もう、戻らない。あの日に。
ここまで、二人の視点から同じ時期の出来事を読んでいただきましたが、この章は竹中が告白した後の話になります。
あの後、二人はどうなってしまったのでしょう。
今日は九月三十日。
九月も今日で終わりだ。来月は、学校祭に中間試験といったイベントが目白押しだ。クラスのみんなは学校祭での出し物の準備なんかに追われながらも盛り上がっている。
俺はというと、『はぁ。やる気でないなぁ。』といった具合だ。
数日前。俺は東山さんにフラれた。何が悪かったのか全然分からない。だから、俺の中でなんとなく気まずくなってしまって、東山さんと話すタイミングを失ってしまっていた。東山さんにとっても同じなんだろう。以前みたいに話しかけてきてはくれない。だから、こうして学級会長なんて肩書を背負ってるにもかかわらず、屋上でサボっているのだった。
「あぁ、もう。やっぱりここにいたっ。」
誰だろう?最近、女の子に話しかけられると辛い気持ちだけよみがえってくる。できれば、俺にかまわないでほしい。
「こんなところでサボってないで、みんなを手伝いなさいよっ。」
「なんだ、玉置か。うっせーな。めんどくせーんだよ。ほっといてくれ。」
最近の俺は杉田とも会話をしてなかったような気がする。あいつも思うところがあるんだろう。あんなにけしかけといて玉砕したんじゃ関わりにくいよな。
「うるさいって・・・どうしたのよ?前まではそんな感じじゃなかったじゃない?」
いや、俺なんてこんなもんだよ。元々そんなにポジティブな人間じゃないし。大体、入学初日にあんなことがなかったら学級会長だってやってたかどうか。玉置とだって話すこともなかったのかもしれない。
「なんだよ。俺のこと、そんなに心配してくれるの?」
「そうじゃないよ。みんなに迷惑かかってるからちゃんとしなさいよ。そう言いに来ただけ。」
そうですか、そうですか。迷惑がかかる、ね。そりゃそうか。一応与えられた仕事があるんだっけか。
「はいはい、これから戻りますよ。」
やる気がないから戦力になるかはわかりませんがね。とりあえず戻りますか。
日付は変わって十月一日。
朝の会での衝撃。まさか、そんなことってあるか?俺は自分の耳を疑った。
「突然ですが、東山さんが転校しました。」
藤原先生の衝撃発言。クラスのみんなに動揺が走る。中には泣き出す女子もいる。
「本人の、たっての希望で転校前に皆さんにお知らせすることができませんでした。彼女の転校先は宇都宮です。遠い場所に行ってしまったけど、彼女のこれからの頑張りをここから応援しましょう。」
何?冗談だろう?先生よ。聞いてないよ?
東山さんにもう会えない?宇都宮って栃木か?どこだよ、そこは。行ったことねぇよ。
あまりの出来事に、先生の話なんて聞こえていない。
「彼女から皆さんに伝言です。」
ザワついていた教室が一瞬で静まり返る。
『突然転校することになってごめんなさい。お父さんの仕事の関係で突然のことでした。みんなとはもっといろいろなことをしてみたかったです。宇都宮に行ってもみんなのことは絶対に忘れません。さようなら。
東山明菜』
「皆さんも寂しいとは思いますが、一人で新しい土地へ向かう彼女のほうが大変だと思います。しっかり応援してあげましょう。手紙を出したい人は先生に言ってくださいね。住所を教えますから。」
なんだよ。なんなんだよ。わけわからねーよ。なんで転校しちゃうんだよ。親の仕事の都合?そんなの知るかよ。
いや、頭ではわかってる。どんなに粋がったって中学生は一人じゃ生きていけないさ。でも、一言くらい。さよならくらい直接言ってくれたっていいじゃないか。俺のせいか?あの後、俺が彼女と話そうとしなかったせいか?
本当に楽しかったんだよ。本当に好きだったんだよ。
でも、もう、どうでもいいや。
「竹中くん?どうしました?具合でも悪い?保健室に行く?」
こんな時の先生の心遣いは、はっきり言って迷惑だ。でも、今は、そのありがた迷惑にでもすがりたい。
「ちょっと、なんか吐きそうなので。保健室に行きます。」
「大変、保健委員は・・・東山さんだったわね。じゃあ、玉置さん、お願いできるかしら?」
「・・・あ、はい・・・」
玉置と一緒に、保健室へ向かう途中、こう切り出された。
「竹中くん、東山さんのこと好きだったんでしょう?」
「なんで、そんなこと言う?それも今。なんだよ。俺のことはほっといてくれよ。」
「だって、ほっとけないよ。それに、竹中くんは、この学校で初めて私を助けてくれた人なんだよ?そんな人を放っておけるわけないじゃないっ。」
「それでも、今はそっとしておいて欲しいよ。」
「・・・そうだよね。ごめん。」
「・・・いや、俺もごめん。言い過ぎたよ。」
東山さんは転校してしまった。もうこの事実は変わらない。
俺には後悔ばかりが残っている。俺はどこで間違ったんだろう。
せめて、彼女ともう一度会って話がしたい。もう、戻らない。あの日に。
帰宅後、俺の机には一通の封筒が置かれていた。差出人は・・・。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
結局、竹中と東山さんは会話をすること無く、別離することになってしまいました。
竹中の後悔が強く出ています。
ちゃんと話せばよかった。
もっと話したかった。
でも、悔やんだところで時間が戻るわけじゃない。
そんな時に玉置さんの出番がやってきます。
彼女も・・・思う所があるのでしょう。
さて、長らくお付き合い頂いた『虹色ライラック』ですが、次章で一段落ということになります。
最終章で語られる話。
ぜひ、お楽しみください。
ご意見、ご感想お待ちしております。




