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虹色ライラック  作者: 蛍石光
第7章 向き合う女
22/27

花火ってさ、一瞬だから綺麗だよね

東山さんの苦悩が見て取れる前章でしたが、今回も続きます。というかずっと。


竹中編でほとんど語られなかった花火大会での出来事です。

 そう言えば、花火大会の日のこと、なんにも話してなかったぁ。やっばぁ~い。花火大会って明日だよ?う~~ん。どうしよう。・・・あれ?電話、鳴ってる?


「はい、東山ですが・・・。」

「あ、あき?友ちゃんだよ~。」

「あ~、友ちゃん、久しぶり~。帰ってきたの?」


 友ちゃんの声を聞くのは久しぶりだよ。一週間くらいかな?


「うん、ついさっき帰ってきたの。でね?明日のことなんだけど、夕方からなら大丈夫だよ。」

「え?ほんと?いま、明日のことどうしようかって考えてたんだよ。」

「そうなの?なんにも考えてなかったの?ギリギリまで計画決めてないなんて、結構すごいじゃない?」

「むぅ、だってぇ。友ちゃん、いないんだもん。」

「あはははは、私がいなくても計画くらい立てられたでしょ?」


 確かにそうだよねぇ・・・。私もダメダメだぁ。


「じゃ、夕方に地下鉄駅で待ち合わせで良いよね。」

「そうねぇ。五時くらいかな?そのくらいだと花火の前にちょっと遊べるよね?」

「あ、いいねぇ。そうしよう。」

「じゃあさ、竹中くんにはあきから電話しといて?杉田くんには竹中くんから連絡行くでしょ。」

「え?私が連絡するの?」

「当たり前じゃん。提案者はあなたでしょ?」

「そうだけど・・・」

「じゃ、そういうことで、また明日ね?」

「あ、うん。また明日ね~。」



 ふぅ。電話かぁ。竹中くんに電話するのは初めて。頑張って電話してみよう。


「はい、竹中でございます。」


 え、女の人の声、竹中くんのお母さん?


「あ、あの、その、は、初めまして、えっと、わ、私、夕人くんのクラスの東山と言います。ゆ、夕人くん、いらっしゃいますでしょうか?」


 あれ?なんか変なこと言った気がするよぉ。変な子だって思われたらどうしよう。


「あら、東山さん?夕人から話は聞いてますよ。ちょっと待ってね?」


 え?話を聞いてる?夕人くんから?どんな話?


「あ~、俺だけど?」


 はぅ、竹中くんだ。


「あ、竹中くん?私。明奈・・・じゃない、東山だけど。」


 あぁ、もう、なんか・・・。


「あ、う、うん、俺だよ。どうしたの?」


 落ち着け。落ち着くんだ、私。大丈夫。


「いや~、お母さんが電話に出たから緊張しちゃって。私、変なこと言わなかったかなぁと思って。」

「大丈夫じゃない?東山さんはそんな人じゃないでしょ。」

「でも~、なんだか噛んじゃって。ゆ、夕人くん、いらっしゃいますでしょうか?なんて言っちゃった。」

「それは普通でしょうよ?俺の名前は夕人だし。それでいいんじゃないの?」


 夕人くんって呼んでもいいの?


「で、なんか用事があったんじゃないの?」

「あ、うん。そう。明日の花火大会のことなんだけど・・・」


 危ない。なんで電話したのか忘れちゃうとこだったよ。


「あぁ、大丈夫だよ?何時にどこで待ち合わせる?」

「えっと、友ちゃんから連絡来たんだけど、夕方に待ち合わせなら大丈夫だと思うって言ってたんだ。だから、五時くらいに霊園前駅でどうかなぁって。」


 ホントは二人で・・・、な~~んて。考えてないです。


「わかった、オッケー。杉田には俺から連絡しとくよ。あ、もう伝えた?」

「ううん、まだ・・・。」

「了解~。じゃ、伝えとくよ。」


 なんか、考えてることバレたような気がしてビックリ。


「う、うん。じゃ、お願いします。」

「どしたの?何かあった?」


 え?なに?私、変だった?


