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虹色ライラック  作者: 蛍石光
第5章 当たらない男
19/27

金魚すくいで三十匹とって出禁になった記憶がある。

ついに竹中と東山さんのデートになります。


二人の関係はどうなるんでしょう!

 翌日。


「竹中くん。」


 声をかけてきたのは東山さん。一気に俺の体温が上がるのを感じる。


「あ、東山さん。昨日は、その、なんかごめんね。」


 何をいきなり謝ってるんだ、俺は。


「え?なんで謝るの?」


 キョトンとした表情でこちらを見つめてくる。かわいいなぁ。こんな子が彼女だったら、きっと楽しいんだろうなぁ。


「あ、いや、突然誘っちゃって・・・」

「なんで?嬉しかったよ。」


 思わず映画プラトーンのワンシーンを演じてしまいしそうだ。あの両膝をついて両腕を空に向けるシーンだ。まぁ、ともかく嬉しいってことだ。


「そ、そう?それは、良かった。」


 なんだ、それのそのセリフは。馬鹿なんじゃねぇのか?


「うん、で、お祭りの日なんだけどね?」


 よかった。俺の馬鹿発言をスルーしてくれて。


「うん。」

「お祭りに行く前に、街で一緒に、その、お買い物したいんだけど・・・」

「いいよ。行こっか。」

「でね?その日は十時くらいに待ち合わせして行きたいんだけど、いいかなぁ?」

「うん、全然大丈夫だよ。駅で待ち合わせていいのかな?」

「あ、あのね。その日は・・・えっと・・・、違う場所で待ち合わせしない?」


 ん?違う場所?どこだろ?


「いいけど?どこに行けばいいの?」

「私の家、知ってる?学校のすぐ近くのマンションなんだけど・・・。もしよかったら、そこに迎えに来てほしいなぁって。」


 迎えに来てほしいですって?これは、何かで見たデートというやつみたいじゃないですか?


「うん、わかった。じゃぁ、あそこのマンションのところに小さい公園あったよね?そこで十時に待ってるよ。」

「ありがと。じゃ、楽しみにしてるね。」


 そう言い残して、東山さんは戻っていった。楽しみにしているのは俺も一緒だよ。


「本当に、楽しみだよなぁ。竹中。」


 いつの間に。杉田が俺の横で親指を立てている。


********************


 目覚ましが鳴る前に目が覚めた。


「今何時だ?」


 目覚まし時計を見る。まだ五時だ。えらく早く目覚めてしまった。早く目覚めたからって別段やることもない。やることはないんだが今日は特別な日だ。こういう日に限って雨が降っていたりして最悪なことになるのがお約束なのだが。おい、まさか、それだけは勘弁してくれよ?そう思いながらカーテンを開けて外を見る。澄み切った青空と一緒に、朝の雀たちのあいさつが聞こえてくる。良かった。こんな時にお約束は要らないからな。


「今日もいい天気だなぁ。」


 思わずそう言ってしまう。北海道のこの時期は最高の季節。暑くもない。けど寒くもない。雨降りの日も少ない。小春日和なんて言葉は、まさに北海道のためにあるんじゃないか。そんなことまで考えてしまう。今日は九月の第三日曜日。リンゴ祭り当日。東山さんとの初めてのデートだ。マズい。デートなんて考えるだけで緊張してきた。何か他のことを考えないと。と、そうだ。そういえば、杉田とこんな話をしたな。



「なぁ、竹中?東山さんはいい子だからなぁ。ちゃんとケジメつけて来いよ?」

「なんだよ、ケジメって。よくわからないなぁ。」


 こいつのいうことはいつも難しいんだよな。


「だから。ちゃんとお前の気持ちを伝えろってことだよ。」

「気持ちか。」

「そう。気持ちだ。そうしないとずっと後悔するぞ?」

「わかってる。前にも言われた。」

「いや。前とは違うだろ?この前はよくわかってなかっただろ。お前。けど、今は違うよな。」

「そうだな。前とは違う。けど、タイミングは俺のタイミングでいいよな?」

「俺に合図を出させる気か?」

「そうだな。この際頼むかな。」


 もちろん冗談だ。


「そんな軽口をたたけるならお前は成長してるわ。」

「うるせぇよ。同い年じゃねぇかよっ。」


 そう。そうだよな。今日。言えるといいなぁ・・・。やっぱり成長してないか、俺。


**********************


 さて、もうそろそろ行こうかな?時間は九時半。俺の家からだと自転車だったら十分くらいだ。彼女のことを待たせたくはないし、少し早く着いていたい。それに、早く会いたい。


