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虹色ライラック  作者: 蛍石光
第4章 縁(えにし)をつなぐ男
16/27

そりゃウチかて行きたかったんやけど。

ついに夏休みに突入です。


動物園での四人の掛け合いをお楽しみください。

 夏休み初日。つまり打ち合わせから2日後。俺と杉田は最寄りの地下鉄駅に来ていた。時間は早すぎるでも遅すぎるでもない8時55分。待ち合わせ時間は9時だから、大体いい時間に来ることができたと思う。


「なぁ、竹中。」

「どうした?」

「この地下鉄ってさ。地下を走ってないよな?どう考えても地上を走ってるよな。というより、むしろ高架の上を走ってないか?それにこの駅名ってどうよ?」


 杉田がそう思ったのも無理はない。ここの地下鉄の駅は三階くらいの高さにある。まるでモノレールのような高さだ。とは言っても俺はモノレールの方こそ実際には見たことがない。


「あぁ、札幌の地下鉄ってさ。昔の冬季オリンピック開催の時に突貫工事で作られたんよ。なんかその関係で全部地下にできなかったとか聞いたことあるな。で、冬の雪対策でフードつけて。それでこんなんになったらしいよ。今更ルートを地下に変更できないしね。」

「ふ~ん。なるほどねぇ。で、駅名のほうは?」

「あぁ、霊園前っていうのがだろ?」


 インパクトはあるんだけどなぁ。


「そうそう、駅名として最悪じゃない?」


 地元の人間だって最悪だと思ってるよ。


「これは、近くに平岸霊園っているデカい霊園があるからだよ。」

「マジかぁ。もっと別の良い名前とかあるんじゃね?」

「例えば?」

「そうだなぁ・・・。南平岸とか?」

「あ、それはいいかもな。市営交通に提案してみようか?」

「またなんか賢い話してるんでしょ?」


 何気ない会話の途中で声をかけられる。いつの間にか東山さんたちも到着していたようだ。それにしても、これまで制服姿の東山さんしか見てなかったから薄手のワンピースなんていう私服姿はとっても新鮮だ。いや、ジャージ姿は見たことあるけど、それも学校の制服みたいなもんだろう?


「いや、そんなことないよ?杉田が札幌の地下鉄は変わってるなって話してきたから。その話してただけだよ。」


 考えていることを読まれないように、さっきの問いにふわっと答えた。


「竹中君は札幌の歴史とか詳しいよね。」


 砂川さんはどこでそんな話を聞いたんだろう。


「小学校の頃に聞いた話だよ。」


 前にもこのくだりがあったような気がするな。あの時は栗林さんたちといたんだっけ。もうずいぶん前のような気がする。


「でも、それを覚えてるのはすごいよねっ。」


 ありがとう、そういってもらえるとすごく嬉しいよ。


「さて、全員そろったことだし、動物園に行きましょうかっ。」


 杉田め。さりげなく会話を断ち切りやがって。


「で、動物園ってどこ?」


********************


「へぇ、動物園って円山公園にあるのか。知らなかったなぁ。」


 俺たち四人は地下鉄に乗って動物園の前までやってきていた。それにしても、少しくらい下調べをしておいてもいいんじゃないのか?杉田よ。

 うーん、なんというか、東山さんたちと遊びに行くっていうのは少し緊張するな。やっぱり、この前のときは杉田と栗林さんをくっつけよう作戦があったからか。


「二人はさっ、なんか好きな動物とかっているん?」


 やっぱり杉田からは緊張感を感じない。むしろいつもよりテンションが高いくらいだな。


「象とかみたいよねぇ。」

「え?」


 おい杉田。股間をチラ見してるんじゃねぇよ。


「ほかにもキリンとか見たいかも。」

「とりあえず、いろいろ見て回ってみようよ。」


 その通りです、砂川さん。入り口でごちゃごちゃ言ってても仕方ないよね。それにしても、学校ではあんなにおっとりしてると思ってたのに、意外にはっきり言うんだなぁ。


「そういえばさ。キリンのアレはデカいらしいよ。まぁ、俺ほどではないけどね。」


 女子全員ドン引き。お前のサイズはどうでもいいが、とりあえず、


「シャラップ。」


 どうした杉田。熱でもあるんじゃないのか?



