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虹色ライラック  作者: 蛍石光
第2章 出遅れる男
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こいつの思考回路はどうなっているんだ?

いつの世界にも敵っていますよね。


親の敵、子供の敵、恋人の敵などなど。


でも身近な敵っていうと・・・恋の敵?

 それからしばらくの間、彼らからこの手の話はなかった。状況が変わったのはあれから一週間くらいたった放課後だった。教室で帰り支度を済ませて杉田と話をしていた時だった。


「ちょっと~、大変タイヘンたいへん~。」


 廊下から聞き覚えのある女の子の声が聞こえる。


「これって栗林さんの声だよな。」

「あぁ、間違いないな。」

「何が大変なんだろうな。」

「さぁなぁ。いっつも何かで大変そうにしてるけどな。」


 そこに息を切らせて走ってきた栗林さんが到着する。


「ちょっと大変だよ?」


 あまりに衝撃的なことでもあったんだろうか。誰が、何で、どう大変なのか。全く伝わってこない。


「まぁ、落ち着けって、な?」


 杉田が栗林さんを落ち着かせようとする。


「これが落ち着いていられますかって。」

「いや、何かあったみたいだってことはわかるんだけどさ。そう興奮してたら俺らにはなんにも伝わらないって。」


 杉田の言う通り。教室全体の注目を浴びてはいるが、いまだにその内容には触れられてない。


「もうっ。大変なんだって。でも、ここじゃ話せないから屋上で。」


 急に声のボリュームが下がった。ここで話せないって。どんな話だよ。屋上に移動しながらも彼女は、早く早く、を連呼している。いったい何なんだ?


「わかったって。そう急いだって何も変わらないだろう?」

「ううん。一大事なのよ。特に竹中くんには。」

「え。俺なの?」


 まさか自分のことだなんてまったく予想もしていなかったから驚いた。そして、屋上に着くなりひとしきり周りを見渡してこう言った。


「環菜ちゃんが二年生の先輩に告白されてたっ。」


 そういうことか。そりゃ、教室では言えないよなぁ。でも、俺にそんなに関係あるのか?


「ふ~ん。だってさ。竹中。どうするよ?」

「そうよ。どうするのよ。」


 何を言ってるんだよ。二人とも。俺がどうこうする問題じゃないだろう。


「どうするって、何も。」


 俺が何かしなきゃいけないってことはないだろう?


「ちょっと、それはダメだと思う。」


 栗林さんが腕を組みながら俺をにらみつけている。


「そうだなぁ。俺もそれはどうかと思うなぁ。」


 杉田も腕を組んで首をかしげている。


「なんでだよ。俺が告白されたわけでもないのになんで何かしないといけないんだよ。」


 そりゃ、俺だって今の言い方はちょっとはマズったかなとは思うけど。今さら後には引けないだろう。


「あのさ。俺から一言だけ言わせてくれよ。」


 杉田が急に改まって何かを言おうとしている。


「あぁ、なんだよ。」

「竹中さ、玉置さんのこと、ちゃんと考えたんだろ?で、その答えは?」


 ストレートだな。つまり、ぼかさずにちゃんと答えろってことか。


「考えたよ。好きだと思う。」


 好きっていうのは一緒に居たいって思うこと。そう考えたら結果は見えてくると思った。いろいろ考えるとやっぱりそういう結論になるんだと思う。


「そうだろ?俺もそういう結論になると思ってた。じゃ、次だ。」

「お、おう。」


 俺も栗林さんも息をのんで杉田の言葉を待った。


「先越されたぞ。お前、いいのか?不戦敗になるかもしれないんだぞ?」


 不戦敗?どういうことだよ。戦わずして負ける?それって・・・


「わかったよな?もし、玉置さんがその先輩の告白を受けてオッケーしたら、お前は付き合えないってことだ。」


 そうか。そういうことになるのか。でも、玉置さんって俺のことどう思ってるんだろう。それもわからないからいろいろ考えても告白しようってところまではいかなかったんだよな。


「俺には今、お前が何を考えているのか手に取るようにわかるぞ。玉置さんがどう思ってるのか知りたいんだろ?」


「なんで、わかるんだよ。」


 全く、こいつの思考回路はどうなっているんだ?


「お前は分かりやすいからなぁ。」


 ニヤッとしながら杉田が続けて言う。


「玉置さんがどう思っててもいいだろ。お前の気持ちだけ伝えて来いよ。フラれたっていいじゃないか。きっと、お前たち二人は付き合ってなくても今みたいな関係なんだろうさ。けど、これは俺の勝手な思い込みかも知れないけど。もしフラれたとしても今と同じ関係でいられると思うぞ。なんとなくな。」

「なんでそんなことわかるんだよ。」

「う~ん、それってあたしも思うんだけどね。たぶん環菜ちゃんって子は翔の言う通りだと思うな。きっと、今までと同じに居られるよ。」

「つまり、どういうことだよ。」


 二人の言いたいことがよくわからない。つまりどういうことなんだよ。


「あぁ、間違ってたらごめんな。たぶん、さっき告白したっていう二年生の先輩はフラれる。たぶんというか確実に。」


 なんでそんなことわかるんだ?しかも断言できるなんてどうしてなんだろう。


「あたしもそう思うよ。環菜ちゃんはね。たぶん・・・その、なんていうか。でも、ゴメン。うまく言えない。」


 そういう栗林さんの顔には苦悶するような表情が浮かんでいる。


「だから、なんなんだよ。」


 さっぱり話が見えてこない。


「悪い。俺からもうまく言えない。けど、気持ちを伝えるのと伝えないのは大きな違いがあると思う。それがどんな結果だったとしてもな。」


 俺にはよくわからないけど、杉田と栗林さんは何かがわかってるみたいに感じる。それが何なのかは俺にだけわからないのがもどかしい。しかも、二人はどうしてなのかはっきりと俺に伝えてくれない。


「なんかさ。今の話聞いてるとさ。俺、フラれるのが前提じゃね?」

「あぁ、そう聞こえたか?すまん。そういうことじゃないんだ。」


 やっぱり話が見えてこない。告白しろって言ってるのは分かる。けど、なんかハッパを掛けてるのとも違うようにも感じる。


「わかんねぇ。わかんねぇけど、でもわかるよ。気持ちは伝えないと伝わらないってことか?」

「・・・そういうこと。ただ、よく考えろよ。」

「わかった。じゃ、今から行ってくる。玉置さんどこにいるかな。」

「ん、今日は部活無いから・・・まだ帰ってなければどっかにいるんじゃない?」

「アホだなぁ。そりゃそうだろ。どこにいるのかが重要だろう。」


 杉田が栗林さんを軽く叩くような真似をする。なんか羨ましいな。クソッ。


「まぁ、いいや。じゃ、俺はいったん教室戻るよ。玉置さん探してみる。」

「そうだな。それがいい。俺たちはちょっと時間をおいてから教室に戻るよ。」

「わかった。また後でな。」


 なんだか売り言葉に買い言葉のような感じで告白するって宣言しちゃったけど、なんて言えばいいんだ?いや、考えても仕方ないか。とりあえず教室に向かおう。

 俺の足取りはとても軽いというものではなかったが、ここしばらく胸につかえていたものが取れたような、不思議とすっきりしたものだった。

杉田と栗林ペアは何か色々とわかっているみたい。

煮え切らない竹中を見て、後押しをしてくれているんだと思いますけど。


それにしても竹中は色々とニブイ男ですね。

クールを装っているというか。


遅かれ早かれ、次の話で一つの結果が得られると思います。

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