「おにーちゃん、今日も出かけるの?」


 今日もって。週末に出かけるのは久しぶりだと思うけど。


「リンゴ祭りのお土産、おねがいしまーす。」


 小夜がおねだりしてくる。ハイハイ。買ってくるよ。


「遅くならないうちに、帰ってくるのよ?」


 母親の一言はいつだって定番だ。さぁて、いこうか。



 九時五十分。待ち合わせ時間には十分余裕があるはずなんだけど、東山さんがもう待ってる。


「ごめん。だいぶ待たせちゃったかな。」


 今日の服装も可愛いな。この前は白のワンピースだったけど、今日はブラウスにキュロット・パンツか。動きやすい服装なのかなぁ。やっぱり、可愛いなぁ。俺は、Tシャツにジーンズか。普通だよなぁ。大丈夫だよな?


「うん。大丈夫。今出てきたとこだよ。それにまだ、時間じゃないし。竹中くん早く来ると思ったんだぁ。」


 笑顔で俺を見上げる。それがたまらなくかわいい。


「それよりさ、今日の服装、可愛いね。」

「え?あ、ありがとう・・・」


 あぁ、思わず・・・言ってしまった。


 沈黙だ。マズいぞ・・・えっと。


「えっと、ご、ごめん。行こう・・・か?」

「う、うん・・・そだね。」


 大丈夫かな、俺。今日一日うまく話せるのかな・・・


***********************


 地下鉄までは一緒に歩いて移動。そう遠くもないけど、歩いたら15分くらいかな。一緒に歩いている間に少し緊張がほぐれてきた気がする。でも、話したことと言えば、学校のことや勉強のこと。なんだろう。他のことも話したいのに、いつもの会話と変わらない感じだ。でも、東山さんは笑いながら話をしてくれている。俺も、笑いながら話してたと思う。


「あ、そう言えば、今日は何を買いに行きたいの?」


 街に買い物に行きたいとは言ってたけど、何を買いたいか聞いてなかったなぁ。


「うん、あのね。今日はね?髪のアクセサリーが欲しいんだよねぇ。」

「へぇ~、そうなんだぁ。でも、ごめん。お店とかよくわかんないんだよね。」


 しまった。あらかじめ調べておくべきだった。


「そうだよねぇ。男の人ってそういうお店、知らないよねぇ。」


 うぅ、ごめんなさい。全然わからないです。


「ごめん。連れてってくれる?」

「うん、でも、いいの?そんなとこで。竹中くんも行きたいところってないの?」


 あ、そうか。自分が行きたいとこか。うーん、そうだなぁ。バッシュかな。


「あのさ、俺ってバスケが好きなんだけど。」

「うん、知ってるよ。お昼休みにいっつも体育館でバスケしてるもんね。」


 そう、このころの流行は、昼休みにクラスの男子何人かでチームを作ってクラス対抗ゲームをすることだった。各クラスで何チームも作られて、それぞれがゲームを始めるもんだから、体育館はもう、誰がどのチームかわからない入り乱れようだった。我ながら、よくそんな状況でまともにバスケができたもんだ。


「そう、それでさ。もしかしたら今度バスケ部に入るかもしれないんだ。」


 まだ、はっきりとは決めてないけどね。


「へぇ、そうなんだ?私はバスケってほとんどやったことないなぁ。」

「あ、今度一緒にやってみる?」


 実際、昼休みバスケには女子も何人か加わっていた。


「え?いやぁ、それは無理だと思うなぁ。私、あんまり運動神経良くないし。」

「そうなの?別にゲームに参加しなくても一緒に遊ぶだけでもいいんだけど・・・」


 無理強いは良くないかな?


