悪女と元婚約者の口喧嘩
小野寺と別れたあと、結衣子は鞄を持ち楓のもとへ急いだ。
「楓、ごめんなさい遅くなって。」
「あ、結衣子ちゃん。大丈夫だよ。」
笑顔で結衣子を迎えた楓の隣にはなぜか一条がいた。
「・・・。」
結衣子がきた途端しかめっ面に変わった一条。どうやら妹を寮に送り届けて戻ってくると楓が一人でいたので話しかけたらしい。
「あら。あなたもいらっしゃったのね。」
そんな一条の表情を気にすることなく、平然と結衣子は言った。
「戸田、言っただろう。彼女と関わるな。」
結衣子の言葉を無視し一条は楓に言った。
「どうして?結衣子ちゃんは優しいよ。一条くんなにか誤解してるよ。」
「いいや、誤解なんてしていないさ。彼女の本性を俺は痛いほど知っているからな。」
「本性だなんて・・・、まるで私が悪い人間みたいじゃない。」
ひどいわ、軽く笑いながら一条に言った。
「驚きだな。君は自分のことを良い人間だと思っていたのか。」
馬鹿にしたようにそう言った。
「一条くん!」
一条の態度を楓はとがめた。
「ふん。」
「そういえば、さきほど小野寺さんに会ったわ。あなたの友人なんですってね。」
そうそう、と思い出したように結衣子は言った。
「小野寺・・・慎之介か。本当に君に会いに行ったのか。まったく。」
呆れたように額に手をやり、首を振った。
「とっても素敵な方ね、小野寺さんって。」
明るい声で結衣子は言った。
「今度は慎之介をたぶらかすつもりか。」
一条はそんな結衣子を睨んだ。
「たぶらかすだなんて・・・、向こうもきちんとわかってるわ。私がどういう女かも、私が望んでいる関係も。そのうえで、よ。」
「それは、俺に対する嫌味か。俺にもそうやってわりきった関係を望んでいたけれど勝手に俺が本気になったと?」
「さあ。どうでしょうね。」
結衣子は笑ってはぐらかした。
「嫌悪しかわかないよ、君には。そんなに男遊びが好きか?汚らわしい。」
そんな結衣子の態度も癪にさわったらしくイライラした様子の一条。
「もう!一条くん!それ以上結衣子ちゃんにひどいこと言ったらいくら一条くんでも怒るよ!結衣子ちゃんも一条くんを逆なでするようなこと言わないの!」
さすがに、黙っていられなくなった楓は二人の間に入った。
「ごめんなさい、楓。怒らないで。」
まったく反省はしていないが、怒る楓が可愛かったので、結衣子は楓の頭をなでながら謝った。
「もう・・・、結衣子ちゃんったら。」
頭をなでられた楓はまんざらでもなさそうに、少し機嫌をなおした。
「ふん。戸田、もう一度言っておく。彼女に関わらないほうが良い。話はそれだけだ。」
そんな二人の様子を見つつ、一条は冷たくそう言って、去って行った。
「・・・本当に一条くんと結衣子ちゃんって仲悪かったんだね。」
一条の背中を見送りながら、静かに言った楓に結衣子は苦笑するした。