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虹色ライラック  作者: 蛍石光
第3章 森を歩く男
14/27

この貸しは高いよ。

行方不明になっていた足草班も無事に見つかってオリエンテーリング終了!


なんとか学級会長としての責務を果たせたんでしょうかね。

「あー、足草くんたちだっ、遅いって~、みんな心配してたんだよ。」


 なんだか東山さんの笑顔を見るのは久しぶりな気がするな。時間にして二十分も経っていないだろうに。


「東山さんを見てホッとしてるだろ?竹中?」


 なんだ?急に杉田のヤツ。でも、ホッとしたのは確かだ。


「あ、あぁ、そうだな。」


 杉田に見抜かれたような気がして驚いた。それよりも、動揺している自分に驚いた。


「お疲れ様、竹中くん。」


 東山さんにそういわれると一気に疲労感がなくなった気がする。


「うん、ちょっと疲れたかな。でも、見つけられて良かった。先生たちは?」


「まだ戻ってないみたいだよ。」


 俺たちは無事に足草たちを発見しゴールに戻ったが、探索に行った教師たちはまだ戻っていない。とりあえず、残っている先生たちに足草班が戻ってきたことを伝える必要があるんだろうな。


「ちょっと、報告に行ってくる。足草っ、お前も来い。」

「はいよ。」


 足草たちが戻って来た旨を教師に伝えたことで、トランシーバーによる連絡が行われ捜索班の先生方にも伝わったようだ。すぐに戻ってくるらしい。そして、俺と杉田はもちろん、褒められつつもきっちりと絞られたことは言うまでもない。まったく、足草のせいでとんでもない野外学習になったものだ。でも、誰もケガをしたわけじゃなかったしよかった。


**********************


 きっちり絞られてもう出がらし状態の俺と杉田は足取り重くバスに向かって歩いていた。足草は何も堪えていないみたいで飛ぶようにしてバスに戻っていった。元気だなアイツは。


「まぁなんにせよ、うまくいってよかったよな、竹中。」

「だな、助かったよ。杉田。」


 もう、他のみんなは帰りのバスに乗り込み始めている。俺たちもバスに乗らないとな。そう思いながら歩いていた。


「あ、竹中くん。探しに来てくれてありがとう。先生は来てくれると思ったけど、竹中くんが来てくれて嬉しかったよ。ありがとっ。」


 玉置さんはそう言い残してバスに向かっていった。もしかして、俺たちが戻ってくるのを待ってたのか?


「ほ~。俺にはあいさつ無しですか。そうですか。」


 いや、杉田・・・深い意味はないと思うぞ。


「よかったなぁ・・・タケナカ・・・」


 そんなにイラつくなよ。まぁ、俺が同じ立場だったらそう思うかもしれないな。そして、バスに戻った時についに事件は起こった。


「いやぁ、杉田に竹中、もう少し早く来てくれても良かったべさ?」


 足草のその一言で、杉田の何かが切れた音が聞こえた気がした。いや、確実に切れたな。あの杉田が足草に対して怒鳴りだしたんだから。あいつが怒鳴るなんて本当に初めて見た。


*************************


 バスに乗ってから思い出した。今日はいろいろあってすっかり忘れてたぞ。オリエンテーリングの途中で東山さんとしていた話が中途半端になってたんだ。


 えぇと、なんだっけ。内容を思い出してみよう。まず俺が例の件でみんなのために動けたのがスゴイって東山さんが言ってくれたんだよな。それから、えーっと、そうだ。東山さんが何かを言いかけたんだった。そうだよ。それが中途半端になってた話だよ。

 でも、あれ?そもそも、どうしてこんな話になってたんだっけか?うーーん。なんだっけ。ちゃんと思い出せ、俺。あ、そうそう。はじめは俺が思ったんだよ、東山さんがすごくいい子だなぁって。みんなのことをちゃんと気にかけて行動できるなんてすごいってさ。そうだよ。そこから話が始まったんだよ、今日は。

