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くたびれたぬいぐるみの話

作者: 短小マン

 ある日の日曜。

 兄がバイオリンをギターのようにつま弾いていた。これは明らかなマナー違反だ。だから、僕は敬虔な一人のキリスト教徒として、兄を違法演奏罪で告訴する。それが間違いの始まりだ。判事と裁判官と市長を兼ねる大司教は、兄の罪は重大だと白い顔を真っ赤にして怒り、焚刑に処してしまった。

 足下に積まれる薪の中で、兄は杭に縛り付けられていた。やがて、ガソリンが注がれて、聖なる火種が投げ込まれ、天を焦がすほどの炎は生まれ、燃え盛る炎の中で兄は僕に謝罪した。

「お前のバイオリンに悪い事をしてしまったな。けど、あのバイオリンは言ったのだ。ギターのような音を出したいと。俺はその願いを叶えたいと思っただけなんだ」

 その言葉を聞いて、僕は兄を告発した事を後悔した。

 彼は邪心を持ってバイオリンに悪戯したわけではなく、ただ無邪気なバイオリンの願いを聞き入れただけだった。善意の悪事だったのだ。

 僕は、泣いた。

 やがて兄は焼けてしまい、僕は一人で家に帰る。

 とあるぬいぐるみと出会ったのは、そんな日の事だった。


「しけた面をしているな、坊主」

 ゴミ捨て場の近くで、そんな風に声を掛けられた。僕は慌てて、声の主を探してみるが、どうにも人の姿はない。

 おかしいな、と首を傾げていると「ここだ、ここ」と足下から声がする。そちらを見やると、山のように積まれたゴミがある。古い冷蔵庫、ブラウン管のテレビ、割れたコップ、軋む衣装ダンス……

「ここ、ここ」

 よくよく見てみるとゴミの中から、ゴミみたいに汚いぬいぐるみが、僕の方を見上げていた。

「いま、僕に話かけたのは君かい?」

「ああ、そうだよ。職業病ってやつでね。坊主みたいな貧乏ったらしいガキがしょぼくれているのを見ると、ついつい声を掛けたくなっちまうんだ」

 ぬいぐるみは「ガハハ」と笑う。

 それはそれは気持ちのいい、胸のすくような笑いだった。とてもゴミとして捨てられているぬいぐるみとは思えないほどに、その笑い声は底抜けに明るい。

 実際、そのぬいぐるみは随分とくたびれているけれど、なかなか愛嬌のある人形だったのだよ。

 元はふさふさしていたのだろうが、いまは生地が毛羽立っていて、目に見立てられたボタンも取れかかっており、体中にほころびあり、黒ずみあり、けれど、それだけ肌身離さず使われていたのだろうなと思わせる、愛嬌たっぷりの、茶色い熊のぬいぐるみだった。

「君は」

「マイケル。それが俺の名だ。小さなご主人様から賜った俺の名だよ」

「そうか。じゃあ、マイケルに聞きたい事があるのだけど」

「なんだい、坊主」

「君は、そのゴミとして捨てられているぬいぐるみだろう? そんな境遇でありながら、僕を慰める余裕なんてあるのかい?」

「なあに、逆だ。ゴミとして捨てられているからこそ、お前を慰めるだけの余裕があるのさ。これがご主人様に抱かれていたら、とてもじゃないがお前の面倒を見ている余裕なんてない。なんたって、俺の身体は一つしかないんだからな」

 成る程、そいつは確かにその通りだ。

 ぬいぐるみにとって重要な事は自分の主人の事であって、赤の他人など主人に比べれば鼻紙程度の価値もあるまい。そうだ。マイケルの言っている事は実に正しい。捨てられている人形だからこそ、他人に干渉する余裕がある。

