今日という日を、私は忘れないよ。絶対に。
この章は、最初の最後の二人のデートシーンです。
東山さんの目線からお楽しみください。
今日から二学期です。
夏休みの間は、宇都宮に行ったり、引っ越しの準備をしたりで大変でした。
でも、花火大会も行けたし、楽しかった。
あと一か月しか札幌にいられないかもしれないけど、精一杯楽しく過ごします。
「あき~、おっはよう。」
「友ちゃん、おひさ~。ごめんね?夏休みは忙しくて全然会えなくて。」
「ううん、それより、花火大会どうだった?」
「花火大会は、杉田くんも来れなくて・・・。」
「二人で行ったんでしょ?」
「うん。けど、なんで知ってるの?」
わたし、友ちゃんに話したっけ?
「あ、杉田くんからさ、連絡あったの。」
そうなの?
「わたしにも連絡してくれたらよかったのにぃ。」
「だって、二人になるって知ってたら、あきはちゃんと行ったのかな?」
あ・・・どうだろう。たぶん、私は行ったと思うけど。
「でも、竹中くんも知らなかったみたいだよ?」
「まぁ、いいじゃない。それより、どうだったの?告白された?」
告白って。友ちゃん、何言ってるの?
「そんなこと、言われないよ。」
「そうなの?てっきりそういう流れになってると思ったのに。」
ならないよ。たぶん。
「なんでそう思うの?」
友ちゃん。どうして?
「だって、ねぇ。そりゃそう思うわよ。竹中くんもあきのことを、好きなんだと思うし。」
そうだったら嬉しいなぁ。竹中くんが好きでいてくれたら本当にうれしい。
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それから二週間経ちました。いつも通りの日々を送っています。
でも、引っ越しの準備とか本当に大変。お父さんもしょっちゅう宇都宮に出張に行ってるし、お母さんもお仕事から帰ってきた後にいろいろやってるみたい。お母さんは、宇都宮でも看護婦さんやるのかなぁ?
「ねぇ、友ちゃん。リンゴ祭りに行かない?」
友ちゃんとも楽しい思い出を作りたいなぁ。
「行ってもいいけど・・・。あき、本当にそれでいいの?」
なんで?いいよって言ってくれると思ったのに。
「竹中くんと行きなさいよ。」
「えぇ?なんで、竹中くんと?」
それは、ちょっとは考えたけど・・・でも、ねぇ。
「う~~ん、でも、やっぱり友ちゃんと行きたいかなぁ。」
「そうなの?でも、本当は竹中くんと行きたいんでしょ?」
それは、やっぱりちょっとはそう思うけど。
「うん、ちょっとだけ。」
友ちゃんは周りをチラッと見て言った。
「そうよねぇ。じゃ、こうしましょう。竹中くんに誘われたら、一緒に行きなさいな。誘われなかったら一緒に行きましょう。」
「うん、そうだね。」
でも、誘われたりはしないと思うけど。
「あの、東山さん。ちょっといいかな?」
うわっ、竹中くん。今の話聞こえたりしてないよね?えっと、こんな時はなんて言えば・・・
「え?竹中くん。どうしたの?」
必死に笑顔を作ってみたけど、ひきつってたかも。そして、竹中くんがちょっと怖い顔してる。どうしたの?
「・・・・あのさ、今度のリンゴ祭り、一緒に行かない?」
うそ?今、その話してたんだよ?誘ってくれるの?
「うん、いいよ。一緒に行こう。」
友ちゃんはどんな表情してるの?ふっと目をやると、友ちゃんは微笑んでる。
「あ、ありがとう。楽しみにしてるよ。」
「うん、私も楽しみにしてるね。」
本当にうれしい。
「良かったね、あき。」
「うん、あ、ごめん友ちゃん。」
「何言ってるのよ。さっき約束したでしょ?竹中くんに誘われなかったら私と行こうねって。誘われたんだから行ってらっしゃいな。」
「うん、ありがとう、行ってくるね。」
翌日。私は一大決心をした。
「竹中くん。」
お祭り行くとき、お買い物も一緒に行ってくれるかなぁ。今日はそのお願いをしてみるの。
「あ、東山さん。昨日は、その、なんかごめんね。」
「え?なんで謝るの?」
なんで、昨日って?
