ねぇ。お願いがあるんだけど。
学校の告白場所ランキング!
1、放課後の教室
2、屋上
3、部室
皆さんは思い当たる場所、ありましたか?
ちなみに竹中は・・・
教室に戻って玉置さんのカバンがあるか確認する。
教室には何故か誰もいない。カバンも俺と杉田、あと栗林さんのしかないみたいだ。玉置さんのカバンは・・・まだある。ということはまだ学校内にいるってことだ。
よし、探しに行ってみるか。
いや、入れ違いになったらどうする?
教室で待つか?
う~ん、屋上から戻ってくる途中で玉置さんを見かけなかった。
ということは職員室にでも行ってるのだろうか。
はぁ、考えたってわからないよな。答えを知ってるわけじゃないんだから。それに考えすぎるのは俺に向いてない気もする。いや、そんなことはないか。いつも何かは考えてるもんな。とりあえず、探しに行ってみるか。そう思って教室から出ようとしたとき。
「キャッ。」
「あ、ごめん。ぶつからなくて良かった。」
玉置さんが教室に戻ってきた。
「あ、ううん。こっちこそゴメン。大丈夫だった?」
「うん、俺は大丈夫。」
「そう・・・良かった。」
なんだろう。ちょっといつもの玉置さんと違う感じがする。俺の気のせいなんだろうか。
「あ、ごめんね。私、今日はもう帰ろうかと思って。」
そう言って玉置さんは自分の席にカバンを取りに行く。
「あ、いや、こっちこそゴメン。」
このまま行かせたら玉置さんは帰ってしまうぞ?いいのか?
「ねぇ。お願いがあるんだけど。」
玉置さんはこちらを振り向かずに帰る準備をしながら言った。
「えと、なんだろう?」
いつもならはっきり物事を言う玉置さんなのに、なんだか歯切れが悪い。
「一緒に・・・帰ってくれる?」
どうして、今日なんだろう。
断るのは簡単だけど、玉置さんがわざわざ一緒に帰ろうなんて言ってきたことはない。
なんとなく委員会の帰りとかに『送っていこうか?』って俺が言い出すことがほとんどだったから。
「うん、いいよ。帰ろうか。」
俺も自分のカバンを取りに席に戻る。
「じゃ、帰ろうか。」
「・・・うん。ごめんね。」
なんで『ごめんね』なんだろう。
そして、玉置さんと一緒に教室を出る。ちょうど屋上から二人が戻ってきたけど、玉置さんは気が付いてないみたいだ。俺も横目で見ながら軽く首を横に振った。杉田は軽く頷いてるみたいだった。
そのまま玄関まで特に俺たちには会話もなく、外履きに履き替えて帰路につく。
相変わらず玉置さんは無言だ。
「ねぇ、どうかしたの?」
意を決して聞いてみる。俯いているだけで何も話してくれなきゃ俺も何も言いようがない。
「うん。ちょっとね。」
ちょっとね、か。それって、『私が話すまで待って』ってことだよな。
「そっか。」
また、無言の時間が流れる。こんな雰囲気じゃ告白どころじゃないな。今日は諦めよう。
「・・・あのね。」
きっと、どうやって話そうかって考えていたんだと思う。だから、ここまで時間が必要だったんだろう。
「うん。」
「私、告白された。」
「そっか。誰に?」
俺は冷静に答えた。だってもうそのことは知っていたから。でも、なんとなく胸が痛い。
「うん。二年生。あんまりよく知らない。」
「そっか。」
よく知らない先輩ってどういうことなんだろう。なんだか俺にはその場のイメージができない。
「うん。」
「で、なんて答えたの?」
「・・・・・」
この空気での沈黙はキツイ。もしかしてオッケーしたんだろうか。そう思うと心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
「言いたくないなら・・・」
「断ったよ。」
俺が言い終わらないうちに、玉置さんがはっきりといった。『断った。』と。俺ははっきりと思った。『安心した。』と。
「そう・・・なんだね。」
「うん。」
また沈黙だ。沈黙が支配する空間。とても重い。玉置さんはなんでこんな話をするんだろう。
「なんで?」
耐えきれなかった。沈黙が重たかった。
「・・・よく知らない人だったし。」
「そっか。そりゃそうか。」
「うん。でも、その人こんな風に言った。」
急に立ち止まり、俺の目をしっかり見ながら続ける。その目はいつもの綺麗な目ではなく、ちょっとだけ違う色に染まっているように見えた。
「今付き合ってる奴よりも、俺のほうが絶対イイって。」
今付き合ってる奴?誰だそれ?俺は首をかしげながら言った。
「は?誰かと付き合ってるの?」
聞いてから鼓動が少し早くなるのを感じる。
「付き合ってない。誰とも。まだ・・・」
「そうだよな。誰かと付き合ってたら、俺と一緒に帰ったりしないよな。って。え?」
自分で言ってから気が付くっていうこともあるんだな。
「そう。竹中くんのこと言ってたんだと思う。」
玉置さんは俺の目をまだじっと見ている。俺も玉置さんの目を見る。でも、彼女の気迫に押されたのか少しだけ後ろに反ったような体勢になってしまっている。
