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蠢動編 第一話 side:boy

俺たちがパンドラ学園に入学してから早くも一ヶ月が経った。

修練を続ける三年間を過ごすと思っていた。




「なのに、なんでこんな状況に巻き込まれているんだよ……」

ここは1-F。俺たちはB組だからあまり縁のないクラスだ。

というか来るの初めてだったりする。

でも我らが赤鬼、白銀 咲にはそんなことは関係ないようで。

「悪いけどウチのクラス、シャドウマッチの成績がピンチなの。ここのクラスに一番負け込んでるみたいだからサクッと回収させてもらうわね」

傲岸不遜、大胆不敵にこんな台詞を吐きました。



 さて、こんな事態に陥った経緯をサラッと説明しよう。

まず、サキと晴彦がやって来て直ぐシャドウマッチの個人成績及びクラス対抗成績の掲示が始まった。

無駄に凝ったシステムにより、戦績がリアルタイムに反映される掲示板は陣取り合戦の風貌を呈していた。

どのクラスがどのくらいの勢力を保っているのかが一目瞭然なのだ。

この過剰な演出は直情的なサキを簡単に燃え上がらせた。俺はやっぱり作為的な印象を受けたのだけど。

だが、サキは当初なかなか上位に食い込まないB組に悔しげな表情を見せていた物のとくにどうという行動を示すことはなかった。

個人成績で自らが一位を奪取することに全力を傾けていたのだ。そりゃあもう、勉強が疎かになる程に。

どうせ、試験前には俺が教えることになるんだろうな……。

っと話が逸れた。とにかく当初はサキもそんなに派手な行動を取らなかった。

だが、ある日の告知で何かが変わった。

曰く、「シャドウマッチクラス対抗成績を学園祭でのクラス企画割り当ての優先順位選考に用いる」

元々、学業を教える学校ではないこともありこの学園はこういった課外活動にかなり力を入れているらしい。

学園祭といえどもバカにはできないとか。

これを知ったサキは燃えた。燃えてしまった。その熱はもうクラス中に飛び火して、不燃性の俺など大火傷である。

「そんなのどうでもよくね?」

という俺の台詞はサキの札一枚で完全に封印スルーされた。

そんなこんなで、サキは休み時間という休み時間、放課後という放課後。

他のクラスをかけずり回って勝負に勤しんでいる。

しかも、『効率化』のため俺まで同時に徴用して。

いや、どうせ頼まれなくても付いていくんだろうけど。




 とまぁ、そんなわけで俺は来たこともないクラスで敵意と迷惑の視線に曝されているいるわけだ。

「じゃ、まずは貴方ね」

サキが嬉々として対戦者を選ぶ。

彼女の使う魔法がお札関係や式神などであることからもわかるようにサキは生粋の陰陽師だ。

彼女の本領は式神であり、幻想の扱いである。これは取りも直さずサキのシャドウの扱いが超一流であることを示す。

また、これは中々大事なことだがこの学園の中ではシャドウを出現させることが容易になるだけでなくシャドウに実体を与えることが出来るのだ。

つまり、シャドウが触れるわけで。

シャドウとシャドウの戦闘は自然と肉弾戦の色が強まって、新築の校舎はそこら中傷だらけである。

こんなので良いのか、パンドラ学園。

「色即是空、空即是色!」

サキのキーコード。それと共にサキのシャドウが実体をもって出現する。

サキのシャドウはぬえ

伝説に伝わるそれは頭は猿で体は狸、蛇の尾を持ち虎の足で走るという最早グロテスクを通り越してシュールな幻獣だが、サキのシャドウは「鵺的な」という意味合いが強い。

つまり、サキのシャドウはサキの気分に応じてコロコロ姿を変えるのだ。因みに今は虎。無駄に目が可愛い。

「ちょっとアクト、アンタもパッパと片づけてよね。昼休み中に二桁は捌きたいわ」

「へいへい」

「頑張れよ」

「おうよ」

もう一つついでだが、晴彦はシャドウがないから参加していない。

その昼休みに上がった悲鳴の数々は……。

おっと、この話は暴力的な表現はNGだったな。とにかく、彼らは三日はうなされただろう。






 その日の夜も俺は亡霊退治に精を出していた。

最近また数を増やした亡霊はこのままではいつ人的被害が出るかわかったものではない。

「I'll ignite the whole earth.《革新する》」

俺の親父はこの町を守るために死んだ。

親父が命を賭けて守った場所が危険な町になるのは悲しいし悔しかった。

「五行平衡の陣!」

曲・直・方・円・鋭の入り交じる幾何を宙に描き、慎重かつ大胆にその図形に魔力を通す。

完成した陣は亡霊の下となる瘴気を封じ込める。恒久的な処置ではないがやらないよりはマシだろう。

未だに神経を使う高度結界を張り終えたので汗を拭う。といっても危険な場所は他にもあったのでそんなに休んでもいられない。

次の場所へ向かおうとした矢先、猫のシャドウを見た。否、シャドウだと思ったのだが主の気配がない。

不思議に思って後を尾けた。着いた先は学校。

「学校?なんでまたこんなところに」

正門から入らねば結界に影響を与えてしまうのでわざわざ遠回りしてきたのだが、猫は同じ場所で待っていた。

俺が来たのを確認したのかトコトコと進んでいく。

後ろを歩く俺の足音だけが夜の誰もいない校舎に響く。

「なんだ?」

どこをどう歩いたのか。学校の中なのに来たことのない場所に出た。

「どこだよ。ここ」

「ここはここ。それ以外のどこでもないよ」

「!」

唄うような声がする。

「こんにちは。あ、夜の時はこんばんはというのだったね。じゃ、改めましてこんばんは」

「誰だ?お前」

「僕?僕は僕。それ以外の誰でもないよ。君は霧ヶ峰 阿久人というんだったね。アクトって呼んでもいい?」

「好きにしろ。お前、俺をここに呼んだよな?」

「うん。僕はアクトをここに呼んだ。お話がしたかったんだ」

「そうか。忙しいからなるべく手短にな」

一体全体この学校はどうなっていやがるんだ。

「うんうん。アクトはさ、この世に悪人はいると思う?」

「ん?そりゃいるだろ。いなかったらこの世はもっと平和だろ」

「ふーん。じゃあ、平和を乱す人間は悪い人間じなんだね」

「ま、そじゃねえのか」

「じゃあさ、じゃあさ、悪い人間がいない良い世界が作れたら人は皆、平和に暮らせるんだよね」

「だろうな。あり得ないけどな。そんな世界。そんな世界になったら俺も退場せにゃならんだろうよ」

「ううん。アクトはいい人だもの。そんなことはないよ」

「なんじゃそや、つうかお前ホントに誰だよ」

「僕?僕はね……」




「あれ?俺、何してたんだっけ?あーっと、そうだ。結界を一つ張り終えて一息ついてるうちに寝ちまったのか。続きやらないと」

先ほど張った結界のそばから立ち上がり急いで次の場所へ向かった。

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