「え?そんなことないよ?どうして?」

「いや、何でもない。なんとなくそんな気がしただけ。」

「そっか。ありがと。大丈夫だよ。私は元気だよ~。」


 そう、私は元気だよ。


「あはは、そっか。元気ならよかった。」

「じゃ、杉田君への連絡はお願いね。金曜日の五時に地下鉄駅に集合で。」


 もっと話してたいのに。


「わかったよ。いまからすぐ連絡するから。」


 今すぐ?もっとお話ししたいよぉ。


「うん、よろしくね。それじゃ、楽しみにしてるよ~、じゃあね~。」


 ううん、明日、会えるもんね。


「はいよ~、じゃあね~。」


 あ・・・。電話、もう切れちゃってる。やっぱり、もっとお話ししたかったよぉ。もう一回電話しちゃおうかな・・・ダメだよ。何言ってるるんだろ、私。明日。そう、また明日。それまで我慢しよう。


*********************


 その日の夜。と言っても七時頃。


「はい、杉田です。」

「あ、杉田くん、砂川です。こんな時間にごめんなさい。」

「どしたの?」

「ちょっと相談があって・・・。」

「構わないけど、なにかあったの?」

「明日、ちょっと会える?」

「いいよ。じゃ、一時に。ほら、学校近くの月寒公園でいいかな?」

「わかった。ごめんね。ありがとう。」

「気にしなくていいって。それじゃ、また明日。」

「うん、バイバイ。」


 ガチャン。


**********************


 今日は花火大会の日。みんなでお出かけ。すごく楽しみ。竹中くんに会えるし。


「あき?ちょっと話があるの。」

「なぁに?お母さん。」

「あのね?急な話なんだけど、明日から予定入れないでくれる?」

「え?なんで?」

「宇都宮へ行くのよ。」

「え?もう引越すの?」

「ちがうわよ?まだ、準備してないじゃない。おっちょこちょいねぇ、あきは。」


 そんなことないもん。笑わないでよ、お母さん。


「じゃ、なんで?」

「家を探しに行くのよ?宇都宮には。それで、お父さんの都合にもよるんだけど、おばあちゃんのところにも行きたいから。お願いできる?」


 そんな・・・。もう、夏休み中にみんなに会えないの?


「・・・わかったよ。」

「そう、あきも、お友達と遊びたいと思うけど、わかってくれてうれしいわ。」


 うん、私はきっと、我慢できる。


*********************


 ここは月寒公園。豊平区民の憩いの場。時間は昼の一時頃。珍しい組み合わせの男女がいる。


「砂川さんは、どこにいるんだよ・・・」

「あ、杉田くん。ごめん。こっちだよ。」

「はいはい。まったく・・・。で、話ってなんですのん?」

「うん。大事な話があるの。」

「大事な話?」


 杉田が珍しく訝しがるような表情をしている。


「うん、他の人には絶対に言えない話。」

「何?俺への告白?悪いけど、それは無理よん。俺には実花ちゃんがいますからね。」

「はぁ?バカじゃないの?そんなの知ってるって。そうじゃなくて、あきのことよ。」

「東山さんのこと?」

「そう。あきが、竹中くんのことを好きだってことはきがついているでしょ?」

「まぁ・・・なんとなく。そうじゃないかなとは思ってたけど。」

「実は、あき、転校するのよ。十月に。」

「は?マジで?」


 これには流石の杉田も驚きを隠せなかったようだ。


「そう。私もつい最近知ったんだけど。みんなには言わないでほしいって言われたの。」

「俺に言ってんじゃん。ダメだなぁ。砂川さんは。」

「はぁ?そういうことじゃなくて、あんたも協力しなさいってことよ。」

「協力って言ったって、転校の阻止はできないでしょうよ。俺だって今年転校してきたんだぜ?」

「だから、そっちじゃなくで。あきと竹中くんの仲を取り持つわよってこと。本当に、馬鹿なんじゃないの?」

「わかってるって。今日の花火大会のことだろう?二人で行かせたいんだよね?」

「なんだ・・・わかってるんじゃないのよ。」

「俺は、竹中の親友だぜ?あいつのことはよくわかってるよ。」

「そう。さすがね。で、ひとつ聞いておきたいんだけど、竹中くんは玉置さんのことどう思ってるのかしら?」

「玉置さんのこと?あぁ、そういうことね。あいつは玉置さんのことは何とも思ってないよ。玉置さんがどう思っているのかは知らないけどね。」


 そう言った杉田の顔には自信のような表情が溢れている。


「じゃぁ、大丈夫ね。」

「あぁ、大丈夫だね。」

「それって、つまり、彼はそういうことでいいのよね?」

「あぁ、いいと思うよ。」

「じゃ、こうしましょう?今日の花火大会に私たちは突然の用事で行けなくなったって。」

「そうだなぁ。いいよ。竹中には俺から連絡するから、東山さんにはそちらからよろしく。」

「わかったわ。よろしくね。」

「おう、任せとけ。それにしても、東山さん、かわいそうだよなぁ。」

「本当よ。これからって時なのに・・・」


 二人はしばらく無言だった。


*********************


 もう、夕方。さっき、お母さんに夏休みは予定を入れないでって言われちゃったから、夏休みにみんなで遊びに行けるのは今日で最後かもしれない。だったら、今日を楽しまなきゃ。って、あれ?また電話鳴ってる?