 当然だが、動物園には普段目にすることのできない生き物がたくさんいる。シロクマとか。ライオンとか。キリンとか。テレビなんかでは見たことあったけど実際に見てみると面白い。シロクマって思ったより白くないけど、すごく大きい。ライオンとかタテガミ立ってないし。キリンの舌は青いし。やっぱり実物を見てみないとわからないこともあるよなぁ。でも、シロクマって、ホッキョクグマだよな?北海道は北極よりはるかに暖かいけど大丈夫なもんかね?


「ねぇねぇ。シロクマとホッキョクグマって何が違うの?」


 東山さん、ハードな質問してくるなぁ。どう違うんだっけ。


「確かに。どう違うの?竹中くん。」


 おいおい。砂川さんまで。俺が知ってると思って聞いてくるのか?


「そうそう。どう違うの?竹中くん。」


 杉田は黙れ。・・・一応予習したぞ。でも思い出せるか?


「えぇっと。確か、ホッキョクグマが正式な和名だったような。シロクマは通称。ほら、体が白くなる動物っているじゃない。アルビノっていう。あの状態のクマがシロクマだよ。まぁ、ただの白いクマが本来はシロクマと呼ばれるべきなんだと思うなぁ。で、ホッキョクグマはだね。」


「すご~~い、竹中くん。やっぱり、先生になるべきだよっ。で、そのアノなんとかとなんとかって違うものなの?」


 そりゃ、当然疑問に思うよね。確か、俺の記憶の中の答えだと・・・


「えっとメラニン色素っていう黒い色素あるんだけど知ってる?ちなみに日焼けして黒くなったりするのはメラニン色素のせいだよ。」


「うんうん。そのメラミン色素ってのは聞いたことあるっ。」


 聞いたことみたいで良かった。でもちょっと違うぞ?


「メラミンじゃなくてメラニンね。で、アルビノっていうのはそのメラニン色素を作る遺伝子を持っていない個体のことだよ。」


「えぇ、それって大変なんじゃない?」

「うん、すっごく大変だよ。でもね、なんと人間にもあるんだ。アルビノ症。」

「えぇっ。それってどうするの?」


 驚いたのか両手で口を覆っている。


「うん、聞いた話だとあんまり光に当たれないんだって。」

「うわぁ・・・可哀そう。」

「うん。大変だよね、本当に。それで、もう一つの白変種っていうのはメラニンを作る遺伝子はあるんだけど色素が少ない個体のことだよ。ジャングル大帝レオみたいな。」

「あ~、なんかイメージ分かったよ。」


 東山さんは、うんうんとしきりに頷いている。


「そう?良かった。なんか妙に難しい話になっちゃったけど・・・。」

「アルビノと白変種の見た目の違いってあるのか?。」


 杉田がさらに突っ込んでくる。


「うん、一般的にはアルビノの目は赤いけど、白変種は赤くないから。そこで見分けはつくと思う。でも、アルビノ個体はその程度に個体差があるからなぁ。体毛の色素だけないっていうのもいるから。あ、そういえば、白ウサギの中にはアルビノがいるかもね。」

「え?あの白い子たちがアルビノ?とかっていうのなの?」


 もしかして、ウサギとか好きなのかな?東山さんは。


「目が赤かったらね。実際はそんなにいないと思うけど。実験動物以外には。」

「そうなんだぁ。」

「いやぁ、竹中の生物の知識ってすごいな。俺、そっち系はあんまり得意じゃないんだよなぁ。」


 杉田の『得意じゃない』は普通の人の得意のレベルだろうけどな。


「ほんとよねぇ。私もびっくりしたわ。」


 今まで、無言だった砂川さんも『へぇ~』と感心した表情をしている。


「ねぇねぇ。パンダもシロクマになるのかな?」


 うおぉい、東山さん。これは難しい質問ですよ?ってかまだ続くの?。


「ごめん。そこまでは分からないや。でも、発見されたって話は聞いたことないかも。」

「へぇ。それじゃ、いないのかな?」


 もうこの辺で勘弁して。予習した内容を超えてしまうよ。


「でもまぁ、真っ白はいないかもしれないけど、色素の薄いパンダ、例えば、茶色と白とかのパンダなら見つかるかもね。」


 ふんふんと感心して聞いている東山さんに、ほぉっと頷く杉田。砂川さんの目が輝いているのは動物好きの証拠だろうか。


「ま、そんなことより、他の動物も見て回ろうよ。」


 いい加減難しい話から話をそらしたい。


「そうだね。あ、キリンは一種類しかいないの?」


 勘弁してください、東山さん。俺は動物博士じゃないし。ムツゴロウさんにでも聞いてください。


「アミメキリンっていうのしか知らないけど、何とかキリンって名前があるくらいだから、何種類かいるんじゃないの?」

「そっかぁ・・・。やっぱり竹中くんは物知りだね。」


 しまった。こっちのほうもちゃんと調べておくべきだったか・・・。東山さんはフンフンと頷いてくれてはいるけど。それにしても杉田よ。お前は何をニヤニヤしてるんだ?