 ん?でも、彼女のことをスゴイなって思ったのは、今日だけじゃない気がするぞ?ん~、あれは何日か前の出来事がきっかけだよ、そうだよ。だんだんしっかり思い出してきたぞ。あれはたしか・・・


 そう。何日か前の給食時間のことだよ。もう誰だか忘れちゃったけど男子の誰かが急に吐いたんだよな。具合悪くなってさ。他の男子はみんな『キタねぇ』とか『うわぁ、吐きやがった』とか言って周りで冷やかしてただけだったんだよ。うん。女子もみんなそんな感じだったんだよ。それで、これはマズいなぁって思ったから、掃除道具を探して、片付けをしようと思ったんだ。

 で、確か書道の時間の時に余った古新聞を持って、バケツも準備していざ戦場へ向かったら、すでに東山さんが吐いちゃった男子に声をかけてて、ハンカチで口を拭いてあげてたんだよ。そして、自分の雑巾で床の汚物の掃除を始めたんだ。正直、周りの奴らもその東山さんの姿を見て何かしなきゃって雰囲気になってたんだ。

 その時だよ。彼女ってすごいなぁって思ったのは。それに比べて俺は、吐いたやつのことを気遣う前に片付けることだけを考えたんだ。それで、俺も見習わなきゃって思って彼女と一緒に片付けをしたんだ。ちなみに戻しちゃった男子は先生が保健室にさっさと連れて行ったみたいだったけど。

 思い出したよ。そうだよ。その時からか。彼女のことをちょっと意識するようになったんだ。よぉく思い出すと、さっきの話の続きがすごくしたくなってきた。もっと東山さんと話をしたいな。ちなみに俺の隣には杉田がいる。今はぐっすり眠ってるみたいだけど。バスの座席は班ごとにまとまっていたはずだから、そう、俺の後ろだ。そう思って席を立ち、後ろを覗き込んでみると東山さんと目が合った。


「え?どうしたの?急に。」


 驚いた表情で俺を見ている。そりゃ、そうだ。バスに乗っていて前の座席の人間がいきなり後ろを覗き込んで来たら誰だって驚く。俺だって驚くさ。


「あ、いや、ちょっと話ができないかなぁって思ったんだけど。」


 何言ってるんだよ、俺は。今じゃなくてもいいじゃないか。


「え、今?うん、いいよ。」


 屈託ない笑顔で答えてくれる。なんか、いいな。


「あー、何なら席、変わってもいーけど。」


 旭川さんが驚きの発言をしながら席を立とうとしている。何とも言えない表情を浮かべてる。これって、どういう表情だ?あぁ、そっか。どこかで見たことあると思ったら栗林さんが俺に玉置さんのことを聞いてくる時と同じ表情なんだ。ってなんでそういう表情になるんだ?


