エルフの塔の敵、強すぎ・・・。
動物園の次は花火です。夏の風物詩ですね。
なんだか二人の関係がいい感じに進んでいるように見えますね。
みんなで動物園に行ってから数日後。
俺は夏休みの宿題をするわけでもなく、勉強と偽りながら部屋でゴロゴロとダラダラする生活を送っていた。そんな日の夕方、突然、家の電話が鳴った。いや、電話というやつはいつも突然鳴るものだ。そんなことはわかりきっているんだが、やっぱり予期していないと驚く時もある。おかげで読んでいた漫画を思わず閉じてしまった。
いつものように母親が電話を取ったようだ。このご時世、自分に電話なんてそうかかってくるもんじゃない。どうせいつものように親戚からの電話だろうと高をくくっていた時だった。
「夕人~。電話よ~。」
驚いた。まさか自分宛ての電話だとは。机にいかにも勉強をしていたかのようなカムフラージュを施し、読みかけの漫画を本棚にかくして平静を装って電話に出ようとした。
「夕人、東山さんって女の子からよ。」
心臓の動悸が一気に高鳴る。母親はそれに気づいてかどうかわからないが、ニヤニヤしながら受話器を渡してくる。
「あ、ありがと。」
かろうじて平静を装いながら電話を受けた。
「あ、竹中くん?私。明奈・・・じゃない、東山だけど。」
「あ、う、うん、俺だよ。どうしたの?」
名前で名乗られると妙にくすぐったい気がする。
「いや~、お母さんが電話に出たから緊張しちゃって。私、変なこと言わなかったかなぁと思って。」
「大丈夫じゃない?東山さんはそんな人じゃないでしょ。」
「でも~、なんだか噛んじゃって。ゆ、夕人くんいらっしゃいますか?なんて言っちゃった。」
夕人って呼ばれるのも親戚や家族以外だと不思議な感じがするものだ。
「それは普通でしょうよ?俺の名前は夕人だし。それでいいんじゃないの?」
他愛のない会話をしているが、彼女のどれだけ緊張がしてたのかがしっかり伝わってくる。俺も女の子の家に電話をかけて母親が出たら。それはかなり緊張するとだろうなぁ。
「で、なんか用事があったんじゃないの?」
「あ、うん。そう。明日の花火大会のことなんだけど・・・」
「あぁ、大丈夫だよ?何時にどこで待ち合わせる?」
「えっと、友ちゃんから連絡来たんだけど、夕方に待ち合わせなら大丈夫だと思うって言ってたんだ。だから、五時くらいに霊園前駅でどうかなぁって。」
「わかった、オッケー。杉田には俺から連絡しとくよ。あ、もう伝えた?」
「ううん、まだ・・・。」
「了解~。じゃ、伝えとくよ。」
「う、うん。じゃ、お願いします。」
ん?なんかいつもと違って元気がないような気がする。
「どしたの?何かあった?」
「え?そんなことないよ?どうして?」
声がいつものトーンに戻ったような気もする。
「いや、何でもない。なんとなくそんな気がしただけ。」
「そっか。ありがと。大丈夫だよ。私は元気だよ~。」
「あはは、そっか。元気ならよかった。」
きっと、気のせいなんだろうな。
「じゃ、杉田君への連絡はお願いね。金曜日の五時に地下鉄駅に集合で。」
「わかったよ。いまからすぐ連絡するから。」
「うん、よろしくね。それじゃ、楽しみにしてるよ~、じゃあね~。」
「はいよ~、じゃあね~。」
あっという間だった。今まで何回も話したことがある相手なのに。ひどく緊張したぞ。まぁいい。さっさと杉田にも連絡するか。え~と、杉田の電話番号はっと。
「8x1-94xxと。・・・・・・・・・・。」
出ないな。いないのかな。
「はい、杉田です。」
「あ、杉田君のお宅ですか?僕は竹中と申します。君とはクラスメートで・・・。」
「ククク、改まっちゃって、まぁ。」
「なんだよ、杉田か?電話だと老けた声に聞こえるな。親父殿かと思ったぞ。」
「失敬な。誰が親父だ。本人だよ。しかも老けた声とかいうな。わるかったな。まぁ、よく言われるんだ。電話での俺の声。親父に似てるってな。」
「ふーん、そうなんか。」
俺はそんなに声が低いほうじゃないから親父に間違えられることはないだろうな。
「で、なんか用事あったから電話してきたんだろ?なした?」
「そうそう、例の花火大会の件で東山さんから連絡があったんだ。」
「おー、そのことね。ハイハイ。で、どうなったん?」