「あ、いや、突然誘っちゃって・・・」
「なんで?嬉しかったよ。」
どうして?私すごく嬉しかったよ。
「そ、そう?それは、良かった。」
うん。誘ってくれてありがとっ。
「うん、で、お祭りの日なんだけどね?」
「うん。」
えっと、緊張するよぉ。
「お祭りに行く前に、街で一緒に、その、お買い物したいんだけど・・・」
「いいよ。行こっか。」
やったぁ。いいよって言ってもらえた。
「でね?その日は十時くらいに待ち合わせして行きたいんだけど、いいかなぁ?」
「うん、全然大丈夫だよ。駅で待ち合わせていいのかな?」
あ、それは・・・もっとデートみたいにしたいなぁ・・・
「あ、あのね。その日は・・・えっと・・・、違う場所で待ち合わせしない?」
「いいけど?どこに行けばいいの?」
「私の家、知ってる?学校のすぐ近くのマンションなんだけど・・・。もしよかったら、そこに迎えに来てほしいなぁって。」
うわぁ、言っちゃったよ?私。迎えに来てなんてお姫様みたい。
「うん、わかった。じゃぁ、あそこのマンションのところに小さい公園あったよね?そこで十時に待ってるよ。」
迎えに来てくれるって。いやぁ、言ってしまってから緊張することってあるのよね。
「ありがと。じゃ、楽しみにしてるね。」
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今日はリンゴ祭り。竹中くんと初めてのデート。ちゃんと早起きして、準備しようと思ったのに・・・うわ~~ん。もう八時半じゃないっ!
「お母さん!今日は絶対早く起こしてって言ったのに!」
「ちゃんと、起こしたわよ?明奈が起きなかったんじゃないの。」
「えぇ。そんなことないもん。」
「いいから、早く支度しなさい?今日、デートなんでしょ?」
「むぅ、デートとか言わないでよ。恥ずかしいでしょっ。」
「はいはい。ちゃんと可愛くしていくのよ?」
「わかってるもん。服はちゃんと昨日準備しておいたもん。」
今日は、お買い物にも行くから、動きやすい服装にしないとね。
「う~~ん。もうちょっと、可愛い服でもよかったかなぁ。」
鏡を見ながらちょっと後悔。動きやすい服なのはいいけど、なんかちょっと・・・。お気に入りの服はもう、箱に詰めちゃったもんなぁ・・・仕方ないかぁ。
「明奈ぁ。早くご飯食べないと、遅れるわよぉ?」
「はーい、今行きます。」
九時四十五分になりました。待ち合わせは十時だから大丈夫だと思うけど、竹中くんはきっと早く来るよね。
「お母さん、いってきま~す。」
それにしても、今日もいい天気。雨とか降らなくてホント良かった。さぁて、待ち合わせ場所にいこっかな。まだ、竹中くんは来てないみたい。あぁ、よかった。
「ごめん。だいぶ待たせちゃったかな。」
わ、もう、来ちゃった。まだ、心の準備ができてなかったのに。
「うん。大丈夫。今出てきたとこだよ。それにまだ、時間じゃないし。竹中くん早く来ると思ったんだぁ。」
「それより、今日の服装、可愛いね。」
「え?あ、ありがとう・・・」
やったぁ。可愛いって言われちゃった。えっと、あれ?どうしたの?
「えっと、ご、ごめん。行こう・・・か?」
「う、うん・・・そだね。」
私もこの前の花火大会の時より、緊張してるのかなぁ?
駅まで行く間にいろんなお話をしたけど、これからの学校の話とか聞いてたらちょっと悲しくなってきちゃった。でも、仕方ないよね。転校することを伝えてない私が悪いのよ。ダメ。こんなところで泣いたら変な子だと思われちゃう。今日一日は何があっても泣かないって決めてるんだから。きっとこれが本当に最後のデートになるもん。笑顔でいなきゃね。竹中くんも笑ってるし。
「あ、そう言えば、今日は何を買いに行きたいの?」
あ、そっか。どこにお買い物に行くのか言ってなかったかも。
「うん、あのね。今日はね?髪のアクセサリーが欲しいんだよねぇ。」
「へぇ~、そうなんだぁ。でも、ごめん。お店とかよくわかんないんだよね。」
実は私もあんまり知らないだよねぇ。
「そうだよねぇ。男の人ってそういうお店、知らないよねぇ。」
ごめんなさい。知ったかぶりしちゃいました。
「ごめん。連れてってくれる?」
「うん、でも、いいの?そんなとこで。竹中くんも行きたいところってないの?」
竹中くんの行きたいところにも行ってみたいなぁ。どんなところっていうかなぁ。やっぱり本屋さんとかかなぁ。
「あのさ、俺ってバスケが好きなんだけど。」
「うん、知ってるよ。お昼休みにいっつも体育館でバスケしてるもんね。」
バスケの本とか買うのかな?なんだっけ。バスケの漫画があったとおもうんだけど。う~~ん。なんだっけ?
