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第四話 side:girl

 「じゃ、俺行くから。また明日」

霧ヶ峰君は自分の杖を買ったかと思うと手を振って行ってしまった。

「行っちゃった」

「行っちゃったわね」

「行っちゃったね」

「ほっほ。あれもまだまだ自分のことしか見えてないのう。未熟、未熟」

杖屋の主人はそう言って目を細めて笑う。

「お知り合いなんですか? 」

「まぁ、長い付き合いだねぇ。あの坊やの祖父さんからの付き合いだから、かれこれ三代か。ふむ。長生きしすぎるのも考え物じゃのって」

「へえ」

「さてと、杖じゃったかな」

よっこらっしょと言ってお婆さんは立ち上がると壁から何本か杖を下ろした。

「さっきの坊やに売ったのは、ありゃ特製品での。あれには坊主も苦労するだろうな。まぁ、あれ位を片手間で使いこなせるようにならなきゃ話にならんというものよ。ほれ、これ持ってみなさい」

おばあさんは私に杖を渡す。

「あ、はい」

その杖は不思議な形をしていた。三本の木がそれぞれに絡み合い、一本の棒を形成している。

ツイストドーナツの親玉のようだなんて場違いなことを思った。

「魔力をこめてみて」

「魔力、ですか?」

「あー、深く考えること無いよ。杖に集中すればいいんだ。試験のときやっただろう?」

そういわれたので、目を瞑って集中した。

瞑想。

体の芯から生み出る熱を右手に持った杖に集める。

不思議なほど簡単に熱が右手に集まる。

「そう。その感じじゃ。そのまま続けて。出来れば何も考えないほうがいい」

何も考えないことは、実はとても難しい。試験に受かった時に無念無想は魔法の基本だから慣れておくようにと言われ、わざわざお寺に言って座禅の仕方を習ったのだ。

……

…………

………………

ふと、目を閉じた暗闇の中で何かが光った。

いや、光ったような気がする。

「凄い」

それは誰の声か。

「綺麗」

それは何に対する感嘆か。

「ゆっくり目を開けてみなさい」

やさしいおばあさんの声が聞こえたのでそっと目を開けた。

少しでも急ぐと壊れてしまうと、本能的にわかった。

ゆっくりと開けた視界には金色の光が溢れていた。

杖の先に、何かがいる。

「天使?」

はたまた、女神だろうか。

その人型の何かは、人型でありながら決して人ではありえない。

もっとよく見たいと目を凝らすと、すっとその何かは消えてしまった。

「今のは?」

「あなたが出したんじゃ。今のはシャドウ。あなたの深層心理、理想像、自分自身。そういった諸々のものが反映される。いわば、魔法使いとしてのあなたの形じゃな」

「あれが、私……」

「何にせよ、杖は合っているみたいじゃね。それでいいかい?」

「はい」

まだ一本しか触っていないけど、これしかないって思った。

これこそが私の杖だ。

その後、金本さんと幸田さんも自分の杖を買ったけど、わたしはずっとさっきの金色の像に思いを馳せていた。




 「それしても霧ヶ峰君ってちょっと冷たいと思わない?」

とりあえず買いたい物を揃えてからぶらぶらと歩きながら、ヒカリさんがつまらなそうにぼやいた。さっきも同じようにぼやいてた気がするけど。

「でも、私たちに合った杖が買えたことだし、そんなに悪く言っちゃ悪いよ」

幸田さんが小さな声で言う。

「いいの、いいの。魔法使いの家で育ってちょっと凄いと思ったら、まったく。冷たい男は論外ね」

本人が聞いたらどんな反応を示すか怖くなるようなことを平気で言う。

「私は結構マメな人だと思うけどなぁ。私たちの名前覚えてたし」

これは幸田さん。

私が忘れていたことはこの際黙っておこう。

「そうかねー」

その後、何故か問答無用でヒカリさんにカラオケに引きずり込まれて、出てきたら八時を過ぎている。

親には連絡したから問題はないけど、あんまり遅くなって初日から補導でもされたら大変だ。やっぱり制服のままはまずいよね。

「制服だと、ちょっと」

同じ事を思ったのか、まじめそうな幸田さんが心配そうな声を上げる。

「何言ってるの。こっちは高校生よー。予備校でもバイトでも言っておけばいいの」

確かにこの制服が目立つってことを除けばそれで問題無さそうだ。

「見てみなって。制服来た奴なんていっぱいいるって。ほら、うちの制服着た子も。ってえ?」

通りの向こう側にはたった今話題に上がっていた霧ヶ峰君がいた。

「凄い偶然だね。魔法関連の通りでもないのに」

向こうはこちらに気付くことなくどこか人気のない方に消えていく。

「ふーん。霧ヶ峰君って不良なんだ」

「それ、人のこと言えないからね?」

いきなり優等生な目をするヒカリさんに私は一応突っ込んだ。


 初日で緊張して色々なことがあって、家に帰って布団にはいると直ぐに寝てしまった。

魔法を使う夢を見た。


お伽噺のような夢だった。

 

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