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第七話 side:boy

 自分では自分のことを暗い方だとは思わない。ただ、他人にそこまで興味がないだけだって友達に言ったら『それが暗いってことだ』って笑われた。

だから、俺がこんな風に話しかけたこともやっぱり俺にしては珍しいことなんだろう。

「……初心者だよね?」

隣の席で北条さんが必死に集中している。凄い集中力だ。全身からマナが迸っている。

これをコントロールする術を覚えたら、凄い魔力になりそうだ。

「え?そうだけど?」

急に話しかけた俺に驚いたようだが、答えてくれた。

これ程の才能があれば、幼い頃から訓練していれば大成していたかもしれない。

そう思いながら、俺はシャドウを出すコツについて教えた。

人に物を教えるなんて久方ぶりだったから新鮮だ。

昼休みなど、あっという間だった。




 午後になって、一枚のカードが配られた。シャドウによる戦いの結果を記録するカードということらしい。刻まれた術式からもそれは伺える。

だが、ゲーム性を出して競争心を高めるにしてもこれはやり過ぎではなかろうか。

たかだかシャドウの使い方をマスターするためになんだってこんな大掛かりな仕掛けを用意するのだろうか。

まあ、面白そうなことは認めるが。

この学校を囲う綿密な結界もこのゲームのためだといわれれば一応の説明がつく。

どこでも、シャドウをくっきりと出すためには不純物は少ないほうがいいからだ。

なんでも、クラス対抗の成績やら個人成績やら色々あるようでクラスの連中は偉く張り切っている。

「ねえ、試しに一戦やってみない?君、『出来る人』でしょ?」

話しかけてきたのは長い茶髪の男子生徒。名前は秋元だ。

言い方からして、こいつも魔法使い側の人間らしいが秋元という名字の流派に心当たりは無かった。傍流か門下といったところか。

「ああ。いいよ、やってみよう」

この男の力を計ってみたい。いや、ごまかすのはヤメだ。俺は自分の力量に興味があった。

早々、試す機会などないのだ。いくらこのバトルの強弱が魔法使いの力量とは直結しなくてもだ。

「ルールはあれだっけ?シャドウへの魔法による援護はアリなんだよな」

割と適当に聞いてたから自信が無い。

「ああ」

秋元は左手に例の記録カードを持って、右手の杖に魔力をこめる。すると、カードが光る。こうやって使うらしい。あとで、原理を調べよう。

真似てカードを左手に。ただし右手に持つのは短剣。流石に鞘に入れたままで使うことにする。

ルールは単純。バトル開始後、シャドウを消滅させたほうの負け。半径一メートル程の球形状のフィールドを張り、三十秒に一度はそこに存在しなくてはいけないらしい。

ずっと隠れているのを防ぐルールだとか。

「I'll ignite the whole earth.《革新する》」

言葉とともに思考は魔法使いのそれへとシフトする。


「顕現せよ!」

赤き鳥が舞い上がる。


「この一瞬を誇るために」

それは彼のキーコードか。言葉と同時に現れたのは猫。黒猫だ。

魔法使いの使い魔としては一般的な部類に入る。


戦いはその瞬間に始まった。

天井ギリギリに、壁の端に陣取る朱雀。球形のフィールドを挟んで対峙する黒猫。

一見すると、高度を持つ朱雀が有利に見える戦いだが、そう簡単にもいかない。

シャドウの運動能力は宿主の精神に依存するため、常識では有り得ないような力を持つのだ。

しかも、朱雀は鳥だ。鳥は手である翼を飛行に当てている分だけ攻撃手段が少ないのだ。

カードには15という数字。刻一刻と減っていく。

0になる前にフィールドに入れという意味らしい。

「汝は火を司りし鳥。汝は火の子。汝は紅蓮の霊なり」

苦手とする元素系魔法の行使を決める。元素系魔法は術式の少ない分、イメージや詠唱が重要になる。魔道系が理系だとするなら、元素系は文系だ。

触媒として硫黄を用いる。

全身を火にしたいところだが、流石に危険なので嘴だけを火で構成する。

この時点で、朱雀の嘴は『炎』として実体化した。

シャドウが霊体なら、純粋な元素から練り上げた火炎なら効果が大きい……はず。

カードの数字が一桁になった刹那、右手の剣を振り下ろす。


一気呵成の急降下。

流星と見紛う程の神速で、朱雀が黒き猫を貫いた。

きっと、秋元は衝撃を受けることもなかっただろう。

まるでテレビのスイッチを切ったかのように黒猫はふっと消え去った。



「こういう感じか」

カードから光が消えてフィールドも消えた。成るほど、これはなかなか面白い。

初となるバトルを観戦していた周りの生徒もより一層興奮しだした。

「なあ、秋元。お前のシャドウって猫又じゃなかった?」

「あ、ああ。よく気づいたな」

「魔法使いらしい良いシャドウだな」

唯、朱雀のほうが戦闘には向いていた。己の分身である以上、そこに強弱を見出しても仕方が無い。

魔法使いとしては特に優越感は感じなかった。

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