「俺のことか・・・」
「あの先輩は、イヤな人だ。竹中くんのことをよく知りもしないでそんなこと言うなんて。」
もしかして、沈黙って怒ってたのか?その先輩とやらに。
「あぁ、でもさ、学校内での俺の評判なんてきっとそんなもんだと思うよ。」
「そんなの関係ないの。」
「はいっ。」
思わず気圧された。そして、俺の制服の両袖を掴みながら続ける。
「竹中くんはイイ人。優しいし強い。そんな人のことをあんな言い方するなんて許せない。」
「いや、大したこと言ってないと思うんだけど?」
「だって、それで全部じゃないもん。ある事ない事ウワサばかり並べていろんなこと言ったんだよ。」
そう言って、俺の袖から手を放し俯く。
「そっかぁ。まぁ、でも仕方ないって。入学早々あんなことしたんだから多少は噂に尾ひれがつくもんだって。」
俺は玉置さんをなだめようと思ってちょっとおどけて見せようとした。
「竹中くんはそれでいいの?みんなに誤解されたままでいいの?」
俺以上に俺のことを真剣に思ってくれてたんだ。ありがとう。でも。
「いいさ。ウワサなんて。そんなもんだから。俺のことは杉田や栗林さん、それに玉置さんが知っててくれてるだろう?そんなもんだって。だって、今なんて小学校の頃からの友達にも総スカンされてるだからさ。」
そう自虐的に笑ったつもりだったけど、玉置さんは納得できないみたいだ。
「でも、でもっ。」
「あー、また、自分のせいだとかいうつもりじゃないだろうね。もうそれは終わりって言ったじゃん?」
軽く頭を掻きながらそう言って、再び歩き始める。玉置さんも俺に続いて歩いてくる。
「・・・うん。そうだったね。」
「そうさ。なんか悪いなぁ。面倒な思いさせて。」
「ううん。そんなことないよ。」
はぁ、もうすっかり、告白する雰囲気じゃなくなっちゃったな。
「あのさ。もう、俺のことをそういう風に言ってくる奴いても、気にしなくていいよ。そうしないと玉置さんが大変だよ?」
「・・・うん。」
「だからさ、もうその話は本当に終わり、な?」
「うん。」
やっと、玉置さんにも笑顔が戻ってきた。
「それにしても。」
「うん?」
「二人でいるとこの話題になっちゃうね。」
「そうだね。ホントに。もっと他の話もしたいのに。」
「そうだよ。もっと楽しい話しようよ。」
とは言っても、今日はもう無理かな。玉置さんの家も近いし。
「あのね。聞きたいことあるんだけど。」
ちょっと小走りで俺の前に歩み出て後ろ手に組み、前かがみになって首をかしげながら言う。
「なに?あの二人のこと?」
俺も軽く笑みを浮かべながら返す。良かった、笑いながら話せそうだ。
「そうそう。竹中くんから見てどんな感じかなって思って。」
「想像通りだよ。すごくいい感じだよ。あの二人は。」
そう、あの二人はすごくいい感じさ。というか憎らしいくらいに。
「そっかぁ。そうだよね。私もそうだと思った。」
そういうとまた俺の横に戻ってきて一緒に歩きだす。そう言えばあの時は手をつないでたんだっけ。ちょっと前のことなのに、妙に懐かしく思う。
「だよね。俺もそう思ってた。」
玉置さんもうまくいくと思っていたみたいだ。
「そっかぁ。やっぱりねぇ。うん。」
なんだか一人で納得してるみたいだ。きっと女の子同士の相談なんかもあったんだろう。
「さて、もうすぐ家に着くね。」
「あ、うん。」
「やっぱり、栗林さんといろいろ打ち合わせしたの?」
これは素朴な疑問だった。
「え?どうかなぁ。あんまり、そういうのはなかったよ。」
「そうなの?てっきり女の子同士で綿密な計画があるのかと思ったよ。」
「えぇ、ないよ。ないない。だって、そういうの考えてうまくいくわけないじゃない。全部その時のアドリブよ。」
そういうもんなのかね。それじゃ、あの展望台に言ったのは・・・あれもアドリブ?聞いてみたいんだけど、どうしよう。
「どうしたの?なんかあった?」
俺の考えてることはすべてお見通しなんだろうか。
「うん、ちょっとね。」
「・・・そう。なんのことかな。聞きたいな。」
聞きたい?どういうつもりで言ってるんだろう。
「・・・えっとさ。あの時ね。」
「・・うん。」
歩きながらだともうすぐ玉置さんの家についてしまう。ちょっとだけ。もう少しだけ時間をかけて聞きたい。そう思って歩くペースを少しだけ落とす。
「なんで、展望台に行こうって言ったの?」
どうして、ちゃんと玉置さんの顔を見ながら言えないんだろう。
「・・・なんでだろうね。」
ちょっといたずらっ子っぽい言い方だ。ズルイな、その言い方。
「教えてはもらえないか。」
小声で呟いたからきっと聞こえてないだろうな。
「え?なに?」
やっぱりね。聞こえなくてよかった。それに、すべてを彼女に言わせるのは卑怯な気もする。
「はぁ・・・」
