出です。
勉強を教えてもらったこと。
動物園にみんなで行ったこと。
二人で行った花火大会も、リンゴ祭りの時も。
すごく楽しくて、とても幸せな時間でした。
最初で最後のデートになっちゃったけど、手をつないで一緒に歩いた時、緊張して、嬉しくて、死んじゃうかと思ったくらいでした。
あの時に買ってもらった髪飾りは、私の宝物です。本当は髪につけたとこも見て欲しかった。
だから、あの日、こんな私に好きだって言ってくれて、すごく嬉しかった。
本当は、あなたとお付き合いしたかった。
もっと一緒にいて、もっといっぱいお話しして欲しかったし、お話ししたかった。
本当だよ?
友ちゃんにもいっぱい怒られた。
『竹中くんに本当のことをちゃんと伝えなさいって。』
でも、できなかった。
嫌いだったからじゃないよ?
本当に好きだよ。
だから、ごめんなさい。
何も言わないで転校した私だけど、あなたのことが大好きです。
あなたは、何も苦しまないで。
私のわがままです。
あと、どうして私がお付き合いできないって言ったのか聞いてください。
本当に、大好きだから、一週間だけじゃ余計につらいから。
離れられなくなっちゃうから。
耐えられないから。
やっぱり、私はわがままだね。
今までありがとう。
短い間だったけど、本当に楽しかったです。
でも、さようならだけは言いたくない。
しばらくはきっと会えないと思うけど、もう二度と会えないっていうわけじゃないよね。
あなたは、もしかしたら、二度と私に会いたくないかもしれない。
けど、私は、きっと、会いに行く。
いつかあなたに会いに行く。
そして、いつか、直接、あなたに謝らせてください。
その時まで・・・また、いつか。
最後に、
これからも、私が大好きなみんなに優しい竹中くんでいてください。
From 明奈
すごく、ながくなっちゃった。
まだ、書きたいことある気がするけど・・・
「それじゃ、これを一〇月一日に届くようにお願いします。」
最後まで読んでくださってありがとうございます。
『虹色ライラック』はこれで終了です。
中学生の初々しい恋、切ない感情。
そういったものを描けるように頑張ってみました。
現代とは少し異なる、携帯電話などの連絡手段がない時代。
手紙で心を伝えるしかすべがなかった時代。
今なら、遠くでも繋がっていられるのに。
少し懐かしく、そして切ない若い恋の物語でした。
蛇足かもしれませんが、このあとほんの数行だけ、続きがあります。