「えっ?な、なんで?そんなの・・・ダメだよ、京子ちゃん。」

「い、いや、いいよ。」


 二人そろって全力で拒否する姿は滑稽に見えるだろう。


「ハーイハイハイ。ごちそうさま。気にしなくてイイから。竹中くん?席変わろ―ね。」


 有無を言わさぬ迫力。


「あ、ありがと。」

「どーいたしましてー。」


 旭川さんと席を入れ替わるときすれ違いに言われた。


「この貸しは高いよ。」


 そう言って肩をポンっとたたかれる。どういうことだよ。怖い。怖すぎるぞ?旭川さん。こんな人だとは知らなかった。


***********************


 俺は今、いろいろあってオリエンテーリングの帰りのバスで東山さんの隣に座っている。おかしい。今までこんなに緊張することなかったのに。


「あ、あの・・・話って・・・?」

「あ、いや、その、さ。まぁ、大したことじゃないっていうか。」


 なんだよ。ちゃんと話せよ、俺。


「う、うん。」


 ほら、俺が変な話しかたしてるから東山さんまで緊張させちゃってるじゃないか。彼女は俯きながら両手をギュッと掴んで腿の上でモジモジさせている。


 俺はというと、落ち着きなく右手で頭を掻いてみたり、自分の顔を触ってみたり。目線もあっちに行ったりこっちに言ったり。落ち着きないことこの上ない。


「あ~、その、さっきさ。話は途中で終わっちゃってたなぁって思って。」

「あ、そ、そっか。そうだったね。ごめん。」


 なんで彼女が謝ってるんだよ。謝る必要なんてないのに。


「いや、こっちこそ。なんかごめん。」


 早く本題を切り出さないと。窓から見える景色が見慣れたものに変わってきている。


「そ、それでさ。さっきの話の続きなんだけどさ。」

「うん。」

「なんて言おうとしたの?」


 もしかして、さっきみたいなみんながいないとこだったから言えるような話だったのかな。だとしたらここで聞いたのは最悪だったかもしれない。


「・・・竹中くんはすごいねって。」


 小さい声だけど聞こえた。でも、そこじゃなくて、その後のことだよ。


「いや。そこじゃなくって。あ、俺は別にすごくもなんともないけど。そう。俺はさ。東山さんのほうがすごいなって思うよ。」

「なんで?全然そんなことないよ。私なんか・・・全然。」


 そう言ってまた俯いてしまう東山さん。


「そっかなぁ。だってさ。今日だって、ちゃんと周りのことに気を配ってたじゃない?ほら、大きい声じゃ言えないけどさ。あんまり乗り気じゃない人とかいたし。」

「あー、なんか聞こえたけど?気のせいだよね。」


 うわっ、俺って声デカい?もう少し小さな声で話そう。


「ふふっ、竹中くんって面白いね。私、もっと怖い人なのかなぁって思ってた時もあったから。」


 左手で口のあたりを押さえながら笑うその姿は、なんだかとても新鮮だった。


「いやぁ、別にそんな怖い奴ってことないと思うんだけどさ。やっぱりアレのせいなんだよなぁ。クラスのみんなにも謝らないといけないかなぁ。やっぱり迷惑かけたし。」

「え?もういいんじゃない?たぶん。もう、ひと月も経って竹中くんのことをわかろうと思ってた人はいろいろ分かってると思うし。それに、わからない人はきっと今言っても判んないと思うから。」


 さっきまでよりちょっと強い口調で言われた。


「そっかぁ。そういうもんかもねぇ。」

「そうだよ。でもさ。旭川さんとかも普通に話してるじゃない?旭川さんなんて、他の男子と話してるとこ見たことないよ?それに岩内くんも。ってことはさ。大丈夫ってことだよ。」

「そう・・かな?」


 なんか話したいこととは違う話になったけど。


「そうだと思うよ。それにさ、杉田くんとか実花ちゃんとか、その・・玉置さん・・とかとも仲いいじゃない?」


 ん?なんだろう。ちょっと一瞬だけど違和感があったような。


「まぁねぇ。なんて言うか。それは本当に助かってるよ。」

「だから、わかってる人は分かってるってことでいいんじゃないのかな?・・・と、私は思います。」


 なんで急にそんな付け足しみたいな言い方するんだろう?