決めた。やっぱり今日言おう。今を逃したらもう、チャンスはないような気がする。どうなるかなんてわからない。それは今に限ったことじゃない。
「なに?どうしたの?」
横から俺の顔色をうかがっている。俺はどんな表情してるんだろう。自分では見たくないや。
「聞いてほしいことがあるんだ。」
そう言って立ち止まり彼女のほうに向きなおる。
「・・・うん。聞くよ。」
そう言った彼女はちょっと困ったような表情に見える。どうしよう。やめたほうがいいんだろうか。なんとなく、嫌な予感もする。
「あのさ。俺さ。」
「ダメ。やっぱり。聞かない。」
玉置さんはそう言って振り返って背中を見せる。
「なんでだよ。聞くって言ったじゃない。」
彼女の両肩を後ろから掴んで無理やりに振り向かせる。彼女は唇をかみ、目にはうっすらと涙を浮かべている。なんで涙なんだよ。言うまでもなく、もう結果出てるじゃないか。ダメだよ、きっと。でも、杉田も栗林さんも言ってた。『伝えるのと伝えないのとでは全然違う』って。だから、そう。聞いてもらえればいい。俺の気持ちを。
「俺の彼女になってくれないかな。」
伝えられればそれでいい。そう思ったけど、やっぱり返事は聞きたい。彼女は俯いたままで何も言わない。
「わかった。ごめん。困らせたみたいだね。今言ったことは忘れてくれる?」
俺は彼女に背を向けてそう言った。まぁ、こんなもんだよ。世の中上手くいかないもんさ。
「・・・忘れられるわけないじゃない。」
「ごめん。」
「・・・・」
「帰ろう。もう少しだけど、送っていくから。」
「・・・・」
彼女は無言だった。また、沈黙だ。やっぱり失敗だった。今日言うべきじゃなかった。せっかくこれからもみんなで楽しくやれると思ってたのに。これで明日から一人友達を無くすかもしれない。
「・・・ねぇ。聞いて・・・ください。」
「・・・うん。」
歩きながらの会話。ちょっと前の雰囲気とは全然違うものになってしまった。無言で一緒に歩いていた時以上に重たい雰囲気だ。
「彼女になって欲しいって言ってくれるのは・・・すごく嬉しい。だって、私も・・・その・・・好き・・・だから。」
予想外の言葉、思わず彼女のほうを振り返る。
でも、だったらどうして『ごめん』ってなるんだろう。そう思った俺にとって、次の一言は理解できない言葉だった。
「でも、今は、お付き合いとかできない。」
「なんで?今まで通りでいいじゃない。」
「うん。あのね?竹中くんはきっと、私のこと強い女の子だと思ってると思うんだ。でもね。結構、今、私ね。いっぱいいっぱいなの。なんかいろんなことがあり過ぎて・・・頭の中の整理が追い付かないの。だから、今はごめんなさい。それに・・・」
「そっか・・・俺にはよくわからないけど、それが玉置さんの結論なら・・・仕方ないね。」
何かをまだ言おうとしていたみたいだけど、すべてを聞くほどの勇気はない。きっと今はタイミングが悪かったんだ。そう思いたい。
でも、何故だろう。こうなるという結果だけは分かっていたような気がする。
「ごめんなさい。今は。でも、もし、この後も私のことを好きでいてくれたら、その時は・・・」
彼女の顔を見ると、頬に涙がつたっている。俺だって泣きたいよ。
「ふぅ・・・いいよ。無理しなくて。ごめん。俺も先のことはわかんない。ずっと玉置さんのことを好きでいられるなんて、そんなことは言えない。」
そうだよ。言えるわけがないじゃないか。
「でも、だから、その・・・」
「もういいってっ。忘れてくれとは言わないけど、忘れよう。」
「・・・」
「今まで通り。仲の良い友達でいようよ。きっとその方が・・・いい・・・」
玉置さんは何か言いたいことがあったように見えた。でも、今の俺にはそれを聞けるような心の余裕はない。
「・・・・」
「・・・・」
はぁ・・・本当に気持ちを伝えることが良い事だったのか?今まで通りでいたほうが良かったんじゃないのか?
「・・・本当に?今まで通りに?私のそばにいてくれる?」
「・・・うん。友達だからね・・・友達として・・・なら・・・いられるよ・・・」
「・・・ごめんなさい・・・」
「・・・いいって。玉置さんもいろいろ大変だったからね。また、明日から今まで通りにやってこうよ・・・」
「・・・ありがと・・・」
「もう、家見えてるけど・・・送ってく。」
「・・・うん・・・」
今日は結構暖かい日だったんだけどなぁ。やっぱり夜になると結構寒いや。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
竹中と玉置の話。
一つの結果が出ました。
玉置が何を考えていたのか。
竹中にはきっと理解できていないんでしょう。
そして、玉置自身にもよくわからないことがあるんでしょう。
二人共、まだ、若くて、幼かったということなんでしょうかね。
次章からは、新しい展開になっていきます。
よろしくお願いします。