「うん。明日の金曜の五時に地下鉄駅に集合で、ってことになったよ。予定、大丈夫か?」
「大丈夫だと思うよ。なんかあったら前日までには、ってかもう明日のことか。ま、ちゃんと連絡するよ。」
ん?何か引っかかる言い方だな。いつもは即答するのに。
「用事ありそうなのか?それならそう東山さんに伝えるけど。」
「いや、んなことはないよ。大丈夫。用はそれだけか?」
「あぁ、それだけだけど・・・。」
「わかったよー。んじゃ、いろいろ準備しとくかな。」
「準備?なんか必要なものあるのかな?」
「どうかなぁ、よくわからないけど。まぁ、独り言みたいなもんだから気にするな。」
余計に気になるだろう。
「そうか?じゃ、また明日な。」
「おう、またな~。」
やっぱりいつもの杉田と少し違うような気がするけど、あいつもいろいろあるんだろう。気にしないほうが良さそうだ。
「あら、夕人。電話終わったの?」
笑顔で母親が話しかけてくる。
「うん、終わった。それで明日なんだけどさ。」
「花火大会に行くのね?あんまり遅くなるんじゃないよ?気を付けて行くのよ。で、誰と行くの?さっきの電話の女の子?」
さすが母親だ。電話の内容が聞こえているわけじゃないだろうが、すべてを理解している感じだ。
「さっき電話してきた東山さんと、その友達の砂川さんと、あとは杉田だよ。五時に地下鉄駅で待ち合わせしていってくるわ。」
「気を付けて行ってくるのよ?」
「い~な~。小夜もいきた~い。」
小夜は俺の四つ下の妹だ。自慢じゃないがなかなか出来の良い妹だ。見た目も性格もだ。きっと美人に成長するんだろうなぁ。お兄ちゃんはちょっと心配です。
「あんたはまだ小さいから駄目よ。お兄ちゃんくらいの年になったらね。」
ハハハ・・・。俺の年齢でもギリギリのような気がするのだが。
「お兄ちゃんばっかり、ズルイっ。」
ぷぅっと頬を膨らませている。
「お土産買ってくるから・・・。」
「ホント?やった~。小夜ね。綿あめがいい。」
「わかったよ。売ってたらね。」
明日かぁ。楽しみだなぁ。どんな格好していくかな・・・。小夜がほかにもいろいろ話しているが全く耳に入ってこなかった。
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その日の夜。と言っても七時頃。
とある家の、とある電話。
「はい、・・・・です。」
「・・・・くん、こんな時間にごめんなさい。」
「どしたの?」
「ちょっと相談があって・・・。」
「構わないけど、なにかあったの?」
「明日、ちょっと会える?」
「いいよ。じゃ、一時に。ほら、学校近くの月寒公園でいいかな?」
「わかった。ごめんね。ありがとう。」
「気にしなくていいって。それじゃ、また明日。」
「うん、バイバイ。」
ガチャン。
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今日は花火大会。だが、まだ昼間。今日は妹の習い事がある。それで母親も付き添いだ。おかげでとてもヒマだ。今日は塾の夏期講習もないし。杉田と早期合流も悪くないよな。電話でもしてみるか。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
出ないな。家にいないみたいだ。仕方ない、時間までドラクエⅣでもするか。ドラクエをするのは久しぶりだなぁ。確か、二章くらいまで進んでたかな?
・・・・・・・
エルフの塔の敵、強すぎ・・・。また、ブライ爺、死んだし・・・。
・・・・・・・・・
鉄の爪、高くね?1200ゴールドとかぼったくりじゃん。鎖ガマじゃつらいしなぁ・・・。
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っつーか、分身するなっ。なんだこのベロリンマンとかいうモンスターは?
・・・・・・・
ふぅ。なんとか二章クリアか。おてんば姫の冒険って。こんなお姫さま、実際にいたことあるのかね?次は三章か。なになに、武器商人トルネコ・・・・。惹かれないタイトルだなぁ。今日はここまでにしよう。まったく、勇者はいつ出てくるんだか。やっぱり、ドラクエはⅢが一番面白いよなぁ。っと、電話だ。誰からだろう?