「う~ん、でも、やっぱりちょっと無理かなぁ。」


 そう言ってちょっとだけ笑った。


「そっか、まぁ、得手不得手ってあるしね。俺もダンスとかは苦手だよ。」

「そうなんだ?竹中くんにも苦手なこととかあったんだ?」

「いや、苦手なものはいっぱいあるよ。」


 俺のことを万能選手と勘違いしてるのかな?ちょっと恥ずかしいな。きっと東山さんが思っているよりも苦手なものはあるぞ?例えばテニスとか卓球とか。


「あれ?そうなの?」

「そりゃ、そうだよ。」

「あははっ、そりゃそうだよねぇ。」

「そうそう。」


 二人で一緒に笑えた。本当にそれだけで楽しい。


「あ、ごめ~ん。で、さっきの話の続きなんだけど。聞いてもいい?」

「そだね、えっと、どこまで話したっけ?」

「ほら?バスケ部に入るかもって話だよ。」

「あぁ、そうだった。でね?バッシュが見たいんだ。」


 こんな感じで、楽しい時間はどんどん過ぎていった。



 ここはとあるアクセサリー店。すすきのと大通のちょうど間くらいにある四丁目プラザ。通称、四プラ。ここにはいろいろな洋服屋のテナントやアクセサリー店が軒を連ねている。


「あぁ~、これってかわいいよね?」


 むむっ、これは一体?どうやって使うものなんだ?髪飾りなんて全く分からない。


「うん、可愛いねぇ。どんなの探してるの?」

「そうねぇ。実は、どんなのってのは決めてないんだよね。」


 振り向きざまに、ウインクと笑顔で答えるその仕草は反則だと思います。でも、何回も見てみたい。そんな反則ならね。


「あ、これなんかも可愛いんじゃない?」


 そう思って手に取ったのは・・・なんだろう。可愛いんだが使い方がわからない。


「これは私には無理だよ。これは、髪の長い人がね、こう、こう、こうやって使うんだよ。」


 ほ~~う。さっぱりわかりません。が、ミスチョイスだったのは確かみたいだ。でも、その髪の毛をいじる仕草もとってもいいです。


「あ、じゃぁ、これなんかは?」


 花をモチーフにしたような・・・ん?でも、これって髪飾りなのか?