「そうだね、ありがとう。そう思うことにするよ。」

「うん。」

「じゃなくて、ほら、なんて言おうとしてたのか聞こうと思ったのに。」


 もう学校の近くまで戻ってきたみたいだ。この調子だと五分とかからないだろう。


「あ、そうだったよね。ごめん。」


「いや、いいや。また今度聞かせてもらうよ。でも、俺から言いたかったことあるんだ。それだけは聞いてもらえるかな。」

「え・・・うん。」


 ちょっと驚いたような表情と同時に左手の人差し指を軽く唇にふれさせる。


「あのさ。この前といっても最近だけど、給食時間の時なんだけどね。」

「うん。」

「ちょっとした事件あったじゃない。」

「あのこと?」

「そう。たぶんそれのことだよ。戻しちゃったやつ。」

「うん、あったね。」


 しまった。学校に着いたみたいだ。担任の藤原先生がマイクで話し始める。それと同時にバスの中全体が騒がしくなってきた。なんだよ。何一つ目的果たせてないんだけど。


「はぁ、着いちゃったか。」

「あは、そだね。もう着いちゃった。」


 そう言って笑う東山さんはちょっと楽しそうに見えた。


「じゃ、いいや。簡単にだけど伝えたいことだったから言っちゃうよ。」


 もうバスから降りようとしてる奴まで現れてきた。残された時間は少なそうだ。杉田も目覚めたみたいで後ろからでも伸びをしている両腕が見える。


「うん。」

「あの時の東山さん。すごくかっこよかったし。あぁ、本当にやさしい人なんだなって思った。そういうことがさ、すっと率先してできる人って、俺、本当にスゴイ人だと思うよ。だから、すごいのは俺じゃないさ。東山さんだよ。」

「うわっ、なんで俺の隣が竹中じゃなくなってるんだ?」

「あー、杉田、うっさい。あんた寝てたからさ。その間に変わったんだって。あたしも寝たかったの。なんか文句ある?」


 旭川さんが悪態をついてるけど、いろいろごまかしてくれてるのかな?でも、あぁ、完全に時間切れみたいだ。杉田が立ち上がって振り返ってくる。


「なんだ竹中、そこにいたのかよ。そうならそうと言ってくれって。ビックリしたじゃんか。起きたら隣にレディーがいるんだぜ?」


 ははは。もう、本当に時間切れだな。仕方ない。荷物もってバスから降りるか。


「ほら、荷物もって。さっさと降りるよ、杉田。」


「え?なんだよ。ちょい、放せって。」


 旭川さんは杉田の腕を引っ張って座席から立ち、バスを降りようとしている。


「ふぅ。俺たちも降りよっか。」


 そう言って立ち上がって、東山さんに手を差し伸べる。東山さんは『そうだね。』と言って俺の手を掴んで立ち上がる。


「うんっ、ありがとうっ。」


 今までで一番の笑顔が見られたような気がする。なぜかはわからないけど俺も嬉しい。



「うあぁ、今日も終わったなぁ。」


 バスから降りると杉田がダルそうに立っていた。


「じゃ、また明日ねっ。竹中くん。」


 笑顔で手を振って東山さんは走っていった。ん?向こうに立ってるのは砂川さんかな?そっか、彼女たちは友達なんだな。


「竹中くんよぉ。なぁんか楽しそうなことになってるみたいだなぁ。」


 杉田がニヤニヤしながら言う。


「なんだよ。別にそういうのじゃないぞ?」


「ほぉ。俺は楽しそうだなって言っただけだぞ?おモテになっているようで何よりですなぁ。」


「だから、そうじゃないって言ってんだろ?話してただけだよ。」


「ちょっとぉ~。さっきのバスの奴って何よ。あたしにも教えなさいよぉ~。」


 栗林さんがカバンを振り回しながら走ってくる。


「なんか・・・」


「あぁ、やかましいのが来たなぁ。」


 おいおい、それは自分の彼女に言うセリフじゃないんじゃないか?まぁ、多少は同意するけどさ。


「じゃーね。タケナカくん。また、明日。」


「あ、うん。また明日。」


 なんだろう。なんかいつもと違うぞ。目つきが冷たい気がする。


「玉置さんだよな。今の。」


 杉田も感じたか、違和感みたいなものを。顔を見合わせて互いに目を丸くする。


「あぁ、そうだったと思うけど。」


「ねぇねぇ。何なのよぉ~。あたしにも教えろぉ~。」


 栗林さんは元気だなぁ。


「さぁさぁ、かえるべー、竹中~。」


 まったく、本当に足草の性格が羨ましい。いや、腹立たしい。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


東山明奈という女の子が物語にしっかりと入り込んできましたね。

しかも、玉置環菜のときよりも竹中の心情がはっきりと描かれてます。

更に言うと、二人の関係が初々しい。

なんだか、ほのぼのとしますねぇ。

二人の関係はどうなっていくんでしょうか。


最後の玉置さん、こわいなぁ・・・


ご意見、ご感想お待ちしております。

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