「つまり君は、僕を慰めてくれるのか」

「ああ、もし坊主が求めるなら抱き締めてやってもいいし、キスだってしてやるぞ」

「それは、申し出は嬉しいけれど遠慮しておこうかな」

「なんでだ」

「臭いから」

 指摘すると、ぬいぐるみのマイケルはゲラゲラと腹を抱えて笑った。けれど、実際には笑い事なんかじゃない。この熊のぬいぐるみは本当に鼻が曲がりそうなほどに臭いのだ。一ヶ月や二ヶ月と洗わなかった程度ではこの匂いは出ない。腐った死体と半年は一緒に寝ていなければ、こんな悪臭にはならないはずだ。

「仕方ないなぁ。ご主人様の匂いがすっかり染みこんじまったから」

「主人の匂いって…… 君の主人はどれだけ臭かったんだ」

「しゃあない。世の中には色々と複雑な事情があるもんだわな。それよりも、俺より坊主だよ。お前、しけた顔をしていたが、何だってそんな、蛙が座りションベンしたみたいな顔をしていたんだよ」

「蛙の座りションベンって……何?」

「なんかあったろ。しょぼくれた顔の言い回しで、蛙とションベンは覚えているんだがなぁ…… ああ、まいったな。随分と物忘れが酷くなっちまった。歳は取りたくねぇなあ」

 マイケルは自分の頭をがしがしと掻き毟った。

 すると頭部から、茶色に染まったパンヤがぼろぼろとこぼれ落ちる。頭の部分が破れてて、そこからパンヤがはみ出ているのだ。

 それはマイケルの『脳』だった。

 人間の頭蓋の中に知性を司る脳みそが収まっているように、ぬいぐるみの頭部にだって知性を司るパンヤが収まっている。そんなぬいぐるみの思考力を司る頭脳パンヤが、さっきから頭を掻き毟るたびに、ぼろぼろ零れ落ちている。その度に、マイケルの思考力、記憶力、考察力、それに思い出はこぼれ落ちていく。蛙のツラにションベンということわざを忘れてしまったのも、その意味が厚顔無恥な人間に対するもので、しょぼくれた人間に対して使うものではないことも、知性パンヤが失われていく所為なのだろう。

 勿論、元々マイケルが間違って記憶している可能性はゼロではないけれど。

「ねえ、マイケル」

「なんだ、坊主」

「頭の破れ、縫ったげようか」

「縫うって。お前、針と糸はあるのか?」

 聞かれたので、僕は常備している針と糸を彼に見せた。

 僕の服に付いているボタンは特別製で、空から墜ちた隕石を削って作ったボタンだった。その隕石は天空へと打ち上げられた修行僧の成れの果て。天の彼方にあるという極楽浄土へ向かうため、片道だけの燃料と僅かな食料を持たされて、死する為に飛ばされた宇宙スケールの補陀洛渡海。その志願者が宇宙空間で死んで、長い年月を経て化石となりて漂い続け、結局は極楽浄土に辿りつかず、地球の引力に引き寄せられて、我が家の庭に墜ちてきた。その即身隕石を使って作ったのが、僕の服に付いている八つのボタンだ。大変貴重な品なので、絶対になくしてはいけないから、ボタンが取れたときのために僕は針と糸を常備している。

「用意がいいなあ、じゃあ、ちょいと頼もうか。その間、なんでも相談に乗ってやろう」

 マイケルはゴミの上に座り込むと、僕に向かって背を向けた。それは床屋と客の光景に似ていて、僕は思わず笑ってしまった。

「なんだ?」

「いや、床屋みたいだって思って」

「ハハッ、床屋か。そいつはいい。じゃあ、店主。適当に短くしてくんな!」

「針と糸は持っているけど、鋏は持っていないんだよ?」

「雰囲気作りだよ、雰囲気。ま、パパッとやってくれ」

「うん。わかったよ」

 くたびれたぬいぐるみの頭は、それは酷いものだった。まず、匂いが酷い。腐敗臭というか刺激臭というか、近くで嗅ぐと目が痛くなるぐらい、彼からは強い匂いがした。続いて生地もベタベタだ。何か黒っぽい液体が付着していて汚らしい。手についてしまったので匂いを嗅いでみると、それが刺激臭の原因だった。