「そう、それでさ。もしかしたら今度バスケ部に入るかもしれないんだ。」
そうなんだ?バスケしてる竹中くんもカッコいいんだろうなぁ。試合とか見てみたかったなぁ。もしかして、一緒にバスケットやってみちゃったりして。優しく教えてくれたりするのかなぁ。もっと時間があったら。
「へぇ、そうなんだ?私はバスケってほとんどやったことないなぁ。」
「あ、今度一緒にやってみる?」
無理だよぉ。練習しても一緒にできるほどうまくなれそうもないし。私は運動神経が良くないのよぉ。
「え?いやぁ、それは無理だと思うなぁ。私、あんまり運動神経良くないし。」
「そうなの?別にゲームに参加しなくても一緒に遊ぶだけでもいいんだけど・・・」
ちょっとだけしてみたい。でも、時間、あんまりないし。
「う~ん、でも、やっぱりちょっと無理かなぁ。」
やっぱり、もうちょっと時間あったら・・・してみたかったかなぁ。
「そっか、まぁ、得手不得手ってあるしね。俺もダンスとかは苦手だよ。」
へぇ。意外。
「そうなんだ?竹中くんにも苦手なこととかあったんだ?」
「いや、苦手なものはいっぱいあるよ。」
そうは見えないんだけど。もしかして・・・人並み程度=苦手って感じ?
「あれ?そうなの?」
「そりゃ、そうだよ。」
「あははっ、そりゃそうだよねぇ。」
「そうそう。」
やっぱり、一緒にお話ししてると楽しい。あ、すっかり話の腰、折っちゃった。
「あ、ごめ~ん。で、さっきの話の続きなんだけど。聞いてもいい?」
「そだね、えっと、どこまで話したっけ?」
「ほら?バスケ部に入るかもって話だよ。」
「あぁ、そうだった。でね?バッシュが見たいんだ。」
バッシュかぁ。バッシュって何かな。バスケットのなんかだよね、きっと。
アクセサリーってどこで買えるんだろう。四プラに行ったらいろいろ売ってるよね?あんまり買いに行ったことないからよくわからないなぁ。あ、やっぱり、ここで正解。可愛いのいっぱいあるよ。
「あぁ~、これってかわいいよね?」
竹中くんの顔を見たら、よくわからないなぁって顔してる。
「うん、可愛いねぇ。どんなの探してるの?」
「そうねぇ。実は、どんなのってのは決めてないんだよね。」
どんなのにしようかなぁ。実はまだ決めてないんだよね。
できれば、竹中くんに選んでもらえたらうれしいんだけど。ちょっと贅沢かな?
そう思いながら、顔を見ようとしたとき、あれ?
目に、なんかごみ?片目だけ痛い。なんかウインクしたみたいになっちゃった。
「あ、これなんかも可愛いんじゃない?」
あぁ、これはちょっと、私には使えないかな?
「これは私には無理だよ。これは、髪の長い人がね、こう、こう、こうやって使うんだよ。」
「あ、じゃぁ、これなんかは?」
「コサージュかな?あ、裏にコームついてるから髪飾りで使えるね。」
あ、これは可愛いねぇ。でも、こんな花を頭につけてたらどう思われちゃうかなぁ?
「ごめん、何がなんだって?さっぱりわからないや。」
そうだよねぇ。わかんないよね?
「あ、そうだよね。ごめんね。やっぱりつまんなかった?」
「いや、楽しいよ。でも、わからないだけ。教えてくれるとありがたいなぁ。」
「あぁ、これもいいかも。やっぱりこっちかな?ね、どっちがいいかな?」
う~ん、どっちもいい感じだから悩むよぉ。
「東山さんが好きなのはどっちなの?」
「う~~ん、そうねぇ。こっちかな?」
どっちもいい感じだけど、やっっぱりこっち?