「はい、竹中ですが。」
「おー、竹中?杉田だけど。」
「おっ、さっき電話したんだけど。どっかでかけてたのか?」
さっき?もう二時間は経ってるか。まぁいいや。
「すまんすまん、ちょっと出かけてたわ。」
「そりゃ仕方ないわな。夏休みだからな。」
「あー、それで、ちょっと話あるんだけどさ。」
杉田が改まって話なんて珍しい。
「なんだよ。話って。」
「あのさ、急で申し訳ないんだけどさ。悪い、俺、行けなくなったわ。」
「え、マジで?なんで?」
「いやー、急に親戚のうちに行くことになってさー。」
「親戚って群馬の?」
「いや、東京なんだけど。まぁ、それはどこでもいいとして、とりあえず行けなくなってさ。お前にも東山さんにも申し訳ないけど。じゃ、俺は今から出るんで。すまんねー。」
「お、おい。」
「そうそう、東山さんには伝えてあるから、お前はそのまま待ち合わせ場所に行けよ。」
「あ、そうなのか?わかったよ。」
「じゃ、またなー。」
「お、おい。ちょっと・・・・」
もう切れてる。言いたいことだけ言って電話切りやがって。つまり、杉田は来ないということか。ということは男は俺一人か。ちょっと不安だなぁ。
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時間は4時50分。待ち合わせ時間の十分前。駅の入り口ではすでに東山さんが待っていた。彼女も俺を見つけたようで笑顔で手を振っている。俺も手を挙げて合図を送る。マズいぞ。すっげー緊張してきた。
「やー、東山さん。早いねぇ。」
「竹中くんこそ。まだ十分前だよ。」
「ちょっとだけだよ。待たせたくなかったからさ。」
なんか俺、すごいこと言った気がする。結局待たせたくせに。
「え?あ、ありがとう。」
うつむき加減でそう呟く。うぅ、緊張するなぁ。
「い、いや。いいんだけど。あれ?砂川さんはまだかな?」
「え?聞いてない?友ちゃんは今日は来れないって。なんだか家の用事ができたって言ってたよ。竹中くんには連絡するって言ってたけど。」
「え?聞いていないよ?電話も来てないし。」
ん?そう言えば、似たような話をつい最近聞いたような気がするぞ?
「杉田君は?一緒じゃないの?」
不安そうな表情で聞いてくる。
「あいつは東京の親戚のところに行くって。聞いてなかった?」
「うん、聞いてない・・・」
にゃろう。連絡してないのかよ。おい、ちょっと待て。あの二人が来ないということは、もしかして?二人で花火大会に行くってことか?
「そっか、じゃぁ、二人は来れないんだね。」
クルッと背を向けながら彼女はそう言った。
「そうみたいだね・・・。あ、誰か呼ぼうか?」
我ながら何を言っているのか。きっと緊張してるせいだ。二人っきりなのは初めてだから。もちろん学校で二人で話す機会がなかったわけじゃないけど。
「え?」
そう言うのと同時に振り返った時の彼女の表情を、俺は、直視できなかった。
「あ、いや、二人だとイヤかな?って思ったから。」
頭を軽く掻きながら軽く目をそらしつつ、思わずそう口に出していた。
「竹中くんが呼びたいなら・・・そうしてもいいよ。」
うぅ、呼びたいわけじゃない。なんかつい言っただけだ。緊張しすぎて何を話したらよいのかわからない。そもそも動物園の時のように、四人で行く予定だったじゃないか。どうしてこんなことになってるんだよ。前もって言ってくれれば心の準備もできたのに。これってデートみたいじゃないか。マズいぞ。変に意識したら余計に訳がわからなくなってくる。
「あ~、でも、今更電話してもきっと誰も捕まらないよね。」
何言ってるんだ、俺。
「・・・・そうだね。」
「杉田が来れなくて残念だったね。」
本当に何言ってるんだ、俺。
「・・・・うん・・・・」
杉田が来ないからガッカリしてるのか?違うよな?何だよ、この気持ち。
二人の間に流れる沈黙。
彼女も何か言おうとしているのかもしれないけど、声に出してくれないと何を考えているのかわからない。かといって、俺も何を言っていいのかわからない。気まずい沈黙が永遠に続くような気がした。
「えっと、・・・・帰る?」
耐えきれなくなった俺は変なことを口走った。違う。そんなこと思ってない。
「・・・・帰るの?」
彼女はどんな表情で言ってるんだろう。横を向きながら言われても困る。
「いや、ウソ。やっぱり行こっか?」
俺のギリギリの表現。なんで正直になれないんだろう。わからないのか?まさか、そんなことないだろう?東山さんと一緒に居られて嬉しいだろ?そう。その通りだ。花火大会に一緒に行けるって喜んでたよ。
でも、どうしてそんなに嬉しい?東山さんが可愛いから?いい人だから?優しいから?でも、二人でだぞ?俺は一緒に行きたい。そう思ってる。でも、彼女は、今、何を考えているんだろう。もしかしたら、本当は二人で行くのは嫌なんじゃないだろうか。
でも、彼女はいい人で優しい人だから、嫌だなんて言えないでいるんじゃないの?。俺の永遠に続きそうなくだらない思考を止めてくれたのは、彼女のたった一言だった。
「うん、行こっ」
たった、この一言。それだけで救われた。今はそんなこと考えるのはやめよう。そう思って彼女の顔を見た。俺のほうを見てくれるとても可愛い笑顔がそこにあった。久しぶりに、彼女の顔を見た気がするのは俺のせいだ。
「そだね、行こっか。」
「うんっ」
彼女の考えてることはわからない。そんなの当たり前だ。でも、自分の答えはよくわかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
竹中の中で答えが出たようですね。
それにしても、杉田と砂川はどうして来なかったんでしょう。