「これは何?」

「なんだと思う?」

「……コールタールかな」

「外れだ」

 なら、当たりは何なのか。

 マイケルは教えてくれなかった。ただ、その汚れはそのままにして置いてくれと念入りに頼んできただけだった。その汚れの正体について、僕に何も教えてくれない。

「毒じゃない筈だからな。かぶれる可能性はあるが」

「かぶれるの?」

「坊主だって汗でかぶれたりするだろ? それと同じだ」

 何が同じなのか、僕には少しもわからない。わからないまま、マイケルの破れた頭を縫ってやる。糸は白い絹糸で、茶色い熊のマイケルとは少し合わない色だけれど、他に糸が無い以上、これで我慢して貰うしかない。

 針の頭に糸を通しながら、僕はマイケルの汚れについて考える。アレは何の汚れだろうか。コーヒーのシミだろうか。チョコレートでも付いたのか。石油や石炭の汚れだろうか。あるいはそいつはマイケルの――元ご主人様だったものだったりするのだろうか。

「ねえ、マイケル」

 ふと、僕は彼のご主人様がどんな人か気になった。だから、マイケルに聞いてみたが、くたびれたぬいぐるみから返事はない。返ってくるのは「すかー、すかー」という寝息だけだ。

 おいおい、熊公。ちょっと待てよ。そもそも君は、僕を元気づけてくれる、そういう話じゃなかったかい。それが何で気持ちよさそうに、寝入ってくれちゃっているんだい?

「マイケル」

「お、おおん!?」

「いまさ。君、寝てたろ?」

「ね、寝てない! 俺は少しも寝てないからな!」

 彼は大きな声で拒絶するも、その口ものには涎が垂れている。ぬいぐるみも眠ると涎を垂らす事を、その時僕は初めて知った。

「別にそれはいいよ。それより、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「君のご主人様ってさ、どんな人だったんだい」

「綺麗で聡明なお子様さ」

「お子様、なのかい」

「ああ、そりゃそうだ。ぬいぐるみの主人ってのはお子様と相場が決まっている。けどまあ、うちのお子様は、そんじょそこらのお子様とは、ちょいと格が違ってたけどな。まず、超が付くほど綺麗なのさ。それでいて、滅茶苦茶頭がいい。そこらの大人じゃ歯が立たないほど、とても聡明なお子様だった。実際、彼女はたくさんの大人達をやり込めていた。だから、俺はご主人様の事を、小さな貴婦人なんて呼んだりもした」

「貴婦人。女の子だったのかい」

「ああ、とても綺麗な、本当に綺麗な女の子だったんだよ。俺の事もとても大切にしてくれてな、いつも小脇に抱えてくれるんだ。何処に行くにも一緒だよ。ある日、ご主人様は言ったんだ。『貴方は私一番のお友達です』って、それがとっても嬉しくてなぁ。だから、俺はご主人様の為ならば、どんな事でもしてやろうと誓ったし、実際、なんでもやったんだ」

 懐かしい。

 そんな顔をしながら、マイケルは天空を仰いだ。

 気が付けば、日はかなり落ちていて、西の空はあかね色に染まっていた。街灯がパチパチとつき始め、無機質な仄白い光が街を覆い始めている。

「素敵な子だったんだね」

「ああ、とっても素敵な子だったんだよ」

 マイケルの言葉が過去形なのは、既にご主人様がこの世にいないに違いない。

 実際、彼の話が正しいとしたら、そんなに素晴らしいご主人様が、マイケルをゴミ捨て場に捨てる筈がない。小さな貴婦人は生きている限り、マイケルの事を手放さない。けど、熊のぬいぐるみはゴミ捨て場に捨てられている。ということは、つまり、くたびれたぬいぐるみを一番の親友だと言った少女は、空の星々となってしまった。

