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第八話 side:girl

ちょっと調子に乗っていた。

シャドウの特訓をするために随分遅くまで学園で練習をしていたのだ。




それだけなのに、まさか亡霊に追いかけられる羽目になるとは。



学園を出る。外が大分暗くなってきたから近道を通った。街灯はぽつぽつあるんだけど、それが逆に薄暗さを出していて気味が悪い。

私は足元だけ見て、足早に歩いた。

ザワザワ。

「え?」

後ろに……何かいる?

慌てて振り向いたけど、何もいない。

ザワザワ。

今度は、その後ろ。やはり、何もいない。だけど、いる。私のすぐ後ろに。

振り向けない。

振り向いて、何かいたらどうする。

いや振り向いて何もいなかったらどうするのだ。

悪寒がした。体の芯から沸き上がるような悪寒だ。

「駄目……」

思わず膝をつく。

しかし、救いは思いもかけずあっさりと計ったようなタイミングで現れた。

「束縛呪法 縛の式!」

唐突に聞こえた高く鋭い吟声は、まるで賛美歌のように清らかに響く。

「覇邪呪法 滅の式」

ガラスが割れたような音と共に、悪寒の原因が消滅する。それでも悪寒はすぐには抜けないで気持ちの悪さは残る。

「大丈夫?」

「はい」

差し出された手の主は私と歳のそう変わらない女の子だった。

「ありがとうございます」

「ん、これぐらいどうでもいいわよ。それしてもこんな雑魚をのさばらせておくなんて、アイツも何やってんだか。ん?あなた魔法使いなの」

「い、いいえ。唯の見習いです」

「!ということは魔法学校の生徒ね。私もそこの生徒になってるらしいから、また会うかもしれない。そん時は宜しく」

「よ、宜しく」

ヒラヒラと手を振って去る少女を北条早苗は眩しそうに見送った。




次の日の朝もシャドウの練習をするべく、早く教室へ行った。

家が近いこともあって彼女が登校したときは教室には誰もいない。

はずだった。

「やっぱ、おかしいって。いくら何時登校かわからなかったからって、六時からいる意味は絶対ないって」

「うるさいわね。何度も何度も」

なのに、いた。それも二人。二人とも昨日まで来ていなかった人たちだ。確かに空席が二つあったような……。それも赤い髪の女の子と金髪の男の子。

あ。女の子の方って昨日の助けてくれた人だ。

「あら。あなた、昨日の女の子じゃない。早速会ったわね」

「ええ。昨日はありがとう。このクラスなの?」

「そうよ。色々ゴタゴタがあって、来るのが遅れてしまったけどね」

「ゴタゴタって道に迷っただけじゃねえか、ゴボ」

「束縛呪法 縛の式!あ、ゴメンね。晴彦に変な怨霊が憑いてたから晴彦ごと固まらせた」

少女の手には一枚の札。昨日使った魔法と同じらしい。

少女は赤い髪をショートカットにしているのに、顔立ちは不思議と日本人だ。

少年の方は髪を短く刈り上げていて、スポーツマンらしさを醸し出している。金髪だけど。

「ゴボゴボ、ゴボゴボボ」

声帯を固められたのか喋れないらしい。

「だ、大丈夫なの?この人」

「ええ。大丈夫よ。元々、こんな声なのを私が魔法で普通の声にしてあげてるの」

「ゴボ、ゴボゴボボ!」

心なしか、んなわけあるか!って聞こえた気がする。

「まあ、私たち二人今日からこのクラスだからよろしくね。学校とかって通い慣れてないから新鮮なのよねえ」

「えっと、私は魔法使いの家に産まれてないからまるっきり素人なんですけど、宜しくお願いします。名前は北条早苗っていうの」

「早苗、ね。私の名前は……」

その時、ガラッと音がして教室の後ろのドアが開いた。

入ってきたのはボサボサの髪に気だるげな目をした少年だ。霧ヶ峰阿久人である。

「おはようっすぅ!?」

普通に挨拶をして机に向かおうとした彼は語尾を一気に上げた。

「……どうしたの?」

まるで幽霊でも見たかのように固まっている。まあ、実際に幽霊を見ても驚かないのだろうけど。

「あら、私がどうかしたのかしら?」

霧ヶ峰君はどうやら、赤い髪の少女の方を見て固まっていたらしい。

「あ、いや。何でもない。何でもないんだ。少し、昔の友達に似ている思ってさ」

物静かな彼にしては珍しくブンブンと頭を振った。

「へえ。それも何かの縁かもしれないわ。あなた、名前なんて言うのかしら?」

「阿久人だ。霧ヶ峰阿久人」

「ふーん。変わった名前ね。よろしく、阿久人君。あ、そうそう。私の名前はさき白銀しろがね 咲っていうの」

「!」

その台詞に今度こそ、霧ヶ峰君は固まった。


落ちた鞄の音が教室に空しく響いた。

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