第二話 side:girl
「つまり、術式に媒介変数表示を使う利点は動く物を基点と出来るってことだ。例えば、そうだな。俺の腕から先にエーテルで刃でも編み込むとしようか。普通に座標で取り込むと、剣はそこにあるだけで俺が腕を動かしても座標が固定されてしまって剣は空中に縫いつけられる。
そこで、(X,Y,Z)という変数を腕の先に与えてやることで」
「タンマ。全然わかんないから。折角聞いてあげてるんだからもっとわかりやすく伝えるように努力しなさいよねー」
「ぐ……。酷い言いようだな」
酷いも何も、聞いたのはサキさんなのに霧ヶ峰君は普通に落ち込んでいる。
「というか要するにアレでしょ?動く物体との関連性を持たせれば良いんでしょ?そんなの小難しい理論なんか無視で普通に組み込めばどうにかなるじゃない」
「それ、サキだけだからな」
「確かに。サキは適当だよな」
それで出来てしまうところが流石という感じだけど。
「あら?晴彦よりましでしょ?」
「俺は魔法全般苦手だから」
「そうでもねーよ。晴彦はよくやってる」
「あら?アクトもそういうこと言うんだ。試してみる?」
「望むところ。三秒数えたらだぞ。晴彦、審判」
「あ、ああ」
「1」
なんか前にもこんな展開があったような。
「というか、俺の話じゃなかったっけ?」
「2」
止めなくて良いんだよね?
「というか、二人とも気合い入ってるな」
「3」
「頼む!式神よ!」
「世界よ、脈動し、収束せよ」
この前と同じ魔法だけど、今なら少しだけ術式の意味がわかる。
言葉の後ろで紡がれる術式のほんの一部。それだけでも二人のすごさが十分にわかった。
「ぶざけんなっ、ぐぼはぁ」
「お、リアクションが変わった」
「晴彦なりに考えてるのよ。評価してあげましょ」
というか晴彦君、可愛そうだな。
「それじゃ、アクト。そろそろ行くわよ。大分、順位を上げてきたからここらで一気に追い込みをかけるわ」
サキさんは学園祭での優先権を獲るために、最近はずっとシャドウバトルに繰り出している。
……パンドラ学園とか、シャドウバトルとかなんか変な名前ばっかり。
一体、どんなセンス無い人が付けたんだろ。
「りょーかい。晴彦も行かない?見てるだけでも」
「そうだな。することもないし行くよ」
ある日の昼休み。これがウチのクラスの日常。
私たちはこの三人の賑やかさのそばで過ごしていた。
私はその隣の机で幸田さんと金本さんとご飯を食べている。
「ね、私たちも見に行かない?」
金本さんに誘われた私は二つ返事で了承した。上手い人の魔法を見るだけで勉強になる。
それに、みんなといると楽しいから。
私のシャドウは漸く普通に動けるようになったという感じで、何度かバトルをして勝ったり負けたりが続く状態だ。
それに比べて、ウチのクラスのダブルエースは連勝街道ひた走りで、他のクラスの人たちにも一目置かれている。
「今日は何組にしようかしら。ね、サナエちゃん誕生日何月?」
「えっと三月です」
「よし、C組ね」
本当に気まぐれ。だが、それで勝利をもぎ取る力が彼女には十二分にある。
不幸なC組の人たちに心の中で謝ったとき、それは起こった。
「何これ?シャドウかしら」
「ん?確かに。それにしちゃ主がいないな」
視線の先にいるのは一頭の獣。それを何と形容すればいいのか。
様々な動物が交じり合って、そのどれ一つでもなく。
見る人に感心と嫌悪を同時に呼び起こすような動物だった。
「これ、どうする?」
「別にほっとけばいいんじゃないか」
「そりゃそうか」
そうして通り過ぎようとしたとき、突如
「ぐぉ」
その動物が牙をむき、
「くそ」
視線を外していた霧ヶ峰君の腕を
「ア、クト?」
貫いた。
え?
何が何をどうしたんだろう?
「キャァァァ」
あ、誰かが悲鳴を上げてる。
私は何も出来ずにボウッとしていた。
真の意味ではこの時だった。
この時から、私の楽しくて怖くて危険で大変でやっぱり楽しい学園生活が幕を開けたのだ。
お伽噺の世界だってハッピーエンドとは限らないことを私は知らずにその時を迎えた。
本当に拙い文章で申し訳ないです。
書きたいことはたくさんあるはずなのに、いざ書き始めるとその半分も表現できなくて。溺れてるかのような気がします。
こんな小説でも読んでくれる人がいるのが本当にうれしいです。
「いつか、読んできてよかった。」言ってくれるような作品に出来るように精進します。