 いまの彼の境遇が、少女の末路を雄弁に物語っている。

 僕は少し悲しくなった。

「しかし、坊主。何で俺のご主人様の話を聞きたがったんだ」

「少し、気になって」

 彼の身体に付いている黒いものに触りながら、僕がそんな事を言うと、マイケルは納得したという風に「そうか」と答えた。

 やがて、マイケルの頭は、なかなか綺麗に縫い終わった。白い糸が少し目立つが、破れそのままにパンヤがはみ出るより、だいぶマシな事だろう。これで彼の記憶や思考力が頭からこぼれ落ちる事はないし、小さな貴婦人の思い出が失われる事もないだろう。

「すまんなぁ、坊主。それじゃあ、礼というわけではないが、お前の悩み事を思う存分聞いてやろう」

「いや、その、いいよ」

「いいって事あるか。そんな暗い顔をしたやつを、どうして放っておけるんだ」

 そこまで言われては、話さないわけにはいかない。

 僕はマイケルに今日起こった事の全てを、できるだけ客観的に語った。兄の罪と、それへの罰。それから兄は邪心なく、ヴァイオリンをギターのようにつま弾いていた事などを、できるだけ分かりやすくマイケルに話した。

「成る程な。それで坊主は兄貴に悪い事をしたと後悔しているわけだ」

「うん。罪を告発した事は間違った事ではなかったけれど、それでも僕にも兄弟の情というものが存在する。その情が、どうして告発をしてしまったのかと、強く僕を責めている」

「そりゃ仕方がない。人間が人間であり続けるのに必要なものが情ってものだ。良い情にしろ、悪い情にしろ、情を捨てた瞬間にそいつは人間でなくなってしまう。だから、坊主が兄貴に対して情を持っているのは、とても当たり前の、人間らしい有様だ」

 その言葉が正しいとすると、このゴミ捨て場に捨てられている、くたびれたぬいぐるみのマイケルは、ある意味で人間という事になるのだろうか。情を失った人間と、情の深いぬいぐるみ、果たしてどちらが『人間』と言えるのだろうか。

「迎えに行ってやれ」

「え?」

 僕が人間の定義について考えていたら、マイケルが唐突にそんな事を言い出した。

「会いに行ってって言われても……」

「きっと坊主の兄貴はな。お前の事を待ってるよ」

「いや、だから、兄は焚刑に処されたから、もう黒い炭の塊に」

「炭の塊になったからと言って、弟を遺して死んでしまうほど、お前の兄貴は薄情者の兄貴なのか?」

「いや、炭の塊になったなら、普通の人間は死んじゃうけど……」

「弟であるお前が兄貴を信じなくてどうする! さあ、俺みたいなぬいぐるみに構ってないで、さっさと兄貴を迎えに行ってやれ!」

「え、ええ!?」

「さっさと行け! じゃないと尻に噛み付くぞ!」

 マイケルはそう言うと、柔らかなフェルトの牙を剥き出しにして、僕に向かって威嚇した。僕は慌てて走り出した。

 冷静に考えれば、ぬいぐるみの熊なんかに殺傷能力があるわけもなく、彼が僕の尻を噛んだところでどうって事はなかったのだが、その時はマイケルの剣幕に押されてしまい、僕は弾かれるように走り出して、処刑場に向かった。

 処刑場の着いた頃、辺りはすっかりまっ暗だ。処刑場入り口にある売店もとっくに閉まっていて、昼なら『焚刑串焼き』だの『元祖・斬首まんじゅう』といった刑場名物のカラフルなのぼりが立っているけれど、いまはそうしたのぼりはしまわれていて、目立つのは緑の常夜灯の中でピクトさんだけだ。