**********************


 動物園内には小屋の中に展示されている動物コーナーもあるみたいだ。そしてここはエゾリスの展示ブースらしい。入り口には手作り感満載のリスの絵が描かれている。


「あ~、リスだって。見に行きたい~。」


 やっぱり、女の子はかわいい生き物に導かれる傾向があるよな。俺としてはちょっと猛獣系も見たい。むしろ、蛇なんてのも捨てがたい。


「栗を食べてるリスが見たいな。」


 杉田なんでそんなのを見たいのかよくわからないが、砂川さんの目線がとても冷たいように思う。なんでだろう?


「リスって栗を食べるの?」


 東山さんが首をかしげながら聞いてきたが、その疑問はもっともだ。あんなトゲの生えたものを食べられるんだろうか?俺も聞いてみたい。


「ドングリを食べてるイメージはあるよね。」

「だよねぇ。ドングリだよねぇ。」


 何故だか杉田はさみしそうだ。なんで栗を食べるかどうか答えてくれないんだろう。それにしても、砂川さんは相変わらず冷たい目線を杉田に送っているのも気になるところだなぁ。


***********************


「いやぁ、結構面白いね。動物園なんてめったに来ないからさ。」


 もう大体見て歩いたのだろうか。結構時間も経ったような気がするけど。


「ちょっと休憩しようか。俺、トイレ行きたいわ。」


 素晴らしい提案だ、杉田よ。俺もちょうどそう思ったところだよ。


「あ、じゃ、私たちも行ってくるね。」


 そういうことでしばし解散することになった。


「なぁ、杉田。」


 ところ変わって男子トイレ内。


「ん?どしたん?」

「今日はすいぶんと下ネタ絶賛炸裂中だな。象とかキリンとか。」


 いつもはこんな下ネタをぶっこんで来る奴じゃないんだが。いや、男子といるときはもちろんそれなりには話もするが。


「あぁ、まぁ、なんとなくな。」


 なんとなくで下ネタをぶっこむのはどうかと思うんが。


「そんなことばっかり言ってると、『歩く猥褻物』とか言われるぞ?」


「猥褻物はないでしょうよ。俺はいたって健全な男子中学生だって。」


 そうなのか?そういえばあいつは自信があるようだったが。キリン並みなんだっけか。チラッとのぞき込んでみる。


「なんだよ、普通じゃねぇか。」

「普通ぢゃねぇよ。いざとなったときは神だよ?俺は。」


 なんだよ神って。どうしたんだよ。こいつは。


***************************


「おまたせ~。」


 手を振りながら駆け戻ってくる東山さん。その後ろを歩いている砂川さん。俺たちも手を振ってこたえる。う~ん、二人ともかわいいんだけど、やっぱり東山さんが一歩リードしてるよなぁ。なんと言っても性格もいいしなぁ。一緒に居られたら楽しいよなぁ。


「なぁ、竹中。東山さんってかわいいよな。」


「そうだな。俺もそう思うよ。」

「お前、どう思ってるのさ?」

「は?何って。いま言った通りだけど・・・。」


 俺は嘘偽りのない気持ちを言ったんだけどな。


「ふ~~ん。彼女はお前をどう思ってるんかね?」

「あ?何?はっきり言えよ?」


 今日の杉田はやっぱりいつもと違う。


「何?また、変なこと言ってるの?杉田くん。」

「違うって。なんでそう思うんだよ。」


 今日は、砂川さんの口調が杉田に対して厳しめだ。対して暴走気味の杉田に対いても、いつもと変わらない東山さん。彼女はかわいいし、何といっても優しい。そこが本当にすごいと思う。あの足草に対しても優しいんだよなぁ。


