友達の過去
途中できれず、長くなってしまいました・・・。
「あ・・・、結衣子ちゃん!」
一条が出て行ったあと、教室に戻る気がせずそのまま放課後までさぼってしまった。ようやく、帰ろうかと教室に鞄を取りに戻っている途中の廊下でばったりと楓に会った。楓は帰ろうとしていたのか鞄を持っていた。
「楓?」
「大丈夫?・・・一条君すごく怒ってたみたいだから。それに一条くんは遅かったけど戻ってきたのに、結衣子ちゃんいつまでたっても戻ってこないし。」
「あら、ごめんなさい。心配かけちゃったわね。大丈夫よ、なんともないわ。」
心配してくれている楓に、ただ面倒くさくてさぼっていた、とは言えなかった。
「そっか。それならよかった!・・・でもびっくりしちゃった。」
「何が?」
「一条くんだよ。もともと女嫌いみたいだけどあんなに怒ってる一条くん初めて見た!それに結衣子ちゃんと一条くんって、婚約者なんだよね?」
「元、よ。元婚約者。」
「でもすごいねー。婚約者とか。私には考えられない世界だなー。」
楓は笑いながらいった。
「そう?そんなことないわよ。」
「えー!私は庶民だもん。ありえないよ!」
手をばたばたと横に振り否定した。
「それでも楓は可愛いからきっと、婚約したい!って思う人がたくさん出てくると思うわよ。もしかしたら、もういるかもしれないわね。」
「な、なに言ってるの結衣子ちゃん!か、可愛いなんて・・・結衣子ちゃんのほうがよっぽど可愛いよ!」
顔を真っ赤にしながら慌てる楓はとても可愛らしい。
「あら、ありがとう。でも楓もとっても可愛いわよ。彼もきっと、あなたのことは気に入ってるんじゃないかしら。」
「彼?」
「一条洸よ。」
「何言ってるの、結衣子ちゃん。一条くんが私を気に入ってるなんてありえないよ。」
結衣子の言っている意味がわからない、と不思議そうな顔をしている。
「あら、どうして?」
「だって、一条くんは女嫌いだもん。どんなに可愛い女の子が一条くんに話しかけても絶対にその子のこと見ないの。基本が無視で、どうしてもって時は必要最低限の会話だけ。」
「でも、さっき楓には自分から話かけていたでしょう。私と楓が仲良く話をしていたら邪魔してきたじゃない。」
結衣子は一条の先ほどの行動をしめした。
「うーん、それは・・・。」
「彼のことが嫌い?」
「ううん!嫌いじゃないよ!かっこいいし、優しいし・・・。」
楓はまた手をばたばたと横に振り言った。
「優しい?」
「うん!私ね、この学園にきたばかりの頃は庶民だから、って理由で一部の子からいろいろ言われることが多かったの。この学園にあなたみたいな人は似合わないわー、とか。」
「・・・そんなことがあったの。」
「だけどね、せっかく頑張って勉強して入ったから、絶対にやめたくなかったの。その人たちを見返すには勉強をもっと頑張るしかなかった。でもね、正直言うとやっぱり辛かった。価値観も違うし先生もお金持ちの生徒にはやらせたい放題。私がいじめられてても叱って止めてくれる先生はいなかったし。他の生徒もそう。一緒に馬鹿にして笑ったり見て見ぬふりするだけ。最初は全然平気だったんだけど、だんだん・・・。それで、本当に限界で泣きそうになったとき、一条くんがみんなに言ってくれたの。」
「彼が?」
「うん。いい加減にしろって。目障りだって、この学園にふさわしくないのはお前たちのほうだ。って怒ってくれて、先生たちにもいじめを見て見ぬふりとはそれが教師のやることですか、って言ってくれて。それ聞いてみんな顏真っ青になって。まさか一条くんが怒るとは思わなかったみたいで。先生たちなんか頼むからご両親には言わないでくださいっ!て、一条くんに頭まで下げてた。それ以来、みんな何も言ってこなくなったの。」
「そうだったの。」
「でもね、いじめがなくなったことより一条くんの言葉が嬉しかったの。」
その時を思い出すかのように楓は目を閉じて言った。
「言葉?」