 僕は刑場の中を走り、兄が焚刑に処された場所へ向かう。そこには真っ黒な炭化した兄が転がっている。

「……なんだ。やっぱり死んでいるじゃないか」

「おいおい、勝手に殺すなよ」

 僕は声を上げる事も出来ないぐらい、驚いた。

 兄は完全に炭となってしまったけれど、それでもなぜか生きていた。見た目は炭でできた人形以外の何ものでもなく、中までしっかりローストされてしまっているが、どういうわけか元気である。

「いや、俺も死のうかとも思ったんだ。焚刑にされた事だしな。けど、お前の声がするじゃないか。その声を聞いて、よくよく考えてみると弟を一人残して死ぬなんて、そんな暢気な事をしている場合じゃないって気が付いたから、死なない事にした」

「死なない事にしたって……」

 僕は、呆れた。

 本当にこの人は滅茶苦茶な人だ。けれど、それが実に兄らしかった。


 僕は、炭となった兄と一緒に帰った。

 兄の身体はすっかり炭化してしまったけれど、本人によれば、全く問題ないらしい。

「むしろ、無駄な部分が焼かれた事で身体が軽くなったぐらいだ」

 そんな兄との帰り道、僕はあのゴミ捨て場に寄ろうと兄に提案した。

「そのぬいぐるみに、兄さんを迎えに行けと言われたんだ。弟を遺して兄貴が死ぬわけはない。迎えに行ってやれって」

「そうかそうか。その人は物の道理が分かっているな。じゃあ、俺からもちゃんと礼を言っておかないと」

 ついでに、ぬいぐるみが了承するならば、彼を拾ってやるのもいい。あれだけ弁が立つぬいぐるみだ。一緒に暮らせば、きっと毎日が楽しいだろう。彼の前のご主人様と比べると、僕では物足りないだろうが、それでも野良のぬいぐるみをしているより、よっぽどマシというものだろう。

「兄さん。ぬいぐるみを拾ってもいいかい」

「男がぬいぐるみ遊びをするのか?」

「いいじゃないか。僕はまだ子どもなんだ」

「ま、飽きて捨てなければ、俺はいいさ」

「恩人を捨てたりなんか、しないよ」

 そんな話をしながら、僕らはゴミ捨て場に向かった。

 けれど、ぬいぐるみはどこにもいなかった。

 山のように積まれていたゴミはなくなっている。古い冷蔵庫も、ブラウン管のテレビも、割れたコップも、軋む衣装ダンスも、僕の事を慰めようとしてくれた、くたびれた茶色い熊のぬいぐるみも、跡形もなく消えてしまった。

「ついさっき、回収があったんだな」

 兄が回収予定表を眺めながら、備長炭のように固い声で呟いた。

 それを聞きながら僕はふと、ぬいぐるみにも天国があるのだろうかと、そんな事を考えていた。そこはぬいぐるみの神様が作った、善良なるぬいぐるみ達の楽園で、パンヤの大地に造花の花畑、流れる河は蜂蜜入りのミルイーウェイ。地上で善行を積んだぬいぐるみ達は、天女のぬいぐるみに接待され、そこで幸せに暮らすのだろう。

 ……いや、待ってくれ。

 それじゃ、そこにはぬいぐるみしかいない。マイケルの大好きなご主人様がいないじゃないか。そう考えると彼はぬいぐるみの天国には行かなかったに違いない。彼が神様に希望したのは、小さな貴婦人のいる場所。つまり、人間の天国だ。

 マイケルは、人間の天国に行けたのだろうか。

 人間とぬいぐるみ。有機物と無機物。その間には大きな隔たりがあるけれど、彼は人間よりもずっと人間らしかった。情に厚いぬいぐるみだ。なら、話のわかる神様だったら、彼を人間の天国へと送ってくれる。そう信じたい。僕は白み始めた空を見上げながら、今頃、焼却炉で焼かれているだろうぬいぐるみに問いかける。

 ねえ、マイケル。

 君は、天国でご主人様と再会できたかい。

 それが、僕にはどうにも気がかりなんだ。

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