「さて、次はどこに行こうかね?」

「あ、あそこにふれあい動物園があるよ?ちょっと行ってみない?」


 もしかして、一緒に歩いていたらデートしてるように見えるのかな。本当は四人だけど。


「触れ合いなら動物じゃなく俺と・・・」


 その刹那。砂川さんの目から杉田に向かって冷たい何かが放出されたような気がしたのは気のせいだろう。うん、きっとそうに違いない。



 ここはふれあい動物園。その名の通り、小動物を触ったりできるコーナーだ。ウサギやモルモットなんかがいる。夏休みだから小学生があふれていると思ったんだが、意外に人が少ない。


「思ったより人がいないね。」

「そうだね。なんでだろ?」


 その理由はすぐにわかった。ウサギコーナーにちょっと危なげなカップルがいる。どこから見てもガラの悪い二人組だ。だが、どこかで見たころあるような気がする。


「いやぁ。ウサギってかわいいよな。」

「かわいいなぁ~。ウチも飼いたいわぁ。」


 ん?あのヤンキーの姿は?


「もしかして、川井さん?」


 そう独り言のように呟いたつもりだったが、声が大きかったのか。そのヤンキーが驚いたようにこちらを見る。確かに川井さんだ。過去にあんなことがあったから、東山さんは僕の後ろに隠れるようにしている。


「な、お前、竹中じゃねぇか。な、なんで、こんなとこにいるんだよ。」


 いつもの川井さんらしくなく、驚いた表情を隠せないようだ。


「僕らは友達と動物園に・・・。川井さんもですか?」

「あ?ちげぇよ。彼女が来たいっていうから仕方なく来てんだよ。」

「え~。ひど~い。そっちが行きたい言うたんやん。そりゃウチかて行きたかったんやけど。」

「うるせー、お前はちょっと黙ってろっ。」


 ひどく動揺した川井さんを見るのは本当に初めてだ。


「竹中、ちょっと来いっ。」


 突然の出会いに、突然の招集。まさか、ここで何かされることもないだろう。


「なんですか?」


 川井さんのほうに近づいていこうとした時、東山さんが俺のシャツをしっかりと掴んでいたことに初めて気が付いた。


「竹中くん、大丈夫?」


 小さな声で心配してくれる。


「ん?大丈夫でしょ。そんな見境ない人じゃないよ。」

「そう?気を付けてね。」


 ありがとう、東山さん。勇気百倍だ。


「いいから早く来いってっ。」


 足早に川井さんのほうに向かう。そして、川井さんは肩に腕を回しながら低い声で言ってきた。


「今日、俺に会ったことは誰にも言うなよ?特に、ここにいたってことは絶対に言うなよ。」

「はぁ。わかりました。」

「いいな。絶対だぞ?」

「わかりました。こんなこと言っても仕方ないじゃないですか。」

「よしっ、じゃ、行けっ。」


 解放されたが、若干腑に落ちない。俺たちだって、ふれあい動物園で可愛らしい小動物と触れ合うつもりなんだから。別に動物園に川井さんがいたっておかしなことじゃないだろうに。