「うん、やっぱりね。思った通りだ。俺もそっちのほうがいいと思うな。」
私と同じのを可愛いって言ったぁ。
「え?ほんと?そっかぁ、じゃ、これにするね。」
「じゃ、それ、俺が買ってあげるよ。」
「ええっ、そんな。悪いからいいよぉ。」
いやいや、買って欲しくて一緒に来たわけじゃないから。ほら、今日の記念に・・・
「んじゃさ、今日のデートの記念ってことで。ダメかな?」
え?嬉しい。竹中くんって、私の考えてる事わかっちゃうのかなぁ。
「あ、その、ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。思わず、ちょっとなんというか・・・」
「ううん、嬉しい・・・。ありがとう。ずっと・・大切にするねっ。」
すっごく嬉しい。ずっと、大切にするね。
そのあとは、一緒にスポーツ用品店でバスケットシューズを見たんだけど、あれって、すっごく高いのよね。ビックリしちゃった。バッシュってバスケットシューズのことなんだね。でも、これで、お買い物の予定はおしまい?あとはもう、お祭りに行くだけかなぁ?そう考えたら、寂しくなってきちゃった。
今日は、九月の第三日曜日だから、札幌にいられるのはあと二週間しかないのよね。そう考えたら、竹中くんとデートできるのは今回がきっと最初で最後。いっぱい、お話ししたい。
でも、どんなことをお話しても、どんなにたくさんお話ししても、私は彼に本当のことを伝えていない。それって、本当に正しいことなのかなぁ。やっぱり、彼にはもう引越しちゃうってこと、伝えなきゃダメかなぁ。そして、私の気持ちも・・・
けど、それを伝えてどうなるの?私は、もう、来月には彼の前からいなくなっちゃう。
そんなことを考えていたら、もうお祭り会場に着いちゃったみたい。全然話さなかったから、変に思われちゃったかな。彼も、全然話さないし。
「うわ、結構、人がいっぱいいるね。」
「本当だね。いっぱいいる。」
「あ、屋台も出てるんだね。」
「ホントだね。」
お祭りの雰囲気が、私の暗い心を晴らしてくれるかもしれない。
「折角だから何か食べようか?」
「うん、私たこ焼きが食べたいな。」
暗くなってても仕方がないよね?
「タコ焼きください。」
「はいよっ、三百円ね。」
「あ、あっちにリンゴ飴あるよ?」
リンゴ祭りだもん、リンゴ飴、食べなきゃだよね。でも・・・
「なんとっ、リンゴ祭りにリンゴ飴とはっ。買うしかありませんね。」
すっごく、人が多い。彼とはぐれちゃいそう。今日は。今日だけは。ちょっとだけわがままで良いよね?彼と、手くらいつないでもいいよね?
「ねぇ、待って?」
彼の左手に一生懸命手を伸ばす。もうちょっとで・・・
届いたっ!
驚いたように竹中くんが振り返る。
「あ、ごめん。」
やっぱりダメだったかな。そう思うのと同時に手を放しちゃった。
「いや、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだよ。」
びっくり?イヤだってことじゃないのよね?
「その、良かったら、手、つないで歩く?」
どうしてこっちを向いて言ってくれないの?どんなことを考えてそう言ってくれてるの?けど、私も隠してる。いろんなことを。彼よりもずっと多くのことを。
「・・・・・・」
言葉には出せなかったけど。声に出すと涙も一緒に出そうだから。今は、彼の優しい手から勇気が欲しかったの。
お祭りの屋台を回っている間中、私たちは手をつないで歩いていた。
本当に楽しくて、嬉しくて、幸せだった。こんな時間がずっと続いたらいいのに。
**********************
屋台で買った食べ物をいろいろ食べながら、小高い丘の上に二人で座っていた。花火の時よりも彼を少しだけ近くに感じられたのがうれしい。
けど、空の色が、透き通った青からオレンジ色に変わろうとしている。もうそろそろ、帰らなきゃいけない。まだ、帰りたくない。もっと、一緒にいたい。
「そろそろ帰らないとダメだよね。」
彼の一言。もちろん、これは彼のやさしさ。
「・・・そうね・・・」
「帰ろっか?」
「・・・うん。」
もう、終わっちゃうの?
家までの帰り道。彼と手をつないで歩く道。何度も、こうありたいと思ってた。それがかなった今、もっといろんなものが欲しくなっちゃう。けれど、それは私の傲慢だよね。
彼は、無言。いったい何考えてるの?どうして話してくれないの?そっと彼の顔を見る。夕日で赤く染まった彼の顔はいつも以上にかっこよく見える。
やっぱり、好き。優しい彼が、竹中くんが好き。大好き。
もう、着いちゃった。
「今日は本当に楽しかった。ありがとうね。」
帰り道で彼が何も言わないのはなんでだったの?
「俺も楽しかったよ。また、遊びに行こうね。」
「うん、そだね・・・。」
また・・・ね。本当に行けたらいいな。
「じゃ、また明日、学校でね・・・」
「うん、また・・・」
いっぱい、いっぱい、お話ししたかったけど・・・
ありがとう。竹中くん。私に楽しい時間をくれて。
今日という日を、私は忘れないよ。絶対に。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
やっぱりこの年頃では男子よりも女子のほうが精神年齢が高いですね。
東山さんは基本的に可愛らしい性格という女の子ではありますが、竹中に比べるとずっと大人の考え方をしています。
次章でついに、告白シーンになります。
竹中パートではわからなかった断った理由。
しっかりと明かされていきます。
ご意見、ご感想お待ちしております。