「コサージュかな?あ、でも裏にコームがついてるから髪飾りで使えるね。」


 えっと、聞いたことのない言葉が・・・・。


 まるで、頭から湯気が出ている描写がぴったりな状況だっただろう。


「ごめん、何がなんだって?さっぱりわからないや。」

「あ、そうだよね。ごめんね。やっぱりつまんなかった?」

「いや、楽しいよ。いろいろとわからないだけ。教えてくれるとありがたいなぁ。」


 そう、さっぱりわからない。女性ものの髪飾りなんてあんまり見たことないからなぁ。でも、やっぱりこういったものを眺めている女の子は目がキラキラと輝くんだなぁ。


「あぁ、これもいいかも。やっぱりこっちかな?ね、どっちがいいかな?」


 そう言って二つのアクセサリーを手に取って見せてくる。はっきり言って、違いは分からない。けど・・・


「東山さんが好きなのはどっちなの?」


「う~~ん、そうねぇ。こっちかな?」


 そう言って、右手に持ったアクセサリーを見せてきた。


「うん、やっぱりね。思った通りだ。俺もそっちのほうがいいと思うな。」

「え?ほんと?そっかぁ、じゃ、これにするね。」


 そんなに喜ぶものなの?大したこと言ったつもりはないんだけど、喜んでる姿を見ると嬉しいな。うん、決めた。


「じゃ、それ、俺が買ってあげるよ。」


 あんまり深く考えていたわけじゃなかったから、言ってからちょっと恥ずかしくなった。


「ええっ、そんな。悪いからいいよぉ。」


 両手を左右に振りながら全力で拒否している。


「んじゃさ、今日のデートの記念ってことで。ダメかな?」


 し、しまったぁああ。何を言ってるんだよ、俺。東山さんはどんな顔してるんだよ。彼女は驚いたような表情で硬直してる。


「あ、その、ごめん。驚かすつもりはなかったんだ。思わす、ちょっとなんというか・・・」

「ううん、嬉しい・・・。ありがとう。ずっと・・大切にするねっ。」


 その後は、どんなことを話したんだろう?たぶん、たわいのないことだったと思う。それこそ、地下鉄に向かう間に話したことをもう一度話をしてたのかもしれない。二学期のこれからのこと。高校受験のこと。もうすぐに迫った中間試験のこと。あまりに普通の話だ。けど、彼女は笑ってくれた。俺も笑っていた。



「う~~ん、バッシュは高いなぁ。」

「ホントだね?あんなにするんだね?」


 とあるスポーツ用品店。狸小路の近くにあるお店だ。


「一足二万円とか、ちょっと買えないなぁ。」

「そうだねぇ。私も無理かも。」

「こんなに高いんだったら、部活に入れないや。」

「本当、そうだよねぇ。」


 まぁ、バッシュは買えなくてもいいや。どうせ今日は下見だし。


「さて、もう、ここはいいや。他に行きたいとこあるんだったらいかない?」

「そう、だね。じゃぁ、もうお祭りに行く?」


*********************


 祭り会場になっている公園、月寒公園は、市民の憩いの公園だ。野球場あり、池ではボートに乗れる。ちょっとした山道もあって散策もできる。そんな立派な公園だ。普段でも子供連れの母親やアスレチックフィールドで遊ぶことも経ちでにぎわっている。公園のすぐ近くには、ばぁちゃんが経営する駄菓子屋は子供たちのマストスポットであることは言うまでもない。百円玉を握りしめた小学生がいつでもあふれかえっていた。

 どうしたんだろう。公園までの移動の間、彼女はあまり話さなかった。さっきまであんなに元気だったのに。かくいう俺も、杉田に言われたことを思い出していた。『気持ちを伝えないと後悔するぞ。』っていう言葉。そうだよな。よし、祭り会場にいる間に伝えよう。そう勝手に心に決めていた。


「うわ、結構、人がいっぱいいるね。」

「本当だね。いっぱいいる。」

「あ、屋台も出てるんだね。」

「ホントだね。」


 いつもの見慣れた公園とは違って、屋台と祭り客でごったがえしていた。


「折角だから何か食べようか?」

「うん、私たこ焼きが食べたいな。」


 屋台を見て歩くのは面白い。祭りなんてあまり慣れていないからどんな屋台が出てるのかは知らないけど、昔、金魚すくいで三十匹とって出禁になった記憶がある。


「タコ焼きください。」

「はいよっ、三百円ね。」

「あ、あっちにリンゴ飴あるよ?」

「なんとっ、リンゴ祭りにリンゴ飴とはっ。買うしかありませんね。」


 しかし、人が多くて彼女とはぐれそうだ。そう思った時、フワッとやわらかい何かが手に触れた。


「ねぇ、待って?」


 そう言われて振り帰ると彼女に手を握られていた。思わず、立ち止まって繋がれた手をじっと見てしまった。


「あ、ごめん。」


 彼女はそう言って手を放した。


「いや、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだよ。」


 本当は、全然大丈夫じゃない。この時の俺の気持ちはもう、なんて言って良いのかわからない。正直、女の子と手をつなぐのは初めてじゃないけど、こんなに気持ちいいのは初めてだ。


「その、良かったら、手、つないで歩く?」


 彼女のほうを見ることができない自分がもどかしい。


「・・・・・・」


 返事の代わりに、俺の手に柔らかい感触が戻ってきた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


初々しいデートシーン。

お祭りでの楽しいひと時。


楽しそうですねぇ。


なんとなく、クライマックスが近いようにも感じているのかと思いますが・・・

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