「うん。一条くんは、私に奨学生であることを恥じる必要はない。君は特待生で努力してこの学園に正式に認められ入学した。この学園には親の権力で入学してくる人間も少なくない。そんなやつらと君とでは比べものにならない。君の努力は君をいじめた人間よりはるかに勝っている。君は頑張っている。だから負けるな・・・って。放課後図書室で私が必死で勉強してたの見たことあったんだって。嬉しかった。頑張ってるって言ってもらえて。褒めてもらうために勉強してたわけじゃなかったけど、その言葉のおかげで私元気もらって・・・今もこうして学園にいられるのは一条くんのおかげなの。」
「彼が・・・。そう。じゃあ、私も彼に感謝しなきゃいけないわね。」
「え?」
楓がキョトンとした顔で結衣子を見る。
「楓が学園をやめてしまってたら私は楓に出会えなかったもの。楓が今こうして学園にいるのは彼のおかげなら、私は楓に出会わせてくれた彼に私は感謝するわ。」
結衣子は笑顔でそう言った。
「結衣子ちゃん・・・。結衣子ちゃーん!!」
感激のあまり楓は泣きながら結衣子に抱き着いた。
「あらあら。ふふ。」
そんな楓を受け止めつつ優しく背中をさすってやる。
「私ね、結衣子ちゃんにも元気もらったんだよ。」
涙声で楓がそう言った。
「私なにかしたかしら?」
今度は結衣子が不思議そうな顔をした。
「うん!私が庶民だって知って、態度を少しも変えないで接してくれたでしょ。」
「・・・それだけよ?」
「それが嬉しかったの!結衣子ちゃんに話しかけるのだって本当はすごくこわかった!」
「そうだったの?」
意外な事実に結衣子は驚いた。こわがられていたのか・・・。
「うん。また庶民だから馬鹿にされるかな?とか無視されちゃうかも!とか、いろいろ考えちゃった。」
「あら。そんなことしないわよ。」
「うん!話してみたら想像と全然違った!それで、結衣子ちゃんと友達になりたいって思ったの!」
もう泣き止んだのか結衣子から離れ笑顔いっぱいでそう言った。
「ふふ、嬉しいわ。」
そんな楓の笑顔と言葉に結衣子も嬉しくなり、自然と笑顔になる。
「こわかったけど勇気をだして声をかけられたのはね、結衣子ちゃんが一条くんと仲が良さそうだったから、友達なのかな?って思って。一条くんの友達ならきっと良い人だと思って。」
「・・・仲が良さそう?」
意味が分からないといいたそうな結衣子。
「違うの?自己紹介してるとき見つめあってたから、てっきり・・・それに婚約者でしょう?」
「あれは見つめあってたんじゃないわ。それに、今は婚約者じゃないわ。婚約は解消したの。だから、元婚約者ってさっきも言ったじゃない。」
話を聞いてない楓に呆れつつそう言った。
よくあのピリピリとした雰囲気でそんな勘違いができたものだ。一条にいたっては結衣子をものつごい形相で睨みつけていたというのに。
「うーん。とにかく、仲はよくない・・・ってこと?」
少し納得がいっていないようだが、なんとなくわかったようだ。
「そうね。彼のほうは私を嫌ってるから。」
「どうして!結衣子ちゃんこんなに優しいのに・・・。」
悲しそうな顔をして楓が言った。
「ありがとう。でも、しょうがないのよ。」
そんな楓に苦笑しながらも結衣子はそう言った。
「しょうがない・・・。」
楓は結衣子が言った言葉を繰り返した。
「そう。」
「で、でも!」
まだ、楓は何か言いたそうだったが結衣子はそれをさえぎった。
「それより、もう寮に帰りましょう。ずっとここにいるわけにもいかないでしょう。お話はまた明日。」
「・・・あ、うん。そうだね。」
楓も帰る途中だったことを思い出し、素直にうなずいた。
「楽しみだわ。同室は誰かしら?まだ教えてもらってないのよね。」
結衣子はうきうきとした表情を浮かべた。
「え?結衣子ちゃん。一人部屋じゃないの?」
「違うわよ。」
「そうなの?あ、それに留学に行く前と一緒じゃないの?」
「前は、一人部屋だったわ。でも今回戻ってときにせっかくだから二人部屋に変えてもらったの。」
「そうだったんだ。」
「楓は、今誰かと同室?」
「ううん。一人だよ。私と同室になる予定だった子が庶民と一緒は嫌だからって、一人部屋に変わったの。だから必然的に私も一人部屋になったの。」
「そう。じゃあ、楓と同じ部屋が良いわ。」
「私も!一緒だと良いねー。」
楓は両手をあげて同意をしめした。
「ええ。じゃあ、鞄とってくるわね。待っててくれるかしら?」
「あ、うん!わかった。」
結衣子は鞄を取りに行くため、教室へ向かった。