「はい、東山ですが。」

「あき?友ちゃんです。」

「あれ?友ちゃん?どうしたの?もうすぐ会えるのになんで電話?」

「あ~、それなんだけど。本当にごめん。あのね?ちょっと用事が入っちゃったの。」

「え?そうなの?」

「うん、だから、今日行けなくなっちゃったのよ。ごめんなさい。」


 そんなぁ、友ちゃんに会えないの?


「そんなぁ。楽しみにしてたんだよ?じゃ、今日は中止にする?」

「いやいや、何言ってるのよ?あたしは行けないけど、あきは行けるんでしょ?」

「うん、行ける。」

「じゃ、本当に悪いんだけど。これからもう出かけなくちゃいけないの。竹中くんには私から連絡しておくから。あきは、楽しんできてね?」

「う、うん。じゃ、杉田くんには私が伝えとくね。」

「あ~、大丈夫、竹中くんに言えばちゃんと伝わるって。この前もそうだったでしょ?」


 あ、そっか。


「そうだね。わかった。」

「じゃ、ごめんね。もう時間無いから。また今度ね~。」


 友ちゃんがいないとなるといろいろ不安。


*********************


 待ち合わせは地下鉄の駅。やっぱり待たせたら悪いよね。ちょっと早いかもしれないけどいこっかな。

 やっぱり早かったかなぁ。時間は、四時四十分。二十分も早く来ちゃった。ふふ~ん、一番乗り。これだけ早かったらさすがにまだ来ないよね。今日は友ちゃんが来れないから三人かぁ。きっと杉田くんがいろいろ話してくれるから大丈夫だよね。


 四時五十分。向こうから竹中くんが歩いてくる。嬉しくなっちゃって、思わず手を振っちゃった。あ、竹中くんも手を振り返してくれる。えへっ。

 あれ?杉田くんは一緒じゃないのかな?


「やー、東山さん。早いねぇ。」

「竹中くんこそ。まだ十分前だよ。」


 竹中くんだってかなり早いよ


「ちょっとだけだけどね。待たせたくなかったからさ。」

「え?あ、ありがとう。」


 待たせたくないだって。初めて言われた。なんか嬉しい。


「砂川さんはまだかな?」


 え?


「あれ?聞いてないの?友ちゃん、今日は来れないって。なんだか家の用事ができたって言ってたよ。竹中くんには連絡するって言ってたけど。」


 友ちゃん、電話するって言ってたのに。


「え?聞いていないよ?電話も来てないし。」


 え?なんでこんなことになってるんだろう?


「杉田君は?一緒じゃないの?」


 竹中くんじゃなくて杉田くんに連絡したのかな?う~~ん、わかんないや。


「あいつは東京の親戚のところに行くって。聞いてなかった?」


「うん、聞いてない・・・」


 え?杉田くんも来ないの?それって、二人っきりってこと?もちろん、花火に行く人はいっぱいだけど。


「そっか、じゃぁ、二人は来れないんだね。」


 二人っきりだなんて、恥ずかしくて竹中くんのほう向けないよ。


「そうみたいだね・・・。あ、誰か呼ぼうか?」

「え?」


 誰かって?


「あ、いや、二人だといやかな?って思ったから。」


 やっぱり、私と二人なのは嫌なのかな。


「竹中くんが呼びたいなら・・・そうしてもいいよ。」


 だめ、呼ばないで。二人でも行こうよ。


「あ~、でも、今更電話してもきっと誰も捕まらないよね。」


 誰のこと言ってるの?


