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陰流始祖 愛洲移香斎

愛洲移香斎と鵜戸明神

作者: 真言☆☆☆

剣術界の巨星、陰流始祖・愛洲移香斎の壮大なる話が今始まる。

「神よ、我に剣の秘奥義を授け賜え」

 梅の花が咲かんとする頃、日向の鵜戸神社の岩屋にて、

 愛用の朱色の樫の木刀で剣の技を練って、早や三十日。

彼は、神が現れる兆しを肌で感じていた。

愛洲移香斎は、一心不乱に参籠していた。

 俗世間から離れ、神のみを念じて、剣のみに想いを寄せる。


 そんな霜凍る夜、神社の奥にある滝で、水垢離をとっているうちに、

突然、神は金の光を放ち頭上の空に姿を現した。

「無駄じゃ。そんなことして、何の意味がある。」

 彼は、驚愕した。神の出現を喜んだのもつかの間、我が耳を疑った。

「鵜戸明神、何と仰せられる。昔から、先人たちは、身を清め、

五穀をたち、女色をさけ、修行するものと決まっております。」

 むきになった彼を、神は鼻で笑った。

「ふん、頭が固いのう。禁欲なぞで得られる物は、

たかが知れておる。人ならば、煩悩を全て認めよ。

欲をすべて喰らいつくせ。さすれば、自ずから、道は開かん。」

「何と仰せられる。神のお言葉とはとても、思えません。

現に、私の前にこうしてお姿を現せられたのも、

厳しい修行の賜物でございましょう。」

「馬鹿者!お主があまりにも無駄なことをしていて、

可哀想に思ったからじゃ。禁欲をして秘奥義を授かるなら、

坊主がみな剣の達人になっておるわ。」

「・・・・・」

彼は、この神は偽物で我を惑わせる魔物かと疑いの心を持った。

「お主、今、我を偽物で、惑わせる魔物と、思ったじゃろう。」

心の中を言い当てられて、流石に、言葉に詰まった。

「そもそも、お主は、新しい剣の流派を編み出したいのじゃろ。

 それが、先人たちの真似をしてどうなる。

 そもそも、人の分際で神通神変の機を得ようとか、

 やれ、宇宙と一体になるとか、可笑しくてたまらん。

 人は、人。神にはなれぬ。

 刀は所詮人斬り包丁。剣は人殺しの術。

 そこんとこ、わかっておるんかい。

 この青二才の馬鹿ちんが。」

 ここまで馬鹿にされたら武士の恥、木刀を持つ手が怒りに震えた。


「おっ、生意気に腹を立てておるな。よかろう、かかってこい。

 お主の技量をみてやろう。お主なぞ、この扇子で十分じゃ。」

 神は、無造作に扇子を右手にひょいとかざした。

 神に手を出すのは気がひけたが、そこまでなめられたら、武門の恥。

 神ならば万が一、木刀が当たっても死ぬことはあるまいと決心し、

木刀を晴眼の構えにとった。

『隙がない。』

 扇子が大きく見え、神が扇子の陰に隠れている。

 身がすくみ、己が、蛇に睨まれた蛙のように思えた。

「ほれ、ほれ、どうした。かかってこぬか。口先ばかりの腰抜けが。」

 神がこれでもかと、挑発する。


「伊勢神宮の神よ、我に力を与えたまえ。」

 彼は、覚悟を決めて、鵜戸明神の面に大地をも砕かんの勢いで

打ち込んだ。

 その瞬間、木刀ははね飛ばされた。右手はしびれ、額に血が滲んだ。

神の技が全く、見えなかった。

 今までの自分がやってきたことは何だったんだろう、果たして

自分の修行には意味があったのか、深い絶望感が彼を襲った。

 同時に、神の技の冴えに心を奪われた。


「もう終わりか、股にぶらさげているものは、飾りかい。」

 神が、尚も挑発する。

 まったく持って、神の厳かさも、神妙な表情の欠片もない。

 彼は右手が痺れていて、木刀が持てなかった。

 右足が前の右半身に構え、右手は眼前に防御に徹し、

左手を腰に構えた。

 左手の手刀を気合いもろともに、神の水月に突きを放った。

今度は、彼が遠くへ投げ飛ばされた。

左手と額は打たれはしなかっが、扇子が触れたのは何となく、わかる。

だが、受け身をとるなんてとんでもない。全身を襲う激痛に耐えていた。

立ちあがることは、とてもできなかった。











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