「大丈夫だった?」


 東山さんが心配そうにこちらを見ながら聞いてくる。


「見ての通り。全然問題ないよ。」

「何言われてたん?竹中。」


 さすがの杉田もヤンキーの前では下ネタを言わないな。と、そんなことはどうでもいいか。


「いや、俺にあったことは内緒にしろってさ。」

「あぁ、ウサギと戯れてたことか?」


 あぁ。そのことか。世間体ってやつかな?だとしたら、杉田、お前、声がでかいって。


「あ~~~、お前ら。全員こっちに来い。」


 川井さんが頭を掻きながら俺たちを呼んでいる。怒っているというよりは困っているようだ。仕方ない、とりあえずここは彼の言うことを聞いておいたほうが良さそうだ。


「まぁ、とりあえず行っておこうか。俺たちをどうこうしようってことじゃなさそうだし。」


 女子たちはやっぱり怖いんだろう。恐る恐る俺の後をついてくる。


「あ~~~、なんだ。その、ソフトクリームおごってやるから好きなの選べっ。」

「「はぁ・・・」」

「え~、ちょっと~、ウチも食べたいんやけど?」


 どうやら、このソフトクリームが口止め料らしい。


「マジっすか、先輩。ありがとうございますっ。」


 安い口止め料だが、杉田には効果がありそうだ。


「あ、ありがとうございます。」


 そもそも女子二人は恐怖が先行しているようで誰かに話すこともないだろう。



 ソフトクリームを俺たちに奢ったあと、ぶつぶつ言いながら川井さんたちはどこかへ行ってしまった。俺らは、思わぬ出会いと収穫に驚きながら夏のひと時を満喫していた。


「いや~、ソフトクリーム、うまいねぇ。」


 杉田がこう言ったのも女の子二人の空気を和らげるのが目的だったんだろう。


「そうだね~。やっぱり、夏に外で食べるアイスってさらにおいしいよな。」

「本当だねぇ。」


 ソフトクリームを舐める姿もかわいいなぁ。


「思わぬ邪魔が入ったけど、食べたらふれあい動物園に戻ろうか?」

「うん、行きたぁい。」


 こうして、再びふれあい動物園に戻り、小動物のモフモフを体験したのだ。


********************


 かなり念入りに園内を見たおかげで結構な時間になっている。あれからも本当にいろいろなことがあった。まず、蛇の展示ブースで杉田が下ネタを炸裂させて雰囲気が怪しくなったり、サル山ではサルに餌を投げてつけて飼育員に怒られたり、ほかにも言えないようなことをいろいろやらかしてくれた。でも、杉田のおかげで楽しい夏の思い出が作れたということ言うまでもない。杉田には本当に感謝している。俺も、楽しかった。ということで動物園の見学はそろそろ終わりになりそうだ。すでにお昼はとうに過ぎ、三時になろうかとしている。かなりたっぷり楽しんだようだ。


「おなか空いてきたよね。」


 まったくもってその通りです、砂川さん。


「確かにね。何か食べたいね。」


 ごもっともです。東山さん。何がいいでしょうね。


「駅の近くにファーストフード店、なかったっけ?」


 あった気がするぞ杉田。というか他は分からない。


「ケンタがあったような気がするけど・・・。マックはなかったかなぁ?。」


 俺の記憶にはケンタしかなかったなぁ。


「う~~ん、ちょっとケンタは高いよね。狸小路にマックがあるからそこまで我慢しようよ?」


 東山さんの一言で俺の心は決まった。中学生にとって一食に五百円以上の贅沢はとても厳しい。互いに財布の事情は似たようなものなんだろう。なんとなく、よし我慢しようって雰囲気になった。


「じゃあ、狸小路に行ってご飯にでもしますか?」

「ごめん、私、もうそろそろ帰らなきゃいけないんだ。」

「えぇ、砂川さん。用事あったの?」

「ごめんなさい。今夜から親戚の家に行くことになってるの。だから、五時くらいには帰らないといけなくて。」


 むむ、これは計算外。でも仕方ない。夏休みだからこういうこともある。家庭の事情は最優先事項だからな。


「それじゃ、今日はこれで帰りますか?」


 今日はここまでということだ。あとは帰りにいろいろな話をしよう。


********************** 


 帰り道では今日の話や二学期の話、ありきたりのことばっかりだけどとても盛り上がっていた。もちろん杉田の下ネタに関しては完全にスルーであることは言うまでもないのだけど。そして、もうすぐ霊園前駅に到着するってときに東山さんが突然切り出した。


「あ、あのね。来週の金曜日なんだけど。豊平川の花火大会があるんだよね。それで、あの、都合が良かったら・・・でいいんだけど。一緒に行かない?」


 あまりに突然だったから、ちょっと驚いた。それも俺のほうを向いて言っているように見えたからなおさらだ。


「俺は多分大丈夫。」


 俺は即答だった。予定がどうだったかなんて関係ない。また、東山さんと遊びに行けると思ったから即答だった。


「私は、たぶん大丈夫だと思うけど。」


「俺も問題ないと思うよ。」


 二人も続けて答えた。


「そっか、良かった。」


 そういった東山さんの顔にはホッとした表情が浮かんでいる。が、俺が見ているのに気が付いたのか急に顔をそらす。なんで?


「それじゃ、また連絡するねっ。」


 そう言って砂川さんと帰っていく東山さんはやっぱりかわいく見えた。


「花火大会かぁ。まぁ、詳しい話は近いうちに連絡あるでしょ。俺たちも帰ろうぜ。」

「あぁ、そうだな。」


 こうして、初めての東山さんとのお出かけが終わったのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


杉田の暴走っぷりがいい感じの章でした。


それに久しぶりに登場の番長・川井さん。

彼女さんといる時は普通の人でしたね。笑

それにしても口止め料のソフトクリームは中学生にとっては大きな出費かと。


次は花火大会かぁ。

なんだか楽しいイベントが続いていくみたいな感じですね。

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