「・・・・そうだね。」


「杉田が来れなくて残念だったね。」


 杉田くんは関係ないじゃん。


「・・・・うん・・・・」


 わたし、ちょっと間違えた。そこは、『うん』じゃなくて・・・

 竹中くんも困っちゃってるじゃない。


「えっと、・・・・帰る?」


 やっぱり・・・。ダメなのかなぁ。


「・・・・帰るの?」


 竹中くんがどんな表情で言ってるんだろう。でも、顔を見るの怖い。


「いや、ウソ。やっぱり行こっか?」


 え?今、行こうって言った。嬉しい。


「うん、行こっ」


 すごく嬉しい。きっと、今日は笑顔でいられる。だから、今日の竹中くんの顔をずっと覚えていよう。


「そだね、行こっか。」

「うんっ」


*********************


 花火大会の会場は豊平川の河川敷です。いっつも花火大会の日は人が多くてとっても川の近くまでは近づけません。たから、やっぱり今日もあんまり近くまでは行けないみたい。でも、近すぎたらずっと上を見てないとけないから、ちょっと離れたくらいのほうがキレイかな?


「人がいっぱいいるね。」


 カップルがいっぱいだぁ。私たちもその一つに見えてるかなぁ。えへへ。


「そうだねぇ。あ、花火までまだ時間あるよね?夜店とか回らない?」

「うん。行きたい。」


 なんだかデートみたい。二人で一緒にこうやって歩けるなんて夢みたい。もしかしたら今日が最後かもしれないけど。めいいっぱい楽しむんだ。


「あ、綿あめだ。」

「ん?東山さん、綿あめ好きなの?」

「うん・・・好き。」


 竹中くんが。

 じゃなくて。綿あめが。


「妹にお土産頼まれてるんだよなぁ。」

「あ、綿あめはすぐに縮んじゃうから帰りに買ったほうがいいと思うよ。」


 妹さんのお土産かぁ。優しいんだね。


「そういうもんなの?じゃ、帰りに買うかな。一つは。」


「そのほうがいいと思うよ。」

「ありがとう。そうするね。あ、親父さん、これ一つください。」

「あいよ。三百万円ねぇ。」

「あはは、じゃあ、これで。」

「まいどありぃ。兄ちゃん、楽しいデートをなっ。」


 デートって・・・。それになんで綿あめ買っちゃったの?帰りのほうがいいって言ったのに。


「あ、ありがとうございます。はい、これ。東山さん。」


 え?私に?


「あ、ありがとう。」


「うん、好きなんでしょ?」

「うん、綿あめ、大好き。」


 あぅ、子供っぽく返しちゃった。竹中くん、あきれてない?


「良かった。喜んでくれて。」


 嬉しいなぁ。いつもの綿あめよりおいしい気がするよっ。


「竹中くん、ありがとっ。」


 夜店を回ってる間に打ち上げ時間が近くなってきちゃった。どんどん人が増えてきてはぐれちゃいそう。


「竹中くん、どこで見るの?」


 河川敷だと、人がいっぱいだよ?


「実は、穴場を知ってるんだ。ちょっと歩くけど大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。」


 すごい、そんなとこがあるんだ?さすが、竹中くん、


「じゃ、行こうか。こっちだよ。」


 って、ここって、なんかのビルじゃない?大丈夫なの?こんなとこに入って。


「ここさ、親父の知り合いのビルなんだ。だからさ、屋上に入らせてもらうんだよ。」


 嘘?すごい。誰もいないところで花火が見れるの?こんなの初めてだよ。


「本当?すごい。ありがと。お父さんにもよろしく伝えてください。」

「うん。わかった。」


 あ、なんか苦笑いしてる。


 ドーーン


 あ、始まったみたい。


「綺麗だねぇ。花火って。」


 私、花火って好き。でもなんだか今日は、ちょっといつもよりも綺麗。


「俺も好きだよ。花火って本当に綺麗だよね。」


 私と竹中くんの二人きりの花火大会みたい。この時間がずっと続いたらいいのに。


「ねぇ、竹中くん・・・」

「・・・花火ってさ、一瞬だから綺麗だよね・・・」


 一瞬・・・そうだね。

 花火はその瞬間だけ光り輝くために作られるんだよね。 

 うん。今の一瞬を大事にしないといけないよね。今の二人の時間。

 ほんのわずかな時だけど、大切にしよう。この二人っきりの時間は、もう、二度と来ないんだから。


 だから、もう少しだけ、近くに寄ってもいいよね?

ここまで読んでくださってありがとうございます。


花火大会でこんなことをしていたんですね、竹中。

なんだか妙にイケメンなことをしてますが、彼にとっては普通のことなのかもしれません。


それにしても、東山さんにとって玉置さんという存在が非常に大きい存在だということがよくわかります。


このあとも、二人の切ない恋の話、続きます。


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